彗星撮影と画像のスタック DSSを使う処理など 2024年9月制作
ここではDeepSkyStackerを使って、彗星を撮影した画像のスタックする作業を紹介します。
DSSでは同時にダーク・フラット補正もなされます。
●パソコン、アプリケーションなど
パソコンは、撮影のために使う富士通のノートパソコン FMVWF3U27L で、スタック処理もこれで行います。
このパソコンは640グラムほどの軽いもので、海外へ持参することを考慮して、軽量で高性能なものを2022年にASI6200MCpro導入時に購入しました(メーカー直販で約22万円)。大きな画素のカメラを使うと、データが1枚でも大きくなるので、高性能なパソコンを使うべきです。810Aは2017年に買いましたが、当時使っていたパソコンは2012年モデルのWindows7のOSのものでした。そのパソコンではステライメージで処理していたのですが、810AのRAWデータを多数開くことができませんでした。2018年に15インチマックブックpro モデルA1398(Bootcampにてwindows10セットアップ、2.2GHzクアッドコアIntel Core i7,16GB 1600MHzメモリ)に変え、スタック処理が速いというDSSを使うようになって初めて810AのRAWデータを扱えるようになりました。現在使っているパソコンはさらに処理が速いので長い間待たされることはほとんどありません。
プロセッサ 11th Gen intel Core
i7-1167G7@2.80GHz
実装RAM 32.0 GB
システム 64ビットオペレーティング
Windows 11 Home バージョン22H2
現在使っているDeepSkyStackerは、バージョンは4.2.6です。
810AのRAWデータは1枚43.8Mバイト、6200MCのデータは1枚119.5Mバイト、2x2ビニングでは1枚29.9Mバイトです。
●撮影
今、私が彗星撮影のために使っている機材は、次のとおりです。
・焦点距離1200o 自作30cmF4ニュートン式反射、ビクセンコレクターPH、ASI6200MCpro
これはメイン機材で、暗い彗星から明るい彗星まで撮ります。明るい彗星は大きく、視野をはみ出してしまいますが、彗星中心部分を拡大するには有効です。
赤道儀はJPで、ステライメージ→ASCOM→EQMOD→EQ6基板により自動導入できます。
・焦点距離500o 高橋ε180ED、NikonD810A
F2.8と明るいので早く撮れます。視野は2.6x4.0度で、6等程度の彗星では尾が視野をはみ出してしまうことがよくあります。
赤道儀は普通EM200Bを使っているので、手動導入です。
・カメラレンズ D810Aで次のレンズを使います。
Samyang135mmF2 F2.8に絞って使います。場合によってはF2.5で。まずまず高性能なうえにあまり重くなく天体撮影に不要なAFなどついてないので安価です。
AFS-Nikkor 50mmF1.8 標準レンズでちょうどよい彗星はもう大彗星です。2020年のNEOWISE彗星は50oの視野をはみ出す長い尾がありました。F1.8で安価なうえに軽いので機動性が増します。
AFS-Nikkor 20mmF1.8 超広角レンズ 軽く割合高性能です
Sigma 15mm Fisheye これを使わなければならないような彗星に巡り合いたいものです。NEOWISE彗星をこれで撮りましたが、イオンの尾の長さは40度ほどでした。
彗星は、明るさや尾の長さなどで大きさが全く違います。それぞれの焦点距離で得意な構図で狙えばよいでしょう。ただし、次のようなことを実感しています。
彗星の華々しい画像は、やはりダイナミックな長い尾を見せるものです。イオンの尾の中に塊や折れ曲がりなどの構造が生じるのは彗星がある程度明るくなっているときで、そのような場合は尾の長さは数度程度はあります。淡い尾に合った焦点距離があると感じています。おおむね200〜500o程度の明るい光学系にフルサイズのカメラを使うのがよいと思います。とにかく尾を狙うにはSNを高めることで、暗い空で、高性能な機材で、長い露光を行なうことです。露光時間をかせぐためには、ツインカメラや共同撮影が有効です。
焦点距離1000o程度であれば、ほぼ毎月のように尾が出ている彗星があります。
焦点距離500o程度なら、ほとんど毎年に長い尾が出た彗星があります。
例2024年→12P、13P
