First love 3





     
「お父さん。お願いがあります。」


対局を終えた後 僕は父と対峙していた。


「どうした。アキラ改まって。」

「来月開かれる 子供囲碁大会に出場したいんです。」


父はすっと射抜くように僕を見つめると鋭く言い放った。

「駄目だ。」

「どうしてです。」

「そんなこともわからないのか。お前ほどの実力でアマの大会に
でるなど周りの事を配慮した考えだとはとてもいえない。」

「でも・・・」

彼は出ているのだ。僕の前にたちはだかった 『進藤 ヒカル』
彼はきっとこの大会にでてくる。


「それとも 何か理由でもあるのか。」

「理由それは・・・・」

進藤 ヒカルと対局したい・・・理由ははっきり僕の中にあるのに僕は
その言葉が父に言えない。

なぜならそれは父がもっとも嫌う相手の息子の名だから・・・。



「理由もいえないようでは出る事を許すわけにはいかない。」

父のきつい一言に僕は唇をかみ締める。

「いいな。」

そう念押しされても僕は父の言葉を呑む事が出来なかった。









父に呼び出されたのは囲碁大会を明日に控えた日のことだった。

「アキラ これは何だ。」



父がテーブルに置いたハガキはアキラが囲碁大会に参加するために棋院
に郵送したものだった。

体中から血の毛が引いていく。


なぜ父がこれを・・・・?



「出る事は許さないと言ったはずだ。」

冷たく言い放つ父に僕はおそらく生まれてはじめての反抗を試みた。

「対局したい相手がいます。」

震える声でそれでも僕は父にはっきりと言った。

「お前ほどの実力の子がアマのしかも子供相手に・・・?」

「はい。」

「それは誰だ?」

父の問いに僕は言葉を失う。

進藤 ヒカル・・そういってしまえば言い。




だが彼の名は口から出てこなかった。

「言えない相手なんだな。」

父に全てを見透かされているようで体中ががたがたと震えた。




父は僕の目の前でびりびりとハガキを破りすてた。
湧き上がってくる感情を抑える事が出来なくて僕は部屋を飛び出
していた。



部屋を出たところで門下生の一人芦原とぶつかった。



「アキラくんどうしたの?」

兄のようさえ思っていた彼の言葉さえ無視して自分の部屋に飛び込
むとベットに突っ伏した。


知らず知らずに涙がこぼれ出す。



なぜ・・・彼と打ちたかっただけなのに。

声さえ押し殺さず僕は泣いた。




しばらくして部屋をノックする音に僕は身を起した。


だが、返事が返せない。

「アキラくん 入っていい?」

その声は芦原だった。


僕はそれでも返事もしないでただぼーっと
抜け殻のようにベットに座り込んでいた。


ガチャッと扉が開く音にようやく僕は涙を拭いた。


「アキラくん 入るよ。」

僕は入ってきた芦原に目を背けた。

「ごめん。あの・・アキラくん。あのハガキを先生に渡したのは僕なんだ。」

その言葉に僕は芦原を凝視した。



「まさか アキラくんが子供囲碁大会に出場したいなんて
思わなくて・・・何かの間違いだろうって思ったんだ。
アキラくんが先生に言えないほど思いつめてたのに、
気づいてやれなくて本当に悪かった。」



深く頭を下げる芦原の言葉に僕は首を振った。


「もう。いいんです。だから・・・」



体を震わし今にも崩れ落ちてしまいそうなアキラ。

芦原はそんなアキラを見たのは初めてでどうしていいのか
わからず困惑していた。

普段我侭なんていわないアキラが先生の言葉を無視してまで
出場したかった理由はわからない。何とかしてあげたいと思う。
元はといえば自分のせいなのだ。



「アキラくん・・・もしよかったら僕は明日の大会午前中だけなんだけど
審判として出向かないといけないんだ。一緒にこないかい?」


その言葉でようやくアキラは顔を上げた。

先ほどまで輝きのなかった瞳にはほんの少しの希望を見い出したような
輝きが移った。それほどまでにアキラくんの想いが強い事を知って
芦原はますます自分のしてしまった事に後悔した。


名人には後ろめたい気持ちがあったがアキラに小声で
話しかけた。

「いいかい。アキラくん。明日、いつものように学校の準備をして朝7時までに
僕の家に来るんだ。お昼の休憩に学校まで車で送り届けてあげるから。」



学校に出かける時間は日の出から1時間以内とされていた。だから夏は
もっと早いし冬は自然と遅くなる。そうしないと日中紫外線にさらされてしまう
からだ。しかも学校に出かける時には夏場でも全身覆って出かけなくては
いけない。



「芦原さんいいんですか。」

「もちろんだよ。先生やお母さんにも内緒だ。僕とアキラくんだけの秘密だから
いいね。それじゃあ明日待ってるから」



できるだけ安心させるように言うと芦原はアキラの肩をぽんと叩いて部屋をでた。






明日進藤 ヒカルに会える。対局できないかも知れないけれど、何とか約束を取り
付けて必ずきみを捕まえてみせる。

     
      


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