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GS美神 リターン?

 Report File.0024 「大パニック!女子校に吹き荒れるセクハラの嵐!! その1」
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キャア、キャア

「ねえ、あんた最近太った?」

「やだ、ほんとう?」

「ねえ、アレから彼とはどうなったの?」

わい、わいっ

「次の体育ってさハードルだって」

「えーっ、かったるいなー」

「あんた昨日渋谷でデートしてたでしょ!」

「えーっ、ウソウソっ!」

 女3人寄れば姦しいと言うが年頃の女性が集まればそれなりの喧騒に包まれる。ましてやそれが更衣室ともなるとまた、教室などとは違った雰囲気となり話題もどちらかというと下世話な方面になり勝ちであった。

 ここ度粉園女学院でもそれはご多分に漏れずであった。女子高なのでかえって内容もどぎつくなり勝ちかもしれない。何時もの日常の内の一コマともいえる場面であったが今回だけは違った。

 体育の授業のために着替えていた女子達の何人かが視線を感じた。

「ねえ、何か視線感じない」

「えっ!の、覗き!?」

「ど、どこ!?」

 その中の一人が口にした瞬間、騒ぎが大きくなり始めた。着替えの途中の者は慌てて自分の胸を隠したり、脱ぎかけたスカートを戻したりといった光景が見られる中、

”うえへ、うへへへ”

 と言うなんともしまらない男の声が聞こえてきた。

「ぇ、お、おとこの声!?」

「う、うそ」

”だははは”

 そう言う声が聞こえると共に突然、部屋の真ん中に霊が現れた。その霊は目元がスケベったらしく口は涎をたらしていた。それを見た瞬間、更衣室に居たうら若き乙女達のパニックは最高潮となった。

「いっ、いやあぁーーーー!」

「ち、ちかーーん」

「「「キャァーーーーッ!」」」

 乙女達は更衣室から脱出しようとしたがその場に居た者、全てが我先にと行動していたので思うように出れなかった。

”ちち・・しり・・ふともも・・うへへへ・・”

「キャァーーッ!」

「いや、近寄らないで」

「おかあさーん」

 逃げ遅れた女の子が霊に言葉どおりに体を触られまくった。

     *

「・・以上が事の顛末です。それからは頻繁に幽霊が現れて、のぞき、下着ドロ、痴漢行為などの被害が続出しておりますの!伝統を誇る度粉園女学院としては由々しき事態ですわ。犠牲者の中にはショックで寝込んでしまい登校できない状態に居るものも居りますし、授業の方も滞る始末です。早急に除霊を行いこの騒ぎを収めてください。お願いしますわ」

 そう言って説明を切り上げたのは度粉園女学院の理事長である恰幅のいいオバサンであった。説明されていたのはお馴染みの美神除霊事務所の面々である。もっともキヌは騒ぎを避ける為、姿を消していた。

 令子が説明を受けていた間、横島は憧れの女子高に気分が舞い上がり説明は殆どスルーしていた。その内興味が理事長達に移り観察する。

 理事長についてはまかり間違っても美人とは程遠いと横島は思った。こんなのを嫁にするとは男としてどうなんだ?と思わず問いかけたくなる。少々間違った認識を持つ横島はそういう感想を持ってこの学校の校長を務める男を見た。最初の挨拶によると理事長の夫らしい。

 横島が言うのもなんだが貧相な男で理事長と同じくらいの年齢とは思えないほど年老いて見えたというかどう見ても老人だった。その校長は理事長が話し始めてから一言も口を挟んでいなかった。その様子から完全に尻に引かれているらしかった。

(あーやだやだ。男は牙を無くしたら終わりだぞ。こうはなりたくないな)

 何の牙じゃと突っ込みたい所があるが自分の父親を見てきた事もあってそんな感想を抱いた。

「ご心配なく私が来たからには即時解決ですわ」

 そう言ったのはご存知、美神令子除霊事務所所長の美神令子である。何時もながら派手な衣装にアクセサリーを身につけ女としての魅力を全開にしていた。今も椅子に座り足を組んでいた。それがまた様になるのであった。

(美神さん・・今回はその格好は逆効果じゃないですかね?)

