「ずるい 龍彦だけ。オレだって見てくださいよ。」


先にスタイリストさんに衣装を調えてもらった
高明の方は、本番前だって
のに肝が据わってるというかなんというか。

「直哉先輩のお菓子貰っていい?俺腹へって。こんな
じゃ踊る前に倒れそう〜。」

「いいけど。衣装汚さないようにしろよ。」

遠慮のない後輩たちに苦笑しながら直哉は世話を焼く。
でも実のところ直哉はそれに感謝していた。






直哉は復帰するにあたり社長に呼び出されたのだ。




一人でハーツを続けるのもいい・・・が
それに拘ることはない。
辛かったら別のグループに入ってもいいし
ハーツの為にメンバーをいれてもいい。


お前の望むようにするし出来る限り最善をつくそうと。



だが直哉が選んだのは一人でハーツを続ける事だった。
彰人以外とハーツを組むなんて考えられなかったのだ。


そんな直哉の決断に社長はこのboys3人にバックダンサーを
任せたのだ。


ホントいうと今回直哉がうたう曲はバラードで
ダンサーがつくような曲ではないのだが、
直哉が新たな気持ちで旅立てるようにと
大きな声援と空をイメージした元気な
パフォーマンスと鎮魂がダンスに込められていた。



「もう・・タスキは私たちがやりますから。」

「直哉さんだって忙しいんですよ。」


メイクさんやスタイリストも加わり控え室はますますにぎやかになる。

「まもなく出番ですよ。」

控え室に顔をだしたディレクターに直哉と3人は立ち上がった。




出番の前直哉はそっとポケットに入れた時計を握り締める。

まぶしいほどのスポットライトに老若男女の黄色い声援と今日は
涙も混じってる。




悲しいのはきっと今だけだから、
時が過ぎるまで君の傍にいよう

いつかこの空のむこうにある君の笑顔に
出会うために

この歌を君の為にうたおう





どよめく歓声が消えて舞台が真っ白になる。


なぜだろう。オレ今彰人がすぐ傍にいるように感じる。



いや。確かにそこには彰人がいて直哉に微笑んでいた。



歌い終わった瞬間、色彩と歓声が直哉に戻ってくる。
彰人はもういない。

きっと歌い続ければ彰人に会えるんだ。

直哉はそんな気がして彰人の消えた方をみつめたのだった。







打ち上げのあと一人暮らしの部屋へたどり着いた直哉
はなんだか力が抜けてリビングに倒れるように座り込んだ。



部屋には留守電に入ったメッセージが3件。

1件目
今日の生出演みたかんね。元気そうで安心したと・・・。

実家の母さんからだ。


2件目  直哉くん 駿河だよ。

駿河はハーツのセカンドマネージャーだ。

実は今日の本番流れたあとから番組と事務所に電話が殺到して。
落ち着いて聞いてくれよ・・・。

駿河はそう前置きしたあと少し躊躇した。


直哉の隣に霊体のようなものが映ってたんだ。それが彰人じゃな
いかって言うんだ。

「なんだって!」

直哉はそれを聞いて電話にかじりついた。
もちろん電話は留守電だし返事はなく話は続いてる。

この間、新曲のレコーディング時にも妙な音が
入るってミキサーさんがボヤいてたのだ。

でもまさか・・・。


いつの間にか駿河の留守電は終わってた。

ピーという発信音のあと3通目の留守電が入る。

  【直哉・・・・・


彰人!!・・・・

忘れもしない彰人の声・・・だがそれは消えるように
かすんで。あとにはプープーという機械音だけがなっていた。



 
    
あとがき 
   どうしてこんなお話になったのか(苦笑)
もうしばらく続きます。
   


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