今日は欲望を抑えようと思っていた。
「1年待って欲しい」と彼にに言われた言葉にはそういった意味も
含まれているものとばかり思っていたのに。
だのに君は僕にその身を委ねて誘惑する。
僕の全てを受け入れようとするように瞳を閉じた進藤を僕はきつく
抱き寄せた。
「はあっっああ・・・・・」
進藤の唇から喘ぎ声が漏れるたびに歯止めの利かない欲情が
湧き上がってくる。
優しくなど出来ない。
君を征服している快感に酔う身体と中国行きを勝ってに決めてしまった
ことにいらだつ自分の心が容赦なく彼の身体をいたぶった。
ずっと僕に囚われてしまえばいい。
足腰なんて立たなくなってしまえばいいと繋がる深い
部分を激しく突らぬいた。
「いぁ・・・・うっああ・・・」
進藤の声がより激しく喘いだ。
・・・・それでも君は行ってしまう。
僕の腕を離れて、微塵も僕に弱さなどを見せることなく
かの大地へと旅立っていくのだろう。
激しい快感に僕は彼の中に欲望をぶちまけた。
なのに心の中に残った空しさはなんだろう。
確かに彼の暖かさは僕の腕の中にあるのに今の僕には彼がぼんやり
かすむのは何故だろう。
まるでそれは先ほど二人で見上げた星空のようで・・・・
耐えられなくなって僕はつぶやいた。
「愛してる。進藤愛してるんだ。僕は君だけをずっとこれからも・・・」
強く握り締めた進藤が、この腕にいることを確かめるように。
それだけが真実であるように。
「俺もお前を愛してる。俺これからもお前を受け止めたい。
だからどんな時でも俺はお前の傍に居る。
離れていても心はここに置いていくからずっと塔矢の傍にいるから。」
進藤の言葉に心が震えた。
僕が君の言葉にどれだけ涙を流したか君はしらない。
次の日の朝、玄関先で僕は彼を見送った。
「塔矢行ってくるな。」
「ああ。進藤気をつけて。」
「うん。俺さ、来年またお前と一緒に北斗杯出るからな。」
「当たり前だ!」
「じゃあ。」
本当に短い会話。でも余計な事を言ってしまえばお互いの弱さが
口を付いて出てしまいそうだった。
ぼやけて見えなくなる進藤の背に僕は区切をつけるため自ら背を向けた。
進藤がその店の暖簾をくぐったのはお昼前だった。
「よお。坊主来たか?」
「うん。おやじさんこんにちわ。ってあれ・・・・緒方先生!?」
俺は張っていた山勘が当たって内心微笑みながらも何事も
ないように進藤を手招いた。
「よお。進藤、残念だったな。今日は店はやってないんだぜ。」
「え〜そりゃないよ。俺中国行く前に絶対に親父さんのラーメン
食べたかったのに。」
文句をいいながらも俺の隣に腰掛ける進藤に親父さんが
どかっとラーメンを置いた。
「坊主、出来上がったぜ!」
「えっ?」
「だって今日は店開けてなかったんじゃなかったの?」
ここの主が豪快に笑いながら言った。
「ああ。緒方先生と坊主の為にな、店は開けなかった。」
「えっ!?」
進藤ははその言葉に親父さんと俺の顔を見比べた。
「俺このラーメン食っていいの。」
「当たり前だろ。お前さんの為に作ったものだ。緒方
と俺からだ。のびる前に食えよ。」
進藤の瞳が潤んで見えたのは湯気のせいではないだろう。
「頂きます。」
ラーメンをすする進藤の横顔はいつもより大人っぽく
感じたのは気のせいではないはずだ。
アキラくんと同じ匂いのする進藤の髪に身体に嫉妬をかんじ
ながらもどこかでほっとするしている自分がいる。
親父さんに二人で礼を言った後 俺は進藤と一緒に店をでた。
「先生ありがとう。」
「ああ。」
俺は先ほど感じた確信をからかい半分で進藤にいった。
「進藤 、昨日アキラくんと一線をこえたんだろ?」
驚いたように俺を見た進藤はその事を肯定も否定もしなかった。
「俺緒方先生には感謝してるんだ。」
「・・・・・・」
「若獅子戦の晩さ、塔矢を俺んちに寄越したの先生だろ?中国
棋院に推薦してくれたのも先生だって聞いた。俺感謝してるんだ。」
同じ事をしても恨む奴もいれば感謝する奴もいる。俺は内心の苦笑を
抑えた。
「俺塔矢とずっと一緒に居る。先生に塔矢は渡さないから。」
そう言った進藤の瞳は眩しいくらい輝いていた。
「俺はお前にしか興味をもたないアキラくんなど関心ないな。」
それは本音とは逆で・・・アキラにしか関心を持たないお前など
興味がないと言うべきだったのだろう。
いやそれさえ違う。俺はきっとアキラを一途に追いかける進藤
に恋をしたのだ。
他人のものであればこそ惹かれる恋もある。
だが、そんな俺の心情になど気づかない進藤はうれしそうに微笑む。
「そっか。なら安心した。」
そういった進藤の心はもう中国に飛んでいるようでなんだか
遠くに感じる。
「明日にはお前はもう中国にいるのだな。」
咥えタバコのままそういうと進藤は遠く空を仰ぎ見た。」
「うん。俺は行くよ。緒方先生ありがとな。」
それだけ言うと進藤は振り返ることなく軽やかに歩き出した。
大地へと・・・・・
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