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GS美神 リターン?

 Report File.0048 「海から来た者 その1」
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「うーーみーーーっ!! いいぞーーっ! うぉ! む、胸の谷間がっ! 乳揺れがごっついぞーーっ!!」

”すごーい、私、山の中にしかいなかったんで海って初めてです!! 湖とかなんて目じゃないです”

「結構な賑わいね…」

 キヌは海という雄大な景色に酔いしれ、横島は水着姿でうろつくねーちゃん達に感動している。ただ令子は前の二人とは違って、海岸を見回し海水浴を楽しんでいる人達が一杯いるのに少し辟易していた。

「そもそも事の起こりは…」

 そんな一行にホテルの支配人は依頼の時に簡単に説明した事をもっと細かく説明しようとしていた。


     *


 事の起こりは夏にしては珍しく雨が降っていた日だった。雨は土砂降りで、時折、雷が鳴るほど激しい。風も時折、突風になるのか窓をガタガタと揺らす。こんな日は客たちも大人しく部屋に篭るか室内施設を使って過ごすしかなかった。

 折角遊びに来たのにこれじゃ台無しだと文句を垂れる声があがったが自然相手にはどうしようもない。

 天気の悪さはその夜の間も続いていた。そんな日の夜に異変が起きたのだ。気が付いたのは一組のアベック。恋人たちの甘い一時を楽しみ余韻に浸り眠りについた時の事だ。

ズルッ、ぺたっ、ズルッ、ぺたっ。

 何か引きずるような音が響いた。

「ん? 何だ?」

 その音に男は気が付いて眠りから覚めてしまった。

”どこだ…!?”

 かすかに聞こえる声。男は気のせいか? と首を傾げた。

「どうしたの?」

「ああ、起こしちまったか…何か引きずるような音がして目を覚ましちまった」

 その言葉に女は据え付けられている時計を見る。時刻は01:52を指していた。

「夜中よ。誰がそんな事してるって言うのよ…」

ズルッ、ぺたっ。

”どこだ…!?”

 だがそんなやり取りをしていた二人に確かになにか引き摺るような音、それに何かの声が聞こえた。

「…ちょっと様子を見てくるよ」

 二人は顔を見合わせた。音は何か不快感をもたらした。その事に男は迷惑にも程がある、文句を言ってやろうとベッドを抜け出した。

「気をつけてね」

 そんな男を女は少し心配しながら送り出す。

「ああ…」

 男は慌てて下着やTシャツを身に付けて部屋を出た。

ガチャ!

”どこだ…!? どこだ…!? どこに…”

ズルッ、ぺたっ、ズルッ、ぺたっ。

「一体誰だよ、こんな夜中…」

 扉を開けて廊下へ一歩踏みでて、音のするほうに振り向くとそれは居た。

「!」

 廊下は節電なのか雷による停電なのか電気が消えていた。それでも非常灯だけは点灯しており、そのお陰で薄っすらとだが黒い塊のようなものが見える。

 眠気眼ではっきり見えないのかと思い、眠気をすっきりさせようと目をこすって黒い塊を見てみると細部がごつごつしているようだった。それにヒレみたいなのが見える。

(ヒレ!?)

ピシャ!

 男が黒い塊についているのがヒレじゃないかと認識した時、雷が鳴り、雷光が辺りを照らす。雷光は殆ど一瞬であったが黒い塊の細部まで露わにし男の目に映した。

 そこには目をぎょろりとさせ顔は魚を連想させ、身体にはびっしりと鱗の生えた人型の生物が立っていた。

「!!」

 男は声に出ない悲鳴を上げた。

”ぎゃ、ぎゃ!”

ガシャンッ!

 黒い塊も男に驚いたのか、何か叫びをあげると近くの窓に突っ込み外に逃げ出した。

「なっ、何だ!? 今のはっ!?」

 自分が見たものを信じれず頬をつねる。イタイ…

「どーだったのぉ、ケンちゃん…」

 男がなかなか戻ってこない事に心配したのか、スケスケのネグリジェのまま女が眠いのか瞼をこすりつつ様子を見に出て来た。

「きゃっ! つめたっ! 何っ!? それに何か生臭い」

 女は素足でぬちゃっと何か液状のものを踏んで驚いて足を引っ込めた。

「もう…やだぁー、気持ちわるい〜」

 足がぬるぬるすると床にこすりつけ拭おうとした。

シュッ!

「いたっ!!」

 女は足をこすりつけた時、何かで足を切った。血が流れ出すのを女は感じた。結構、大きく切ってしまったみたいだ。

「どうした!? 見せてみろ!」

 女の声に我に返り急いで足を見る。カッターのような刃物で切ったような傷が出来ていた。

パッ!

