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GS美神 リターン?
Report File.0046 「人形帝国の逆襲 その4」
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「わー、ちょっとまちなさい。タンマ!」
ズギャーーンッ!!
令子を人間人形にしようとした時、破壊音が聞こえ、異空間の一部が吹き飛び崩れた。その時、近くにいたモガちゃん人形が何体か巻き込まれて壊れた。
”何!? 何が起きたの!?”
突然の出来事に令子のモガちゃん人形は事態を理解できずに混乱した。
ダダダダダダダダダダッ!
そんな中、銃声のようなものが聞こえ、崩れた異空間の穴の近くに居たモガちゃん人形が次々と穴だらけになり吹き飛んだ。
その穴から銃を手に持ち軍服を着た人形たちが雪崩れ込んできた。
「うぉ! あれはGIジョージ人形っ!!」
横島はその雪崩れ込んできた人形を見て驚いた。それは男の子が遊ぶミリタリー系のものだった。
”ああっ! 人形同盟かっ!”
”モガちゃん人形帝国! 人形盟約違反により、汝らを制圧する。かかれ!”
GIジョージ人形のリーダと思しき一体の号令と共に手に持った銃で攻撃を開始した。
「人形同盟って何!? 人形盟約て何よ!?」
令子たちは今一話の流れに乗れず戸惑った。
「わからないっス!」
横島も何が何だか分からなかった。
「と、兎に角、このロープを何とかして脱出しなくちゃ」
「そうっスね」
横島はそう言ってすくっと立ち上がった。
「!!」
「どうしたんすか? 美神さん?」
きょとんと令子を見下ろして聞いた。
「横島クン!? 何であんた、自由になっているのよっ!!」
令子が驚愕したのも無理は無い。横島は何時の間にかロープを抜け出していたのだ。
「え!? いや、それは…ほら、あれですよ。何時も美神さんの着替えを覗いたりして、制裁うけてロープぐるぐる巻きにして吊るされるじゃないですか。そんなのがあったから自然と抜け出せれるようになったんです」
素でとんでもない事を横島はさらりと言った。普通、そんなので身に付けることなど出来はしない。思わず引田天功かと内心突っ込みたくもなるぐらい見事な脱出振りである。
「ああ、もうーいい! 兎に角、巻き込まれないうちに脱出するわよ!」
「あっ! えーと、何だか遅いようっス…」
「へっ? うそっ!?」
令子が振り向いた時、こちらに飛んでくる迫撃砲の弾と思われるものが見えた。
ドカーーンッ!!
「きゃあっ! 何か今回ついてなーーいっ!!」「こんなんばっかしかーーっ!!」
それは自分達の近くに着弾し、爆発した。その爆風に二人は吹き飛ばされた。直接的なダメージは横島がサイキック・ソーサーによって防いでいた。
”あちらは火力が勝っているけど物量はこちらが上よ。掛かれっ!”
令子のモガちゃん人形が指示を下す。正に人海戦術と突撃を開始した。
”隊長! こちら徐々に押されています!! 至急応援をっ!! う、うわっ!”
銃で応戦するが手が飛び足が飛んでも、這いずってくる。その光景はさながらゾンビ・ゲームのようだった。スプラッタで無いだけましなのか? 生物であれば屍山血河になっていたであろう事は確実である。
その内にGIジョージ人形は対応できずモガちゃん人形に飛び掛られ飲み込まれた。
”むむっ!! モガちゃん人形帝国めっ! こちらの予想以上に戦力を整えていたかっ!! 情報局め何をやっていたんだっ!”
思わぬ抵抗に軍曹の階級証をつけたGIジョージ人形は叫んだ。
”こちらサカラ軍曹、不測の事態が起きた。増援を至急請う!! オリハ部隊だけでは対応は不可能だ!!
サカラと名乗ったGIジョージ人形は持ってきていた通信機で応援を要請した。
”こちらAIVON大佐、貴君の要請に答え、その近くにいる部隊に応援要請をした。今しばらく持ちこたえよ!!”
