second kiss




2004年02月13日
オレはいつもお前との距離を置いていた。
そうすることで自分を制してきた。

お前だってそうだったんだろう?
けどあの日タガが外れたお前は俺の懐に入りこんできて、

オレを乱した。


覚えてないんだろうな?お前は・・・。
それとも忘れたふりをしてるだけなのか。

どちらにしてもお前はずるい。

オレの気持ち知っててそうやって距離置いて
何もなかった事にしようとしてるんだろう。

だからオレは怖くて飛び込めないんだ。

あの日の事はオレの都合いい夢だったんじゃねえかって思うから。










「進藤 どうかしたのか?」

ぼんやり考え事をしていたオレの隣に座っていた塔矢が話しかけてきた。
棋士仲間の忘年会の席で酒のせいか普段より塔矢の口調は軽い。

「どうもしねえけど・・・ってお前それ何杯目?」

隣に座っていた塔矢をオレはなるだけ意識しないでいたかった。
だいたいなんでコイツが隣なのかさえ不思議なぐらいだ。

塔矢はオレに聞かれたことが面白くないというように眉を寄せた。

「3杯目だよ。それより君は最近露骨に僕を避けようとしていないか?」

そんなに露骨だったろうか?と思ったが。オレが塔矢を避けていたのは
事実でそれには肯定も否定もしなかった。

「もう、お前やっぱ飲みすぎだろ?
酒癖悪いんだからちょっとは自粛しろよ。」

「君は人聞きが悪いなあ。僕は他人に迷惑かけるほども飲まない。」

「なっ・・・。」

オレはカっとなった。

こいつ、よくもいけしゃあしゃあと。4か月前ファン感謝祭の打ち上げで
オレに迷惑かけたのはどこの誰だよ。
それとも俺は他人じゃないとでもいうつもりなんだろうか。

言いかえそうかと思ったが宴会の席で塔矢に喧嘩を売るわけに
行かず不機嫌を抑えきれずに立ち上がった。


「和谷オレそろそろ帰るわ。」

「ええ〜進藤もう帰るのかよ。」

塔矢とは反対側の隣に座っていた和谷が不満を漏らした。

「なんかお前最近付き合い悪いぞ。」

「悪い。今度はちゃんと最後まで付き合うから。明日の仕事早えんだ。」


言葉では柔らかく返したが到底怒りは収まりそうになかった。

もともと出席するつもりはなかった。
幹事だった和谷にちょっと顔出すだけでいいからと、
引きずり込まれたのだ。


「まあ、もう少しぐ・・・」

俺の袖を引っ張った和谷は俺の顔を見て呼び止めるのを
諦めた。
おそらく酷く怒ってるのがわかったんだろう。

俺は小さくため息をついてからとりあえず営業スマイルを作って見せた。

「俺、明日早いからお先に失礼します〜。」

「おう。もう帰るのか。」

「気をつけてな。」


先輩棋士たちの間を足早に抜けながらオレはそれでも
どこかで何かを期待している自分に嫌気がさしていた。









雑居ビルを抜けて地下鉄の改札をくぐりぬけ電車に乗り込んだ時
間違うはずもない声がオレの背を呼び止めた。

「進藤!!」

扉が閉まる直前に塔矢はオレの前に現れ間一髪で電車に乗り込んだ。

「なんだよ。塔矢おまえ。飛び込み乗車なんてすんなよ。」

塔矢が荒い息を整える。

「間に合ってよかった。君にどうしても謝りたくて・・。」

「それだけのためにわざわざ追いかけてきたのか?」

「それだけの為だ。でも大事なことだから。」



お互い気まずくて無言になる。そのまま地下鉄が次の駅に着いた。
駅のフォームから発車のベルが流れて塔矢がオレの腕を引いた。


「進藤 降りよう。」

「ええっ?」

この駅は塔矢もオレの最寄の駅でもない。
引っ張られるようにオレはその駅で降りた。

「お前ってホントいきなりで強引だよな。」

「ああ。そうだな。」

「そこは否定するところだろ?」

呆れていうと塔矢が苦笑した。

「その方がよかっただろうか?」

真顔で聞く塔矢にオレは盛大な溜息をついた。

「もうどっちでもいいよ。」


でも悪い気はしていない。
それになんだかあまりに呆れてさっきより怒りも和らいでいた。







地下を上がって駅近くの児童公園の前で足を止めた。

「少し話さないか?」

「ああ、まあ、構わねえけど・・・。」

人通りもない小さな公園のベンチにオレと塔矢は腰を下ろした。

「ずっと・・。君に謝らないといけないと思ってた。
