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GS美神 リターン?
Report File.0069 「横島の学校生活 その9 〜 横島の華麗なる…」
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「それでは第4回横島忠夫犯罪疑惑裁判を始める!!」
カンッ!
木槌の音が高らかに教室に響く。
「ちょっとまてやっ!! お前らいきなり俺が入ってくるなり拘束して、裁判ってなんなんやっ!?」
自分が教室に入って来るや否や取り囲まれロープでぐるぐると体に巻かれて拘束状態にされた横島は力いっぱい抗議した。キヌもこの場に居れば止めようとしただろうが残念ながら今日はご近所の幽霊さん達との集会とかで来ていなかった。
「うるさい! 被告、横島忠夫。今、貴様に発言権は無い!!」
ビシッっと横島を指差して、きっぱりと言い切った。その瞳には迷いは一切無い。
「なっ!? ど、どういう事だ!? 大体、俺は犯罪なんて係わ…」
言い切ろうとして横島はだらだらと汗を流し始めた。
(こ、心当たりがありすぎる…)
自分の覗きなどのセクハラ行為に始まって、令子と一緒に行動していた自分は限りなく犯罪に近いグレーゾーンに何度も引っかかっている。いや、今現在で言うならば銃刀法違反を軽くいなすほどだ。なぜなら彼は潜水艦、それも軍用のものを所有しているのだから。
「ふっ、やはりな。色々心当たりがありそうな顔だな?」
したり顔でメガネをくいっと掛けなおす友人Aの口元がニヤリと歪んだ。
「年貢の納め時というやつだぜ」
「な、何をもってそんな事を言う!?」
少々焦りを見せながらも、少なくともこいつらにはそんな場は掴んでいないはずだと横島は開き直った。
(まさかこの前の女子更衣室への覗きがばれた!? いや、まさか身体検査の時に実行しようとしていた計画が!?」
「ほーう」「へぇー」
「えっ!?」
周りの雰囲気が更に剣呑なものに変わったことに横島は戸惑った。
「ふーん、身体検査の時に実行する計画ねぇ…」
女子の一人が顎に手を当てて笑った。
「なっ!? なぜそれをっ!?」
その笑みにあんたはエスパーか!?と横島は戦慄を覚えた。
「「「口に出していた(ぞ)わよ?」」」
「何ですと!? い、イヤーーーーッ!」
教室に絶叫と何かが叩きつけられる音が響いた。
*
「思い起こせばあの夏休み登校日だ」
「なあ、なんも無かったかのように話すなよ」
先程までロープでぐるぐる巻きにされ拘束されていたはずの横島はいつの間にやら抜け出し、どかっと腕を組んで憤然としていた。
「そういうお前こそ、なんで平気なのか? 病院、いや百歩譲って保健室へ担ぎ込まれそうなぐらいズタボロになっていたはずだが?」
先程まで担架で運ばれても不思議ではないほど、見事にボロボロだった男がいまや平気で椅子に座りなおしている事実に、普通の人間ならば信じられないだろう。確かにここ最近で化け物じみた回復力に磨きがかかって来ているが、普段から見せられていた為に
「…ああ、確かあの時はみんなに誤解(でもない)でフクロにされたっけな…(しかし、更衣室の覗きの方はばれなくて良かった…ふふ、あの場所はいい場所だ)」
横島はそこに何があるのかと興味を抱かせるほどの遠い目をして教室の窓の外を見た。内実は全然違っており、最大の秘密を守れていた事に一安心だった。何と言っても苦労して見つけた絶好のポイントなのだから、誰にも知られるわけにはいかない。
「話を逸らすんだな、まあいい。下校時に見慣れぬ女子高生が三人も門の所に立っていて話題になった」
