奥穂高南稜から滝谷ドーム中央稜へ継続登攀2016811日から14日)

 このはな山の会の2016年夏合宿集中登山は、当初、剣岳を予定していたものの出発2日前のミーティングで、剣沢の雪渓が少なく通行止めの規制もされていることや富山県警の写真などをみて、岩場へのアプローチが困難なルートも多そうなので、急遽、穂高岳沢にベースキャンプを張り、奥穂高南稜と明神岳西南尾根から明神・前穂高岳へのバリエーションに12名で行くことになった。剣岳を予定し、それなりにトレーニングしてきた自分には、クライミングの要素が少なく感じ、メンバーKWさんを誘って、滝谷へビバーク、継続登攀に挑戦することにした。

 梅田駅を10日午後11時集合し、11日午前4時過ぎに沢渡駐車場に、午前6時前にはシャトルバスで上高地入りした。山の日の記念式典に皇太子がくるということで、特設会場が設けられていたが、早朝、準備中だったので、スムーズに入山することができた。緑と梓川の美しさ、遠く、明神、前穂、吊り尾根、奥穂、西穂がきれいにみえる、未知のルートへの期待と不安でどきどきしながら、岳沢をめざす。樹林帯をゆっくりと登り、やがて、沢を見下ろしながら、徐々に登っていく、上高地が見渡せ、焼岳、乗鞍もよくみえた。

3時間弱で岳沢小屋に到着、ベースキャンプを張り、さっそく小屋の食堂で生ビールで乾杯、3時過ぎから石焼き焼肉などテントごとに用意した食材で宴会状態に、それぞれの夕飯を味見しておなかいっぱいになった。
 夜、トイレに起きて、テントを出ると満天の星空、大きな流れ星もみれて得した気分だった。