 急に明かりがつくやはりさっきまで停電だったのだろう。男は一瞬まぶしそうにするがすぐになれる。もう一度傷を見ようとした時、何かが光った。

「何だ? これ?」

 男はひょいっと光っていたものを手に取った。拳よりちょっと小さいものだった。

「うろこ!?」

 拾い上げたそれは魚にある鱗だった。そのとき雷光で照らされたあの黒い塊の姿がよぎった。

「あ、あれは本当の事、だったんか!?」

「ちょちょっと、ケンちゃん」

 男が驚いて呆然としている時、女もまた自分が足を怪我している事も忘れて、男に自分が見つけたものを肩を叩いて知らせた。

「な、何だよ。なっ!! なんじゃこりゃあーーーーっ!!」

 そこには何かが這いずったような跡と時折、男が拾った鱗みたいなのが落ちていた。

「いやっ! いやっ! いやーーーーーっ!」「うっ、うわーーーーーーっ!!」

 深夜に男女の悲鳴があがった。


     *


「…という事件が起こった後、似たような事が頻発しているのですが…あの…聞いてくれてます?」

 ホテル支配人が令子に心配そうに声を掛けた。それもそのはずだ令子はいつの間にやらビーチパラソルを立て、サンドベッドを設置しそのサンドベッドにサングラスにワンピースの水着で寝て寛いでいた。

 その上、そばに小型のテーブルを置きそこにトロピカルドリンクを置いていた。

カラン

 夏の熱気に氷がとけ軽快な音を立てる。

また付き人と思われる青少年と幽霊はじゃれていた。

”横島さんっ!! これ何、これ何っ!?”「みぃ?」

 キヌが普通の女の子なら触るのも忌避するような甲殻類に入る虫を手に掴み、横島に見せていた。それはかなり大きく両手でつかんでいる。それでも隠れずに見える部分はうぞうぞと動いていた。グリンも興味深げに見ている。ひょっとしたら食べ物として狙っているのかもしれないが。

「うぉ! そりゃフナムシっつーんだよっ!! しかし、でかいな…釣りとかではえさとして使うこともあるやつだ。でも今はいらん。捨てとけ!」

 横島はシャツにサーフパンツを着ていた。

”はーい!”

 横島の言葉にポイっと捨てようとするが、グリンがえさという言葉に反応したのか、それに飛びついてぱくっと食ってしまった。

”グ、グリンちゃん!?”「く、食っちまった…」

 二人はその光景に呆然とした。

「ゲプッ! みぃーーーっ!」

 おいしかったのか何か喜んでいた。

”お、おなか壊さないかしら…”

「…多分…大丈夫だ。あれを食べる人もいるらしいからな…」

 もちろん生ではないと思うが、グリンはどちらにしろ普通の生物ではないのだから心配しても仕方ないのかもしれない。

 そんな様子を依頼人である支配人が、いやどんな依頼人が見たとしても不安にかられるであろう。

「聞いてますわ」

 令子は安心してくださいと笑顔を支配人に向ける。これだけで支配人の心配を払拭できるとは思っていない。

「よーするに、騒ぎを起こしているそいつの正体突き止めて二度と出ないよーにすればいいんでしょ? 安心してお任せくださいな! 今晩にも解決して見せます」

(さっきの話でおおよその見当はついているし…)

「本当でしょうな…」

 支配人としてもこれ以上騒ぎが続くのはごめんこうむりたい。折角の稼ぎ時だというのにこのままでは客が集まらないからだ。

「あ、夕食は7時にお願いしますね!」

 令子が思い出したように食事の時間を指定した。

(…最高のゴーストスイーパーと聞いていたが、大丈夫かいな…)

 支配人は本当に任せていいのかと不安に陥りながらも、令子の話ではどちらにしろ夜でなければ、事態は進展しないという専門家としての意見としてとらえ、ここはおとなしく引き下がることにした。ただし、令子の言葉どおり今日中にカタがつけばよし、つかないなら、先ほどの言質を使って依頼料を引き下げるまでだと心に誓ったのであった。

 思考をまとめると支配人は職業意識からか一礼して立ち去った。

 そんな支配人など気にすることなく美神令子除霊事務所ご一行は寛ぎまくった。

「やっぱいいわね〜。金にはなるし、楽しいし、リゾート地の仕事って大好きよ」

 トロピカルドリンクを飲み、ご満悦な笑みで令子はまったりとした。

「俺も温泉とか海とかって大好き!! 別な意味で…」

 横島は横島で令子のセクシーな水着姿にドキドキ、通り過ぎる若くて綺麗な姉ちゃん達にドキドキと、もう堪らんですばいともっこりしていた。

”いいですね、海。私、大好きになりました!”「み〜〜っ!」

 そしてキヌとグリンは物珍しそうに辺り見回す。夏場の昼に幽霊とは凄くミスマッチである。特に周りが水着ばかりなのにキヌだけはお決まりの巫女服なので目立ってしょうがない。グリンも普通には存在しないものだけにこれもまた目を引く。時折、キヌとグリンを指差すものがいるが気のせいとしたい。

