天使が羽ばたく時(1)




2003年11月15日
天宮の離れ・・・天使たちの憩いの場所となっているここも
夜11時も更ければさすがに誰もいない。

天蓋つきの腰掛ベンチに座り夜空を眺めると満月の光りを
背に金色に輝く6枚の翼を羽ばたくヒカルの姿が浮かびあがった。
その様子を目を細めて僕は仰いだ。

金の髪、輝くほど美しい6枚の翼 それは大天使の証。

だが、彼のクラスは大天使ではない。守天使なのだ。

生まれてきた時から6枚の翼を持つ彼は白魔力も癒しの力もずば
抜けるほどの持ち主なのになぜかずっと守天使のままだ。

それは彼があまり勤勉でない事や仕事が真面目でないなど と
噂されているが僕はただ、大天使ミカエルが彼を気に入っていて
ここから離さないだけではないかと思う。



近づいてくる彼の姿があまりに美しすぎて僕は目を離す事すら
できない。
だが・・この地に降り立ったヒカルの機嫌は不機嫌極まりなかった。

「 こんな時間に呼び出してなんだよ。」

どうやら僕とゆっくり話す気もないのか彼は自分の羽すら閉じようと
しない。僕がため息混じりにまじまじと彼を見つめるとすっと目を逸らされた。

「俺の顔になんかついてんのか?用があるならさっさと言えよ。」

いつも彼はこんな感じだ。僕に意識してるのはわかっている。
だが、僕に対してはつっけんどんでそれ以上に向き合おうとはしない。


「君を見てたんだ。月の光りを受けた君の翼も君もとてもきれいだったから。」

「お前 熱でもあるのか?変だぞ。」

怪訝な顔をするヒカルに僕は静かにいった。

「そんな事はない。本当のことを言ったんだ。今だって6枚の翼が
羽ばたきそうで・・・」

君がどこかに行ってしまいそうで僕はそんな彼がとても美しいと思う反面悲しい。

「みんながさ 俺の羽が6枚もある事をうらやましがるけど俺はこんな面倒なもん
2枚で十分だと思うけどな。なんならお前にやるぜ。」

僕は冗談ぽくそういった彼の瞳を見つめる。だが、彼はけっして僕とは目を合わせ
ようとしない。

「ヒカル・・・」

僕は彼の腕を掴むと強引に自分の胸に引き寄せた。

「お前いきなり何すんだよ!!」

抵抗して翼を広げて飛び立とうとする彼を僕は渾身の想いと力で繋ぎ止める。

「ヒカルお願いだ 。少しでいい。僕の話を聞いてくれないか。」

ヒカルの広げられた羽はようやく収められて、僕はふっとため息
を付くと今度は彼に怖がられないようにそっと背後から抱きしめた。

「 僕は明日からラファエル様の北の離宮の警護につく事になった。」

北の離宮 ・・・迷える死人を天空へと導く間所。
ラファエルが統べる北の離宮はいわば人間界と天界の中間地点で
こことは次元すら異なる空間だ。

「地天使のお前が北離宮に?」

「僕は今日 智天使になったんだよ。」

「そうか・・お前クラスがあがったんだ・・・おめでとう よかったじゃん。 」

僕の腕のなかでそういった彼の表情は見えない。言葉も
普段とは変わりなくて・・・だが、ヒカルの一瞬の戸惑いは隠していた彼の心に隙間をあけて、その想いが僕の中に流れ込んできた。

「君は素直じゃない。君は僕が北離宮に行く事など望んではいない。
本当は寂しのに、僕を愛しているのくせに・・・何故そう言わない。」

「なっ!?お前何言ってるんだ?」

「言い訳は通用しない。今 僕は君の心を読んだ。」

ヒカルは慌てたように僕の腕から離れようともがく。

「アキラ離せ!」

腕の中で暴れるヒカルに僕はありったけの想いを告げる。

「ヒカル 君を愛してるんだ。どうしていいのかわからないぐらい
君が好きなんだ。」

暴れまわっていたヒカルの動きが止まって小刻みに身体が震えだす。

「僕の瞳を見て欲しい・・・」


天使と天使が目を合わせる行為。それは快楽を共にすると言う事。
もちろん誰とでも目を合わせればいいというわけではない。

お互いが想いあっていなければ快楽は得られない。人間のように
身体を繋げるのでなく、精神を繋げる天使の行為はある意味
お互いの全てをさらけ出す事になり真にお互いが愛し合わなければ
出来ない行為だ。

「 怖い?」

僕の問いかけにも彼は下を向いたままうなずく事もしない。
先ほど一瞬僕に見せた彼の心も今はおおきな壁に閉ざされて

読むことも叶わない。ならば・・・
僕は自分の心の壁を取るとそっと彼の手を僕の胸に置いた。

「これが僕だ。見て、僕の心を・・・何も怖くなんてない これが僕のすべて
なんだ。」

目を合わせなくても想いが伝わって来て、目線をさまよわせた
ヒカルはどうしていいのかわからないほどうろたえた。

「俺・・俺・・・」

僕はそんなヒカルを落ち着かせるために彼の唇に僕のそれを押し付けた。

人間がする行為だって意味があるのだ。あまりの突然の事に目を開けたまま
その行為に流されるヒカルにお互いの唇が離れた瞬間、瞳がぶつかって
僕はそのまま彼の精神世界に進入した。


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初めてヒカゴでパラレルを書いたのがこのお話でした。
お客さんに受け入れて貰えなかったらどうしようと言う思いとは裏腹に
結構読んで下さった方が多くて嬉しかったです。ここから私のヒカゴパラレル
ワールドが広がったのかもしれないな。
 

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