化学むだばなし09/02

101.赤外線で

 秋になり、サンマの季節となってきました。落語に「目黒の秋刀魚」というのがありますが、サンマだけでなく他の魚や肉も炭火で焼いた方がおいしいと思います。木炭が燃えるという燃焼反応は、典型的な発熱反応で、いったん火がつくと火力は強いのですが、燃え出すまでが大変です。このことは野外でバーベキュウなどをするときに経験しているかも知れません。これは、木炭が黒鉛という炭素の単体を主成分としていて、この炭素が酸素と反応するためには、予め十分に高い温度になっていて、表面の炭素原子が周りの炭素原子との結合を切って蒸発し(この部分は吸熱反応)、酸素と反応できる状態になっていることが必要なのです。だから、木炭にマッチの火を持っていっただけでは着火しないのです。実際に木炭が燃えているところを見ると、真っ赤になった木炭の表面から薄い色の炎が出ています。これは木炭から蒸発した炭素が燃焼している炎なのです。炭火で魚を焼くとおいしいのは、真っ赤になった炭から出てくる赤外線で表面を焦がし、中まで一気に火を通すからだそうです。これに対しガスの火で魚を焼くというのは、ガスの青い炎からは赤外線があまり出ないので、炎で暖められた空気で魚を焼くことになります。これはちょうどヘアードライヤーの温風を当てているのと同じようになり、焼き魚の香りもなく半分火の通ったような状態になってしまいます。そこで、ふつうのガスコンロで魚を焼くときの網やグリルにも白い物が付いています。まずガスの炎でこの白い焼き物の粉を加熱し、そこから出てくる赤外線を利用しているのです。ただ、燃えている木炭の表面は、1000゚Cに近いので燃焼で発生した二酸化炭素はその熱を吸収して(吸熱反応)一酸化炭素になります。一酸化炭素は有毒なので、炭火は風通しのよいところで使いましょう。

102.カロリーとジュール

 熱、正確にいうと熱量の単位としては、カロリーが有名です。カロリーというとダイエット等で出てくるので栄養の単位だと思っているかも知れませんが、栄養というのは生命を維持するためのエネルギー源ですから、息で吸った酸素と反応してどれだけのエネルギーを出せるかということを熱エネルギーになおして表しているものです。このカロリーという言葉は、熱素(カロリック)からできた言葉です。ドルトンの頃は熱も熱素として一つの元素であり物質の一種と考えられていました。つまり、化学反応で熱が出れば熱という物質ができたと考えていました。しかし、現在では熱はエネルギーの一種と考えられているので熱を物質と考えるカロリーという単位を熱の単位として使うことには問題があります。エネルギーの基本単位はジュール(J,kg・m/s)なので、最近は熱量もジュールの単位で表します。熱の単位がkgやmを使って表されるというのもへんな気がしますが、熱が原子の熱運動の集まりであることを考えると理解できます。熱量とエネルギーとの間には1cal=4.2Jという関係があります。実は、この熱もエネルギーの一つであるということを発見したのが、Jouleでした。

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化学むだばなし09/03

103.熱量と温度

 「かぜをひいて熱がある」という言い方をしますが、この時の熱があるというのは、体の温度が高いということです。昔は、熱(熱量)と温度の区別がよく分かっていなかったのでこのような言い方が残っています。確かに同量の同じ物質であれば、温度が高い方が熱量が多いのですが、温度が高い少量の物質と低い温度の多量の物質、例えばコップ一杯の熱湯と風呂桶一杯のぬるま湯のように温度の低い方がたくさんの熱量を持っている場合もあり、必ずしも温度が高いからといってたくさんの熱量を持っている訳ではありません。20゚Cの水1kgの温度を1゚C上げるのに必要な熱エネルギーの量、つまり熱量は、80゚Cでも30゚Cでも水1kgの温度が1゚C下がることで与えられますが、80゚Cの水1kgを混ぜれば50゚Cまで上がりますが、30゚Cの水なら25゚Cまでしか上がりません。つまり、80゚Cの水の方が熱エネルギーを与える能力が高いと言えます。簡単にいうと、熱エネルギーの量が熱量で、その質が温度になります。温度に似た振る舞いをする物質量としては圧力があります。さて、どんなところが似ているでしょう。