 何とはなしに横島は理事長に令子への嫉妬が見え隠れするのを感じた。横島にとっては歓迎であるが目の前の校長は余り反応を示していなかった。

(か、枯れとるな・・今の美神さんを見れば男ならこうぐぐっと来るものがあるはずだろうに・・)

 横島は校長の反応のなさに哀れんだ。本来であれば女子高なので喜び勇んでパトロールするのだがここに来る前に令子にしっかりと釘を刺されている。もし破れば殺してやるといわんばかりの迫力であった。実際やれば流石に無事ではすまないと思い自重している。

「お願いします」

 理事長は令子に頼み込んだ。その顔は切羽詰った感じがする。令子はこれは結構搾り取れるかな? という印象をうけ、できるだけ依頼料を引き出す事を考えた。こういう緊急性のある依頼については割増になるのが通例である。

「・・・それで、ですね。幽霊に心当たりはあります?」

 令子は今回の仕事の情報を求めて聞いた。

「あ、その」

「いーええ!全くござませんのよ。私が理事長になって主人が校長になってもー20年ですけど、こんな事は今までなかったんですのよ」

「いや、あの・・」

「あ、そーだわ!先月から新しい校舎を増築しているんですの。ひょっとしたらそれが原因かも・・・」

 矢継ぎ早に理事長は喋り、せっかく校長が何か言おうとしたのを全て打ち消した。その事について令子は気付かずに理事長の言葉のみを聞き頷いた。横島は逆に校長の方に注意がいっていたので何か言いたそうだということに気が付いたが令子が気にしていないので追求する必要はないなと見逃した。横島が令子を信頼しすぎていた故の事である。この場合、横島は問いただすのが正解であった。

「・・わかりました。今日中には片付けて見せますわ」

 聞けることは聞いたと令子は判断し椅子から立ち上がった。

「お願いしますわ、本当に・・」

 理事長は心配そうに両手を組んで言った。

「報酬の方をよろしく! でわ!」

 令子は扉をあけながら振り返り笑顔で言って出て行った。それに従うように横島が扉の所で頭を下げて退出するときに何か言いたそうな校長の姿が見えた。

(何か言いたそうなんだけどな・・聞かなくていいのか?)

 少し気になった横島だが令子に呼ばれて慌てて呼ばれた方向に向かった。

     *

「新校舎か・・工事前は林だったって言うけど・・何も感じないな。パターン的に林に手がかりがあるなら自殺したことで地縛された幽霊か、殺された恨みで悪霊になるってところだから、今回のようなケースには関係ないかな・・」

 令子は建築中の新校舎を見上げていった。

「確かにこの辺りには反応が無いっすね」

 霊力探知機である見鬼君を片手に横島は言った。

「おキヌちゃんはどお?」

 横島の報告を聞いてもう一人のメンバーであるキヌに令子は声をかけた。

”・・そうですね。私もこの辺りは別に・・何も感じませんね”

 キヌは耳を澄ますような仕草をして言った。

「わかったわ。悪いけど二人でもう一寸周りを調べてくれる?何か気が付いたら知らせて」

”「はい」”

 令子は横島等に行動指針を指示すると待ち合わせ場所と時間を決め立ち去った。

「じゃ、行こっか。おキヌちゃん」

”そうですね横島さん”

 横島とキヌは新校舎や現校舎の周囲を調べるために移動し始めた。

「せっかく女子高に来たって言うのになんも出来んとは・・・くそっ、この横島、一生の不覚じゃーーっ!」

”何をする気だったんですか?”

「へ、いや、やっぱじょしこーせーの瑞瑞しいちちやふとももなんぞをば・・って、違う!違うんや」

 口を滑らした横島は今更ながらキヌに対して体裁を整えようとした。が、

”男の人ってそんなにちちとか好きなんですか?”

「・・・・」

 とキヌに真顔で質問されて沈黙した。沈黙しか取りえなかった。

”横島さん、どうしたんですか?”

「おっ!おキヌちゃん、あんな所に井戸が!」

 何とか誤魔化せないものかと思案していたとき視界に入ったものをこれ幸いと出汁にして話を逸らすことにした。

”あっ!本当だ”

「調べてみようぜ」

 そう言って何とか話を逸らす事ができたことにホッとする横島だった。

”枯れ井戸ですね”

「そうみたいだな」

 横島は井戸を見て何か引っかかる物を感じた。

”微かに霊気のカスがこびりついています”

「そうだな。探知機も僅かながら反応している」

”じゃ、ここが原因なんでしょうか?”

