ラバーズ



10





     
宿題を終えた俺は塔矢の入った部屋をそっと覗いてみた。


塔矢が自室として使ってる部屋なのだろう。


きちんと整ったベットに勉強机その上にはPC
重厚な本棚にはいかにもといったこ難しい専門書がずらりと
並んでいた。



塔矢はヘッドホンをあてて分厚い英語の本を
広げていた。
真剣に本を目で追う塔矢の邪魔になりそうで
やっぱり部屋を退出しようとしたところで塔矢がヘッドホンを外した。

「進藤宿題終わった?」

「うん。わりい。勉強の邪魔して。」

「いや。いいんだ。」

ヘッドホンから微かに聞こえていた英語が消える。

「英語の勉強?」

「まあそんなところかな。」



机に近づいた俺に塔矢が本を片付け始める。
俺は改めて塔矢の机と俺の机の上では全然違う事に気づいた。

俺の机の上は漫画やらゲームやらが散乱して塔矢はゲーム
なんてしないんだろうか。
俺は一人暮らしなんかしたら絶対遊んでばかりいそうだ。




「塔矢 PC持ってんだ。ゲームとかしねえの?」

「ゲーム?入ってるけど。」

なんだかそれを聞いてちょっと安心した。

「塔矢はさ どんなゲームするの?」

「進藤やりたいのか。」

「おう。それ二人でもできる?」

「交代でできると思うよ。」



塔矢がPCに向かう。
俺は少しでも塔矢と同じ時間を共有したかった。


ゲームはカーチェイスだった。

「君から先にする?」

「いや。塔矢 先にやって見せてよ。」



専用のコントローラーまであって俺はちょっとびっくりした。



「塔矢結構やってんだ。」

「そんな事はないよ。もともとこのPCもゲームパッドも叔父から
もらったものだから。」



手馴れた様子でゲームを開始したアキラは並み居る相手の車
をするりとかわしていく。
TOPでゴールインして塔矢はふーっと長い息をついた。

「すげえ 塔矢!」

「進藤もやってみる。」


イスを変わって車を発進。

だが俺はしょっぱなからコースアウト。
何とかコースに戻った俺は今度は後ろから来た車を
よけることができなくて・・・・
この手のゲームは慣れも必要だってわかっているけれど塔矢がそばに
いるだけでつい気持ちが焦ってしまう。

ようやく最終からスタートした俺。
取り戻そうとして今度はスピードを出しすぎて・・・

やべえ、対向車線につっこむ!



そう思ったとき塔矢の温かい手がコントローラーを握る俺の手を
上から握り締めていた。軌道修正してくれた塔矢。
だがその後俺は動揺して逆に手元が狂って車はスピンさせていた。


「あああ〜ゲームオーバーか。」

「すまない。 つい・・・」

重なっていた塔矢の指が俺から離れていく。

だけど俺の手の甲はいまだ塔矢の手に触れているように
そこだけが熱くかんじた。

塔矢自身離した指の行き場に困っている。
塔矢も俺のこと意識してるよな・・・。




胸の鼓動が大きくトクンとなった。


「塔矢キスしていい?」

俺はその言葉が勝手に口からついていた。


駄目だと言われない自信はあった。
だが、塔矢からの返答は俺の予想とは反していた。



「僕が君にキスをしたいといったら?」





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