続・フラスコの中の真実 17





それから・・オレたちは何度も求め合って、
落ちてくように一緒に眠った。
芥もオレもそうしねえと不安でたまらなかったんだ。

そんなことを日中夜丸二日も続けて
明日は学園も始まるって言う朝、芥がオレをようやく解放した。
解放したっていっても白衣を着ることを許してくれただけなんだけどな。

素肌にまとっただけの白衣がなんとも妙な気分だった。
芥も素肌の下は何も着てなくてオレたちはそんなカッコなのに
今は真面目に実験の模範経過をレポートに書き込んでる。

盗みみるように芥を横目でみると、昨夜までのことがウソみてえに
冷めた表情でレポートを追ってる。

普段の芥からじゃぜってえ想像できねえけど。
オレを求めるときの芥の表情って余裕がねえっていうか、切羽つまって
るっていうか。

オレはそんな芥に愛されてるんだなって思う。



芥の顔を盗み見てるとまた妙な気持ちになってきそうで
オレは慌ててレポートに視線を戻した。

『何考えてんだよ。丸二日もあんなことしてたあとだってのに。』

顔を真っ赤にさせながらペンを走らせると、背後で突然ガタッと音がした。
振り返ると芥がオレの顔をじっとみていた。
目が合った瞬間体がまた勝手に熱くなったような気がしてオレは何事もなかった
ように視線をレポートに戻したけどうまく取り繕えなかった。

芥が突然オレの耳元に唇を寄せてきたのだ。

「ひゃあっ、って芥いきなり何すんだよ!!」

ぞくりとした体を必死に誤魔化しながらオレは芥をにらみつけた。

「ふっ。敏感だな、学、まだ足りないのか。」

「なっ、んなわけねえだろ。あんなにしたのに。」

オレが抗議してる間にも芥の手が白衣のボタンを外していく。
何も身に着けてない素肌に芥の指がすべる。

「芥、今はこのレポートしなきゃだろ。」



その時だった。ケタタマシイほどの電話のベルが鳴り響いた。
オレは芥を仰ぎ見た。

っていうのもオレはこの二日電話は取らせてもらえなかったんだ。
オレの携帯は電源切らされてたし研究所にかかってきた
電話もナンバー登録されていない電話を芥はとらなかった。

芥はその登録された電話すらオレには取らせなかった。
オレはここには「いないこと」にされてたんだ。

何度もオレに電話がかかってきてた事は知ってた。
廉から電話がかかってきた時なんか、芥のぶっきらぼうな対応だけでわかっちまった。

けどオレはあえて何もいわなかった。

芥の不安や苛立ちがそんなぐらいで収まるんだったらって思ったし
何よりオレ自身がこの閉鎖された空間を今は誰にも邪魔されたく
なかったんだ。


けどこのケタタマシイ呼び出し音は共同開発してる製薬会社ので、
絶対でねえとまずいんだ。
たぶんこの間開発した薬の事のことだろうって思うし。

それでも受話器を取ろうとしない芥をオレは突き飛ばすように押し
のけようとしたんだけど芥はびくりともしなかった。

「芥!!」

オレが大声で怒鳴ると芥は小さくため息をついた。
長いコールが切れる前に芥はようやく受話器を取った。



「お待たせした。・・・」

『芥!?』

受話器の向こうの声が微かに漏れた。
それは取り乱した綾野ちゃんの声だった。

『またお前か?いないといってるだろう。』


オレはこの時になって何度も俺に電話してきた相手が綾野ちゃんだったてことが
わかった。
えど・・・この登録された電話番号は製薬会社のものだぜ?
オレの当然の疑問に答えてくれたのは芥だった。

