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GS美神 リターン?

 Report File.0082 「お嬢様危険注意報!! その11」
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『さあ、次は昨日、相手に何もさせることなく瞬殺してのけた六道冥子選手、それに対するはどこぞの特撮ヒーローかという格好をした大文字一(だいもんじ はじめ)だーっ!』

 アナウンスと共に特撮ヒーロー物のBGMが流れ出し、トオゥ! という掛け声と共に某宇宙刑事ものに良く似たメタリック・ダークグリーンに輝くコンバット・スーツぽいものが空中高く一回転して試合場の結界内に着地し、決めポーズまでつけた。

「わぁ〜、すごいすごい」

 そのアクションを見て到底自分には出来ないこともあってか、素直に冥子はパチパチと拍手をして喜んだ。試合をしようというよりはヒーローショーの開催という雰囲気が漂った。

 アナウンサーも昨日よりもハイテンションになっているヒーロー野郎に呆然とし、言葉が出なかった。

『ムドーの12の魔鬼を操る女幹部メイ! この俺、宇宙刑事・オカリオンが来たからには好きにはさせん!!』

 冥子をビシッと指差して宣言してきた。

「え〜と、私が女幹部なの〜?」

 いきなり舞台に引き上げられてお前は悪役なのだと言われて、流石におっとりとした冥子もびっくりで目をぱちくりとした。何で自分が女幹部扱いされるのか分からなかったのだ。

「そのとおりだっ!!」

 大文字一という名前だがあえてオカリオンと言おう。オカリオンは冥子の問いを断言した。彼にとってそう断言できる根拠を持っていた。まあ、要するに冥子の暴走に巻き込まれた口なのだ。運が悪い事に複数回。巻き込まれる都度に病院送りとなったのは悲しいお約束なのだろうか。

「酷いわぁ〜〜」

「何が酷いかーーっ!! そう言いたいのはこっちだーっ!! 遭遇する都度に病院送りにしやがって、お陰でこっちはまだ、高校生なんだーっ!!」

「え〜っ? 何度も病院送りにした事って、覚えないわ〜」

 一回なら何度でもあるのか?と疑問のわく言動で冥子は首を傾げた。

「かわいい顔しても誤魔化せんっ!! 悪の手先には手加減無用! 覚悟!!」



「変ねぇ? 病院送りになるくらい大変な目にあったなら、二度と近づかないと思うんだけど〜。フミさん、どういうことかしら〜?」

「大文字一さんですね。たしか、一度、病院送りになったところ、お嬢さまの式神にトラウマになってしまい、その後、不運なのかお嬢様と至近で出会う事、数回。その時、慌てて遠ざかろうとして、階段を踏み外したり、車にはねられたりですね。そのせいでお嬢様と同年齢ですが、2年程留年しており未だ高校生という事みたいです。ちなみにその数々の事故で霊能力に目覚めたようです」

「自業自得とは言える内容だけど〜、事の発端は冥子にあるわけね〜」

「それが切欠か、我がグループのライバルでもあります南部グループに属するリゾート開発会社の一つに入社しております」

「そう、南部ねぇ…何かきな臭い噂を耳にした事があるわ〜。手を打ったほうがいいわね〜」

「では、方策を考えて実施します」

「お願いね〜」

「はい」

「でも、冥子のGS資格取得に立ちふさがる最後の壁として現れるってことは因果ね〜」

 冥子の母は大文字一から執念を感じるが娘を信頼しているのかにこにこしながら、冥子たちの試合を見下ろした。



「はじめっ!」

 試合開始の合図が発せられた。

「喰らえっ! 正義の鉄槌をっ!」

 そう叫ぶとオカリオンの拳が赤い光に覆われ、冥子に向かって疾駆した。

「がっ! ぐっ!」

 だが、オカリオンは冥子の所まで行き着く事はできず、まるでダンプカーに跳ねられたかのような衝撃を受け、更に背後にあった結界にぶつかった衝撃を味わった。

 阻んだのはソーセージを途中でぶった切り、先の部分に口と鋭い歯をもっているような式神…ビカラであった。足の無い見かけからは考えられないような速度でもってオカリオンに突撃、ぶちかましを行ったのであった。重量もあるためはっきりいって車に撥ねられたのと同じであった。