すぐさま返事が返ってくる。返ってきた応答に期待以上の対応をもらい奮起する。
”了解だっ! くっ! バラバラになるな固まれ!! このままでは各個撃破される!! 増援が来るまで持ちこたえるんだ!!”
サカラと名乗ったGIジョージ人形は無事に残っている同胞に命令を下す。
”了解!!”
すばやく統制の取れた行動でそれ以上の被害は出なくなったがこう着状態に陥った。
「ケホケホ、結局、何がどうなっているの?」
「ケホ…さあ? 分かっているのは人形同士で争っているって事ですね…」
煤に塗れながら令子たちは争いに巻き込まれない地点まで避難して来た。
”ああ、美神さん、横島さん、無事だったんですね!”
キヌもまた横島たちと同じくモガちゃん人形たちの攻撃から逃れてきた。その事から、令子たちに構っていられるほどの余裕は無いのだろう。
「おキヌちゃん、大丈夫だった?」
”はい”
ニッコリと笑って返事したキヌの手にはモガちゃん人形が抱えられていた。
「あら、ひょっとして持っている人形は…」
”はい、アヤちゃんの人形です。別の人形が乱入してきた時に気がそれたので救出しました”
「でかした!! となれば後はあいつ等を何とかすればこの件は終わりね」
だがこの状況を治めるのは中々難しい。
「どうなってんっスかね? 事情がはっきりわからないっス」
わかっているのは人形たちの間に何やら勢力があるようだということだけである。それもかなり組織立っている。
ドギャーーンッ!!
また大きな破壊音が聞こえ、異空間の一部が吹きとんだ。
「何!?」「何だ!?」
またも異空間に穴が開いたそこからまたワラワラと人形がたくさん出てきた。
「えっ!? リエちゃん人形にプーピー人形!?」
出てきた人形はモガちゃん人形と人気を分け合っているものだった。
「もう…何がなんだかーーっ!! 次は何だ!? ジェーナ人形か!? キューシー人形か!? はたまたドラのすけ人形か!?」
次々、現れ出でる人形たちに横島はほとんど錯乱していた。大丈夫だろうか?
”ああっ!? あ、あなた達!”
”助けに来てあげたわよ”
そう言ってリエちゃん人形の一体が優雅に一礼して言った。
”あの茶色の悪魔を倒した原っぱで誓い合ったでしょ?”
これまた、プーピー人形の一体が髪を掻き揚げて言った。
”””一人はみんなの為に。みんなは一人の為に。倒れる時は皆一緒。私たちの願いはただひとつなのだから”””
何だか桃源での誓いとか、三銃士の誓いとかに似たような言葉をそれぞれの人形のリーダー達が言った。
”…ありがとう!! さあ、みんな私たちに増援が来たわ。一気に蹴散らすわよ”
”人形異帝国ばんざーい!!”
思わぬ援軍にモガちゃん人形達の士気は否応なしに高くなった。
”ぬおっ! まずい!! リエちゃん人形専制王国にプーピー人形騎士団かっ!!”
更なる戦力の増加にGIジョージ人形のサカラ軍曹は焦った。到底、残った戦力で持ちこたえる事は出来ない。
アオーーーン!!
その時、自分たちが突入してきた穴から犬の鳴き声と共に突風とでも言うべきものが、迫り来るモガちゃん&リエちゃん&プーピー人形達に叩きつけられた。
””””キャアァアーーッ!!””””
次々と人形たちが吹き飛んで行った。
”””何なのっ!?”””
各人形のリーダーが驚きの声を挙げた。
穴からのそっと大きな黒い影が現れた。大きいといっても人形にしてみればである。
「犬?」
「それも野良犬っスね…」
その黒い影の正体は犬だった。
”おおっ! あ、あなたは!? クロ大尉かっ!!”
サカラ軍曹はこの上ない援軍に助かったという思いがあった。
”おう、間に合ったかい?”
