--------------------------------------------------------------------------------
GS美神 リターン?

 Report File.0064 「幽霊潜水艦ピ−13 未だ戦争は終らず その1」
--------------------------------------------------------------------------------


 …思い起こせば、あれは8月某日のことだった。その日は雲ひとつ無い快晴といっていい天気だが季節柄、爽やかとは言い難く暑い日ざしに外で過ごすのはうんざりというぐらいのものだ。普段であれば、自宅は蒸し暑く、じっとしていても汗だくになってしまうので職場に暇さえあれば入り浸っていた。そんな環境でも死津喪さんは元気であり、グリンなどはクロ大尉に連れられてどこかに遊びに行ってしまった。GIジョージ人形のサカラ軍曹(多分)が一緒に居たのは少し気になったが。

 そんな日に私こと横島忠夫が所属する美神除霊事務所一行は海上保安庁の「幽霊船狩り」に参加した。

 ”幽霊船狩り”とは毎年行われる行事で、船舶の航行を妨げる幽霊船をとっつかまえて成仏させると言うものだ。

 美神さんによれば、ここ最近は普通の幽霊船が現れるだけで楽になったってことだ。それってどういうことです? と質問した。

 「決まってるじゃない戦艦よ。幽霊戦艦」という答えが返ってきた。その苦々しい顔つきからして遭遇したことがありそうであった。

 何だか幽霊船というと帆船とかガレー船(*1)とかいった古臭い船がボロボロになった状態が主なイメージを持っていたが、それがガラガラと崩れた気がした。美神さんは戦艦だと言っていたが海上保安庁の職員によれば正確には巡洋艦クラスだとか補足してくれた。この辺は男と女のミリタリーに対する拘りの差なのだろうか。

 興味に惹かれて詳しく聞くと第二次世界大戦終戦直後とかは、かなり大変だったらしい。何せ、戦艦を含む艦隊規模で出現したって話しで、出会った船は軒並み沈めていこうとするので滅茶苦茶性質が悪かったらしい。大体、向こうは霊的な存在なので一般兵器では太刀打ちできない。襲われれば成す術なく沈められるのだ。

 襲うのも何処の国ってのも関係なく行われて大問題。さながら死者による生者への通商破壊ってやつだった。この艦隊のお陰で一時期、戦後復興がままならなくなったらしく、どうにかしなければと世界中から拝み屋(GSって言われる前の呼称)をかき集めて対処したそうだ。何てったって相手は幽霊。霊能者でなければ対抗できなかったからだ。

 まあ、それが切っ掛けでGS協会が立ち上がったり、オカルトが世間に大々的に認知され始めたりと、何気に聞いた質問が今のGS制度の成り立ちに繋がって行くとは思いもしなかった。

 しかし、折角の海とは言っても海岸ではなく船の上であり、仕事であるので色気も期待できないと半場諦めていたが、まさか美神さんが水着になって仕事をするとは思いもしなかった。私は思わぬ幸運に感謝し、心の中で小躍りした。何だかどんどん運が良くなっているようで、ここ最近になっていい事ばかり…ってわけでもないが美神さんにかかわる前に比べればはるかにいい思いが出来ているのを考えると何か反動が怖くなってしまった。

 私はざわめきたった心を落ち着けると、美神さんが水着で居る理由を確認した。すると万一の事があって、海に放り出されたりしたら私服では大変だからとの事だった。その表情から多分、先程の幽霊戦艦と遭遇したか何かの時に何かあったのだろう。

 私はそれを聞いてもっともな意見だと納得し、念のため水着を用意していたのを幸いと水着にTシャツに着替えた。最近、バイトは体力勝負と師匠である美神さんの下で鍛え始めているとはいえ、まだまだ体を使うのが本業とばかりの周りの者たちに比べれば貧弱といって言っていいだろう肉体を晒す気にはなれない。第一、こんな強い太陽光は素肌に悪いのだ。