 横島はこの地で快く楽しむためにはキヌたちとは別行動が望ましいと思った。横島忠夫…煩悩を満たそうとする為には犠牲も惜しまない漢…

「あー紫外線が肌に気持ちいいなー」

 令子は熱い日差しの中、夏を満喫する。が、その言葉に横島が反応した。

「あ、美神さん、気をつけないと皮膚ガンになりますよ! お、俺がサンオイルを………」

 一見、令子の肌を気にしての発言に聞こえるが、はーー、はーーと息を荒げ、目を血走らせ、トポトポとたらすサンオイルを手に興奮している様はどう見ても邪念を持っているとしかいえなかった。

 ぬろおりとするサンオイルと横島を見て、サンオイルが白いものに見えて仕方ない令子は、勢いで横島に塗りたくられるのを阻止する事にした。

「やめんかっ!!」

ガシッ! ドカッ!

「ぶへっ!」

 もちろんその手段は武力行使だった。令子の惚れ惚れとする連撃に横島は吹っ飛んだ。

ドクドク

「何すんですかっ!! 人の好意をっ!」

 横島は立ち上がると叫んだ。頭の皮を切ったのか頭から血が流れていた。

「邪念ありまくりだったでしょうがっ!!」

 そんな状態の横島にも令子は気にしなかった。最近はそれぐらいの怪我は直ぐに自力でリカバー…自己治癒するのだ。それはそれで脅威の能力であると思うのだが。

「いいもん! 海には他にも女がいっぱいいるもん!!」

 横島はいじけて走っていく。いくら計画どおりといっても令子の対応にはやっぱり傷つくのであった。

「ナンパするのも良いけど私の言った課題ちゃんとやるのよっ! でないと晩御飯抜きだからねーっ!」

 遠ざかる横島に令子は追い討ちを掛けた。それは直撃し、ズコッと横島はこけた。

「ド、ドチクショーーーーッ!!」

 横島はそう叫ぶとさっと立ち上がりダッシュしていった。

”大丈夫ですかね?”

「大丈夫でしょ。この辺はさっき視たけど横島クンをどうこうできるようなタチの悪そうな霊や妖怪は居ないから。まあ、ホテルに現れる奴はわかんないけど、そっちは昼間には現れないから」

 令子は横島に課題を与えていた。お金にはならないが横島にはいい経験になると思ったからだ。課題というのはこういった時期にこういう人の集まる場所へ惹かれて集まってくる悪霊たちを除霊することだ。ここにはそれ程の数は居ない。精々2,3匹と少ない。この辺は確りと海神を祭っているのかそう言った霊が集まりにくいのだ。

 問題の悪霊にしても見えてしまう者にしか干渉できないレベルであり一般の平均的なGSでも問題なく祓えるレベルである。もっとも活動地域が海中なので油断すれば死んでしまうが横島なら大丈夫と今までの除霊現場での様子から令子は判断していた。

 要するにこの悪霊は見えてしまうGSにだけ危険であり、自分が海水浴を楽しむのに邪魔なので横島に掃討させようというハラなのだ。

 まあ、たまに霊感に優れた一般人が見えてしまって悪霊に海中に引き込まれ死ぬなんて事があるので一応人助けの意味もある。一応、一石三鳥の思惑があるわけだ。

”だったらいいんですけど”

 でも横島さん、そう言うのに好かれるみたいだもの、大丈夫かしら…とキヌは心配するが、自分がその筆頭であるということに気付いているのだろうか。多分気付いていない。

「まあ、横島クンのことは心配ないわ。それより、サンオイルを塗っておく事には賛成よね。悪いけどまんべんなく塗ってね、おキヌちゃん」

 話の間に令子はサンドマットを用意して寝っ転がっていた。

”はーい”「みっ!」

 キヌは令子の要望に応え、サンオイルを塗る事にした。グリンも手伝う気満々である。グリンについては令子も気にすることはなかった。



きゃっ、きゃっ

 辺りに海水浴を楽しむ人たちの楽しい声が響く。

「ああー良いよな。美神さんが課題さえ出さなければ、俺もナンパできるのに…」

 横島は指を加えて水辺でビーチボールで遊んだりしている水着を着ている姉ちゃん達を見た。その躍動で胸が揺れる光景を見ると、直ぐに頬を緩めてだらしない表情をした。

ざば

そんな横島の目の前にポージングをした筋骨隆々で身長2m以上のあんた人間か!? という男が現れた。

「君、先ほどからこっちを見ていたけど、ボクのがあるふれんどたちに、何か・よ・う・か・イ?」

 話しながらポーズを変え、肉体美を見せつけながら男は言った。最後にはギラリと眼付けで横島を睨む。邪な目で見ていたのを知っているぞと視線で送った。

「(へ、下手な事いったら、や、殺られる…)いえ…」

 横島は視線を合わせないように言った。

「やーねぇ」

「貧弱なボーヤはお呼びじゃないって」

「「ねぇ〜」」

 そんな横島のイケてない態度に男のがあるふれんど達の言葉が容赦なく浴びせられた。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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