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GS美神 リターン?
Report File.0055 「海から来た者 その8」
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「しかし、何でこんなに人が集まってんだ!?」
さて、日射血暴流…もといビーチボールを始めるにあたって意外に人が集まっており、その視線が横島達に突き刺さる。目立つカクやスケなどは逆に堂々としていた。
「横島君、がんばって!」「がんばっ!」「期待してるわよ」
「おおっ! お、俺を応援してくれる人がいる!! 人生18年の中でも千載一遇、空前絶後、史上最高じゃーーっ!」
横島も少しばかり怖気づいたが、観衆の中に千恵や翔子たちが応援してくれている事を見て取り、奮起していた。
「基本的には2対2でやる以外は私達の知っているビーチボールとルールは同じわけね」
「そうです。1セット9点先取で勝ちです。それを正式には最長5セット、3セット先取何ですけど、女性での決闘なので最長3セットの2セット先取です。それに私達の方は3点のハンデがあるそうです」
ハンデについては今までの決闘では男対男、女対女はあっても、男対女は過去に1例あるのみで今まで無かった事である為の措置だ。本来、プライドの高い令子であればハンデなしと言いそうなものであるが儲け話が掛かっているので遠慮なく受け入れた。
「では、夫婦和解を賭けた日射血暴流を始めたいと思います」
1セット目の最初のサービス権は令子たちが手に入れ、令子とナミコは話し合い、令子がサービスを行うことになった。
令子は霊力を手にまとわせウニボールを持った。一歩間違えて霊力を出さずにこのウニボールに触ると棘が刺さり血だらけになるだろう。言い知れぬスリルを令子は感じつつ、まずは探りと横島に狙いを定めてアンダーサービスした。
バシュ!
通常、ビーチボールで使うボールとは感触が違い、どちらかというとバレーでつかうボールに感覚的に近かった。
「げっ! いきなり!」
しょっぱなから自分に飛んできた事に横島は先程の奮起はどこへやらと、腰が引けてしまった。それでも霊力をまといつかせる事だけは忘れなかった。だが及び腰では探りとはいえ手の抜いていない鋭いサービスを受けきれなかった。ウニボールは横島の腕に当たりはしたがコート外へとでてしまった。
ピピーーッ!
得点が決まった笛の音が鳴った。
『横島どん、ナニをやっているだ!? しっかりしてけろ! 美女が懸かっているだよ?』
最後のほうは横島を奮起させる為に横島だけに聞こえるように言った。
「はっ! そうだった。これには美人のねーちゃんと知り合うチャンスが!」
横島は先程、触れたウニボールの感触に霊力さえまとえば大した事がないということも分かり張り切り始めた。横島の言葉については横島に好意を持つ女性に聞かれればムッとするだろうがちょっとした騒ぎが起きた事で聞かれることは無かった。
「横島様は余程女の方がお好きなようですね…」
いや例外で若干一名だけは聞いていたようだった。
さて、ちょっとした騒ぎというと、コート外にでたボールを観衆の一般人の一人が触ってしまったのだ。
結果…
「ぎゃーっ!! いてぇ! 刺さったーっ!!」
横島が触った時と同じである。いや、それよりも悪かった。
『ああっ! だめだよ。普通の人が触ったら危ない』
慌ててそこにヒデが駆け寄った。スケもそれに同行するが彼は怪我をした者を見る為ではなくウニボールを回収する為だった。これにより、観衆はこれがただのビーチボールでは無い事に気づく事になりざわめいた。
「なんだ!?」「何なの?」「これって被り物でやるバラエティー番組じゃ無かったの?」「それにしてはテレビカメラが無いぞ?」
等々の言葉が口々にのぼった。
ヒデは怪我人に傷薬を塗ってやった。すると、たちまち血は止まり傷口はふさがった。それを見て怪我人は口をあんぐりと開けてしまった。
『直ったように見えるけどそれは表面だけ。完治するのには後2日かかるから、両手は使わないように』
驚く怪我人を尻目に淡々と告げるとヒデはスケの所に戻った。
『どうやった』
『軽いから傷薬ですぐ直る程度。しかし、まずったな』
『そやな、いつもの観衆はみんな霊力持っとったからなあ』
スケは腕を組んで自分も気づかんかったと反省した。確かにいつもの観衆は人間ではないので霊力は普通に持っているのだ。
『ああなったんはこっちの配慮ミスだ。ご隠居にどやされる』
ヒデは頭を抱えた。
『起きたんはしゃあないやろ。くよくよしてもしゃあない。それより、今後発生せんように結界張ろうや』
そんなヒデを励ますようにスケはヒデの肩らしい所を叩き、励ました。
『ですね』
ヒデも心を入れ替えて、スケと一緒に結界を張る準備をし始めた。その間はもちろん、日射血暴流は中断である。
と相成ったのである。
「何だかこの緊張感堪らないわね」
「それ故の決闘方法ですもの。霊力を普通に使える私達でも油断すれば、ああなります」
ナミコは血を流す怪我人を指した。令子はそれを見て気を引き締めた。自分もまた油断すればああなるのだ。顔なんかにあんなのを食らっては堪らないのである。
約10分ほどで結界を張ったヒデたちは再開を宣言した。
1ポイントを先制したナミコ・令子組は引き続き、サービスを行う。今度はナミコだった。ナミコもまた横島の方へサービスを行った。自分の夫よりも横島の方が組みやすしと考えての行動だ。
『横島どん!!』
またもや横島にウニボールが行くのにカクは不安から横島に注意を呼びかけた。
「うぉ! またか! だがいつまでも穴じゃない!」
だがそんなカクの思いは杞憂であった。先程のウニボールを受けた時に大丈夫なのだと横島は実感できたのだ。多少、霊力をまとわせる事については未だ不安があるものの、それでも何とかなると思える感触を掴んでいた。そのお陰で、またもや来るウニボールに今度は確りとレシーブを行う。
『いいだよ、横島どん! 食らうだ!』
横島の上げたウニボールの落下タイミングを掴み、カクは飛び上がった。その高さは人では考えられないくらい高い。これも半魚人の身体能力の高さだろうか。
「なっ! あんな高さから!?」
流石に3メートル近いところからスパイクされるとは思いもよらなかった令子は叫ぶ。
バシュッ!
