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食と農のかけ橋(日本農業新聞より)

であい市  宅配野菜は元気のもと「大阪・能勢町」
 知的障害の若者ら無農薬栽培/消費者・農家も支援活動報告写真
総出で行ったタマネギの定植準備
(大阪府能勢町の作業所「宝島企画」の畑で)
宅配の野菜は盛りだくさん。
メンバーが手間をかけてつくった



 宅配の日を、みんなが待っている。大阪府能勢町の「宝島能勢便」は、自閉症や知的障害を持つ若者が作る野菜を、街に届ける宅配便だ。山あいの畑で土づくりをしっかりし、農薬は使わない。障害を持つ人が自分の役割を見つけながら、手間をかけて育てた野菜には、ビタミンだけではない“元気のもと”がある。
 
「宝島です」。大阪府池田市の住宅街。作業所「宝島企画」のメンバー・かぁくん(27)は、朝採りの野菜を抱え、門の前に立った。「まぁ、ありがとう」。村田有己子さん(70)が目を細め、玄関を出て受け取った。カブやニンジン、シイタケ、ホウレンソウ……。約二十種の野菜は、箱からはみ出すほどで、ずっしりと重い。
 村田さんは一人暮らし。宅配は月二回でも食べきれないほどの量になる。けれど、近所や親類に配ってでも、注文するそうだ。「だって、応援したいじゃないの」。宝島とはもう十年来のつきあいだ。芋煮会などさまざまな行事を通じ、メンバーとも顔なじみになった。時々、野菜の収穫を手伝ったりもする

 みんなは月〜金曜日まで、能勢町にあるグループホームで一緒に暮らしている。中幸男さん(46)・恵子さん(52)夫妻が運営。自閉症や重度の知的障害を持つ九人が仲間だ。そこで昼間の仕事の確保が課題となり、作業所「宝島企画」で始めたのが畑仕事とシイタケ栽培だった。宅配もすぐに始めた。
 畑はごく近い。もとは休耕田だった。狭い傾斜地で、農機が入りにくいため、普通ならやっかいな農地だ。おまけに農薬を使わないから草や虫との戦いもある。けれど「手間をかけると仕事の種類が多くなり、個人の能力に応じた作業ができる」と、中幸男さん。

 十二月上旬。タマネギの定植の準備は、総出の作業だった。畝にマルチをかぶせ、苗を植えるため、穴をあける。みんなで 1.マルチをおさえる 2.端に土をかぶせる 3.ビニールに穴を開ける 4.その時に出たごみを拾う――作業を分担。この後は、苗を植え、もみがらをかぶせ、沢から水をくんで与えるまでが流れ作業になる。

 宝島は農家と提携が進む。同町に隣接する兵庫県猪名川町の農家・上殿清さん(76)も朝市グループの仲間六人と宝島に野菜を供給。「宅配する野菜の量や品目を補う形で協力している。無理に出さんと、変わったものがでるようにね」と言う。能勢町の農家が作った有機米も、宅配日ごとにメンバーが精米して届ける。活動報告写真  「甘みがあって、野菜がおいしい」。そんな声に支えられ、宅配は月七回、延べ約八十軒を回る。この日は池田、豊中、吹田といった北摂地域の各市を通って、JR新大阪駅にほど近い大阪市淀川区まで七軒。宅配のワゴン車に乗った、しゅうちゃん(28)も野菜を運び、ひさえさん(31)も「こんにちは」と、あいさつをした。
 中恵子さんは「役割がいろいろあれば、何もかもできないという子は絶対にいない。表情には出なくても、作業ができたことを認められるとうれしいし、元気も出る」と、農作業や宅配の意義を話す。自然の中で精神的にリラックスでき、体力がついて健康にもいい。

 宅配を始めて十年目。宝島はその年を、二十九日に開く恒例の「もちつき」で締めくくる。村田さんをはじめ、支えるみんなが集まって、にぎやかになりそうだ。少しずつ育つ冬野菜にはビタミンが豊富。同じように、あえて「ゆっくり」を大事にする宝島の野菜は、障害を持つ人、食べる人にたくさんの活力を与えている。


 グループホームは、1991年に完成。中恵子さんが代表を務める「知的障害者自立協会宝島」が運営する。作業所「宝島企画」で92年に畑仕事を始め、宅配も翌年スタートした。メンバーの平均年齢は28歳。これまで公的な助成は受けてこなかったが、今後メンバーが安定して作業ができるよう、小規模福祉法人になることを計画している。03年新しい作業棟を建てる予定。


社会福祉法人 宝島福祉会

〒563-0365
大阪府豊能郡能勢町上杉102

TEL・FAX  072-734-1812
mail:ta-kara@zeus.eonet.ne.jp