番外編 
一緒に暮らそう 21







「よかったら佐為の話をしてくれないか?」

「ええっ?佐為の?また随分いきなりだよな。」

「いきなりじゃない。ずっとそう思ってたんだ。どんな話だっていい。
話して欲しい。」

ヒカルが先ほど寝室に入った時に見ていた写真はきっとそこにはいない
佐為だったと僕は思ってる。
憶測だが、「見逃して欲しい」と言ったのもあの写真を見てしまったからかもしれない。

僕は彼を知りたかった。今感じていることも想いも・・・。
寄り添いたいのだ。

「ああ、そうだな。」

ヒカルはそういうと目を閉じた。
そしてぽつりぽつりと話しだした。

「オレがあいつと出会ったのは小6だったんだけど。
あいつ現世では見るもの聞くもの初めてのものが多くてさ。

このシーズンになるとイルミネーションがぴかぴか光って
街もにぎやかだろ。
それではしゃいでた。


オレがクリスマスには夜中にサンタが来て、いい子にしてたら
プレゼントをくれるんだって言ったら、「ヒカルの所にも来るんですか?」って
すげえ期待してさ。
もちろんその頃にはオレサンタなんていないって知ってたんだけど。あいつのこと
からかってやったんだ。」

楽しそうに話すヒカルに頷いた。

「それであいつクリスマスの晩、夜中まで起きてたみたいなんだけど
待ちくたびれて寝ちまってさ。」

「幽霊でも睡眠を取るの?」

「ああ。あいつ普通に寝てたぜ。夜だけじゃなくて昼寝もしたりして
「退屈だ~。」とか「つまらない」とかって授業中に。
あいつが寝だすとオレもどうも眠くなっちまうんだ。
そういえばオレあいつのために布団を敷いたこともあったな。」

「どんな時に?」

「佐為が疲れてるかなって思った時。お前の親父とネットで打った時あったろ。
あの前日もな。その方がゆっくり休めるかなって。
まあ気分的なもんだったかもしれねえけど。」

ヒカルは思い出したのか苦笑した。

「ごめん。取り留めねえ話して。」

「いや。・・・それでクリスマスはどうなったの?」

「ああ」

っと言ってヒカルは笑った。

「朝起きたらプレゼントがちゃんとあって。佐為に
「早く、早く」って叩き起こされたんだ。
オレよりよっぽどあいつの方がガキだったよな。

その時のプレゼントが、携帯碁盤だったんだ。
オレはゲームソフトが欲しかったんだけど。でもあいつがサンタに感謝して
すげえ喜んでたから。まあいいかって。」

「ひょっとして今君がいつも持ち歩いてるあの?」

「ああ、その碁盤。なんかさっきお前の部屋忍び込んだ時にその時のこと
思い出しちまったんだ。」

「写真を見ていたのもそうなのか?」

ヒカルは頭を掻くと「お前には敵わねえな。」
って笑った。

「うん。オレ立ち止まらねえって決めたのに。
忘れたくないんだ。佐為の記憶が薄れていくのも
許せなくて。
お前がさ、そういうのに嫉妬してたんだろなって
わかってるんだけどな。

