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すれ違う想い

 




     
今日は藤守の誕生日。
何でこんなこと思い出しちまったんだろう。



4年前のあの日は、藤守も兄ちゃんも 祭もいて・・・

あの時の事を思い出そうとしてもおぼろげで、別の藤守の
表情にかわっちまう。

燃え盛る炎の中で見た悲しげに笑う藤守。

藤守今どうしてる?
どこにいるんだ?
何を考えてる?

いつの間にか俺は誰もいない夜の学園の校舎まで来ていた。


そのまま誘われるように校舎に入ったオレは心臓をわしづかみされ
たような衝撃が待っていた。

見慣れた長い赤毛の髪。
あの日から一瞬たりとも忘れたことがなかった藤守がそこにいた。


藤守はまだつぼみの桜の木を目を細めてみあげていた。

あの桜の木は俺たちの教室から見えたんだ。
あの木の下でよく藤守と祭と一緒に昼を食った事ことをオレは
思い出していた。

あかりもねえのに藤守の姿はスポットライトを浴びたようにはっきり
と輪郭を帯びていた。
まるで幻でも見てるように。


手を伸ばせば消えちまうんじゃねえかと思うほど藤守は儚くて、
オレが駆け寄るとようやく気づいた藤守は少し驚いた顔をして、
表情を険しくした。

藤守オレのことまだ恨んでるのか?

「ナンバー014、どこにいる!!」

その時相沢の声が校舎にこだまして、瞬間オレは辺りを確認した。

「014?」

再度相沢の声はしたが声の感じで傍にいないことを確かめると
オレは藤守の腕を引いて空いてる教室に連れ込んだ。

「何をす・・・」

オレは藤守の唇をふさいだ。

「んうう・・・。」

息ももれぬほどにつよく。

「ナンバー014!!」

相沢の声と二人分の足音が近づいて俺はそのまま
藤守の身体を床に縫いつけた。

藤守は相沢に気づかれないためかオレの下でおとなしくしていて
オレは藤守の白衣の中に指を入れた。

「んんん・・・。」

藤守が弱弱しく抵抗したが、誘ってるようにしか俺には
思えなくて突き進んでいくとやがて外の足音が止まってオレもさすがに
その先には進めなくなった。


「子供ではないのだから後で帰ってきますよ。」

永瀬の声だった。

「そうだな。だが・・・。勝手なことをされては困る。」

「彼は・・・ませんよ。・・・人質が・・から。」

途切れ途切れの会話はよく聞こえなかったがやがて二人の足音が
遠ざかると弱弱しかった藤守の抵抗が強くなった。

「藤守・・」

オレはそれでも押しとどめようとしたが藤守はイキナリオレの股間を
蹴とばした。

これにはさすがのオレも面食らった。

「今のはきいたぜ?」

「バカじゃないの。オレはあんたが憎いんだよ。オレがここに戻って
きたのだって・・・。」

「オレに復讐するためか?」

オレに先をこされて藤守が唇をかむ。負けず嫌いだもんな。
かわってねえよお前。オレはそう思うとなんだか悲しい
気持ちになっていた。

オレは藤守が何も言い返してこない事をいいことにもう1度
体ごとぶつかっていった。
今後はさっきのようなヘマをするわけにいかねえから体全部で
藤守を押さえ込む。

「ん・・。」

「いやなら助けをもとめろよ。」

相沢だって永瀬だっているんだ。藤守が大声をだせば気づくって。
でもそれをしねえのはオレをかばうためじゃねえのか?
本当は藤守だって・・・今でもオレのことを。

「藤守・・。」

キスした瞬間今度は唇をおもいっきり噛まれて、オレが口を押さえると
藤守からの反撃のパンチが飛んできた。

「ナオが好きだぜ。」

あの時いえなかったことをオレは言った。
後悔してたんだ。何でいわなかったんだろって。

今でもこうやってるだけで苦しいぐらい藤守が好きなのに。
藤守に殴られるのも嬉しいって思うぐらい好きなのに。

「お人よしだね。オレはあんたを殺そうとしてるんだよ。」

「構わねえよ。藤守がそれで本当に幸せになれるってならな。」

藤守は可笑しそうにオレを笑った。

「ホントくぅちゃんってお人よしだよね。オレから全部を奪っといて
よくいうよ。」

藤守の声は冷たくてオレのすべてを拒否していた。
わかってたさ。
それでも、オレはお前に・・・

「オレは藤守に幸せになってほしいって思ってる。」

届いてくれよ。せっかく会えたのに。
今日は藤守の誕生日だってのに・・。

藤守はふんと鼻で笑うともう俺になど用はないとばかりに立ち上がった。

「藤守待てよ。」

オレが呼び止めると一瞬藤守が立ち止まる。

「藤守、誕生日おめでとうな。」

オレは一生懸命笑おうとした。
悲しい気持ちでこんなことを言いたくねえから。
4年前のあの時お前がオレにいった『ありがとう』は本当の藤守の
気持ちだって思ってるから・・。

藤守の肩は震えてた。ひょっとして泣いてるのか?

その時廊下で人の気配がした。

「014 そこにいるのか?何をしている。」

「教授今行きます。」

「藤守いくな!!」

オレが大声を上げると藤守は慌てて教室の扉をガチャンとしめて
相沢のもとへ走り出した。

「今何か物音がしたような気がしたが。」

「気のせいでしょう。行きましょう。」

二人が立ち去るのをオレはあの時と同じように何も出来ずに
見ていた。



教室から藤守が先ほど見上げていた桜を俺はもう1度仰いだ。

春はもうそこまで来てるってのに。

藤守が立ち去った足元には先ほどは気づかなかった
小さな花壇。

そこには真っ赤なチューリップが咲いていた。




直くんのお誕生日だと言うのに暗い話になってしまいました;
申し訳ないです。
小説はすぐに書きあがったんですがタイトルが思いつかず、
なんだかもっとよいタイトルがあるような気もするんですが・・・。