ただ手をのばせばそこに



旅の疲れを癒すべく皆それぞれの場所を求めて眠りにつく。

伊角は草の匂いと音がこだまする山中の水源のそばに、和谷は、
はらっぱの中で、そして、ヒカルは空まで届きそうな杉の木の天辺で
その身を休めている。

ヒカルの眠る杉の元にアキラが腰を下ろす。

三人の妖怪たちはもちろんアキラにとって大事な存在だったが、
その中でもヒカルはもっとも特別な存在だった。




数日前・・・アキラは自分の立場とヒカルへの戒めを利用してヒカルを
無理やり抱いた。

「坊主がこんなことしていいのかよ・・」

思い通りにならない体にヒカルの体は震えていた。
ヒカルはアキラよりずっと力が強く 妖力だって持ち合わせていたが、
アキラの戒めだけはヒカルの怪力も妖力も通用などしない。

戒めに苦しめられながらも最後まで己を貫き通したヒカル。

それをたとえ様もなく いとおしいと思いながらも孤独を感じたアキラ。

自分より弱く 守るべき存在のものに 奪われねじ伏せられた屈辱に
出て行こうとしたヒカルをアキラは引き止めなかった。

何もしらない 和谷と伊角はヒカルの事を「勝手なやつ。」
「気まぐれなところがあるから・・・」と
アキラの心中を思い探しに行こうと言ってくれたがアキラは首を縦には振らなかった。



帰ってくる時は自分から戻ってくる。
だが・・・本当に傷つき戻ってこなかったとしてもそれは
それでよいと思い込もうとした。

このままアキラの傍に置けばもっと自分は貪欲になるだろう。
ヒカルを手放せなくなる。
旅の終わりはいずれやってくるのだ。その時別れなくてはならないの
なら いっそ・・・・と思った。


だが、ヒカルは今日帰って来てくれた。
アキラと仲間の危機に現れて助けに来てくれた。 


アキラは腰にさしていた笛を取り出し唇を寄せた。
万物を癒すといわれる笛の音。
だが、誰が吹いても、誰が聞いても癒されると言うわけではない。

笛の音は風にのり 水源の伊角にも原っぱの和谷にも
そしてこの木の上のヒカルの元にも届くだろう。
さらさらゆれる杉の木の葉がざわめく。





たとえ今はこの木からおりて来てくれなくてもこの身に危険があれば一番に舞い降りてくるだろうヒカル。


だからこんな静かな夜は僕の音に抱かれておやすみ・・・



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企画のお題「西遊記をアキヒカで書いてみよう〜」を頂いて書いた作品。
2話目がありますが、お話が繋がってるわけではないです。