交差 7




重なった唇が離れて 塔矢は上気した顔を
もう1度俺に近づけた。

触れそうになった唇をわざと外すために
俺は背向けた。

「しんど・・う?」

か細いアキラの声がずきりと痛んだ。
でも俺まだお前を受け入れられない。
ポケットにはまだ先生の部屋の鍵が入っている。

「俺 行かないと。」

俺に伸ばそうとした塔矢の手が触れる前にこぶしに変わり
行き場をなくしてアキラはそれをベットに押さえつけた。

「先生に鍵返しにいってくる。」

しばしの間 無言の時間がすぎる。

「行ってこい!」

塔矢の心中がわからないわけじゃない。
でもお前との事始める前に俺は先生との事ちゃんと
決着つけなきゃならない。


俺は先生の部屋の前で呼吸を整えた。

「進藤!?」

「先生に話があって、部屋入っていい?」

先生は窓辺に座ってビールを飲んでいたのだろう。
テーブルには転がった空き缶が2缶 飲みかけが1缶。
タバコだって灰皿いっぱいになっている。
先生がソファに腰を落としてその残骸を増やすために火をつけた。

「先生の方が勝ったのに荒れてるんだ。」

「勝ってもお前は手にはいらんからな。」

「ごめん。先生俺・・」

「それ以上言うな。用件だけ言え。」

ポケットから出した鍵を俺はその荒れたテーブルの上に置いた。

先生はまた何も言わず背をむけてタバコを吸い始める。
俺はそれを無理やりに掠め取ると口に運んだ。前夜祭の日と同じように。
苦い・・・むせ返りそうになりながらも俺はそれを続けた。

驚いたように先生が俺をみた。

「やめとけ あいつはタバコは嫌いだ。」

「いい。なんか吸いたい気分なんだ。」

だが、先生はもう1度俺からそれを掠め取った。

「あいつが待ってる。それとも俺にまた押し倒されたいのか?」

俺が何もいえないでいると先生は小さくため息をついた。

「もう行け。」

なんとなくつかない踏ん切りを抱えて背を向けたとき
先生の立ち上がる気配に振りかえった。

「進藤忘れ物だ。」

伸ばされた手には何もない。

無くしたはずの扇子・・・。それを持っていけというのだろう。
俺は見えないそれを受け取った。



前に進むために。



先生の部屋をでてエレベーターの前に佇む人物に俺は
足をとめた。

「塔矢・・迎えに来たのか?」

「待てなかった。とても、緒方さんに君をとられてしまうんじゃ
ないかと思うと不安で。」


無言のままに招かれてエレベーターに乗り込むと二人だけの
空間に塔矢がオレに口びるを落とそうとしてその直前で
顔を曇らせた。

嫉妬に狂いそうだと・・・つぶやいた塔矢に
俺は笑って自ら塔矢に口付けた。

「これでお前も同罪。先生と間接キスだ。」と。




                          2004年04月13日(再編集2007.2月18日)


あとがき

ここまで読んで下さったお客様ありがとうございました。
このお話は天空の破片を書くにあたって煮詰まってしまった私がその部分
だけを取り出して練習したっていう感じになってます。だからか設定が「天空の
破片」ととても似ているという(苦笑い)
アキラくんと緒方先生との勝負を曖昧にしておきたかったのもそのせいかな。
次はその天空の破片を編集しようと思います。60話近くあるお話で長いので
少しづつがんばって編集していこうと思います。






W&Bお部屋へ