真剣に考え込んでいたかと思うと急にニタニタ笑い出した横島の態度に一瞬引き、友人Aはいぶかしんだ。が、何時もの事で何やら妄想し始めたのだと結論づけ話を進めた。一々取り合っていては進むものも進まないのだ。特に横島相手には。
「そうだよな、何と言っても、女子高名門の度粉園女学院の制服を来てたんだからな。話題にならないはずが無い!」
ぐっと拳を握り締め、友人Bは力説した。
「「「しかも、三人ともかわいい!!」」」
「確かに」
男子達の心の声にうんうんと友人Aもうなずいた。
「誰を待っているか話題になったな」
「それが! それが、まさかのまさか! 横島を待っていたとわっ!!」
友人Cはもうこの世の終わりかとでも言うかのように叫んだ。
「天変地異の前触れか!」
「すぐに槍の雨でも降ってくるんじゃないかと戦々恐々!」
「横島! てめぇ、あのかわいい娘達に何をした!?」
「そうだ! でなければあんなかわいい娘達が声を掛けてきたなどありえん! 弱みを握ったに違いない!」
「酷いわっ! 横島君」
「ああ、何れやるとは思っていたけど、とうとう…多分この夏の日差しにやられちゃったのね…」
「おキヌちゃん、かわいそう…」
「あの娘達が横島の毒牙にかかって、あんなことやそんなことを!!」
友人Aを筆頭とした男子だけだったはずがいつの間にやら女子も加わって横島を責め始めた。
「まてまてまてーーっ! お前ら、何好き勝手ほざいていやがる! 大体あの時は俺だけじゃなくおキヌちゃんやピートも一緒やったろうが!!」
何もしてないはずの自分を責められるのは堪ったものではないと横島は反論した。
「そうだったか?」「そうだったかしら?」
「記憶にないぞ?」
「横島に声を掛けていたのが衝撃的だったから、それ以外覚えていない」
「お前らな…って、ピート! 黙ってないで何か言ってくれ」
クラスメート達のあんまりな言葉に横島はガクッと肩を落とすと弁護してくれそうな人物、ピートの方を振り向いた。
「はい? もう終わったんですか?」
いきなり話を振られてピートは湯気の立っているコップを手にきょとんとしていた。騒ぎはいつもの事と余り話を聴かずにお茶と会話を堪能していたのだ。ピートと同席し、会話を楽しんでた女子達が横島の横槍にギリッと殺気を込めて睨んだ。
「…ピート、それでも友達か?」
しかし、睨まれた横島も普段であれば凹んだであろうが、今の苦境を脱するためとあってあえて無視することにした。
「すいません。話の流れを掴めないんですが?」
「くっ! あのな、翔子ちゃん達のことだ!」
女子と和やかにお茶していた事にこの美形ヤロー、顔が良いからといい気になりやがってと内心で湧き上がる殺気を抑え、この苦境を乗り越えるためにピートの助けを必要としているのだと我慢した。それがなければ今頃、わら人形に釘を打ち付けていたところだ。
「「「ちゃん! ちゃん付けだとをっ!?」」」
横島の呼び方に過剰反応を示す男子達の息はぴったりだった。
「ああ、深山さん達ですか?」
ポンと手を叩きピートは横島が何を言っているのかを大体掴んだ。
「そうだよ、こいつらに説明してやってくれ!」
悲しいかな信用はゼロに等しい自分よりも、はるかに信用性のあるピートに横島は委ねた。その後、俯いた横島はお前ら、今に見てろよと今は雌伏の時と何れ訪れる反撃の機会を待つことにした。
「そうだ! どういうことだ? なぜピートが関わっているんだ?」
やっぱり美形であるピート目当てだったのかと友人達は内心では安心した。
「えーとですね。深山さん達はいわば僕達の霊能に関する生徒さんなんです」
「「「はあっ? 生徒ぉ?」」」
「ええ、何でもある事件の影響とその後の事故で本格的に霊能に目覚めてしまったらしいんです」
横島さんが原因とも言えるのかもしれませんがと口に出せば、また責め立てられるかもしれないと考え、その事は飲み込んだ。令子や翔子達からの話の経緯を吟味し、長い人生経験の中で行き着いた結論だった。
