第1章:待ちに待った任務
森の中では激しい戦いが繰り広げられていた。
剣とグローブがぶつかり合い、金属音が幾度と無く響く。戦っている者の片方が動きを止めた。
20歳ぐらいの男。顔も体もバランスはいいが所詮は標準的で、そんな中銀色の髪とオッドアイだけがとても印象的だ。
服は動きやすくするためにあえて薄い物を選び、左肩と両手首にだけ金属の防具をつけている。
その男ギルバートが、対峙する相手を見つめた。
相手も息を切らせてこちらを見つめている。
黒髪の少女。背からは鳥類の王である大鷲の翼を生やし、手には白銀に輝くグローブを着けている。
艶やかな黒髪はショートカットに分類される長さなのだが、後ろだけはわざわざ伸ばして小さめのポニーテールにしていた。
瞳は髪と同じ黒で、あまり目立つ色ではない。だが生気に満ち溢れキラキラと輝くそのさまは、黒真珠を彷彿とさせるほどに目立っていた。
顔立ちも一般男性とはとても釣り合わないほどに整っている。
だが極めつけ美しいのはその体だろう。
生まれ持ったきめ細やかな肌。戦いの中で養われたモデルのように細く長い手足。スタイルは年相応の少女のそれでありながらも、それがかえって猫のようにしなやかな美しさを感じさせる。
しかも薄めの半袖Tシャツとぴっちりとした短パンを着ているために、その肌は惜しげもなく晒されているのである。
「やあぁーーーー!」
掛け声と共に圧倒的な速さで走り出し、拳を構える。
だが正面からの攻撃だ。ギルバートならば、用意にタイミングを合わせられる。とは言っても素早いナデシコにそう何度も攻撃を当てる事はできないのも事実だった。狙うは相手を一撃で仕留められる急所。
だからギルバートは、迷わず頭を狙う。
「甘いぜナデシコ!」
ギルバートが剣を振り下ろす。ナデシコは剣に斬られに来ている。そんな錯覚を覚えるほど見事なタイミングだった。
だがあと数センチにまで迫った時、ナデシコの姿が掻き消えた。
「よっしゃあ!」
ギルバートの後ろから声。続いて風を切る音。
ナデシコが持つ高速の鋭い拳が、急所の一つである背骨に向けて突き進む。
無防備な背中に、今、拳が!
「勝ったぁー……のわぁ!」
急にナデシコが動きを止めた。直後にゴチンと、激しく何かがぶつかった音。ギルバートの手に妙な感触が伝わる。
「くぅううう……」
ギルバートが慌てて振り向いた。
振り下ろしたフリをして剣を手の中で一回転。そのまま、読みどおり後ろに回ったナデシコに突き立てた。寸前で止まる位置だったはずだ。
「わ、悪い! 大丈夫か?」
だがナデシコは足を滑らせ、刃を取り除きまるで鈍器のようになった訓練用の剣に頭からぶつかっていた。
「ほ、ほんまに痛い……」
頭を抑えてうずくまったままのナデシコは、涙声でそう告げる。
「悪かった、寸止めのつもりが思いっきり……」
「気にせんといて、ウチからぶつかったんや……。チャンスを逃さんとこ思て、勢い出しすぎたんよ……」
目に涙を浮かべたナデシコが、まだヒリヒリ痛む頭をさすりながら悔しそうに呟く。
「ウチは、まだまだや……」
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