「おおーーっ!!」「すげーーっ!」
カクによりウニボールが叩き込まれる。その強烈なスパイクは見事に決った。観衆はその驚くべき身体能力とスパイクの鋭さに驚き、歓声をあげた。
「…なるほど。私達の常識で考えちゃいけないって訳ね」
令子は無意識のうちにか獲物を狙う肉食獣のように唇をぺろりと舐め、目を爛々と輝かせた。
(す、すごい。だが、今の俺なら…)
カクの人外の身体能力に横島は感心したものの、霊力を体に張り巡らし始めてから感じている今の己の体感覚はカクと同じ、いやそれ以上のことができると感じていた。それは以前にも感じた事のある感触で、その時は身体も軽くとんでもない事ができたのだ。
次のサービスはカク・横島組である。こちらは横島が最初に行う。
(そう言えばさっきカクはスパイクする瞬間にこのウニボールに霊力を込めていたような気がするんだが何か意味があるんだろうか?)
横島はカクのスパイクする瞬間を思い起こしていた。本来ならそう言った疑問をタイムを取って聞けば良いのだが、そこまで頭が回っていなかった。
横島は兎に角、サービスせねばとアンダーサービスを行った。ウニボールはナミコの所へと飛んだ。ナミコはそのサービスをうまくレシーブし、ウニボールを上に上げた。
(あっ! ナミコさんも同じようにウニボールに霊力を込めた!?)
横島はナミコもカクと同じ事をした事で何か意味があると感じた。それと同時に意味があるなら何故、カクは自分に教えてくれないのかという疑問も起きた。しかし、今は疑問を問い掛ける事もできない。
「ナイス!」
令子はナミコがうまい具合に打ち上げていたのでそのままスパイクで叩き込む事にした。令子はスパイクする為にジャンプする。その高さはカクに勝るとも劣らぬ高さであった。
「そりゃ!」
令子のスパイクの一連の動作は綺麗でそこから生まれた力は余す事無くウニボールに加えられた。結果、カクのスパイクよりも鋭く打ち下ろされた。
「「「「おおーーっ!」」」」
見た目も麗しい美女のとんでもないパフォーマンスに再び驚きの声が沸いた。
『ぬあっ!』
しかし、そのスパイクもカクの飛び込みレシーブに拾われ決める事ができなかった。
「何ですって!?」
渾身の一撃を受けきられ少なからず令子はショックを受けた。
「令子さん! ショックを受けている暇は無いわ!」
「くっ!」
令子がショックを受け僅かに固まってしまった間に、拾ったウニボールは横島にトスされ、カクがスパイクする為、ジャンプしようとしていた。
『いくべっ!』
カクは先ほどと同じようにスパイクを叩き込む。
ナミコが拾おうとするが間に合わなかった。
ピピーーッ!
