「お願いです。僕を人間界に行かせてください。」
休暇の為天宮に戻ってきたアキラはヒカルが人間界へ行ったと知って
血相をかえてミカエルに食い下がっていた。
「それなりの任務がなければ人間界に行かせる
わけには行かないと何度もいったはずです。」
ミカエルの言葉にアキラは唇をかみ締める。
わかっている。わかっている事だけれどもとても納得がいかないのだ。
ヒカルが何も言わずに人間界に行ってしまった事。
しかもそれが、任務であるといえ人生をまっとうするまで
戻ってこないという事などとても許せそうにないのだ。
アキラの切実な想いに助けをだしたのはガブリエルだった。
「アキラの願いを聞いてやってはくれないか。」
もとの上司でありよき理解者であったガブリエルの登場にアキラの
表情が揺れた。
「ガブリエル様!」
「アキラ・・・少しは頭を冷やせ。取り乱すなどらしくもない事だ。」
いつもの冷静 沈着なアキラをさしているのだろうが、本来アキラが気性の
激しい性格である事はガブリエルも承知していた。
「申しわけありません。」
膝をついて頭をさげたアキラの顔は悔しさを食いしばって
必死で抑えている時の顔だ。
「ミカエル 私からもお願いだ。アキラを人界へ行かせてやってくれ。」
「しかし、」
「任務が必要というなら考えてある。」
アキラに人間界に行かせるためにとってつけたような任務ではないかと
ミカエルは顔をしかめた。
「ミカエル 君があの守天使を人界に行かせたのはなにもあの魂を天昇させる
事だけが目的ではあるまい。あいつが人となる事で周りに与えるプラスの影響を
考慮したはずだ。ならばアキラを行かせてもかまわんだろう。アキラがあいつと
かかわる事でその可能性はもっと広がるはずだ。」
たとえば・・・ アキラとヒカルが人として子を成し得れば二人がここに戻ってきても
永遠にも続く可能性ができる。終わりなどなく・・それはけして二人いなければ
成し得る事などできない可能性だ。
ガブリエルの言葉にミカエルが頷いた。
「なるほど。ガブリエルの言う事は一理ありますね。」
ようやくミカエルのその言葉でアキラが顔を上げた。
「よいでしょう。智天使アキラを人間界へ転生させましょう。」
「では・・・」
「ええ。 貴方の任務は・・・」
そういいかけたミカエルの言葉を、ガブリエルが制した。
「そんな事は 言わなくてもアキラが一番わかっている。」
「それもそうですね。」
確かに、アキラにとってそれが一番の望みなのだから。
アキラは自ら進んで転生の間に入った。
「ヒカルは男になったのですか?」
アキラの問いにガブリエルが応える。
「あいつなら女になった。」
「ではミカエル様 僕を男に・・・・・」
迷いもなく、すでに心も地上にあるアキラにミカエルは心の中で苦笑する。
「わかりました。」
中央のカプセルに入ったアキラの力を封印していく。
ヒカルの時と違いやはりかなり封印しやすい。
それは力の差だけでなく本人の自ら望む意思の違いもあるのだろう。
アキラが地上に降りる瞬間、彼の魂に黄色の光りが刻みこまれた。
そうして完全にその光りが消えた後ミカエルがつぶやいた。
「アキラはヒカルの風切り羽を持っていたのですね。」
「あいつもアキラの風切り羽を持っていたさ。」
驚いたようにミカエルがガブリエルをみる。
「それは気がつきませんでしたね。」
「だろうな。」
そういったガブリエルの横顔は寂しそうだった。
「ガブ 寂しいのでしょう。」
ミカエルは二人だけの時の名でガブリエルを呼ぶ。
「寂しいなんてもんじゃない。」
「私もお酒でも飲みたい気分ですよ。今からあなたも付き合いませんか?」
「そうだな。お前で我慢しておくか・・・・」
そう交わした二人の大天使は転生の間を後にしたのだった。
__________________________________
かなりアルコールの入ったガブリエルが、「ああでもない 」 「こうでもない。」とくだを
巻く。小さくため息をついたミカエルがガブリエルにいう。
「ガブ それぐらいにしておいてはどうですか。」
だが、ガブリエルは水のようにアルコールの高いウォカーを煽るように飲んだ。
「やってられん。」
「いいたい事があるなら吐き出した方が楽ですよ。」
ギロっとガブリエルがミカエルを睨みつけると今度は崩れ落ちるように自分の頭を
くしゃくしゃと掻きむしってうなだれた。
「アキラを愛してたんだ。」
蚊の鳴くような声は全くガブリエルらしくない。
「知ってましたよ。」
自暴自棄になっているガブリエルをなだめるようにミカエルが言った。
「そうか。知ってたのか。じゃあ俺があいつに振られた事も知ってたんだな。」
「いや、まさかそこまでは・・・・」
もう一度ギロッとガブリエルに睨まれたがそんな彼をミカエルはやさしく頬えみ
かえした。
「それで、貴方はアキラくんをラファエルの元に行かせたのですね。」
「それは違う。俺の所にいればあいつの才能や力はいかせん。だから
ラファエルの所に行かせる事にしたんだ。
それであいつの昇級式の日に俺はあいつの精神に押し入ろうとして
・・・・拒絶された。
「悔しいことにあいつの心の中にはあの守天使がいた。」
「あなたともあろうものが・・・」
「そうだ。俺ともあろうものがだ。」
自分に怒鳴るようにそう言うとよほど悔しかったのだろう。
その時の事を思い出したガブリエルは手元に何もなくなった
自分のグラスの代わりにミカエルのグラスを横から取り上げて
一気に飲み干した。
「お前に拒絶された時の事を思い出したよ。」
「またずいぶん古い話ですね。」
「ああ、1000年も前の話だ。」
うなだれるガブリエルの肩にミカエルがそっと手を置いた。
「あいつには悪い事をしたと思ってる。あいつは俺を尊敬もしていたし
信頼もしてくれていた。それなのに無理より押し入ろうとした。」
アキラはずっと小さなころからガブリエルが育ててきたのだ。
ヒカルを身の回りに置いていたミカエルもその気持ちは良くわかる。
「だから、アキラをヒカルの元に行かせたのですね。」
「ああ。」
「本当に欲しいものは俺の手には入らん。」
「ええ。」
「お前もアキラもなんであんな奴がいいのだか・・・」
「私は・・・・」
ヒカルに対してそんな感情はありませんよ・・・そう言いかけて
ミカエルはやめる事にした。
それからほどなく酔いつぶれてソファーで寝てしまったガブリエルにミカエ
ルが優しく毛布をかけた。
「・・・・愛してますよ。ガブ」
番外編へ
2003年11月18日(再編集2007年2月18日) |
|