 水着に着替えた判断は結果から言うと正解だった。話を聞いていた時は結構気楽な仕事でかつ、美神さんの水着姿を堪能できると思っていたのだ。実際、他に搭乗していて、ふてえことに双眼鏡で美神さんの尻をクローズアップして見ていた、職員の兄ちゃんの双眼鏡を借り、でへへと気持ちよく観賞していた矢先のことだ。

 私達の乗っていた船にどこからとも知れずにやってきた魚雷が命中し、海に放り出されたのだ。何故か私だけ。何が何だかわからない状態であったが、溺れないように必至に海面に顔を出した時には私達が乗っていた船は大ダメージを受けて沈没寸前だった。美神さんが気になったが前に人類が滅んでも私は生き残る! と豪語していたし、死んだって生き返りそうな人だから大丈夫だろうと思った。あれ? 前って何時のことだんだ? 一瞬、考え込んでしまったが今はそんな場合じゃないと慌てて頭を振って、もう一度見上げると救難用のゴムボートに乗って脱出してきた美神さん達を発見した。

 やっぱり、無事だったんだとホッとするとともに救難ボートのほうに泳ぎ始めた。ほんと、水着着ていて良かった。普段着だったら溺れていたかもしれない。

 救難ボートの近くまで泳いでいくと怒り心頭の美神さんが魚雷がきた方向を睨みつけていた。それを見た私はあの人だけは心底怒らせちゃいけないと思ったぐらいで、もう、視線だけで魔族だって射殺せそうな迫力があったほどだ。

 私は恐怖でぶるっと震えるが、勇気を奮い起こし、美神さんに自分の無事を告げるべく叫んだ。

 怒り心頭だった美神さんは私の呼びかけに気がつき、こちらを振り向き口を開いた。

 正直、あれ? 横島クン生きてたの? って言葉には凹みました。まあ、あの視線をこちらに向けずに言われただけなんぼかマシだったのは確かではあるのだが。

 気分が沈んでいた私に霊的な感覚が異常なほどの霊気を捉えた。感じた方向に振り向くと魚雷がきた方向に何かが浮かび上がってくるのが見えた。

 何だと目を凝らして見ると何と潜水艦が浮上してきたのだ。それもただの潜水艦ではない。霊的な存在…幽霊船ならぬ幽霊潜水艦だった。その霊的な圧迫感、闇を纏うかのような黒に私は驚きの声を上げた。が、その声さえも掻き消えるような声が辺りに響く。

 美神さんだった…。ちらっと美神さんの様子を窺う…心底後悔しました。鬼夜叉っていうのはあの人の為にあるのかもしれないと言うほどの怒気を纏っていた。

 本能がニゲロ、ニゲロ、ニゲロ、アレハキケンダ! と叫んでいた。だが私の体はその声に反して動くことが出来なかった。幸い怒りの矛先が自分ではないのは救いだったが、このままだとあの怒りに巻き込まれそうな予感がした。

 怒りのボルテージを上げ続けている美神さんは今にも飛びかかりそうな勢いだったが、それは海上保安庁の職員さん達が羽交い絞めにして阻止していた。よく、あんな真似が出来る…必至の形相で美神さんの暴挙を止める海上保安庁の職員さん達に尊敬の念を抱いてしまった。

 しかし、美神さんもえらい無茶だ。あの幽霊潜水艦相手に己の五体だけで挑もうとするのは幾らなんでも無謀すぎる。

 だいたい今の装備と状態ではあの幽霊潜水艦相手に何も出来ないはずなのは美神さんにもわかっているはずだ。多分…層であって欲しいな…。

 普通ならば諦めるだろうだがあの美神さんである。引き下がるわけが無いということは絶対に報復しようと行動するだろうし、そうなればしわ寄せはこちらに来る事は短い付き合いながら悟ってしまっっていたので私は溜め息をついた。

 私が諦め、今後降りかかってくるだろう事をどう切り抜けようかと物思いにふけっていると乗っていた船を撃沈した幽霊潜水艦は船がゆっくりと沈んでいった。それを幽霊潜水艦は確認したようで、満足したのかゆっくりとこの海域を離脱しようとしていた。それを見た美神さんは追いかけろと叫んだが海上保安庁の職員さん達は無謀ですと揉め始めた。

 暴れだす美神さんを必至に止めようとする海上保安庁の職員さん達にますます尊敬しちゃいそうだ。って、あっ! あいつらドサクサにまぎれて美神さんに触れまくっていたじゃないか! セクハラ公務員めっ!! それは俺んだ!! ぐばっ!

