If ・・・(もしも)4章 
 三角関係 2





「・・・真一郎のクローンをあの男が作った可能性はあるか?」

「それはオレにもわからん。だがあいつは、あの後プライベート研究室に
閉じこもったまま外との接触を一切絶っている。あるとも言えるがそう簡単にで
きることでもない。」

芥の返答の後しばらくの間があった。
夜は珍しく言葉を選んでいるようだった。

「・・・あいつはどうしている。」

「ナンバー014の事か?」

芥がニヤリと口元を緩めたが夜は逆に辛そうに顔を落とした。

「お前たちにとっては心配する価値もない裏切り者だろう。」

「ああ、そうだな。」

夜の険しい表情に芥はふっと溜息をついた。

「014なら大丈夫だろう。研究所に真一郎を連れ帰ったことで優遇されてる。」

「連れ帰ったといっても死んだのだろう。」

「生きていようが死んでいようがあの男には関係ない事だ。」

「お前もそうなのか?」

そう言って未だソファで眠る学を夜は見やる。
芥はあからさまに不機嫌になって夜を睨んだ。

「もう用がないなら消えろ。」

「悪かった。邪魔をしたな。」

素直に詫びた夜が部屋を出る前に芥はその背に言った。

「真一郎の事はオレも胡散臭いと思ってる。もし何かわかったら
連絡しよう。お前には借りがあるからな。」

「そんな昔のこと・・って言いてえ所だがそうしてもらえると助かる。」


言葉少なだったが芥も夜もそれだけで全てがわかったようだった。
空も直も知らないことだがこの二人は研究所時代からの長い付き合いがある。
もっとも信頼してるわけでもないし、仲がよいというわけでは決してない。

ただ境遇が似ているだけだ。


夜が研究室から出てすぐ後、学がソファからのそりと起き上がった。

「あれ?今そこにいたの空先輩じゃなかった?」

「知らんな、」

芥の声は事実もすべてなかったことにするほどに強く冷たかった。

「そっか?ってなんでオレソファで寝てたんだ?今日オレ芥の薬、試飲したっけ??」

「何を寝とぼけている。」

不機嫌な芥の声に学は誤魔化すように「あはは・・。」と笑った。

「オレどうも薬飲んだあとは記憶が飛ぶんだよな。」

学に背を向けていた芥が長くため息をついて椅子をくるりと
向けた。


「遅くなったし実験に付き合わせた礼に何か食いにいくか?」

「へっ??ひょっとしておごってくれるのか?」

「ああ、お前の好きなものを何でもおごってやる。」

「マジ?」

現金な学は瞳を輝かせてうるうるしてる。
わかりやすさに芥は思わず苦笑した。

「あは、芥今笑ったろ?オレ芥の笑った顔好きだぜ?滅多にみせてくれねえけど。」

芥は思わずぎょっとして学をみつめた。
そんなことを面と向かって言われるとは思ってなかったのだ。
どう返事していいのかわからず芥は学の視線を逸らそうとした時、ソファから立ち上がろうと
した学がグラっと傾いた。

「ガク・・・!!」

思わず支えた学の体を支えた芥と学の距離が近くなる。もう少しで唇が触れ合うほどに。
そのまま抱きしめてしまいたい衝動に耐えて芥はゆっくりと学をソファに戻した。

「薬がまだ体に残っているのだろう。もう少し横になっていろ。」

「カイ・・・?」

学が芥を覗き込んできたので芥は誤魔化すように学から背を向けた。
どこまでも不器用な自分を芥は心の中で罵るように笑った。


そうして今もまだこの腕に残る学の温かさをぎゅっとその胸に抱き寄せた。





                                                 
                                         5章 桜の木の下で1



4章はこれで終わりますが、学と廉、芥の決着は6章に続きます。
5章は空くん視点でに戻ります。七海ちゃん、青くん、そして直くん、真一郎の登場予定。