2023年→2P、C/2023P1西村彗星、C/2023H2、C/2022E3 ZTF
2022年→67P、C/2021 A1
近年で135o望遠レンズで撮影した彗星 → 2020F3ネオワイズ、2022E3、西村彗星、12P
彗星の撮影は、星雲星団の撮影とほとんど同じで、次の順番に行います。
1.機材のセットアップ 赤道儀の極軸設定、構図の東西確認、ピント合わせ等です。
日没後の西空の撮影では、現場到着から撮影開始まで忙しい作業になります。機材を使い慣れておくべきです。
2.彗星の導入は、自動または手動で視野に導きます。
彗星がどれだけ明るく、どのような尾が出ているかは、ネット上に投稿される他者撮影の画像が参考になります。それを撮った場所、焦点距離、カメラ、露光などを考慮して自分でも撮れそうだと判断した場合は行動しましょう。
彗星の位置は、軌道要素をダウンロードしてステラナビゲーター等の星図アプリで表示するなど、自分の得意な方法で知ることができます。パソコンを使う撮影でも事前に彗星の位置を調べ、紙の星図に記入して持参することをお勧めします。彗星にどのような尾が出ているかは、他者の画像が参考になります。その画像の向きに注意しましょう。彗星の尾を長く写したいために構図が赤経赤緯から傾いている場合があります。
3.露出 ほとんどの場合、1枚60秒で時間の許す限り多数枚を連続して撮影します。
露出時間は、ヒストグラム表示で山が中央あたりになるように感度と露光時間を設定しています。淡い部分を写すためです。デジタル一眼レフの場合は、ISO3200で60秒露出でよい場合には、ISO1600で120秒露出でも同等です。彗星の動きが遅く、120秒露光でも中心が伸びて写らない場合は、後のスタック枚数が減るので120秒露光で撮影してもよいでしょう。でも、低空のために大気差によるガイドブレ、飛行機や人工衛星、120秒露光の間に雲がかかることなどを考えると60秒露光の方がよいでしょう。さらに雲が流れてくる場合は、ISO6400で30秒露光とかISO12800で15秒露光も有りです。良い条件でトータルの露光時間稼ぐことにします。
彗星の中央集光部分が明るい場合は飽和して情報が失われますので、別に短い露光で撮影します。これは、上記の本露光の前に撮るべきです。まだ背後が薄明で明るくても明るい中心部だけなら撮影できます。本露光の後で撮ると、低空になって気流や透明度が悪くなる上にガイドがぶれるのでよくありません。特に冷却CMOSカメラでゲインを上げて撮る場合は飽和に注意しなければなりません。
4.フラットおよびダーク等撮影
フラットは、彗星の撮影直後に撮っています。機材のセットアップが早くできた場合には、彗星を撮る前にフラットを撮るとよいかもしれませんが、まだ試していません。
ダークは、デジタル一眼レフの場合はカメラの温度は自然まかせであるので、同じような気温の時に撮ります。彗星の撮影だけに出動したのであれば、フラットを撮ったらカメラに蓋をしてダークの撮影を始め、機材を片づけ始めればよいでしょう。こうすると撮影と同じ夜にほとんど同じ気温で撮影できます。私は撮影時の気温をメモしておいて、ダークのライブラリーを作っています。
5,撮影画像の分類
画像は、jpgとRAWのどちらも記録しています。パソコンにコピーして、フォルダーでそれらを整理します。jpg画像は処理には使わないのですが、それぞれの画像を早く見るには有効で、特に雲がかかったときや明るい飛行機の映り込みなどのチェックに使えます。
●スタック作業 多数撮影した画像を加算平均等で1枚の画像にすることです。
私は無料でダウンロードできるDeepSkyStackerを使用しています。以下はその説明です。DSSについては他に詳しく説明している方のHPやYoutube等がありますのでそれらも参考にしてください。また画像処理にはpixinsight等の別のアプリを使っている方はご自分で得意な方法で処理してください。
1.撮影した画像を開く
DSSを開き、下部に彗星を撮影した画像、フラット画像、ダーク画像、フラットのダーク画像、バイアス画像をドラッグして開きます。
ここでは、2023年7月29日にε180+D810Aで撮影した13P/Olbers彗星を例にあげます。このときの撮影は、ISO1600で30秒露光で撮り、気温は28℃、画像はDSC4640からDSC4691まで52枚あります。52枚のNEFファイル(RAWデータ)をDSSの下部にウインドウにドラッグします。