 思わず取り乱してしまった私は海水を思いっきり飲んでしまった。慌てて苦しくなった体勢を立て直す。げほげほ、痛むのどをさすりながら何とか溺れることだけは何とか免れた。常に冷静たれ…美神さんが仕事を行う上で常に言っている言葉、これはいい教訓であった。

 先程までの海上保安庁の職員さん達への尊敬の念など吹き飛んでいた。すぐさまボートに辿り着きやつらに制裁を加えねばとした時、ドッドッドッドッドッと重低音に響くエンジン音が聞こえた。音のする方を見ると船がこちらに向かって来る。その大きさと速さそれに派手なエンジン音から、何らかのチューンアップされているように思われた。その船はまっすぐとこちらへと向かってき、…っておい、このままじゃ轢かれるじゃないか! 冗談じゃないと慌てて船の進路方向から逃れるべくボートの方へと泳いだ。

 おい、船に乗っている奴、なにか私に恨みでもあるのか? 私はボートに向かっているが船もそれに合わせて微妙に進路が変わり、まっすぐに私に向かってきている。

 予想以上に迫ってくる船の速度は速かったのか何時の間にやら私の至近距離にまで…って、冷静に語っている場合ではなかった。私は無我夢中で美神さんたちのボートへと泳ぐ。切羽詰ったこの状況での泳ぐ速さは自己ベスト更新だろう。だがその私の必至の努力をあざ笑うかのように船は私に激突した。

 ぐっ…私はガツンと背中に衝撃を受け、意識が飛んだ。次に気づいた時には背中に激痛と浮遊感を感じていた。それはそうだろう私は空中に居たのだから。

 だが、その浮遊感も長く続くことはない。私は空を飛べるわけではないのだから。上昇という運動エネルギーは重力によって削り取られ続ければある所を境に私の進む方向は逆転する。即ち、落下するのだ。

 滅茶苦茶高い所から落下するのであれば、下が水であろうともその衝撃はコンクリートとなんら変わらないだろうから意味が無いが幸い私の経験からそれほど高いわけではないように感じた。

 これならば下は海。落ち方さえ間抜けでなければ無傷でいられるだろうと落下の体制を整えた。しかし、世の中とは無常。私の落下ポイントには私を撥ねたと思しき船が停止していた。

 私は口の中で船主を罵った。この船主は私に恨みでもあるというのだろうか。短い時間なの中、ちょっぴり私を撥ねやがりました船主に復讐すべく落下ポイントを船主の上になるようにしようともがいた。その努力は報われなかった。私の意図すべき行動を完遂するには与えられた時間は余りにも短かったからだ。

 背中への激痛を感じ、これ以上痛い思いはしたくないと、迫り来る甲板に衝撃を最小限にしようと体勢を変え身を縮め、霊力を体にめぐらせ、身体能力を向上させる。この程度の高さなど普段の試練に挑み失敗した時に較べればどうって事ない。

 私は衝撃を見事、膝のクッションで吸収し華麗に着地した。…はずだった。足元に油で滑りやすくなっていなかったなら。

 ぐしゃっとともに自分の顔に衝撃が遅いくる。それとともに意識が朦朧となってしまった。お、おのれ…私が一体何をしたというのだ。何とか起き上がろうと顔をあげた瞬間、後頭部に衝撃を受け再び顔面をぶつけた後、意識がブラックアウトした。


(つづく)

--------------------------------------------------------------------------------
注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。


*1) ガレー船……オールが両舷に数多く備えられ、人力で動く船のこと。






<Before> <戻る> <Next>