霊能は誰もが持っている。ただし、その素質は大概の人間は大きなものではないし、あったとしても精々が霊を見ることが出来るぐらいなのだ。何より、目覚めていないのが通常なのである。
そんな一般人でも例外がある。それが悪霊などの霊的なエネルギーが強い存在に出会ったしたときだ。その時は霊的エネルギーに刺激され一時的に霊能が活性化されるのだ。それにより、目覚めていない人間でも悪霊を見ることが出来る。
翔子達の場合は事件で強力な力を持った生霊、それに共鳴したかのように活動した横島という本人は気づいていないが、世界でも有数といえる霊能を持つものの霊波をそばで浴びた。
刺激が強すぎた為か、事件解決後もしばらくの間、霊能が活性化し続けていたのだ。普通に生活する一般人にとって霊能は煩わしい事この上ない。霊能に目覚めることはいい事ばかりではないのだ。霊が視えるということは霊からも視えると言うことなのだ。見えるならば干渉もできるという事でそうなれば中途半端な力(霊視)では霊の干渉を防ぐことはできない。ちょっとした悪意ある霊からすれば格好の獲物となってしまう。霊能を持つというのにもある種の覚悟は必要なのだ。普通の女子高生にそれを求めるのは酷なものであった。
もちろん、事件の解決に当たった令子はその事に気づいていたので護符を渡して処置をした。そのお陰で日常生活において支障は無く、一時的に増幅された霊能も徐々に弱まり治まるはずであった。
彼女達にとって不運だったのは護符の効力が弱まってきていた事。これは令子に非があるわけではなく彼女達には意外にも素質があったのか、霊能がなかなか完全に治まらなかったのだ。護符は一般並みであれば十分に効果の余裕をもっていたし、令子にとりアフターケアに属するものだったので信用に関わるとあって、ケチったりはしなかった。都会であるならば護符も完全に効果を失っていたわけではないので多少なりとも役に立ったであろうが、運悪く夏休みで海に遊びに行ったのがいけなかった。海、特に夏で人の集まるリゾート地には悪意を持った霊が集まりやすい。そんな中に無防備同然で行った為、まさに鴨がネギ背負ってやって来たと、当然のごとく質の悪い霊に遭い襲われたのであった。それが原因で生死の境に陥ったが運良く気づいた横島に助けられた。
そこで終わっていればめでたしなのだが、死にそうな目に遭った事で霊能が完全に目覚めてしまったようなのだ。それに気づいた横島は令子に相談した。
話を聞いた令子はそんなアホなといった感じで驚いたが、事実は事実と受け止めた。彼女達へのアフターケアは終わっていると認識していた令子にとってこれは余計な赤になると頭を痛めた。
が、そこで最小の手段で実現させるという合理主義的な考えが浮かび実行した。制御できるまでの護符を用意するのは仕方が無いが、その他の手間については自分がしなくて済むようにした。
つまり、制御方法の指導を横島、それにピートに任せたのだ。何だかんだいっても彼らがどれほど恵まれた素質を持っているか判っておらず、一般的な霊能がどんなものかと言うことを認識させる必要を感じていた所だったので丁度良い教材になると唐巣と相談し決めた。た。決して教えるのが面倒ということは無いはずだ…
「そういうわけだ。だから翔子ちゃん達とはお前達が思っているような関係じゃないぞ」
実に残念だがと言った感じ横島は言い、それと共にこの窮地からも脱出できると一安心した。
そんな様子にピートは苦笑した。
(彼女達の様子から、満更でもないようにみえるのですが)