 「はははは、まるでダンプカーに轢かれた時のようだ。しかしっ! まだだ…、悪ある限り、ヒーローは死なんっ!!」

 台詞はともかく体のほうは既に足が振るえやっと立ち上がれた状態だった。手も何とか動かせるという状態であり、既にろくに動けないと何とか腰にすえられた銃に手を伸ばした。だが、式神達はそんな状態だろうが容赦はしなかった。

「ぐぁっ!」

 右肩に衝撃を感じ、苦悶の声を上げた。何が起きたのかわからず痛みのする部分、すなわち右肩を見るとコンバットスーツが砕け生身が露出していた。シンダラと呼ばれる鳥のような姿をした式神による霊波を纏っての亜音速から生み出されるソニックブームを叩きつけられたのだ。

「げっ!」

 そう簡単には砕かれるはずの無い特殊素材かつ霊波を纏う事で強化されているはずのコンバットスーツの有様に悪夢を見る思いだった。そこに背後から何かに圧し掛かられた。

「なにぃっ!?」

 驚愕の声をあげ踏ん張るも、万全な状態ではない上に、圧し掛かってきた式神に重量があった為、そのまま倒れた。やったのはs鮫のようにシャープな頭に虎縞な身体を持つメキラと呼ばれる式神であり、メキラは己の能力である瞬間移動で背後の現れて押し倒したのだ。

 そんなオカリオンに這いよる影が巻きついたその瞬間、思考が真っ白になった。蛇の姿をした式神、サンチラに纏わりつかれ電撃攻撃を喰らったのである。

 これにより、オカルト技術と最新科学より産み出されたコンバットスーツは電子部品がショートし機能を失った。これにより重量を軽減させ身体能力を向上させる機能も失い、補助どころか足かせとなってしまった。

「ぬぉ、身体が…動け、動くんだっ! 今動かなくては何のためにっ!」

 オカリオンは電撃でしびれ、かつ重くなってしまったコンバットスーツに指一本満足に動けない状態であった。そこに容赦なく追い討ちが来た。

シュッ!! シュシュッッ!!

ダックスフンドのような身体に鋭い刃のような長い耳を持った式神、アンチラがその特徴ある長い耳を数度振るった。すると、見事に着用者を傷つけずにコンバットスーツの顔と上半身の部分を容易く切断しばらばらにした。

「なぁ!?」

 アンチラの耳の切れ味にオカリオンは痛む身体を忘れて絶句した。コンバットスーツの強度は鋼にも勝るというのに豆腐のようにかつ自分を傷つけずに切った事に。

 本気であれば今頃自分はばらばらになっていたはずだ。オカリオン…いや大文字一は今までの戦意が失せ、死の恐怖に取り憑かれた。そんな彼の視界に蜥蜴っぽいもの、要するに式神アジラがちろちろと口から火を吐いて近寄ってくるのを捉えた。

「ひぃっ!?」

 アジラの蜥蜴というか式神なので表情は分からないのだが大文字一にはニタリと唇を歪めた首切り役人のように見えた。

「た、助け…」

 恐怖に心折れた大文字一の懇願は途中で掻き消えた。一瞬にして炎が大文字一に襲い掛かり包み込まれたのだ。炎はしかし、大文字一を焼き尽くしてはいなかった。その炎が治まるとそこには恐怖で顔が歪んだ大文字一の石像が現れた。

「あっ! 思い出したわ〜。小学校まで一緒だった大文字君だわ〜。久しぶりね〜、あの時はごめんなさ〜い。初めてお友達になってくれそうな人に会って舞い上がっちゃったの〜。入院して以降はなぜか会えなかったけど〜。でも〜、私はあんな派手な格好するようなふしだらな女じゃないわ〜」

