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        〜そして未来へ05



     
ヒカルは何とも居心地の悪さに腰を上げた。


「アキラ、オレ風呂入ってくるな。」

「ああ、」




24時間いつでも快適につかれる風呂は一人になりたい時の
格好の場所だった。

ヒカルは体を洗って風呂につかると長いため息を吐いた。
どうにも居心地の悪さが付きまとった。
アキラが自分に対して気を使っていることがわかるからだ。
料理のメニューだってそうだった。
食卓に並べられた食事は普段はアキラが好まないハンバーグにエビフライ
にサラダ、チキンライス。
洋食メニューはヒカルの好物ばかりだった。
なのにそれでもアキラは言ったのだ。
「ラーメンは僕には作れなかった。すまない」って

アキラがどれほどヒカルの帰りを待ち望んでいたのか
今ヒカルは身にしみて感じている。


「オレ何、意地張ってたんだろな、」

独り言をつぶやいて湯船から上がろうとした時,
脱衣場で物音がした。
その瞬間風呂の扉があいた。

「アキラ!?」

あまりに驚いてヒカルはもう1度湯船に身をかがめた。
アキラはそんなヒカルを見て微笑んだ。

「お前何しにきたんだよ。」

「君の背中でも流そうと思って。」

「もう洗ったって。遅えよ。」

ヒカルは顔を背向けるとアキラから視線を外した。
心臓は期待でばくばく音を立てていた。
こんなのはアキラに知られたくなかった。

「だったら僕の背を流してくれないか?」

「お前の?しょうがねえのな。」

ヒカルが湯船から上がるとのぼせて一瞬くらっとした。

「ほら、タオル貸せよ。」

アキラから乱暴にタオルを受け取るとソープで泡立てる。

「全くお前、最近オレの親父に似てきたんじゃねえの。
風呂勝手に入ってくるし、背中まで洗えって、」

アキラはそれに声を上げて笑った。

「まだ君は先生とお風呂に入るの?」

ヒカルは盛大なため息をついた。

「一緒に入るんじゃなくて勝手に入ってくるんだって、」

「それは君が家に帰ってる間の事?」

「ああ、たまにはいいだろうとかなんとかいって・・・、」

言葉を濁したのは飛び出して家に帰ったことに後ろめたさが
あったからだ。自立するためにアキラと2人で生活することを決めたは
ずだった。
なのにアキラと言い争いになってヒカルは自分だけ
マンションを飛び出した。アキラへの申し訳なさと
自分の未熟さと幼さにヒカルは唇をかんだ。

「どうかした?」

突然黙りこくったヒカルにアキラが振り返る。

「いや、何でもねえって、ほら終わったぜ。」

「ありがとう。じゃあ君の背を洗うよ。」

「オレはもういいっ・・・。」

最後まで言う前にアキラに腕を掴まれる。ヒカルは体温がいっきに
上昇した気がした。

「アキラ・・、」

「あの頃と立場が逆になった?」

「あの頃って?」

アキラがヒカルを引き寄せる。
直接触れた温かな肌にヒカルは電流が流れたように震えた。

それだけでアキラを感じてしまうのだ。

「中学2年の時、君と仕事で温泉旅館に行っただろう。」

ヒカルは思い出して赤い顔をもっと上昇させた。
あの頃のヒカルはまだ子供で性に目覚めてはいなかった。

でも今は違う。
こんな風に触れられればアキラを意識するし期待もする。
アキラを求める気持ちが止まらなくなる。


引き寄せられるままヒカルは自らアキラに唇を合わせた。
アキラの舌が進入しヒカルのそれと触れあうと
甘い痺れがヒカルの体を駆け抜けた。

アキラはヒカルの舌を吸うとヒカルの体と密着させた。

濡れた肌と肌から伝わってくるお互いの鼓動は早い。
アキラの心の臓の音が自分の音のように響く。まるで心も体も一つに
なってしまったようだった。

『あっ、』

思わず口内に洩らした甘く乱された吐息にヒカルは慌ててアキラから
離れようとしたがアキラは許さなかった。
ヒカルが抗議するように背を何度かたたくとようやくアキラは解放した。

2人ともとっくに息が上がっていた。

「アキラ、お前・・・」

「ヒカル、君が欲しい。」

まっすぐに自分を見てそういったアキラにヒカルは震えた。

「・・・・オレも欲しい。」

アキラはヒカルの金の前髪をゆっくりと掻き揚げた。
何をされるのかわからずヒカルはびくっと体をふるわせて目を閉じた。
そんなヒカルをアキラは包み込むように優しく抱きしめた。

アキラは言いにくそうに一瞬黙りこくった後思い切ったように言った。

「君の中に入りたいんだ。」

ヒカルは驚いたようにアキラを見た。

実は2人は肌を合わせ精を濡らしあう仲になってからも最終的なことを
したことはほとんどなかった。
何度か試みたことがあったのが、その後決まってヒカルが体調を壊して
しまうのだ。

それ以来アキラはヒカルの体に負担をかけるSEXを求めなくなった。
触れ合うだけでも、お互いを感じることが出来たしアキラもそれでいいとも
言っていた。

けれど本当のところアキラは我慢してたんだと思う。

「いいぜ、」

「本当に?」

「ああ、けど・・・。」

「優しくする。」

アキラは再びヒカルの唇を捉える。
ヒカルはゆっくりと瞳を閉じた。








その晩も明け方の事、アキラは腕の中に抱くヒカルの体温が
自分よりもずっと熱いことに気づいて目を覚ました。
慌ててヒカルの額に手を当てる。

「ん?」

微かにヒカルの口から漏れた声は掠れていた。

「ヒカル、」

「なに?」

重いまぶたをヒカルが開ける。

「すまない。」

「何が?」

「君は熱があるみたいなんだ。」

「そっか、それで、お前の体が気持ちよかったんだな。」

アキラはそれに困ったように顔をしかめた。

「君が普段パジャマにしてるジャージを着たほうがいい。」

「でもオレだるいし、すげえ眠い。」

「大丈夫だよ。僕が持ってくる。」



     






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