なぜならピートの横島の態度とは違った見解を抱いていた。話を聞く限り、まあ初対面の時は色々と嫌われそうな要素もあったわけだが、それでも危ない所を助けたみたいだし、海の時に至っては本当にピンチの時に颯爽?と駆けつけて悪霊から助けたのだ。これで好意を持たない方が珍しいだろう。今時は居ないだろう乙女チックな心を持った娘なら、白馬に乗った王子様的存在に想うかもしれない…現物をしっかり見たら幻滅することになりそうだが。
「ならば、この駅前の喫茶店で会っていたのは誰だ?」
バンッ!!と友人Aは懐から取り出した写真を横島の前にある机に叩き付けた。
「!」
「「「こ、これはっ!?」」」
叩きつけられた写真に横島の回りに居た者はみな一斉に注目し、驚愕した。なぜならそこには美人で知的なおねーさまとちょっときつめだが凛とした雰囲気を持つおねーさまとが横島と楽しそうに会話している姿が写っていたからだ。
「よ、横島…」
「う、裏切ったな。俺の期待を! 俺の希望をっ!!」
「そ、そんな…」
「天は我らを見捨てたというのか!!」
中には甲子園、最終回で逆転ホームランされた投手のようにがっくりと落胆する者もいた。
「そこまでオーバーに…」
人生経験が長いからか、横島が皆が言うほどに酷くは無いと思うが故に彼らの態度にピートは苦笑した。
「お前ら俺がそんなに親しそうに話しているのがおかしいのか!?」
ここ最近、ほんの少しだけ自分を信じれるかもと思い始めていた横島にとりショックは大きかった。だが友人Aは容赦が無かった。
「これだけじゃない。これもだ!」
更に追加と友人Aは写真を机に叩き付けた。しかし、それだけでは終わらない。
「まだだ!! まだある。これも、これもっ! これもーーーっ!!」
次々と写真を懐から出し、机に置いていく。最後の叫びは悲鳴のようだった。
そこにはかねぐら銀行特殊窓口部隊の面々とのツーショットが写っていた。何れも喫茶店内でのものであり、別に如何わしい所に入ろうとする所が写っているわけではない。
「「し、信じられん…」」「デ、デ・カルチャー」「ま、まさか!?」「う、うそ。うそよっ! 信じられない…」
友人Aが叩きつけた写真を目にした途端、クラスの友人?達はSANチェックしたかのようなショックを受け、その写真を恐れるかのように後退った。
「おい…」
あんまりな友人達の反応に横島はそんなに自分が女性と二人っきりで一緒にいては不自然なのかとショックを受けていた。
(みなさん、のりのりですね。でも、なんで写真があるんでしょうか?)
そんな彼らとは蚊帳の外に居るピートは至極真っ当な感想を抱き首をかしげた。この疑問は前に横島達に一緒にナンパをしようと誘われた時に乗っていたなら知りえたであろう。友人Aは外を出歩く時はカメラを何時も持ち歩いているのだ。それがナンパの小道具として持ち歩く為か、特ダネを何時でも取れるようになのかは判らないが。
「し、信じられるか!? あの横島が日替わりで別々の女性と会っているなどとぉ!!」
友人Aは血の涙よ、流れでよと言わんばかりに滂沱のごとく涙を流し叫んだ。
「「「「「う、うそだーーーっ!!!」」」」」
この時、話に参加していた以外のものも、ピートを除いて心を一致させた。
「く、くっ、くっ、くっ、うはっ、はっ、はっ。見たかっ! これこそが俺の実力じゃー−−っ!!」
どうだ、羨ましいだろうと言わんばかりに横島の高笑いが教室中に響いた。
「で、実際の所はどうなんだ?」
メガネをくいっと持ち上げ、掛けなおし、友人Aは尋ねた。
「うっ! まあ、勉強で判らない所を教えてもらってたんだよ」
そんな冷静な突っ込みに横島は素直に答えを返してしまった。
「「「「「やっぱりな」」」」」
そんなオチだと思ったよと友人達は反応した。
「へん、どーせ、どーせ、俺なんか…」
「大丈夫、いつか横島君の努力が報われる時も来るわ……多分」
ぐしぐしと無く横島の方に手を置き、女生徒の一人が慰めた。もっとも語尾に不確定要素が盛込まれている辺りに、女生徒の横島への評価が現れていた。