 2日目は、全員で奥穂高南稜を攻める、雪渓は小さく、踏むことなくルンゼに取り付く、そこで、3隊に分かれ登攀開始、滝谷への継続登攀をめざしてKWさんと組み、なるべくロープを出さずに済むルートを選びながら、広いルンゼを登る、すぐに、壁になり、3mほどの乗り越しにハーケンがあった、ロープを出そうかと思ったが、ハーケンに長いシュリンゲをかけて、下には落ちていかないようにして、ロープを出さずに乗り越した。そこで、3隊の先頭に立った。その上は、狭いルンゼとなり、藪こきを避けるためにルンゼを詰めていく、右に顕著なルンゼが分かれるところで迷う、自分は直進、K会長隊は右にとった、正面に遠くからみえた屏風のように横に広い岩壁が近づいてきた。だんだんとスラブ上になってきたので、右の尾根にトラバースして乗ることにする。するとK会長隊のしんがりの姿があった。尾根に早く乗った隊に追い越されていた。右が切れ落ちた2mくらいの乗り越しをノ―ザイル超えたが怖かった。そこで、T隊も追いつく、結局ルートはひとつになった。その上の5mくらいのところで固定ロープを張り、登る、結構いやらしかった。T隊長は、右から簡単にロープなしで登ったらしい。ルートをよく知っている。
 そこで、回収やらに付き合い、先頭のK会長に離される、その後はハイ松帯を少し登ると核心であるトリコリ―の岩峰に入る。登れそうなところを適当に探る、結局、ロープなしで、1峰を越え、2峰も越えた。3峰は横目でスル―して、先を急ぐ、その上で少しつまり、3mくらいの懸垂をした。他の2隊はクライムダウンをしたらしいが、ルートが見えなかった。
 その後は、ガレ場を吊尾根めざして登る、登攀道具のフル装備、ビバーク装備で20キロ弱のザックは応える。ゆっくりと尾根まで上がる、K会長隊に1時間遅れで南稜の頭に到着した。まず、第1課題の南稜登攀は無事終了した。少し休憩して、本隊と分かれて、奥穂高山頂を二人でめざす、お盆とあって、すごい人ごみである。山頂の記念写真をとるのに行列だった。シャッターも2組から頼まれた。よく晴れて大展望の山頂ではあったが、先があるのでそうそうに立ち去り、奥穂高山荘をめざして降りる。山荘前のはしご場では順番待ちになっていた。山荘の前もすごい人ごみだった。かなり疲労している感じだった。夕方までに北穂高のテント場に着けるか不安もあったので、ビバークに備え、水を購入した。ついでに、元気を出そうとチョコレートと400円の小さいコカ・コーラを買った。山小屋で高価なコーラを買ったのははじめてだった(いつもビールだから)、とてもおいしく気を取り直し、涸沢岳を30分ほどで乗り越え、鎖場の急な下り、いくつかのアップダウン、最低部を越え、北穂高への登りが続く、すでに午後4時を回っている。午前6時の出発から10時間行動している。ザックの重さがじわじわと体力を奪い、ペースがだんだんと遅くなって辛かった。明日、登るドーム岩の壁がみえたので、観察に時間をかけた。下降点の確認などもしているうちに、あと30分でテント場ではあったが、「明日、またここまで来るなら、いっそうここでビバークしようか」と提案した。「ただビールは我慢しなくちゃね」というとパートナーのKWさんは、「自分が買ってきます」と言ってくれた。往復1時間かけて、ロング缶4缶を買い出しに行ってくれた。(彼曰く、この帰りが一番疲労を感じたとのこと)、彼を待つうちに、大きな岩(あとで知ったが松涛岩らしい)の下の岩棚にツェルトを張って、ビバークに備えた。正面に前穂高北尾根がみえる絶景のビバークポイントだった。
 ビールを岩のテーブルでゆっくりと味わったあとは、ドライフード3パックを2人で分けるだけの粗食だ。スティックコーヒーでもおいしい。3000mの稜線でのビバークだったが、岩陰で風もなく、上下軽ダウン、雨具、シラフカバーでツェルトに入れば暑いくらいで快適な夜だった。
 夜明け前の濃いブルーの空に、前穂北尾根のシルエットが浮かぶ最高の日の出を迎えた。涸沢や奥穂ではヘッドランの光がみえる。奥穂もだんだんとピンク色に染まっていった。朝も、ドライフードのみ、あたたかいお茶が贅沢に感じた。
 予定より少し早く5時半には、登山靴など余計な荷物はデポして出発した。前日に、確認したドーム第3尾根と松涛岩の間の下降点から沢を少し下る。右よりに凹角を3級くらいのクライムダウンで下降する。下がよくみえないだけに不安でいっぱいだった。ガレ場をさらに右にトラバースし、第3尾根のリッジに出てみる。すでに、ドーム中央稜の取り付きに人がいる。尾根の下の方で懸垂する人影も見えた。懸垂点がもう10mくらい下だった。顕著なピナクルを見下ろせるあたりでリッジにもう一度でるとペツルが打たれている懸垂支点に出た。そこから25m懸垂をして、ドーム中央稜へはガレを50mくらい登り返して取り付き点に立てた。620分くらいだった。最初のパーティーのフローが登っていた。次に3人組が待っていた。3番手になった。人気のルートでは仕方ないが、一番近くでビバークしていたのにと思ったが、まだ時間がある。
 1時間待って、720分、登攀開始、自分がまずリード、前半はクラックの左側の簡単なフェイス、ガバだらけではあるが、支点がほとんどない、カムを1本使う、15mくらい登り、チムニ−に入っていく、支点は高いところに2つあったので、あまり奥に入らない方がと思いつつ、チムニ−の底に大きなスタンスをみつけ、底を歩いてしまった。2つめの支点は飛ばし、さらにチムニ−出口に這いあがり支点をとる、さらに、上部のチムニ−にすすむ、ここは内側、左右に支点があるので、一度、チムニ−奥に入り、支点にかけてから、チムニ−の外側に出て登っていく、その際、体が自然と外側に向いてしまった。先行のパーティーがなんで外側にむくのか不思議に思ったが、やってみるとそうなった。チムニ−出口に大きなチョックストーンがかぶさっていたが、ホールドが豊富にあり、簡単に乗り越せた。抜けられるか心配していた核心部を突破し、少し余裕が出てきた。最新のルート図では(X−)級だったが、古い本は(W)級の表示、ちょうどその間くらいの感じだった。 ビレーはチョックスットンの上でした。錆びたハーケン3本だった。全般にビレー支点、ランとも錆びたハーケンでよい状態ではなかった。
2P目は、KWさんがリード、フェースをすいすい登っていく、フォローで登るが、ランとザイルの方向に登っていくとむちゃ難しい、足がなく、うすいフレークをカチ持ちで、思わずテンションと叫んでしまった。あとから考えるとW級程度にそんな難しいム−ブがあるわけがなく、ルートを外して登っていたとしか思えなかった。それでもこのピッチの終盤は微妙なスラブがある。「ミウラがほしい」と思った。
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P目は、T級20mくらいを一段歩いて登った。4P目は凹角からチムニ−、出口にチョックストーンと1P目に似た形状だった。自分がリードした。核心までは簡単、チョックストーンの乗り越しもピンがないと怖いなと思っていたら、そこにちぎれたハーケンの手前のクラックに残置カムがあった。これはむちゃ安心で、大胆に足を広げて、ツッパリで乗り越せた。残置カムがなければ、やはりカムがいるところだ。
5P目は、KWさんがリード、ここも出口核心だったが、ピンが乱打されていたので簡単に乗り越したようだ。フォローだとどうも登りに雑さが出てしまう。核心も大胆な動きで乗り越してしまった。
午前10時過ぎには終了点に立ち、握手をした。好天の中で、キレットから槍、双六から遠くに薬師、目の前には笠が岳をみながらの3000mの山波の中でのクライミングだった。C沢を下降していたパーティーが大きな岩なだれを起こしていた。滝谷の他のルートはアプローチが厳しそうだった。
松涛岩のデポ地点に戻り、装備を解き、全てザックに入れて背負う、重さがずしっとくる。長い帰幕のはじまりだった。まず、涸沢岳との最低部へ下り、そこからは鎖場が連続する涸沢岳の急登、奥穂小屋へ下降、そこで水を補給し、再び、奥穂の登り、順調なペースですすむがすでに午後1時半をまわっている。コースタイム通りではあと4時間、なかなか長い、クライミングのフル装備がこたえる。前穂への吊尾根は思っていたより悪い、鎖場や急な下りの岩場もあり、気が抜けない、時間も短縮できない、1時間で紀美子平につけると思っていたが無理だった。コースタイムどおりの1時間20分もかかった。そこからも重太郎新道の急な下りだったが、なんとかペースを崩さない我慢の下りをして、最後は休憩も飛ばし、午後5時前にはみんなが待っているベースキャンプに無事帰ることができた。
岳沢から奥穂南稜、ドームまで10時間強、ドーム中央稜登攀から奥穂、岳沢に10時間弱、継続登攀はハードな歩きが核心だった。

811日 上高地6:50−岳沢9:40

812日 岳沢5:50−奥穂南稜−南稜の頭11:30−奥穂高岳12:00−奥穂山荘13:30−松涛岩16:10

813日 松涛岩5:30−取り付き6:20 7:20−ドーム中央稜登攀−ドームの頭10:20−松涛岩11:00−奥穂高岳13:30−紀美子平15:00−岳沢16:50

814日 岳沢8:00−上高地10:20

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