”ええ、十分に間に合いました…”
サカラ軍曹は人形であるから表情は変わらないが腕にごしごしと顔をこすりつけることで感涙しているとわかった。
”ま、まさかあれは…”
”く、黒い悪魔…野良クロ…”
”こんな所であいつが出てくるなんて…”
GIジョージ人形達にしてみれば頼もしい味方であるが、敵側である人形たちにしてみれば逆だった。どうやら人形たちにとっては大敵のようである。
「そんな、さっきの遠吠えとか考えると、あの黒犬って霊能犬!?」
令子にとってはかなりの驚きであった。ただでさえ霊能犬は数が少ないというのに目の前の黒犬は野良犬…
「霊能犬って犬が霊能力持っているっていう事っスか!?」
「そうよ。滅多には居ないけど…」
令子は考えを巡らせ始める。
「美神さん、どうしたんっスか?」
何やら考え込んでいる令子に気になった横島が声を掛けたが返事が無かった。
(さっきのを考えても私の知っている霊能犬と同じくらいの能力はあるわね。それが野良犬…つまりフリー)
「あの〜美神さん?」
「ふふ、いいじゃない。使えるわね…時給は…って犬だからお金はあんまり価値無いか。だったらエサとかかしら?」
自分の考えがいい感じだとぐっと拳を握りしめた。
”なんか、雇うというか飼うつもりなんでしょうか?”
「言動見る限りではな」
時々、ついていけないよなと思う横島達であった。
”さて、着替えはすませたか? 神様にお祈りは? 隅でガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?”
どこぞで聞いたような言葉をクロ大尉は獰猛な笑みを見せるとともに吐いた.
”くっ、長年の決着、ここでつけてやるわ!!”
クロ大尉の言葉にプーピー人形のリーダーがいきり立つ。
”はは、何時も逃げ惑っていた奴がよく言う…覚悟を決めな!”
”突撃!!”
プーピー人形のリーダーの号令の元、手に手にカッターナイフを持ち構えたプーピー人形達が突撃を開始した。
”ふん! 甘いっ!!”
アオーーーン!!
クロ大尉は一声、鳴いた。それだけで事足りた。
””””キャァアーーッ!!””””
プーピー人形達はバタバタと倒れた。
””ああ、プーピー!!””
令子のモガちゃん人形とリエちゃん人形のリーダーは倒れたプーピー人形のリーダーの下へ駆け寄った。
”ううっ”
抱き上げると呻き声をあげたので逝ってはいないと確認し安心した。が、自分たちに影が落ちたので見上げるとそこにはクロ大尉が居た。
””ひぃ!””
”さあ、次はお前たちだ”
””あ、ああっ…””
ガタガタと令子のモガちゃん人形とリエちゃん人形のリーダーがプーピー人形のリーダーを抱きかかえたまま震えた。
その姿を見た令子は自分がモガちゃん人形にどれだけ寂しい思いを助けてもらったのか思い出した。
「待って!!」
トドメを刺そうとしたクロ大尉を令子は止めた。
”ん? 何者だ?”
人形に隙を与えずクロ大尉は答えた。折角トドメを刺そうとしたところで止められ少し不機嫌だ。
「そのモガちゃん人形の所有者だったものよ」
”ほーう。で、名は?”
「美神令子」
”成る程、嬢ちゃんがあの美神令子か”
ジロリと令子を睨め付けた。
「なに!? 知ってるの?」
”ふふん、まあな。サカラ軍曹どうするかね? 今回の件についての裁量は君に与えられていると聞くが?”
”はっ! 人形盟約に照らし合わせますと、所有者の思いは優先すべきかと”
さっと姿勢を正して敬礼した。
”だそうだ、嬢ちゃん。どうしたいんだね?”
「…なんだかんだといっても私にとって確かに大切だったもの。モガちゃん人形を引き取ります。できれば他の2体も」
”そうかい。で、サカラ軍曹、所有者はそう望んでいるが?”
”はっ、特例ですが今後、こう言った事が無いように能力を封印する事で対応出来ると思われます”
”だ、そうだ。こいつらの能力は封印、もし今後に何かあった場合は責任を持つなら引き取ってもかまわない。どうかね?”