「そうだとは思うけどな。その辺の判断は美神さんに任せよう」

 未だ素人気分から抜け出せないでいる。今の横島はGS助手にしてGS見習・・しかも最近なったばかりなので経験不足は否めない。

”そうですね”

 キヌも横島の意見と同じだったので同意を示した。

「おキヌちゃんは悪いけど美神さんを呼んできてくれないか? 俺は一寸あそこで作業しているおっちゃんにこの井戸について聞いてくるから」

 横島はそう言って新校舎を建築する作業員の方を見た。

”分かりました!”

 キヌは返事するなり令子の気配のする方向へ一直線に向かっていった。途中、それを作業員が目撃し、ちょっとした騒ぎになった。横島は騒ぎには目を瞑り、聞き込みを開始した。

     *

「ふーん、で?」

 令子は腕を組み考え込んだ。この時、無意識のうちにか胸を強調するかのように腕をくんでいた。

「はい、工事現場のおっちゃんの話では人が落ちないようにフタをしてあったらしいです。でもそれだけじゃ危ないんで埋めてしまおうって話が出て、それでフタを開けたそうです」

 自然に令子の胸に目を向け鼻の下を伸ばしながら横島は聞きこんだ事を報告した。

「それから?」

 不躾な視線も普段から慣れているのか令子は横島の視線に気付いていながらも無視した。

「まあ、埋めますから念の為、中がどうなっているか調査したようっす」

 ますます鼻の下を伸ばしながら横島は言った。

「その様子じゃ何もなかったわけね?」

「ええ、何もなかったとの事っす」

「・・おかしいわ。ここで死んだ霊ならばもっと強い霊気が残っていてもいいのに。こういう所で死んだなら地縛されていてもおかしくないというかほぼ確実に地縛されるはず・・どういうこと」

 令子は額に手を当て考え込んだ。

「聞いた所、フタを開けた時期と霊が出始めた時期は一致するようですけど」

 横島は補足するように言った。

「・・さっき出現場所に残っていた微かな霊気とここに残っていた霊気は一緒だった・・ここに封印されていた事は間違いなさそうね」

 状況証拠だけだが確信に近かった。

「校長が言いたそうにしてたのはこれの事っすかね?」

 横島は気になった事を令子に告げた。

「・・そんな事あった?」

 令子は横島の言葉に思い返すが覚えていなかった。

「・・ええと理事長と話してたときですよ。美神さん気にしてなかったからてっきり良いのかと思ってました・・」

「ば、ばかっ!そういう事はちゃんと聞きなさいよ」

 令子は横島が気付いて自分が気付かなかった事に恥ずかしさを感じ、顔が真っ赤になった。

「で、でも、美神さん」

 顔を真っ赤にしたのを怒ったと勘違いした横島は言い訳がましく声を出した。

「いーい?いくら私でも常に完璧で優秀とは限らないの。私だって見落としてしまう事はあるんだからおかしいと思ったら言いなさい。その為の助手でもあるのよ?」

 令子は出来るだけ冷静になるように努めて人差し指を立てて言い終わった後、横島に背を向けた。言葉にした後、いつも自分ひとりでやるのだと意気込んでいたので妙に照れてしまったのだ。

「はい、気をつけます」

 横島は元気良くピシッとして言った。

「よろしい、じゃ行きましょうか」

 横島の返事に振り向いて令子は言った。

”何処へです?”

 指をくわえて会話を見守っていたキヌが聞いた。

「多分ここを封印した人間、校長の所よ。封印したんなら詳しく」

キャァーーーーーッ!!

 令子の言わんとした事を遮る様に年若い女達の声が聞こえた。

「おおっ!!絹を裂くような乙女の叫びっ!!乙女が俺の助けを待っている。いざ行かん!貴女方のヒーロー、横島忠夫が今行きますぞーーーッ!!」

 横島は悲鳴が聞こえるや否やそう叫ぶと同時に声のした方向へ風になれ!!とばかりに駆け出した。実際、かなり早い。その走りだけを見れば即、陸上関係者が”世界を狙おう!!”とスカウトに飛んでくるぐらいに素晴らしかった。

「たくっ!待ちなさいっ!!」

 横島を一人で行かせると碌な事にならないと令子は横島の後を追いかけた。

”私、裂けてませんけど?”

 取り残されたキヌは横島の言葉に首を捻っていた。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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