遠い遠い昔のことだと思う。
とはいってもこの地球の歴史の中ではホンの少し前の出来事かもしれない。
あなたのいるここからずっと遠く離れた国のお話かもしれないし
以外とここで生まれたお話かもしれない。
誰も見たこともなく、でも
子供の頃どこかで聞いた事がある物語。
これからするお話はそんなお話。
アキラは若干16歳にしてこの国の国主である。
塔矢王国は古き言い伝えにより7つの門派たちより
選ばれし者が代々国王を勤めている。
その選び方は到ってシンプル。
この国の国技である囲碁において7つの門徒の
代表が競い国主を決めるのだ。
任期は15年。
アキラは前国主だったオガタを若干15歳にして
破り国王の座に着いていた。
その日、目覚めたばかりのアキラのもとに足早に通達に
来た家来がいた。
「アキラ様 朝早くから申し訳ありませぬ。伊角さまと 和谷さまが
お越しになっています。取り急ぎ伝えたい事があるとのことで」
「こんな朝早くに・・?」
まだ寝室で身支度すら整えていなかったアキラはこの二人が
早朝から来たことに胸騒ぎを覚えた。
「わかった。すぐにいこう。」
身支度もままならぬ状態であったが、ただならぬ事態を
予測してアキラはそのまま部屋を出た。
「どうした。二人ともこのような早朝から。」
和谷と伊角、二人は昨年の国主を決める儀においてアキラと最後まで戦った
門徒の代表で今は朱雀家と青龍家の城主として塔矢王国の要を担っている。
「実は朱雀家の宝碁盤が昨夜割れちまって。」
朱雀の和谷は事の次第を簡素に伝えた。
「宝碁盤が割れた?まさか誰かに忍び込まれたのか。」
国に伝わる宝碁盤は7つ。門派と同じ数だけ存在し、この国を
守っていると伝えられる塔矢王国の宝である。
「城内に異常はなかった。それに碁盤の割れ方が不自然でまるで
中から裂けた様な割れ方なんだ。しかも伊角さんの話では青龍家
の碁盤も割れたと言うんだ。」
「青龍家の宝碁盤も割れたのか!!」
青龍家はアキラの出身門派である。今はアキラが国主になっ
たので玄武出身の伊角が変わりに城主を勤めているが
幼少から城で育ち宝碁盤を大事にしてきたアキラにとっては
それはあまりの衝撃だった。
「原因はわかりませぬが、大きな裂け目が入っております。」
「それは昨夜のいつ頃 気づいたんだ。」
「11時頃。城内を警備しているものが・・・」
「朱雀の碁盤も同じころだ。まさか他の宝碁盤も割れてやしないかと。」
アキラは和谷の言葉にしばし考える。
この二人の守る城下は他の城よりもかなり遠い。
もし仮に他の城でも同じ事があったならもっと早く
手際があったはずだ。
「いや それはないだろう。もしあれば今頃君たちより
早く連絡が入ってるはずだ。」
冷静なアキラの判断に伊角がうなずく。
「今から準備をして出よう。青龍家なら昼過ぎにはつくだろう。」
馬を走らせるアキラが募らせた危機感。
それは二つの宝碁盤が割れた位置に関係していた。
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