続・フラスコの中の真実2






夜の学校ほど寂しく薄らさむい場所はないが学はそんな校舎内を
気にするでもなく化学室のある特別校舎へと向かっていく。

「芥と実験、実験〜♪」

鼻歌のように軽く口づさんだ学の声が校舎に響いたが
実験の事になると学は些細な周りの事などどうでもいいらしい。

が、校舎下から化学室のある3階を見上げて学はちょっとがっかりした。
化学室にはすでに電気がついていたからだ。


「ちぇ。今日は約束の時間よりかなり早くきたのに。もう芥のやつ来てるのかよ。」
先にきて驚かせてやろうと思っていたのに。」

ぼやきながらも芥が来ているとわかると学の足は今まで以上に駆け足になって
3階の化学室に付く頃には学の息は上がっていた。



「ハア、ハア、芥!お待たせ!!」

学はバンと大きな音を立てて化学室の扉をあけたがそこには芥の姿はない。

「あれ?電気はついてるのに誰もいねえ?」

いつも実験に使うテーブルには実験道具はない。
芥が先にきてたらいつもちゃんと準備してあるのに。
ひょっとして準備室にいるのか?

「それとも宿直の先生だったりして、」

学は独り言をつぶやいて苦笑した。

学と芥がここで夜中に実験するのは先生や各教授たちの
暗黙の内の了解になっていた。
というのも二人は世間でも有名な化学者だったし、芥に
いたっては学園卒業後、教授の後を継いで博士号をもらいここの研究を一
任されていた。

だからある程度はここでの実験も認められてはいるのだが、
水都のように皮肉をいうものがいるのも確かなことだった。

「まさか水都が今日の宿直なんてことねえよな。」

誰もが怯える水都だが、学の性格なのかそれほど水都を恐れてはいなかった。
あの相沢教授でさえ学には脅威というものはなかった。
同じ化学者として尊敬の念を抱いても。







水都がいるかもしれない準備室をそっと覗いて学はその大きな瞳をますます
大きく見開いた。

鋭い眼鏡の瞳、長い髪を一つに結んで、凛としたオーラを放つ懐かしい教授の後姿が
あったからだ。

教授は学と芥が発表した新しい化学式がのってる雑誌に熱心に見入っていた。

「教授!?」

教授はよほどその本を読むのに集中していたらしく学の声にかなり驚いたようだった。

学の方はというと死んだはずの教授が突然目の前に現れたことに
それほど驚きはなかった。
というのは空から教授の事をほんの数日前に聞いたところだったのだ。

「教授久しぶり!!」

学がにっこり笑って挨拶すると教授はもっと驚いたように学を凝視した。

「教授どうかした?オレのこともやっぱり覚えてねえ?」

空から記憶喪失になってるってことも聞いてた学は困ったように頭を掻くと教授は
持っていた雑誌をバサっと床に落とした。

「教授どうかした?」

「・・か・・い・・、」

「へ・・?」

教授に言われた意味がわからなくて学は間抜けな返事を返した。

「君は芥だろう。」

「えええ!!??」

それを否定する間もなく学は教授に抱きしめられていた。

「芥・・かい、会いたかった。」

「教授・・あのオレ・・は。」

学は申し訳なさそうに違うと言おうとした時教授がぎゅっと学の背にその大きな腕をまわした

「あっ」


「大きくなったな、芥」

抱き寄せられた教授の白衣は学と同じ薬品のにおいが染み付いていた。



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1話短かったですね;学を芥と間違えた教授、次回芥も登場です。