「それにしても、だ。うまいことやりやがったな。進歩を望めるかどうかは別として、こんな美人さん達とお近づきになれるとは」
友人Cが机の上に散らばっている写真を見て感慨深そうに言った。横島が時折話す、バイトというか修行先での出来事を話半分に聞いていたとしても大変であることは判る。ならば美人と知り合えるぐらいなら、安い物かもしれないと思えた。あくまでも知り合えるで、それ以上の関係ではない。
「確かにそうだ! おキヌちゃんに始まって…」
「そうだ、そうだ」
「度粉園女学院の娘達といい」
「そうだ、そうだ」
「この喫茶店で会っている女性達といい」
「そうだ、そうだ」
「弟子入り先のあの色気ムンムンのおねーさまといい」
「そうだ、そうだ」
「あの窓際の美女といい…」
「そうだ、そ…って、まてぃ! その最後の窓際の美女ってのは何だ!? 聞いていないぞ!?」
いきなり友人Aの言葉に友人一同は驚愕した。
「え? そうだったか? …話していなかったか」
友人B達の突っ込みに友人Aはきょとんとした。
「「「全然、聞いてないぞ。どういうことだ!?」」」
まだ、そんな隠し玉が会ったのかと驚いた。
「はて? 窓際の美女?」
友人Aの言葉に当人である横島も首を傾げたが、一瞬にしてその正体が思い浮かんだ。
「うむ、この前、横島の住むアパートを通りかかった時に横島の部屋の窓から外を眺めていた美女が居たのだ。その時は手元にカメラが無かったのでみんなには見せれないのが残念でならないがな」
「「「な、なんですとーーっ!?」」」
「横島、貴様、裏切ったな。兄さんと同じで裏切ったんだ!!」
「先程までのは盛大な囮…まさか既に囲っていたとは…」
「おキヌちゃんだけじゃなかったなんて…鬼畜よ!」
「くっ! 外道がっ! お天道様に代わってお仕置きだっ!!」
一同はずずいっと横島ににじり寄り、言いたいこと言い放った。
「ちょ、ちょっと待て! お前の言っていることは誤解だ。あれは人間じゃなくて妖怪の類だぞっ! 大体大きさも違うだろうが」
そのあんまりな迫力に横島は押され、それが一時凌ぎでしかないと判っていても話の目標を友人Aへと変えようとした。
「それがどうした! たとえ肌が緑だろうが、顔つきに少しケンがあろうが、スケールが小さかろうが、女の形しとったら十分だろうがっ!!」
友人Aの握りこぶしで自分の思いを声を大にして言い切った。
「くっ!」
友人Aの言葉に電撃を受けたようなショックを覚え横島はガクッと崩れ落ちた。
「素直になれ、横島」
スッと手を横島に差し出し、何か誘うように友人Aは告げた。
「…俺の負けだ。同士!」
しばらくの逡巡の後、横島はその際出された手をガシッ!っと握った。
「判ってくれたか! 友よ!」
「ああ!」
友人Aは握った手を引っ張って横島を立ち上がらせると互いに満面の笑みを浮かべ笑いあった。その後に余計な一言さえなければ、危機を脱することも出来たかもしれない。
「そうだよな。頭の葉っぱや、肌が緑色でも…」
「下半身さへ目を瞑れば…」
「「半裸のねーちゃんだからな!!」」
まさに友人Aと横島は一糸乱れぬ意思の疎通をこなして、相手と一寸たがわぬ言葉を同時に言うとは端から見てまさに最高の同士と言えた。ただし、その内容がいけてなかった。
「「「「「……………」」」」」
「「な、なんだ!?」」
自分たちがやばいことを口にしていたのを自覚していないのか一同の無言のプレッシャーに横島たちは圧倒された。
「…やれ」
誰からとも無くつぶやいた言葉をきっかけに横島たちに襲い掛かった。
「うぉーーー! な、何で俺までーーーっ!!」
こうして第何回目になるのか分からない制裁大会が始まった。今回は横島だけでない所に少しだけ救いがある…のだろうか?