 ぽんっ!と手槌を打って、疑問は晴れたと明るい表情を冥子は浮かべた。

「試合終了っ! 勝者、六道冥子選手っ!」

「えっ!? …あら〜? どうして大文字君、石になっているの〜?」

 冥子の疑問に答えるようにアジラが冥子の肩に乗った。他の式神達は何時もの場所、冥子の影にいつの間にか戻っていた。

「アジラちゃんがやったの〜? 駄目よ〜、人をむやみに石にしたら、お母様に叱られちゃうわ〜。あっ! でも〜、これはGS試験だからいいんだわ〜」

 よく出来ましたとアジラを撫でた。

「えっ! 他の子達も協力してくれたの〜? みんな、ありがと〜」

 冥子は他の式神たちのもねぎらいの言葉をかけながら舞台を後にするのだった。舞台には題材を恐怖、もしくは絶叫とつけるのがふさわしい石像が一体ポツリと残されていた。


『……お、恐ろしいですねぇ…』

『そ、そうあるな…』

 時間にして30秒ぐらいだろう。あれよあれよと式神による攻撃でオカリオンこと大文字一は沈んだ。冥子の意図など含まれずにである。

『まあ、とりあえず六道冥子選手はGS資格を手に入れることが出来ました。今後が楽しみですねえ』

『そうあるな。GSとしてがんがん活躍してうちの店をどんどん利用して欲しいあるよ』

『どうみてもありゃ、道具要らずじゃないですかね…だいたい六道家なんだからあんたの所を利用しますかね…』

『何を言うあるか!! この業界では信頼と実績もって商売しているあるよっ! まあ、六道家が利用する事は今まではないあるけどね…』

『それを怪しい店って言うんじゃないですか』

『うるさいある。それより期待はずれだったあるね』

『何がですか』

 鼻くそほじりながら喋るんじゃねーとは思ったものの、マイクの前で喋るのはどうかと思いとどまりつつ聞いた。

『いや、あのコンバットスーツは霊力を増幅させることが出来て、防御もかなりのものって触れ込みだったあるけどね。あっさりとしばかれたわけあるから、たいした性能じゃなかったみたいあるね』

『はあ…』

 実際はかなり高性能だったのだが、この厄珍の言葉が決まりで日の目を見る事は無くなってしまうのだった。何だかんだ言っても厄珍はこの業界ではそれなりの影響力を持っているのだった。



     *


「何だか、何かを汚されたというか、情けなさが滲み出た話っすね…」

 ヒーローを名乗るんならもう少し根性見せろとは思ったからの発言だった。

「そうかしら〜」

 だが、首をかしげる冥子をかわいいと思い飛びつきそうになるが、さっきの式神達の制裁を思い出して踏みとどまった。そして、実際にその片鱗を体験した横島は話に出た件の人物が式神達を相手に出来る訳がないという結論にたどり着いた。

 式神達の能力はとんでもスペックなのである。人間相手であれば無敵だろう。亜音速で飛び回ったり、瞬間移動できたりするような奴らなのだ。目にも留まらぬうちに訳も分からずやられているだろう。

 女幹部に匹敵というか、冥子の性格を加味するとそれ以上の極悪さをもっている女性だと横島は結論付けるのであった。

 だからといって横島のセクハラ行為が冥子になされないかというとそれは無いだろう。踏みとどまったのだってさっきの経験があったからだ。それだって、にわとりが3歩歩けばわすれるというようにいつの間にか忘れてやってしまうだろう。

 それが横島忠夫という人物だからして。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。

<おまけ>
クビラ  (ネズミ )…… 霊視能力
バサラ  (ウシ  )…… 霊を吸い込む
メキラ  (トラ  )…… 短距離の瞬間移動
アンチラ (ウサギ )…… 鋭い耳で敵を切り裂く
アジラ  (リュウ )…… 火を噴き敵を石化
サンチラ (ヘビ  )…… 電撃攻撃
インダラ (ウマ  )…… 時速300kmで走る
ハイラ  (ヒツジ )…… 毛針攻撃。夢に入り込む
マコラ  (サル  )…… 変身能力
シンダラ (トリ  )…… 亜音速で飛行
ショウトラ(イヌ  )…… ケガ、病気の治療
ビカラ  (イノシシ)…… 戦車並みの怪力






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