すると、その52枚はどんなファイルか聞かれるので、彗星を撮った画像はLight Framesにチェックを入れ、OKすると52枚の画像が下のウインドウに入ります。
次にフラット画像をドラッグし、Flat Framesにチェックを入れてOKでフラット画像を追加で開きます。
(フラットは通常50枚程度撮影しておきます。このフラットは、彗星を撮り終えてからISO1600で2秒露出で撮ったものです。後述のようにDSSで処理すると複数のフラットをスタックしたMasterFlat画像が作成されます。私はMasterFlatを残し、多数の元Flat画像は消してしまうのでこの例ではMasterFlatを使います。)
同様にしてダーク、フラットのダーク、バイアスを開きます。これらダークなども合成したものです。
ダークは、ISO1600、30秒、55枚スタックしたもので、気温+24℃です。
フラット用のダークは、ISO1600で2秒露光、50枚スタックしたもので、気温10度で撮っています。気温差があるのですが、露出が短いのであまり気にしていません。
バイアスは、32枚合成したものです。デジタル一眼レフの場合、純粋にバイアスを撮ることはできません。この場合は最も速いシャッタースピードで、レンズに蓋をして撮っています。
2.Registar
左側のメニューで、赤い文字の「Registar checked picture..」をクリックすると、Registarのセッティングの小さな画面が開きます。
まず、この小ウインドウの下部が緑色になっています。これはダーク、フラット、フラットのダーク、バイアスがすべて用意されている場合です。欠けているとオレンジ色や赤色になります。
(Light画像だけでもできます)
Advancedをクリックしてthresholdの値を決めます。
星がたくさん写っている画像ではこの値を70とかの大きめに、星が少ない画像では30とか20とかの小さめの数値にスライドさせます。この数値は、画像から星を検出するしきい値を決めるようなもので、必要以上に星を多く検出してもその作業に時間がかかるだけですので、適度にセットしましょう。
OKをクリックすると、Registarの作業が始まります。フラットやダークもそれぞれ撮った元画像を多数使っている場合は、それらをスタックしてからLight画像に写っている星を検出するRegistar作業が始まるので、時間がかかります。
D810Aの元画像を52枚Registarするだけでしたら、私のパソコンで2分程度で終わります。
これで位置合わせの準備ができました。次は左メニューの赤文字「Stack checked picture」です。
ここでは、彗星基準でスタックするために、画像の中でどれが彗星であるのかマークします。
DSSでは、一連のLight画像のうち、最初と最後と、スコアの数値が最も大きな画像の3枚について彗星をマークするだけでよいので便利です。
■8 Scoreは、Registar作業を行うと表示されます。File または Date/Time でソートすると、最初と最後の画像がわかりやすい。 Scoreの最も大きな画像は、Scoreでソートすると調べられます。
まず、最初の画像、DSC_4640.NEFをクリックすると、その画像が上のウインドウに表示されます。
右上のスライダー左右にスライドさせて、彗星の中心がわかりやすく見えるように画像の表示レンジを変更します。
マウスを彗星の明るい部分にあて、中央のローラーを前に回すと拡大表示できます。
右にある緑色の彗星マークをクリックして、Shiftキーを押しながら、マウスを動かして彗星の明るい中心にもってきて、クリックするとその場所に赤紫の円がつきます。これが彗星の位置です。
最後に撮影した画像DSC_4691.NEFについても、同様に彗星の位置に赤紫の〇を打ちます。
最もScoreが大きな画像は、Scoreでソートするとわかります。ここでは,DSC_4647.NEFです。
この画像にも同様にして彗星の位置に赤紫の〇を打ちます。
これで最初と最後とScoreが最も大きな画像で彗星の位置を指定できました。
左側メニューの赤色文字「Stuck checked pictures...」をクリックすると、スタックの設定画面が出て、Align on comet と表示されています。
この画面で、Align on comet をクリックすると、Comet Stacking にチェックが入っています。