けど、知ってるのはオレだけだから。」

そう言ってから彼が首を横に振った。

「ごめん。オレ何言ってんだか。無茶苦茶だな。」

「背負うのは君だけじゃなくていい。

僕は彼の姿も声も聞くことは出来なかったけれど
彼を感じてた。
きっと彼は君と僕を導くために存在したんだ。
だから佐為の話を聞かせて欲しい。」

「そうかもしれねえな。」

彼は泣きそうな顔をして鼻をすすって照れ臭そうに笑った。


「そういえば先ほど僕がサンタからもらったプレゼントは開けていい?」

ヒカルの顔がぼっと赤くなった。

「いや、あれはオレがいない時にしろよ。」

「気になるんだ。」

「ダメだって。絶対」

ムキになるヒカルに僕は笑って立ち上がった。

「実は僕も君に渡したいものがあるんだ。」

まだ片付けてなかった旅行用のトランクから僕はそれを出すと小さな包みを
ヒカルに渡した。

「開けていいのか?」

「ああ、」

神妙な面持ちでラッピングを開封したヒカルは箱を開けて狼狽した。

「これって・・・。」

「受け取ってくれるかい?」

「気持ちは嬉しいんだけど、男がこんなのつけてたら意味深だろ。
仕事がら注目されるんだし。」

「そういうだろうと思ったよ。」

「お前だってわかるだろ?」

「だから身に着けなくてもいい。ただ持っていてくれるだけでいい。
君が僕の気持を受け入れてくれるかどうか・・・。」

彼の腹はもう決まってるのだろうと僕は思ってる。
それでもよぎった不安を僕はどうすることもできなかった。
そんな僕の不安を笑い飛ばすようにヒカルは笑った。


「塔矢・・こういうのはペアで買うんだろ?」

「ああ実はもう一つは僕が持ってる。」

「だったらそれ貸せよ。」

僕がもう箱を渡すとヒカルはもう1度溜息をついた。

「よくわからねえけどさ。指輪の交換ってのはお前の指輪はオレが
買うか用意するんじゃねえのか?」

「どうだろう。ひょっとしたらそうかもしれないけど」

「なんかその辺オレ解せねえな・・・。」

そういいながら「まあいいか?」と彼は笑って手を差し出した。

僕が目を丸くするとぶっきらぼうに言った。

「さっさとしろよ。恥ずかしいんだから。」

だったらしなければいいのにと思ったが僕はその手を取った。
指輪は思った通り彼の薬指にぴったりだった。

「アキラ、お前の手も貸せよ。」

そういって僕の手を乱暴に握った。

照れもあった。だけど心は穏やかで幸せで満ち足りていた。
指輪を通し終えて手を放そうとしたヒカルの腕を捉えた。

そのまま唇を捉える。
ヒカルはそれに応えた。





「とう・・・」

言いかけて彼は言い直した。

「アキラ、さっきはあんな事言ったけどさ、やっぱしようぜ。」

アキラと呼ばれるのと塔矢とでは意味合いが違う。
ましてまだ慣れないヒカルの言葉で呼ばれるのは・・・。



「いいのか?」

ヒカルは拗ねたように口を尖らせた。

「今しなくていつすんだよ。お前がしなかったらオレが・・お前を押し倒すぜ?」

「まあそれはそれで趣向が違っていいかもしれないけれど・・・。」

笑いながら僕は彼をソファに押し付けた。







「寒くない?」

ヒカルは小さく頷いた。

僕が触れるたび寒さでない震えをまとい彼の体が染まる。
毛布1枚に包まって僕は彼の胸に顔を埋めた。

「もう焦らすなよ。」

「焦らしたいんだ。ずっと君を独占していたい。」

「オレがもう限界なんだって。お前だって・・・。」

これだけ密着してるのだ。
先ほどから遠慮がちに押し付けてくる下半身で
お互いどういう状態なんてわかる。
それでも僕は直接触れず彼の胸をくすぐった。

ヒカルは体を小刻みに波立たせた。

「ああっ・・・。だからもう・・・。」

ヒカルが抗議しても僕はその行為を続けた。


「あの頃はまだ柔らかさがあったのにすっかり大人の体だ。」

その通りだった。彼は少年から青年に・・・そして大人へと成長を遂げて行った。

「なんだよ。それ」

「この5年間の君の成長を楽しめなかったのは残念だ。」

ヒカルの体温が上昇した。

「なっ、お前エロい。そんなこと考えてヤってたのか?」

「僕はずっと君の幻影を抱いてきたから・・。軽蔑されてもいい。」

「お前そういうこと臆面もなく言うなよ。オレの方が恥ずいって。」

「君はしなかったのか?」

「なっ。何言ってんだよ。」

顔を真っ赤にして誤魔化したヒカルは目を逸らした。
僕はもっと意地悪したくなった。
僕は彼の胸の突起を甘噛みした。

「ああっ」

「ここが敏感なのは以前のままだ。」

指で微かに触れるとますます彼の体が震えだす。

「君は僕を想ってしなかったの?」

もう1度同じ質問をして僕は触れるか触れないかの場所で彼を煽った。

「お前・・・な。」

睨みつけてくる瞳は濡れていた。

「したさ・・・。隣の寝室で何度も・・・お前のこと思って・・・。」

