水面に沈む影(碁遊記 緋色Vr)
緒方 三蔵
ヒカル ごくう
アキラ さごじょう
のバージョンです。
暗闇の湿地帯に足を踏み入れると
呼び出した主がヒカルを待ち受けていた。
「待っていたよ。ヒカル」
沼の中から暗がりにぼっと浮かび上がるアキラ。
月の光を受けたアキラは 水の上をまるで歩くよ
うにヒカルの傍へと赴いた。
その美しい姿に一瞬でも目を奪われたヒカルが足元を
すくわれる。
アキラは 体を水で纏いヒカルを招きよせるように水を放ったのだ。
ヒカルが身を引こうとした時にはすでに遅く、アキラによって
沼へと吸いずり込まれていた。
突き刺すような冷たい水がヒカルを襲う。
重苦しい水圧・・・呼吸の取れない息と夜目も利かない
漆黒にさすがのヒカルもまずいと思ったときにアキラの腕が伸びた。
「ヒカル!」
腕を掴まれた途端 息苦しさは消え 水圧も感じなくなった。
「おいで・・・ヒカル」
アキラは龍神の子だ。いのままに水を操る。
ここはまさにアキラの手の内なのだ。
(・・・こんな事をしなくても俺はアキラのものなのに・・。)
水中で抱きしめられ 求められてヒカルがアキラの背を叩いた。
ヒカルの気持ちを察して水中にアキラの波紋がこだまする。
「気にくわないんだ。君は 闘戦勝仏なんだよ。
なのに何故あのような男についていくんだ。」
(師匠はそんなやつじゃない・・・)
旅が終着についても、跪き緒方にこれからもついて行くと
忠誠を誓ったヒカルをアキラは許せなかった。
自由になれるはずだった。
これからは二人で穏やかに暮らしていこうと思っていたのに。
「君が緒方さんを選んだのが許せないんだ。」
激しくなった沼の流れにヒカルは自ら身を任す。
アキラは激しく 熱い誇り高い龍神なのだ。
そんなアキラが好きだから・・。愛してるから・・・
その身で龍神の 怒りを受けとめるために
カラダを心をゆだねた。
アキラのすべてを感じるために。
水辺に打ち上げられたヒカルを荒い息をついで
アキラが近づいた。
自分の荒ぶる魂をその身に受けたヒカル。
抵抗しようものならひょっとしたらその身を食らい
殺していたやもしれなかった。
妖怪だったヒカルは今や闘戦勝仏だ。
それに引き換え僕はどうだろう。
龍神の父と人間の母を持つ異端者だった僕は
いまだ人間にも神にもなれない。
ヒカルはもう美しい僕だけの妖怪ではないのだ。
「 ヒカルはどうだ。」
背後から話かけられた声にアキラの腕が震えた。
振り返る必要などなかった。緒方の声だ。
アキラは抱いていたヒカルの肩に力をいれ
「くるな!」とその気配に威圧した。
緒方が足を止めた。
「何もしないさ。もしお前がヒカルを一思いに食らおうと
いたなら容赦はしなかったがな。」
緒方の持ついまいましい笛の音を思い出しアキラは
唇をかんだ。
思ったとおり緒方が横笛を構えるのをみて
力任せに腕の中のヒカルをぎゅっとだきしめた。
だが、笛の音はいつまでたっても聞こえてはこない。
「今のお前は俺の笛では癒せん。ヒカルはどうだか
わからんがな。ヒカルを愛してるならもっと大事にしてやれ!」
そんな事 言われなくても わかっている事だ。
悔しさに一矢報いてやりたいと拳を作った時に緒方が立ち止まった。
「何故わからん。俺にとってヒカルは大事な妖怪だがお前だって
和谷だって大事な妖怪だ。わけ隔てたつもりなどない。」
「ウソだ!ヒカルを抱こうとしたくせに。」
怒りに震えるアキラに緒方は静かに言った。
「確かにそんな事もあったな。だがヒカルの中にいるのがお前だと
知って諦めた。わかってやれ。ヒカルはお前を想ってる。
お前に殺されたっていいと思う位に。だから大事にしてやってくれ。」
アキラとて緒方を信じていたのだ。だが、たった一度知った
緒方の想いから生まれた疑心暗鬼がどうしようもなく消せなかった。
腕の中にあるヒカルを抱きしめアキラは夜空を仰いだ。
何も知らなければ良かったと。
遠く離れた場所からほんのかすかに聞こえる調べ・・・。
だが、癒しの笛の音ではない。
それはやりきれない緒方の二人への想い。
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緒方聖人です(笑)オガヒカ(ひょっとするとオガアキ!)路線に行きそうなの
をやっとの事で押さえました。でもやっぱりアキヒカは私の基本です。
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