If ・・・(もしも) 3章 目覚めの時2 真一郎がこの研究所で目覚めてから2ヶ月。
真一郎が以前の自身と相沢の関係を聞いたのは、それを受け入れられる覚悟が できたからだと思う。 どうにか普段の生活なら一人でこなせるようになってきた真一郎は隣接の研究室まで 相沢をわざわざ訪ねた。 もし邪魔になるならすぐに退散しようと思っていたが相沢は真一郎を見つけるとわざわざ作業の手を 止めコーヒーまで洩れてくれた。 「悪いな、仕事中だったみてえなのに・・。」 「いや、真一郎がわざわざ来てくれたのだ。それより何か用があったのではないか?」 「用ってほどのもんでもないんだが・・・・。」 改まって言われると真一郎はなんと言って切り出してよいかわからず頭をかいた。 「私の顔が見たくなったとか?」 コーヒーを飲んでいた真一郎は思わず噴出した。 咽る真一郎の背を撫でながら相沢が冗談だと笑った。 その時ふと真一郎は相沢はこんな風に笑ったりもするのだと思った。 なぜだろう。オレが知っていたはずの相沢と今の相沢では何かが違う?何が?どう? 自身に問うてみたが真一郎にはわからなかった。 最近の真一郎はこういった事が多かった。 突然どこからか感情や意識、過去の出来事だと思われる『言葉や感情』が沸いてくる。 だがそれは断片的で真一郎の中で繋がらない。 そして思い出そうとすればするほどそれは孤立していくのだ。 真一郎が険しい表情をすると相沢の表情も翳った。 「どうした真一郎、キズが痛むのか?」 心配して覗いた端整で引き締まった相沢の顔を真一郎はじっとみつめ 『そうじゃねえ。』と首を振った。 「なあ相沢、お前にとってオレは何だ?なぜこんなにするんだ?」 「迷惑か?」 「違うって、すげえ感謝してるぜ。けど・・身内でもねえのにこんなにまでしてくれるのは 何かあるんじゃねえのか。」 今まで聞くに聞けなかったこと。 だが、いつも心にひっかかっていた。なぜこんなにも相沢はオレに尽くすのか? 「私とお前とはいろいろな因縁があった。一言では説明できんがな。」 「因縁?」 「恋人だった、」 まっすぐに相沢にみつめられて真一郎は一瞬体がすくんだ。 そうではないかと思っていた。相沢が自分を見つめる瞳、向けられる感情は 普通のものではなかったから。 「本当なのか?って過去のことなのか、」 「それは真一郎お前次第だ。」 「オレ次第?」 「本当はわかっているのだろう。記憶を失くしていてもお前はお前だ。 過去でなくていい。今のお前が私をどう思っているか?そういうことだ。」 じわりとにじり寄られて真一郎は戦慄いた。 相沢が好きか嫌いかと問われれば真一郎は「好き」だと答えるだろう。 今こうして生きているのも相沢が助けてくれたからだ。 ただ生きているってことだけじゃない。もう1度人としての感情を取り戻せたのもそうだ。 それに記憶を失くした真一郎にとってこれからを生きてくために相沢はなくては ならない存在となるだろう。 言い表せねえほど感謝してる・・けどそれが「愛」なのかといわれると 自信はない。 言いよどんだ真一郎に相沢は寂しそうに笑った。 「真一郎、恩と愛情は違う。今のお前が私の想いに無理に答えることはない。」 相沢は真一郎の考えなどお見通しのようだった。 「それでも私の想いはかわらない。」 相沢は優しく微笑み立ち上がると真一郎の手からとっくにカラになっていたコーヒーカップを取り上げた。 真一郎は突然やり切れない想いにかられた。 「相沢・・オレはお前に応えたい。」 相沢は驚いて真一郎をみた。 「真一郎?」 「無理してるってわけじゃねえぜ。」 そうは言ったものの真一郎にはまだどこかに戸惑いがあった。 けれど曖昧な態度で相沢を自分を誤魔化すことは出来なかった。 この半年もの間、目の覚めないオレをずっと諦めずに待っていてくれた相沢に 少なくてもオレは思いを返してやりたいって思う。 聞いてしまったからには尚更だろう。 そう思うぐらいには真一郎は相沢に惚れていた。 「本当にいいのか?」 真一郎は腹をくくった。 「ああ。」 真一郎がうなずくと同時に相沢は真一郎を抱き寄せた。 「相沢?」 「今更取りやめるなんて私は聞かないからな!!」 念を押すように言われて真一郎は笑った。 「んな事言わねえって。」 真一郎は相沢を受け入れるために自身も相沢の背に腕を回した。 その瞬間唇が捉えられる。 「んっ・・・。」 それは優しい口付けではなかった。荒々しく真一郎のすべてを飲み込んでしまうような キス。 口内を奪ったまま相沢はきつく真一郎を抱え込むと体を密着させた。 服を着ていても真一郎は相沢の熱を感じた。 「真一郎、駄目だ。歯止めが利かない。」 「今までずっと我慢してきたのだ。」と耳元でそう告白されると真一郎は 心の中で苦笑した。 3章 目覚めの時 3へ またこんな所で次回デスね。期待せずに次に進んでください(苦笑い) |