50cmF3.7 ドブソニアンの製作

2016年、観望機材の次のステップとして50cmのドブソニアンを作りました。この50cmでは40pF4で不便だと感じたことを解消できるように工夫しています。

<本当は55pとか60pが欲しかったのですが、主鏡が重過ぎます。一人で気軽に使うには私にとってはこれが限界かも。>

■コンセプト

 50cmは、一人でも楽に運用できることをめざして作りました。

 まず大きなドブソニアンは、ほとんどが脚立に乗って観望されています。が、これは観望の意欲をなくす最大の要因であると考え、脚立無しで天頂が見えることとしました。これまでのドブソニアンは、ほとんどが斜鏡を45度に取り付け、主鏡からの光を真横に取り出しています。少し斜めにすることで、接眼部の位置が低くなります(図1)。2013年8月にはその方法を思いつき、50cmF4でおおむね実現できることを計算で確かめました。

 ドブソニアンの自作は、主鏡を探すことから始めます。ネットで検索し、欲しい口径とF値、重さ、それに価格などを調べます。50cm(20インチ)の場合は、F3.5、F3.7、F4、F4.5など何種類もあります。これまでの経験で主鏡のF値は大きいものほどSNがよく見えるように思いますが、焦点距離が長くなると脚立が必要となるので、計算の結果、2013年秋にはHubble Optics の50cmF3.7の主鏡を使うことに決めました。55pF3.5でも脚立無しで実現できることがわかりましたが、主鏡が重いので諦めました。主鏡の入手には発注から8か月かかりました。斜鏡は、図1のBのためにやや大きなものが必要で、英国オライオン社の120mmの斜鏡を使いました。

 ■図1 天頂を楽に見えるための設計

 ■図2 斜鏡の大きさ

 

 

 

左はHubble Optics 製の50cmF3.7ミラー 右は英国オライオン社の120mm斜鏡

 

 

■設計等

 具体的な設計は、主鏡と斜鏡を入手してから大きさや重さを測りながら実物大で図を描くとともに、使うアルミ材や接眼レンズの重さも考慮に入れながらバランスを計算して上下回転の位置等決めていきました。

 ■図3 バランス計算

 

計算結果は主鏡面から210mmのところでよいことになったが、実際は250mmとした。このことによってトップリングに重さの余裕が出て、遮光布や将来大型のファインダーや重い接眼レンズなどを付けることができる。主鏡側は重いので、カウンターウエイトは付けない。

 

 とにかく無駄な部分を省き、できるだけ軽くなるように設計をすすめました。自転車のリムは軽く丈夫なことは40pで実証済みでしたので、今回はトップリングと主鏡セル部分に使いました。そして中央は正方形のアルミ枠として、これらをアルミの角パイプでつなぐセルリエ構造としました。アルミリムは26インチ自転車のもので内径540mm、530gです。角パイプとリムの接続等は3mmのアルミアングルを使いました。

 

  

■主鏡セルの構造:左は主鏡ボックスの骨組み。下部は26インチの自転車アルミリムを使うセルリエ構造(上部正方形は15x25、斜め材は15x15と25x15。)。アルミリム内部に三角形の主鏡セル部分が黄色矢印3点で乗る。このうち、上の部分は押しネジ1本だけ。左右の2箇所は、リムをズンギリネジで押すが、モーターで回転させることにより光軸調整を楽にする。ドブソニアンは、基本的には主鏡はいつも上を向いているため、これら3点は、下向きに重力がかかった状態であるので、それぞれ押し引き2本のネジは必要ない。鏡筒が傾いたとき、セルが落ちないようにするため右側写真のようにリムに取り付けた3mmアルミ材AにセルのBが当たって主鏡の重さをささえることになる。

 主鏡セルは18点支持で、できるだけ薄く設計しました。3mm厚の三角形の2017アルミ板2枚を4mm厚6063のフラットバーでつなぎ、三角のベースに載せています。三角ベースは、12mmアルミ角パイプを2本合わせたもので、三つの頂点がアルミリムに載る部分で光軸を調整します。上の1点は6mmボルトだけですが、他の2点は8mmのネジをギヤードモーターで回して光軸修正を電動で行います。これで一人でも接眼部をのぞきながら簡単に光軸を合わせられます。ドブソニアンは、赤道儀式望遠鏡とちがって、主鏡の重さは下向きにかかるだけですので、押し引きネジは必要ないと考えます。

 

 