「雉も鳴かずば撃たれまい…ですね」
これもまたスキンシップの一部なのだろうと己の心を無理やり納得させてピートは騒ぎから目をはずした。この状況で下手に手を出しては自分もまた巻き込まれてしまうことが分かっていた。まあ、今までにそうやって巻き込まれて横島もろともにといった事が3回もあれば十分、止めるのは無駄というか無謀であることは身に染みていた。
*
「ふぅ、尊い犠牲(友人A)の元、無事に昼休みを迎えることが出来たな」
お前のことは忘れないと横島が思ったかはともかく、あの一連の騒ぎは教師が来るまで続いた。最早お約束のようにケロリとして授業を受ける横島達だったが、友人Aの席だけは主が居なかった。流石に人間離れした回復力を持つ横島と違って友人Aは保健室送りだった。
「横島さん、それはないでしょう」
「あいつのは自業自得だからな」
そもそもの原因である自分の事は棚上げに友人Aの事を評した。
「確かにそうなんですけど…」
「まあ、災難ではあったよな。あんなのは俺やピートならともかく」
「…僕と横島さんが同列と言うのも」
バンパイア・ハーフたる自分と横島の回復力が同じなど本当に人間なのかと思ってしまうのであった。いや、考えようによっては自分は人間と余り変わらない存在と捉えることも出来るかもしれない。
「何だよ? あれだけの回復力は霊能力があるからだろ」
横島の言葉をそれは違うと思いますとピートは口にすればややこしいことになりそうなので内心で全力で否定した。横島は誤解しているのだ、霊能に目覚めてからその人離れした回復力に磨きがかかっているが、霊能のヒーリングなどはあそこまで驚異的なものではない。
「そうなんですかね」
じゃあ、あの回復力は? と問われればピートは答えることが出来ないそれゆえの言葉であった。
「それより、めし、めし!」
「そうですね」
「っておいっ! しまったー!」
自分の薄っぺらいカバンを見て横島は頭を抱えた。
「どうしたんですか?」
「うう、そうだった。今日はおキヌちゃんが居ないんだった…」
うるうる涙目に横島はがっくりと肩を落とした。キヌと出会ってからは彼女が横島のお弁当を用意していたのだがそれをすっかり忘れていたのだ。
「それは…気の毒というか…」
「あかん、財布もおキヌちゃんに渡して居るんやった。誰かに借りるか」
せめてパンでも買おうかとも思ったが、キヌが買い物があるという事で預けていたことを思い出し、友人に借りようと思ったが午前中の騒ぎでもっとも借りやすい友人Aは居なかった。
「何で僕を避けるんです?」
普通なら目の前に居る自分に真っ先に言ってくるはずが逸らされたのだ。不快にもなろうというものだ。
「え? いや、お前の生活状況を考えるとそれは言い辛いと言うか…」
「失礼な、ご飯一食分ぐらいなら余裕はありますぅ!?」
ピートが懐に手を入れてあるはずのものが無いことに気づいて青ざめた。
「どうしたんだ?」
ピートの様子に横島は怪訝そうな表情で見やった。
「…さ、財布がありません…」
「何だ、お前もか? ってその様子だと落としたのか!?」
あちゃー、災難やなーと横島は気の毒に思った。
「ど、ど、どうしましょう?」
ピートは思っていた以上に青ざめた。だが、それが彼をヴァンパイア特有の種族的な美しさを醸し出し、周囲の女生徒はぽぅっとなり魅了されていた。それだけではない男子生徒もまた、女生徒ほどではないが見とれてしまっていた。唯一、そんな反応を示さなかったのは横島だけであった。
「どうしようといわれてもな…」
ぽりぽりと頭を掻きつつ、ピートのあまりのうろたえ様にどう対応しようか困ってしまった。
「こ、このままじゃ、僕はともかく、先生の食事が…」
「なんだ? またあのおっさん、財政がレッドゾーンなのか?」
「まあ、ここ最近の仕事はお金に困っている人たちばかりでしたから…」
「あの人の性格を考えたら金とるのは無理だわなぁ」