「わざわざ、取引相手の製薬会社まで行って電話してくるとはな。」

つまり、そうでもしないと芥が取り合ってくれねえって
綾野ちゃんはそう思ってわざわざ製薬会社まで行ったってことだ。

『芥、それより・・・くんを・・。そこにいる・・だろ。』

途切れ途切れだったけどオレの事を言ってるんだってことはわかった。

「知らんな。」

『君にも関係・・こと。落ち着い・・・欲しい。』

オレはそのあと聞き耳をたてたけど綾野ちゃんが何を言ってるのかさっぱりわからなかった。

『・・・教授が・・。学くんに・・・』

芥は何も応えぬまま受話器を戻したが、そのままじっと視線を落として動かない。

「カイ・・?なあ、芥、どうしたんだ?何かあったのか!!」


オレの問いに答えたのは再び鳴り出した電話だった。
受話器を取らない芥を横目にオレはそれを取った。

「もしもし・・。」

『・・・学くん、昨夜、教授の研究所が火事で全焼して、教授が見つからないんだ。・・・・』




オレの耳に届いたのはそこまでだった。









火は鎮火されたっていうのに綾野ちゃんの病院の周辺は焼けた薬品の
異臭が漂い厳重な警戒体制だった。
病院の患者はみんな避難したっていうけど近所の住民が不安そうに現場の前に
貼られたロープ前を通り過ぎていく。

オレは信じられねえ思いで芥とロープの前で崩れ落ちた研究所の入り口を見ていた


「なんで、こんなことに・・・。」

「2日ほど前から教授は大事な実験があるといってここにこもったきりだったんだ。
僕が昨夜覗いた時も熱心に打ち込んでいて、それで・・。」

綾野ちゃんの話では火事の原因はわかっていないって事だった。
けど大方薬品の化学反応だろうってことになってるみてえだった。

今にも泣き出しそうな綾野ちゃんが声をふるわせてた。

オレは吸い込まれるようにロープを越え地下室につながる研究所の入り口に向かっていた。
ほんの3日前までここには研究所の入り口があって、オレは教授と一緒に入ったんだ。
なのに・・・なんで?


「学!?」

芥に呼び止められるまでオレは自分が何をしようとしていたのかわからなかった。
けど・・このまま何もしねえなんてオレは嫌だった。
この中に教授がいるかもしれねえんだぜ。

「芥、この中に教授が。オレのせいだ。オレのせいで・・。」

「違う。お前のせいじない。」

「けど・・。」

いつかは向かいあわなきゃいけねえことだったんだ。
オレは何度も教授と話し合うチャンスがあったのにそうしなかった。
逃げてばっかで、この二日だってオレは芥と・・・。
教授の事考えねえようにしてた。

立ちすくんだままそこから動かねえオレの肩を綾野ちゃんがぽんぽんと叩いた。


「学くん、教授がね、昨夜僕に言ったんだ。もう一人の私の息子をみつけたってね。
嬉しそうに笑ってたんだ。」

「もう一人の息子?」

オレが芥の顔を見上げると芥はなんともいえぬ表情をしていた。

「学くん、僕は嬉しかったんだ。
あんな風に笑う教授を見たのは初めてだった。
それにね、僕は信じてるんだ。教授は死んでないって。またひょっこりどこから
元気な姿で戻ってくるんじゃないかってね。」

綾野ちゃんはオレにそういうと微笑もうとしたんだ。うまく笑うことができなくて
崩れおちそうだったけど。オレを励ますために。
自分だって辛えはずなのに。

「うん。」

オレの瞳から涙が溢れてくる。

またきっといつか会えるよな。
そしてその時こそはきっと・・・。








それから1月近くがたって。

オレは誰もいねえ真夜中の研究所で実験をする準備をしてる。
今夜は芥は医師会の学会に参加していてここにはいない。

ずっと芥に悟られねえように機会をうかがってたんだ。

オレが保管庫から取り出したのはあの時の教授の・・・もの。
震える指でそれを丁寧に取り出すとフラスコの中へと流し込んだ。




フラスコの中の真実は今オレの手の中にある。




                                               END

あとがき

ここまで読んでくださった皆さんに感謝です。

「教授は一体何をしたかったんだろう?」「何を考えてたんだろう?」
っというのがこのお話を書いた最初のきっかけだったような気がします。
書き始めたのが1年前のことなので、アレなんですが・・汗)
結局そこは曖昧のまま終わってますし。(苦笑い)

けどちっとは(妄想?)真相に近づいたかなあ〜と思ってます。