ここでStandard Stackingにチェックを入れると従来のように星基準になります。
Stars + Comet Stacking は、彗星の部分は彗星で位置合わせをして、他の大部分は星で位置合わせをするというものですが、あまりうまくいかない印象で使っていません。
Lightタブではスタックのやり方を選択できて、私はいつもMedianを使います。彗星は低空で、人工衛星や飛行機がよく入りますが、Median(中央値)合成ではそれらはかなり消えます。恒星もかなり消える場合があります。彗星でいちあわせすると、恒星はずれていくので、同一ピクセルでは星が写っている画像より星がうつっていない画像の方が多いためです。
Averageを選択すると加算平均になります。
なお、下のウインドウ中の画像一覧で左端にチェックが入っている画像はスタックの対象となります。
ひどい飛行機やSNが悪い画像があってスタックに使いたくない場合は、チェックをはずしておきます。
Okをクリックするとスタックの作業が始まります。
スタック中の表示です。ここでは52枚がスタックされていることがわかります。
スコアが極端に悪い画像があるとスタック対象にならず、52枚撮っていてもスタック枚数が自動的に少なくなります。
スタックに使われない画像が生じる場合は、その画像のScore値が極端に低くなっています。
どうしてもその画像をスタックに使いたい場合は、最初のRegistarに戻り、threshholdのスライダーを左にして認識する星を多くすると改善する場合があります。
およそ2分で52枚の画像のmedian合成が終わりました。median合成したので恒星は暗くなっています。
左メニューのSave picture to file... をクリックして、名前を付けてfts形式で保存します。
加算平均も試してみましょう。Stack
checked pictures... から、Standard をクリックすると
Stacking Parameters 設定画面が出るので、 LichtタブでAverageにチェックを入れます。
OKをクリックしてスタックすると、加算平均画像ができます。
なお、彗星の元画像が入っていたフォルダーにはDSSがRegistarしたときに生じたテキストファイル、Autosaveファイルができています。私は作業が終わったらこれらを消去します。
●一次処理
DSSでスタックした画像は、16ビットのftsデータです。Phtoshopなどで仕上げる前にftsデータを16ビットTIFに変換します。私はステライメージを使っています。
52枚を彗星でmedian合成した画像のftsデータを開くと、左上が明るく右下が暗い画像です。
これは空の明るさが均一でないために生じた背景かぶりです。
ステライメージの周辺減光/かぶり補正ツールで、Rチャンネルを指定して画像内の4点をクリックします。これでRチャンネルの傾斜が補正されます。
同様にしてGチャンネルとBチャンネルを補正します。RGB別々に補正すると色むらが少なくなります。
次はRGBのバランス合わせです。
レベル調整を開くとヒストグラムが表示されます。赤より緑と青が明るい方にシフトしています。
このRGBのヒストグラムを次のようにして合わせます。
Rチャンネルを選び、下のスライダー△を動かしてヒストグラムの左肩の傾斜と右肩の傾斜が緑の曲線と合うように合わせます。
(左肩はRGBともほぼ合っているように見えます。右肩ではRとGが合っていて、Bだけ右にずれています。)
同様にBチャンネルを合わせます。
背景が白くなったので、次にRGBチャンネルでスライダーを動かして彗星がよく見えるように合わせます。
下は、再び周辺減光/かぶり補正でバックグラウンドの傾斜を補正、レベル調整でRGBのバランスを合わせなおしたものです■27。
これでfts画像の傾斜とRGBバランス補正ができたので、上書き保存しておきます。
少し表示レベルを広くしてからデジタル現像を行います。このとき上のスライダーを少し右に寄せて明るい部分の階調に余裕を持たせます。
できた画像を16ビットTIFで保存します。
●仕上げ処理 上で作った16ビット画像は、撮影したデータを1枚に集めたものです。
このあとは、16ビットの広い階調の画像に含まれている淡い尾から明るい中心部までを8ビットのJPG画像に集約する画像処理になります。
このあたりは星雲の画像処理とほぼ同じです。