空を行く雲






※3章は何度も頓挫してしまった事もあって、前後のお話の繋がりが悪いのが
多いのですがこのお話もそうです。突然緒方さん視点になっているし、半年後にお話後が
飛んでいます(苦笑)すみません;



     
いつものラーメン店の前で偶然進藤と会った緒方はどこか違和感を感じた。


「どうしたんだ。進藤最近アキラくんとうまくいってないのか?」

困ったように俯いた進藤は少し寂しそうな笑顔をのぞかせた。

「お互い距離を置こうって約束をしたんだ。」

「ほう、またなんで・・」

「しらねえよ。あいつが急に言い出したことだからさ。」


アキラくんが進藤と会わないと一方的に言い出したのだとしたら緒方には
疑問が残る。

進藤が言い出したというならわかるような気がしたがよもやアキラが
そんな事を言い出すとは思えなかったのだ。


「で、それはいつごろから?」

「半年ぐらいまえかな。」

半年そんな前?
そういえば・・・・そのころからかアキラの碁には勝ちに急ご
うとした強引さがあった。

それはアキラの強さと弱さとを両方併せ持った表裏一体で常に碁が乱れた。
勝つときと負ける時の差が激しいのだ。

進藤と別れてからか・・おそらくは。
緒方の予想は外れてはいないのだろう。

それに比べここの所、安定した碁でことごとく高段棋士を破る進藤は今
本因坊戦と十段戦二つのリーグに入っていた。

「それでお前は納得してるのか。」

「納得するも何もどうしようもないだろ。会いたくないって言ってる相手に
無理やり会いに行ってもな。」

「でもアキラくんが好きなんだろう。」

「それは・・・」

想いはまだ進藤の中にあるのだろう。

「お前と違ってアキラくんは成績が優れないから焦っているのかも知れんな。」

探りを入れるように進藤をチラッとのぞくとほんの一瞬表情が翳った。
やはりそういうことなのかと緒方は思った。

アキラは焦っているのだ。どんどん先に行く進藤が。
そして進藤自身もきっとその不甲斐ないアキラの碁に苛立っている
のだろう。

だから「しばらく会わない」と言ったアキラの気持ちを受け入れた。
さしづめ そういった所だろう。



「進藤 これから部屋に来ないか?」

「先生の部屋・・・」

怪訝な表情を見せる進藤に俺は尋ねた。

「どうかしたのか?」

「先生のマンション行くと塔矢のやつ不機嫌になるからさ。」

進藤の返事が可笑しくて俺はおもわず口から笑みが漏れる。

「アキラくんとは会ってないんだろう。俺も言わないさ。
遠慮するな。来ればいい。」

「それじゃあいこうかな。」





部屋にあげた進藤は相変わらず熱帯魚に釘付けになっていた。

「進藤 今度本因坊リーグでお前とは初対局があるな。」

「それより 俺十段はまじ狙ってるぜ。」

「そういえば十段リーグ土つかずだったな。」

「あと2戦残ってるけど、俺今負ける気しないんだよな。」



そういったヒカルの視線は鋭く緒方を見抜いていた。

「それは楽しみだな。是非勝ち抜いて上がってきてもらい
たいものだ。」

「先生余裕こいてると俺にタイトル持って行かれるぜ!」

「ふん。取れるもんなら取ってみろ。」

進藤はけたけた笑いながら俺に挑発した。

「なんなら今から前哨戦する?」

「それは今度の本因坊リーグに取って置くさ。ところで進藤・・・」

俺は一息つくと進藤を見た。

「俺とここで暮らしてみないか?」

「はあ〜・・・・・先生冗談?」

「心外だな。冗談のつもりじゃないんだがな。」

「じゃあ新手の盤外戦とか?」

「お前にそんな盤外戦は通用せんさ。そんなことは
承知してる。だが、面白そうだと思わんか。」

「ひょっとして思いつき?大体 先生は塔矢が好きなんだろ。」

思いつきなどではない。ずっと以前から進藤に惹かれていた。
俺のところまで上がってくるのを待っていたのだ。

アキラの事など関係なく。
進藤はまだ気づいてはいないようだが。




「とりあえずアキラくんの事は保留だな。よりを戻すようなら諦めるし
そうじゃないなら考えさせてもらうさ。」

「げっっ!?先生 俺と塔矢が別れるのをひょっとして待ってるのか?
やな奴だな。」

心底しかめっ面をされて笑ってやった。

「ああ、お前たちが別れるのを手薬煉引いて待っててやるよ。」

「俺塔矢とは別れないぜ。」

「そういってもアキラくんから別れてくれと言われれば泣きつくわけには
いかんだろう。」

「それはそうだけど。」

それでも進藤はアキラを信じているのだろう。

「今日言った事は冗談のつもりじゃない。俺もお前といれば
いい刺激になる。
アキラくん云々にかかわらず気が向いたらここにこい。」

「まあ〜先生と一緒にいる方が塔矢にちょっかいかけられなくて
いいかもしれねえよな。考えとくよ。」



俺の本心に気づく事もなく無邪気に笑う進藤。

諦めたはずの進藤がこんなに簡単にしかも向こうから転がって
来たのだ。俺にも運気がむいてきたのかもしれない。

アキラ君には悪いが俺は進藤のことで手加減する気は無い。

一瞬でも隙を見せたお前が悪いのだ


お前のライバルも 恋人も俺は手に入れてやる。
お前とは違った方法でな。

眼鏡の向こう側ぼやけていた進藤が今日ははっきりと見えた。

     
   

アキラくんピンチ!!緒方先生マジモードのようです(笑)
   


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