「わかったわ。この子達について私が面倒見ます」
”うう、令子ちゃん…ごめんね。それからありがとう…”
この言葉を最後にモガちゃん人形帝国は瓦解し今回の事件は終わりを告げた。サカラ軍曹は後始末をする為に部下に命令を下す。
首謀者たる3体の人形は首に輪っかみたいな物をはめられた。それが能力の封印らしい。それが行われるとバタバタと他の人形たちが倒れていった。本体の能力が封じられた事で仮初の意識が無くなったらしく普通の人形へと戻っていた。
GIジョージ人形達はそれら人形をどこかへと運び始めた。
事態の収束を見て、クロ大尉がもうここに用は無いと立ち去ろうとした時、令子がクロ大尉を口説き始めた。
「ねえねえ、ところであんたクロっていったわね。どお? 私の事務所で働かない? 条件は…」
”………”
そのマシンガンのように次々と吐き出される言葉にクロ大尉は困った顔をした。
「み、美神さん…」
逞しい人やなあと横島は感心した。
ボシュン!!
「あれ、戻った?」
「あ〜! 逃げられた〜!!」
”ん〜? 結局、人形盟約とか同盟って何?”
何だか幾つかの疑問を残したまま令子たちは異空間から帰還した。ひょっとしたらクロ大尉が煩わしくなって締め出したのかもしれない。
その後、アヤちゃんのもとへ、モガちゃん人形は無事に戻った。このモガちゃん人形も仮初の意志を得ていただけらしく元の普通の人形に戻っている。
その事についてはアヤちゃんは知らない方がいい事だろう。何だかんだ言っても人形に意志が宿っているというのは普通の人の感性では気持ち悪いと思ってしまうからだ。第一、着せ替え人形として遊べなくなるだろうから。
そして、例のモガちゃん人形たちはというと…
”もう、この事務所、私たちにとっては凄く広いのよ! それを毎日毎日掃除しろなんて!!”
手に持っていた雑巾を床に叩きつけた。
”仕方ないよ、モガちゃん。ねえ? プーピーちゃん”
しばらくは大人しくしていなければ問答無用に消されてしまう。それだけは避けたかった。
”そうそう、リエちゃんの言う通りよ。処分されなかっただけマシと思わなくっちゃ”
第一、能力を封印されてからは自分たちはこの事務所を離れてはただの人形になってしまうように処置された。
「ちわ〜す」”こんにちわ〜”「み〜っ!」
掃除なんかやっていられないと文句をたれていた時、横島達が学校が終わり事務所にやってきた。
「あれ、まだ掃除終わってないのか? ははーん、またサボってたんだな。早くやらないと美神さんが帰ってきた時、お仕置きされるぞ?」
”そうよ””あれだけは…””いや〜っ!!”
モガちゃん人形はよっぽどお仕置きが嫌なのか掃除を再開し始めた。リエちゃん人形もプーピー人形も手を休めていたのを再開した。
「しゃーねーな」
そんな様子を見かねたのか横島は手伝い始めた。
”あっ、横島さん私も…”
「おキヌちゃんはお茶の用意をしてくれ。多分、もうすぐ美神さんが帰ってくるからな」
”くすっ、わかりました”
「みっ!」
パタパタとグリンも横島と同じように雑巾を手にとって床を拭きはじめた。
「おう、グリンも手伝ってくれるのか?」
「みぃ〜!」
”グス、ありがとう””ありがとうございます””サンキュー”
人形たちは口々に言った。
「アレだけは見ているほうもちょっとな…さあ、早く終わらせちまおう!」
素直に礼をいう人形たちに少し照れた表情を見せた。最初は小憎らしいと思ったが慣れればまた違う面も見えてくる。特にモガちゃん人形など持ち主そっくりと思っていたが素直な面も見せるのでそのものというわけでもないことを知った。
何はともあれそれなりにうまく過せているようである。
(つづく)
※ 因みに冒頭のシーンはこの後にお茶を楽しみ、GSとして勉強をしていた時のことである。
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。