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●エプロン

 







     
直は引き出しの中に入っていた物体に固まっていた。

真っ白なフリフリレースのついたエプロン。

なぜこんなものがこんなところにあるのだろうか?・・・と
すると急にらんが直に話し出した。

「それ僕のだよ。」

「僕のって・・・らんが使ってるの?」

こんなものをらんが着ている姿が直には想像できなかった。

「うん。夜がね。これ着て欲しいっていうから・・。」

照れた笑みをうかべるらんに直は聞いてはいけないことを
聞いてしまったような気がして乾いた笑みを浮かべた。

でもらんはそんな直にはかまわず話を続けて・・。

「あのね、僕昨日その服を着て夜にコーヒー入れてあげたんだよ。
インスタントだったのに夜すっごくおいしいって言ってくれたんだ〜。」

うっとりしたようにいうらんの言葉で直ははたっと気がついた。

「らん、服って?まさかこれの事・・?」

エプロンを広げてみせた直にらんは当たり前でしょ!
って怒鳴ってきたけど。

「らんこれはね服じゃないんだよ。エプロンっていってね
服が汚れないようにするために身に着けるものなんだよ。」

「そうなの?どうりでスースーするなって思った。」

スースーするってまさか・・?

「ひょっとしてズボン穿かなかったの?」

「うん。僕そういうものだって思ってたから。服全部
ぬいじゃった」

頭を抱えた直を不思議そうにらんが覗きこむ。

「僕そんな変な事した・・?」

直は手にもったそのエプロンの所業にこまり小さくため息をついたのだった。






「おう藤守どうした・・?浮かない顔して。」

いきなり部屋に入ってきた空に直は慌てた。

「は 羽柴ノックぐらいしろよ。」

「何度もノックしただろ!」

直は持っていたエプロンを後ろ手で隠した。

「それより藤守今なにか隠さなかったか?」

「えっ?ああこれは別に・・・・なんでも・・・」

空の目は怪しいとばかりに直をじっ〜と見ている。

「ふーんオレには見せられねえものなのか?」

「だからそんなんじゃ・・なくって。」

直の声は消えるようにか細くなる。

「ならいいだろう。」

ぐっと空が近づくと直は後ずさった。

直の言動が挙動不審なものだから
ちょっとからかうぐらいのつもりで直に近づいたのだが・・。

困ったように目線を泳がせた直の瞳は潤んでいた。
空はまたやっちまったとばかりに手を上げて謝った。

「ごめん。藤守。そのオレ調子にのっちまって。泣いてるのか?」

「泣いてなんかないもん!!」

意地っ張りな直はいつもの反対言葉でぷいっと横に向いてしまう。

「わかった。わかったから。藤守は泣いてなんかいねえから。
ほら向こう向いててやるからそれどっかに隠せよ。」

空はわざとらしくあさっての方向をむいてコホンと咳払いした。
いやしたはずだった。

ところ体が勝手に動き出し気づけば藤守の手を掴んでいたのだ。

「なにを隠してるのかと思えば、それか・・。」

「よ 夜・・?」

藤守は真っ赤な顔をして慌ててそれを空の目から隠そうとしたが
間に合わなかった。

空は夜に体をのっとられたといえバッチリ直が隠して
いたものを見てしまったのだ。

「なんで藤守がエプロンなんか・・?」

「ああ。それな〜昨日らんがそれ着て随分俺にサービス
してくれたんだぜ。」

サービスって・・・・空はゴクンと唾を飲み込んだ
まさかあんな事やこんな事とかじゃあ・・。
想像しそうになった空はそれをなぎ払うように頭を振った。

「空、別に想像したっていいんだぜ。それとも
直に実演してもらった方がいいってか。」

「なっ何いってんだ。夜。オレはそんなことなんてして
もらわなくてもだな・・。」

空と夜の会話に直も割り込む。

「そ そうだよ。らんを騙してへんな事させといて。」

すると聞き捨てならないとばかりにらんが出てくる。

「僕、騙されてないもん。」

「らん。ちょっと黙っててよ。」

「嫌だよ。僕騙されてなんかないもん。ナオが謝るまで
表にいるんだから」

「らん!」

普段仲のいい二人が喧嘩をはじめて空はおろおろする。

「ちょっと二人ともやめろよ。夜、これもそれもお前のせいだろ
何とかしろって。」

「オレのせいだって〜?羨ましいって思った癖に。」

夜に言い返されて空はうろたえる。

確かにちょっとはそう思ったってのも事実だけど
藤守はぜってえそんなもん着たりはしないしあんな事や
こんなことなんてするはずが・・。

「ふ〜ん。直はしてくれねえ〜ってそりゃ空は気の毒
だな。」

そんな事いってねえだろ!!といったはずの空の言葉は
夜によって打ち消されていた。

「夜 なに・・?」

藤守が驚いたように聞き返す。

「だから、空は直はそんなことするはずねえってよ。
オレとらんが羨ましいって言ってるぜ。」

それを聞いた直が顔を真っ赤にさせた。

「そんなこと・・・。」

「お前には出来ねえんだろ?」

唇をぐっとかみ締めて藤守が夜をにらみつけてる。

おい!夜やめろよ。藤守また目が潤んで泣きそうじゃんか。
俺と交代しろよ!!

空の抗議の声は完全に無視された。


「で 出来るよ。それぐらい。」

負けずぎらいな直はつい夜の挑発にのってそういって
しまっていたのだった。

「だ、そうだぜ。空。」

「藤守 無理しなくていいんだぜ。そんなもん無理してやるもんじゃ。」

夜から解放されて俺はようやく声がでた。

「やるっていってるだろ!」

言い出したら聞かない直は顔を真っ赤にして怒鳴ってくるけど
無理してるのがわかるって。



その時いきなり部屋の扉があいて祭が顔を覗かした。


「空もナオくんも何大声だしてるの?外まで筒抜けだよ。」

「祭!!」

「祭ちゃん!」


突然顔をだした祭に俺はちょっとほっとした。
祭が来た事でこの件がうやむやにしてしまう方が藤守のためだってっ!!

そりゃ俺的にはちょっとは残念だって気持ちはあるけどな。
でもやっぱりほら藤守に無理させるわけにはいかねえから。

「何?喧嘩でもしたの?」

祭が仲介しようとしてくれてっのがわかって俺もそれに便乗する。

「ああいやなんでもねえんだ。それより祭ちょうどよかった。おれな・・・」


このことをうやむやにするために俺はあえて祭と一緒に部屋から出ることに
したのだった。







                                      〜 続く




  
このお話は3部作になる予定です〜
夜らんと空直の●エプロンのお話。
できれば続けて更新したいです〜。