■18点支持の材料は、Cは2017アルミ合金厚さ3mm、Dは6063アルミ合金の厚さ4mm幅40mmのフラットバー、Eは12mmx12mmのおそらく6063の角パイプ2本。厚2mmのコルク。厚さの合計は22mm。

右写真は、主鏡セルの一部。望遠鏡を傾けたとき、画像で左側が下になる。主鏡がずり落ちないように白矢印で示した針金でささえている。主鏡はサンドイッチ式で厚さ49o 光軸調整用モーターと真鍮のズンギリが見える。

 

 

 トップリングは、接眼部と斜鏡をリムの上に載せた構造です。これを1mの長さの15mmx15mmアルミ角パイプでつないでセルリエ構造として、中央の正方形枠にかぶせるようにしました。この中央部分をぴたりとはめることで組み立ての迅速化と光軸の再現性を良くしています。斜鏡をはさむ部分は1mmのアルミ板(2017合金)で、横から斜めに入って来る主鏡の光が蹴られないように切っています。また接眼部からのぞいて迷光を防ぐために0.5mmアルミ板を入れました。

 工作は、万力でアルミ材をはさみ、金切のこで切って、やすりで整えました。孔あけは電動ドリルで、ネジはタップで切り、完成までに2か月ほどかかりました。
 接眼部は、重い接眼レンズを確実に保持するために、高橋製作所のラックピニオン式のものを使いましたが、可動範囲は20mmしかないので、完成してピントが合うかどうか不安でした。主鏡の焦点距離がどれほど正確にできているかわからなかったため、製作途中でセルとトップリングを木材でつないで天頂の星を見ました。すると、設計値どおりの位置でピントが合いましたが、これには感動しました。

 

トップリングも26インチ自転車リムで製作。6063の3mmフラットバー(赤矢印)と2017の1mm厚アルミ板(青矢印)で主な部分を構成。オレンジ矢印は、迷光が入らないようにするための遮光版(0.5mm) 接眼部はタカハシのラックピニオンのもの。

 

 

 構造材ができれば、あとは主鏡のボックスを作り、各部を黒くすることです。主鏡ボックスは、ベニヤ板より軽い0.6mm厚の5052アルミ板を使いました。トップリング周辺は植毛紙、主鏡ボックスは墨汁を塗った新聞紙を貼りました。

 光軸修正の他に便利機能として、主鏡の冷却ファン、星図の照明、斜鏡とファインダーのヒーターは手元のスイッチで操作できます。他に主鏡センターマークの照明と予備電池の切り替えや電圧計も装備しました。

 50cmドブソニアンは全体で39kgと、主鏡の2倍程度の重さに収められました。最も重い主鏡ボックスは26.0kgで、車から10m程度の範囲なら苦になりません。組み立ては簡単で、現地到着から数分で観望を始められます。ファーストライトは、7月31日に迎えました。網状星雲の細部が40pよりよく見え、中間の淡い部分でさえ構造を楽しみながら南に細く伸びている部分をたどれました。またM13など明らかに40pとは違う見え方でした。

 これまで40pで観望するための導入用星図は自分で描いてきました。私は眼で見える明るい星からファインダーで視野を決め、次に1度の低倍率の視野で星をたどりながら対象を導入しています。黒く締まった背景に微光星が群れるマイナーな散開星団が視野に入るとき、OVをかけた瞬間に淡い惑星状星雲がふっと浮かぶ瞬間が星空をたどり歩く醍醐味です。

■主鏡ボックスを上から見たところ 主鏡の傾きは上部の青色矢印のボルト、緑矢印の光軸モーターで決める。黄色は主鏡重量を支える金具、オレンジは冷却ファン。他に電池ボックスなど見える。

 

■トップリングが完成したところで木材でつなぎ、実際に天頂の星を見てピントが合うことを確かめる。このときは、設計値と合っていた。

このあとは途中のセルリエ構造の長さを決めて工作。

 

■写真8;斜鏡裏に4mmネジを立てた3mm厚アルミ板を両面テープで接着。周囲にはヒーター用ニクロム線を接着。

 

■楽な姿勢で見るため 前から見ると、右の50cmは接眼部が斜めにシフトさせている。低空を見るときに見やすい。50cmは、高度60度付近で水平に、それ以下では下向きに接眼レンズを見ることになる。

 

 

■車載の状態 主鏡ボックスと上下台座が見える。左下の木箱は撮影機材。トップリングを助手席に積むと車内で寝られる。その他機材は撮影用ε180とEM200赤道儀、バッテリーなど。