感謝祭の打ち上げの時・・・僕は君に迷惑をかけたんじゃないか?」

『迷惑・・・・』か。
塔矢は先ほども『迷惑』と言った。
オレはそれがひっかかって答えられずにいた。


「進藤 僕はあの後の記憶がない。気がついたら僕の
部屋で寝ていた。僕が君に迷惑をかけたというのなら・・・。」

「そのことならもういいよ。迷惑だなんて思っちゃいねえから。
誰だって酒の失敗ぐらいあるだろ?
俺の方こそ引きずるようなこと言って悪かった。」


口早に言った。
堂々巡りで結局お互いの本音を吐かないままならこれからも今までと
同じだけだ。

「それより寒いし帰ろうぜ。」

オレが立ち上がろうとしたら塔矢に呼び止められた。

「打ち上げの後、僕は君に何かしたのか?」

ドキっとしてオレは足を止めた。
塔矢は真直ぐに射抜くようにオレを見ていた。

「何かってなんだよ。」

装っても声は震えていたかもしれない。

「僕の思い違いじゃないだろう。あの日から君の態度が明らかに変わった。
君は僕を避けていないか?」

オレは何も言えなかった。

「・・・君が言えないような失態を僕はしたんだろう?」

オレは長い溜息をついた。

「お前はそれを認めるのか?
なかった事にしといてやろうと思ってたのにさ・・・。
迷惑なんてそんなじゃねえだろ・・・。俺をかき乱して・・・・。」

言ってしまった後オレは後悔した。これではあの日何か
あったと言ってるようなもんだ。

「それが事実、君の本心なのか・・。」

「事実?本心って。お前あの時の記憶ねえんだろ!?
それとも忘れた振りしてオレをおちょくってるのか。」

そうかえした瞬間塔矢はオレの腕を掴んでた。

「 何すんだよ・・・?!」

「本当に覚えてなんてないんだ。だけど起きたら僕は君を
抱いていた。そのまま寝た振りをしていたら君は
僕の腕を解いて素知らぬふりをして部屋を出ていったから・・。」

僕は・・・・ずっと・・・君のことが好きだった。
だから酔った勢いで君に何かしたんじゃないかって。」

掴まれた腕からオレの想いが伝わってしまいそうでオレは振り払った。


「な・・・んだよ・・・。」

あの時部屋を出て行ったオレを見てたのか?
ようやく認めたお前にオレは小さく頷いた。


「そうだよ・・。あの日お前はオレに
好きだと言って、オレが欲しいって迫って・・・。。」

「まさか・・・・」

ふっとオレは息を吐き出して苦笑した。

「キスされただけだから。・・お前はそのまま酔いつぶれて寝てしまった。
オレはお前の腕から抜け出そうとしたけど抜け出せなくて
結局そのまま朝まで寝ちまったんだけどな。」


途中までは本当だが、後は嘘だ。
抜け出せなかったんじゃない。お前と居たくて抜け出さなかったんだ。

本当はお前のあの時の想いにウソなんてなかった事をオレは
知ってた。不器用なお前がそんな事出来るはずないのに。



「やっぱり君に迷惑をかけたんだな・・・。僕は・・・。」

オレは苦笑した。

「迷惑・・・か。酔った勢いにするつもりなのか。」

「いいや、酔った勢いでもなんでも僕の本音だから。
君には迷惑でも僕は君を今も・・・・。」

もうこの世が終わったように表情を落とした塔矢にオレは笑った。

「迷惑なんて思っちゃいねえって言ったろ?」


オレは塔矢のコートを掴むと塔矢の唇に俺のそれを押し当てた。
軽いキスだ。


「進藤?」


驚く塔矢にオレは照れ臭くなって背を向けた。


「お前あの時オレが言った事覚えてねえだろ?」




そうあの時オレはお前にこう言ったんだぜ。


『オレもずっとお前が好きだった。』って
だから・・・構わねえって・・・。




「進藤何って君は言ったんだ?」


慌てて追いかけてきた塔矢にオレは笑った。


「2度と言わねえよ。」




                                       おわり


再編集2012 8月

前サイトでお客様のリクエストで書いたお話です。
リク内容はファーストキスから開いてしまった『セカンドキス』
だったと思います。

ヒカルが今時の『ツンデレ』ってやつだなと思いながら書き直しました(笑)


今更ながらホームページを掘り起こすと短編がいろいろ出てきます(苦笑)
たまには掘り起こして整理してみます。