ピートとつるんだりしているお蔭で唐巣の実態を知ってしまった横島には令子の師匠である事を差し引いても、少々間抜けな人という印象を抱いているのであった。
「そっちの方はおキヌちゃんに言って何とかするさ。一応、世話になっているしな」
「すいません」
「それはいいとして昼飯の確保をどうするかだなって、何だ?」
横島が気がつくと生徒の何人かがもだえ叫んでいた。
「うそだー! 俺はノーマルなんだー!」
「はぅ!? だ、だめよ! 私には健ちゃんが居るんだから!」
「はは、僕はバラの世界を垣間見た…」
「そんな筋金入りの…な私が男に惹かれるなんて」
「素敵…って、ちゃう! ぼ、僕が好きなのは山原だったはずだ」
一部に、問題的な発言をするものたちも居たようだが、皆、ピートの魅了にやられたものであった。
「何なんでしょうね?」
「さあな。どうでもいい。それより俺の飯をどうするかだ」
ピートはいつもの食事として花を用意しているので問題はなかった。何時もならピートに差し入れがあったりするのだが、午前中の騒ぎで駄目になってしまっていた。
ガラッ
横島が悩んでいた時、教室の扉が開いた。横島は特に気にすることは無かったが、周りがざわついたのが気になってそちらの方を向いた。そこにはスミレ色の着物を着た和服美人が立っていた。
「二無さん!? どうしてここに?」
”ああ、横島様。おキヌさんに頼まれてお昼のお弁当をお持ちしたのです”
二無は横島を見てふわっと笑顔を浮かべ、3段の重箱の包みを見せた。
「流石、おキヌちゃん。ええ娘や!」
キヌの配慮に横島は涙した。
”ささ、横島様。今日は日も良い事ですし、外で食べれば一層おいしく感じましょう”
二無はそう言うが否や横島の手を取った。
「そうだな」
横島も二無の誘いにひゃっほうっとご機嫌でそのままスキップでもしだすんじゃないかと言うぐらいのハイテンションでついていった。
ガラガラ、ピシャッ!
シーーーン…
横島達が出て行き教室の扉が閉まった後、教室内には昼食時であれば喧騒があって当たり前のはずが、静寂が訪れていた。
あまりの展開に教室のものは固まっていた。ピートのゴクっという息を呑む音がきっかけに静寂は崩れた。
「ど、ど、どどういうことだ!?」
「な、な、何が起きたんだ!?」
「先程のは幻か夢!?」
「う、うそだーーっ! 誰か嘘だといってくれーー!!」
「な、何なのよ。一体何が起きたって言うの!?」
教室に居たものは皆、混乱した。突然現れた女性が見せた笑顔は掛け値無しに好意を持つ者に向けたものだったのだから。当然の帰結ながら事情をもっとも知っていそうなピートに詰め寄った。
「ど、どういうことなんだ!? ピート!」
「そうよ、ピート君。あれは誰!?」
「皆さん! お、落ち着きましょうよ!」
しまった! 逃げ遅れたとピートは内心で歯噛みしつつ、興奮する友人達をなだめにかかった。
「さあ、吐けっ。 やれ、吐けっ! すっきりと吐くんだ−−!」
「く、苦しいですって! 僕も彼女に関しては知らないんですってば!!」
「そんな筈はないだろう!? 最近は何時も一緒に行動していたじゃないか!!」
「ほんとうですってば! 信じてくださいよ」
「本当に知らないの!? 気になって仕方ないじゃない!」
「こんなんじゃ、折角の昼飯も喉に通らん!」
「こんな気持ちのままなんて、イヤー−ッ! 誰か助けて!」
「いや、助けて欲しいのは僕です」
ピートはいまだ自分に詰め寄り、締め上げている奴らから脱出する事ができず、困り果てていた。財布は無くすは混乱に巻き込まれるはと今日はついてなさ過ぎると涙した。
だが、多少包帯だらけとはいえ復帰を果たし、保健室より帰還した友人Aにより、更なる混乱がピートに降りかかるとはこの時知る由も無かった。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。