得点が決まった笛の音が鳴った。これで4対1である。ハンデのお陰で未だナミコ・令子組が有利ではあるが試合運びから見て明らかに令子達の方が不利なのは明らかだった。
(やっぱりそうだ。俺が霊力を込めたからか格段に威力が上がっていた…)
横島はカクやナミコがウニボールに霊力を込めていた意味が何となく掴めたような気がした。
『やっただな、横島どん。この調子でどんどん追いつき追い抜いてやるだ!』
「あっ! 審判、ちょっとタイム! なあ、カクさん」
横島は作戦タイムだと審判をしていたスケとヒデに申請し、了承を得るとカクに近づいてこそこそと話し出した。自分が思った疑問については令子が気付いていない節が見られたからだ。
『何だべ?』
「あのウニボールに触る時に霊力を込めてなかったか?」
『そうだべ』
「それって何か意味あるのか?」
『あれ? 言ってなかっただか?』
「聞いてないぞ…」
しっかりしてくれと内心では思ったが口には出さず飲み込んだ。
『そ、そうだべか? あ、そうだべ、オラ達には常識だったから話してなかったんだべ』
カクはしまったと顔をパシッと叩いた。
「で、どうなんだ?」
横島は少し眉根を上げて聞いた。
『霊力を込めれば込めるほど硬くよく弾むようになるだ』
「なあ、それってラッシュが続けばあのウニボールが凄い事になるんじゃ…」
『んだ、そうなって来るとかなり危険だべ。そうなると触れる時は霊力で防御をあげていかないと大変な事になるだ』
カクはそう解説すると自分の両腕を横島に見せた。
「げっ!」
横島が差し出されたカクの両手を見ると皮膚に薄っすらと剣山が刺さったように穴が空いていた。
『さっきのは咄嗟だったから防御を上げるのが間に合わなかったんで、ちょっと穴が空いただよ』
皮が厚くてよかっただとカクは付け足したが横島は、自分だったら今ごろ腕がとんでもない事になっていそうだと、汗をダラダラと流して固まっていた。
『まあ、ウニボールが地面に接触したり、十秒以内に続けて霊力を与えなければ元の状態に戻るだよ』
カクが気軽に言ってのけるがようやく、これがビーチボールではなく日射血暴流であるのだという事を理解し始めた横島の耳には入っていなかった。
(…なんだか、やばい。これは続けていけば”死”! …だが、ここで逃げ出せば応援してくれている千恵さん達へのイメージアップが! 何より美人のねーちゃんと知合えるチャンスが!)
横島の脳内では危険な勝負と乗り切った時の甘い報酬との間で天秤が揺られていた。
『横島どん?』
何だか様子が変な横島にカクが顔を近づけるとブツブツと呟いているのが耳に入った。カクは溜息を吐くとポケットに手を突っ込んで写真を選び出し、横島の視界にその写真を入れた。
ガバッ!
その瞬間、まるでカメレオンがエサを捕食するように横島は反応し、写真を掴み取り眼をくわっと開けた。
「ふっふっふっ、何を迷っていたんだ俺は? こんなねーちゃん達が待っているんだからな」
『それでこそ、横島どんだべ。頼りにしているだ』
出会ってからそれ程経っていないのにも関わらずカクは横島の操縦のつぼを押さえていた。やはり女好きという似たもの同士だからだろうか?
何はともあれ横島は煩悩により霊力を上昇させつつ復活した。こうしてカク・横島組は強力な戦闘態勢を整えた。
一方、ナミコ・令子組はというと令子が先ほどのカクのスパイクの威力に焦りを見せていた。
「まずいわね…」
「大丈夫です。あの人は短期決戦タイプですから、長引かせればこちらに有利になります!」
「確かにそうかもしれないわね…」
令子は暑い日差しに空を見やったが、このままでは勝機が薄いという事を勘が告げていた。
(だけど、何か一押しあれば勝利できるとも勘が言っているのよね…)
何が足りないのかと令子は思案する。それは思いのほか時間が取られた。その間、考えを邪魔するのは悪いと暇を持て余していたナミコが周りを観察しているとこめかみの辺りに青筋を立てた。なぜなら、カクが横島に写真を見せ横島がその写真に飛びついた光景を見たからである。
「……令子さん…、勝ったら報酬としてあの真珠を一つ、いえ、二つ更に差し上げます」
「何ですって!?」
その言葉を聞いた瞬間、令子は先ほどの勝てないという不安感が払拭され、目が円マークに輝いた。それと共に令子の霊力も増幅される。
何気にナミコも令子の性格を掴んでいたようで萎えていた令子の気力を復活させる事に成功した。この夫婦、何だか人を操る術に長けているというべきか、そんなので操られる令子や横島が単純というべきか一寸微妙で迷う所ではある。
こうしてナミコ・令子組もまた戦闘態勢を整えたのであった。
未だ日射血暴流の勝負は続く。果たして勝利の女神が微笑むのどちらなのだろうか?
(つづく)
<おまけ>
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日射血暴流(びいちぼうる)
魚人一族の間に伝わる伝統的な決闘方法である。
水棲種族にとり、陸上での長時間の行動は死と隣り合わせである。なぜなら彼らは生息
している環境から大量の水分を必要としているからである。
そんな彼らだからこそ、決闘の時は陸上に上がって決着をつけるようになったのだ。そ
の決着には互いにウニを交互にぶつけ合い、時間内に倒せなければ共倒れという制限の中
で死力を尽くして行う為、血は暴れるように飛び散り流れたのがその名の由来である。
なお、近年には世の流れから細かく規則が付け加えられ、死者が出ないように変わった
ようである。
民明書房刊
『異種族の決闘・海の王者』より
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。