ヒカルはもう本当に降参だというようにギュッとしがみ付いてきた。

「ああ。」

僕もそれに応えるようにヒカルをギュッと抱きしめた。

「アキラ、してくれよ」

君への想いでこの胸が張り裂けそうになる。

「君を愛してる。」












お互いの温かい肌が体温が心地いい。
僕も君も起きているのに布団から出ることができないのは
寒さだけじゃない

時折強くなる腕に愛おしさで僕は満たされる。


そんな怠惰な体を起き上がらせたのは電話が鳴ったからだった。
電話に出た僕はその相手に驚いた。




「ヒカル・・・。」

「お前着替えたんだ?」

「ああ。今電話があって・・・。」

「誰から?仕事か?」

「いや違うんだ。君のご両親からだった。」

「ええっ何だって!?」

ヒカルは布団から飛び起きた。

「寒っ。つうか腰痛ええ。」

僕は笑って布団を彼にかけた。

「まだ寝てていいよ。
今、君のお母さんににクリスマスだからって家に誘われたんだ。
遅くなってもいいから二人で来れないか?って」

「それで・・・。」

「せっかくの誘いだから受けたよ。僕はちゃんと君の両親と向き
合わないといけないと思っていたし・・・。」

勝手にそんな約束を取り付けては不味かっただろうかと思ったがヒカルから
出たのは予想外の返事だった。

「実はな。お前が留守してるときに明子さんがうちに来て・・・。」

「ええ?君の部屋に?」

寝耳に水もいいところだった。

「ああ、オレもびっくりした。
電話で連絡あってからだったけど・・・結構
明子さんってお前に似てるのな。」

ヒカルが言った似てるは行動がということなのだろうが・・・。
僕は苦笑した。

「僕が母に似てるんだろう?それで。」

「オレここに越してきてから家に帰ってねえから。
『たまには家に帰ってあげて欲しい』って。

なんでそんなことお前のお袋が知ってるのか?って思ってたんだけど。
ほらお前この間、オレの親が明子さんに電話したって言ってたろ?

あれから時々会ってるみたいなんだ。それで最近お茶とか
もしてるみたいでさ。」

「全然知らなかった。」

「だろ。だから思ったほど心配しなくていいのかな?って楽観的かな?」

「いや、殴られるぐらいは覚悟してるよ。」

「じゃあお前と一緒にオレも殴られるか。」

冗談を言ってひとしきり笑ったあと、僕は言った。

「ヒカル・・・。プレゼント見たよ。ありがとう。嬉しかった。」

照れ臭かったのかヒカルは布団に微かに潜った。

「あっいや、その・・。」

「ひょっとしてあのキーホルダーお揃いなの?」

「ああ・・・・。」

声だけが布団から聞こえてる状態になって僕は苦笑した。
そしてかねてからずっと思ってきたことをヒカルに持ちかけた。

「・・・・一緒に住まないか?」

「・・・・ここで?」

「いや、別の場所で二人で・・・。

今の生活も捨てがたいんだけど・・・。
君と一緒に暮らしたいんだ。」

あのキーホルダーにはそういう君の想いも込められていた
ような気がした。


だから・・・。



「オレ越してきたばっかなのにまた引っ越しかよ。」

悪態をつきながらも・・・それが彼なりの返事なのだろうと思った。

「うん。そうなるな。」

「・・・・」

ヒカルからの返事はなくて、僕は退出しようとノブを握った。

「まだ時間があるから、君はゆっくりしたらいい。」

彼はちゃんと答えてくれた。
だから焦らなくていい。僕自身にも・・・。
そういう想いを込めて言ったのだ。

「アキラ・・・。」

呼び止められて振り返るとヒカルは上半身だけベッドから起きていた。


「俺 お前と一緒に暮らすよ。」



随分回り道をした気がした。
それでも何一つ無駄なものなんてなかったと僕は今思える。


「ああ。一緒に暮らそう。」





         

                                           END


あとがき



本編に続き番外編も読んで下さってありがとうございます。

ちっとは甘い二人になったでしょうか?(苦笑)

「一緒に暮らそう」もほぼ1から書き直しましたが、特にラストは前に書いたものとは
全く違った形になりました。


思った以上に時間を費やしてしまいましたが。
思い残すことなく書き上げられたと思ってます。
いや心残りは沢山あるのですが(苦笑)

後は読者にゆだねるだけです。
一人でも多くの方に読んでもらって、楽しんでもらえたらこれほど嬉しいことは
ないですね。そして出来たら感想なんかももらえたら・・・ごにょごにょごにょ

それではまた次回ヒカ碁の作品でお会いできるよう精進します~(^o^)/


2012 8月  堤緋色





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