続・フラスコの中の真実 10






七海ちゃんがインターホンの音で慌てて立ち上がった。

椎名と市川2人が来るのを待ってたんだ。
2人が来るのが遅えからそわそわしてて、でも
表向きはそんな様子は七海ちゃん自身は隠してるつもりなんだぜ?

その辺正直じゃねっていうか。兄ちゃんやオレたちに遠慮してる
のかもしんねえけど。
七海ちゃんがそんなだから椎名も正直になれねえんじゃねえかって思ったりしてる。
まあ、その辺はさすが親子っていうか頑固な所は2人とも似てるっていうか。

「廉君と市川くんが来たみたいだね。」

七海ちゃんは俺たちにわざわざ声をかけてから玄関に向かった。
その後をチビがついていく。
その様子をオレと藤守は顔を見合わせて苦笑した。

その時玄関に迎えに言ったチビの素っ頓狂な声がしたんだ。

「やあああ!!!」

オレと藤守は慌てて玄関に向かったらまだ書斎で仕事をしてた兄ちゃんも何事かと思って飛び出してきたんだ。

そこでオレたちは玄関の前にいた人物に固まった。
市川と廉と一緒に相沢がいたんだ。

「相沢!!」

オレは咄嗟に傍にいた藤守の手をぎゅっと握りしめ、震えて怯える
チビを反対の腕で抱き寄せた。
二人の手は微かに震えてたけど、ちゃんとオレの手を握りかえしてくれた。

みんなの凍りついた表情を市川が笑い飛ばした。

「なんだよ。みんなして怖ェ顔してさ。紹介するな。オレの親父の相沢教授。
今日は紹介したくて連れて来たんだ。」

「カッコいいだろ?」なんて得意げに話す市川にオレは背中に冷や汗を感じた。
市川は全くこの状況に動じてねえけど
兄ちゃんと七海ちゃん、それに藤守がこの状況を受けいれられるのか?

そんな事を考えていたら相沢が兄ちゃんに笑いかけたんだ。
それもすげえ親しげに。

「確か綾野の弟の・・・。」

「真一郎だ。」

兄ちゃんはむっとしていたけど取り合えず体裁を整えてた。

「綾野から後で色々と事情を聴いた。あの時はすまなかった。
それに息子の芥も世話になっていたとは。」

オレは相沢の穏やかな態度にも驚いたが、市川を芥と呼んだ
教授にも驚かされた。市川から話は聞いてたけど本当に
何もかも忘れちまってるのか?

オレと藤守が神妙な顔つきをしてると市川の後ろ手にいた
廉がおずおずと言った。

「七海先生、水都先生、オレも芥のお父さんにはお世話になったんだ・・。」

「そうなんですか?」

七海ちゃんは動揺を一生懸命隠してるみてえだった。

「いや、世話などとは。私の方こそ2人と一緒に話が出来てよかった。」

にこにこと話す相沢にいつの間にかオレの傍にいたチビがとことこと歩き出して
相沢を見上げてた。
相沢が手に持っていたケーキの箱が気になったみてえだった。

「すごくいい匂い〜。」

「青!!」

俺が青をたしなめようとした時にはもう遅かった。

「ケーキは好きか?」

「うん!!」

「それはよかった。これはお土産だよ。」

そういって相沢はチビにケーキを差し出したんだ。
さっきまではすげえ怖がってたくせにチビは現金にも破顔させた。

「ありがとう!!市川のお父さん。」

チビはすっかり相沢に心を許しちまった感じだった。
まあ大好物のケーキをお土産にされたんじゃな。

オレは心の中で苦笑したけど案外とチビが思うように相沢は
以前のような悪いやつじゃねえんじゃないかって思った。
チビはすげえ人の内面に対して敏感なんだ。
以前藤守と再会した時も藤守の真実の気持ちにいち早く気づいたのは
チビだったし。


「こんな所で立ち話もなんですから、どうぞ中に入ってください。」

チビが相沢に心を許しちまったことで七海ちゃんも相沢を適当に
あしらう事ができなくなっちまったみてえだった。

「申し訳ない。突然押しかけてしまって。私は芥と廉くんと話が出来ただけで
充分。このままここで失礼を・・。」

そのまま帰りそうな相沢の手を引いたのは意外にも椎名だった。

「いいんですよ。芥だって教授がいた方が楽しいし。オレももっと
お話したいし。」

椎名がまさかそんな事をいうとは思わなかったらしく七海ちゃんは笑顔を
引きつかせてた。そんな七海ちゃんの肩に兄ちゃんはさりげなく手を置いた。


「この間はオレも突然殴りかかったりして悪かったな。
廉が世話になったみてえで、こんな狭え所だけど入ってくれ。」

無愛想ながらも兄ちゃんは社交辞令ではなくそう言ったようだった。
それでも、まだ遠慮がちな相沢の腕を市川が強引に引っ張った。

「水都先生もああいってくれてるんだしさ、親父入ろうぜ。」

「芥、だが・・。」

ほらほら、といいながら相沢の手をひっぱる市川はすげえ嬉しそうでオレは
なんだか微笑ましい思いでみてた。


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あとがき

本当なら祭ちゃんも登場予定だったんですがうまく登場させることが出来なくて諦めました(汗)
祭ちゃんはまたアメリカに戻ったってことで。
(電話でしか登場させることが出来なかったな〜)