104.反応エネルギー

 物質はそれぞれに固有のエネルギーを持っているので、化学反応に伴ってある物質が他の物質に変化することでエネルギーの過不足が起こります。このエネルギーの過不足が熱エネルギーで現れた場合には、発熱反応や吸熱反応となります。しかし、反応にとっては何も熱エネルギーに限る必要はなく、他のエネルギーでもよいわけです。例えば、電池は反応で余ったエネルギーの一部を電気エネルギーとして出しています。ここで一部と言ったのは電池を使っているときに触ると熱いことからもわかるように熱エネルギーも放出されているからです。夜店で売っているケミライトように化学発光するものは反応でできたエネルギーを光のエネルギーとして放出しています。火薬のように爆発で音がするものもありますが、そのもとは爆発による温度の上昇です。では、熱以外のエネルギーを吸収する反応としてはどんなものがあるか考えてみましょう。原子のレベルで説明すると原子の持っているエネルギーはその原子の電子配置で決まります。化学反応によって電子配置が微妙に変化しそれがエネルギーの吸収・放出となってあらわれますが、このエネルギーとしては熱と光が基本になります。

105.カロリーの測定

 ファミリーレストランへ行くとメニューにその料理のカロリー(本当はこういう言い方は良くない。栄養価というべきであろうか。)が書いてあります。これは卵1個はどだけ、肉50gはどれだけというのがずらっと載っている食品栄養表(栄養価だけでなく蛋白質や脂肪、それにビタミンなどの量も詳しく載っている。)というのがあってそれから計算するのです。では、卵1個の栄養価、つまり体の中で消化された後、どれだけの熱量がその1個のたまごから発生するのかはどうしたら測定できるのでしょう。

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化学むだばなし09/04

106.氷熱量計

 化学反応で出入りする熱量はどうして測ればよいでしょうか。反応で出た熱が外部に逃げたりすると正確な反応熱が測れないので、容器を発泡スチロールなどの断熱材で囲み温度の変化を温度計で読み取るというのが基本になります。簡単なものとしては左の図のようなものがあります。しかし、温度差があると必ず熱は伝わって逃げていってしまうので、温度差を作らない熱量の測定方法があります。そんなことが出きるのかと思うかも知れませんが、中央の図の氷熱量計というのがそれで、水の凝固点が0℃であることを利用して、反応で出た熱量は氷を融解して水にするために使われます。氷が残っている間の温度は0℃ですから、この容器の外側も0℃にしておけば、熱が逃げるということは基本的にはないはずで、正確な反応熱を測定できます。しかし、温度が変化しないということは、温度計では熱量を測定できません。では、化学変化に伴う熱量はどの様にして測定するのでしょう。

107.ボーン・ハーバーサイクル

 ある物質の結晶の中で、その構成粒子(分子やイオン)どれくらいしっかりとくっ付いたものかを調べるには、結晶をバラバラにするのにどれだけのエネルギーが必要かを測定すれば良いことになります。食塩を例にとるとNaCl(s)=Na(g)+Cl(g)+QkJという熱化学方程式の反応熱Qを求めればいいのですが、NaCl(s)をNa(g)とCl(g)に分解する反応は起こらないし、熱エネルギーをいっぱい与えて、1500℃を越える高温にして蒸発させ、Na(g)とCl(g)に分解したとしてもまわりに逃げる熱も多くて、実際にイオンに分けるのに必要なエネルギーというのはよくわかりません。このような測定しにくい熱量を測定する場合にはヘスの法則を利用して、違う方向から攻めるのです。つまり、まともには測定できないのなら、はじめと終わりだけを合わせて、回り道をしても測定しやすい経路を通って行こうという方法です。これは右の図のようになり一つの輪になります。この輪をボーン・ハーバーサイクルといいます。

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化学むだばなし09/05

108.熱設計

 反応熱を調べて何になるかと思うかもしれませんが。実験をしているときに激しい発熱反応が起こると危険なことがあります。例えば、濃硫酸と水を混ぜて希硫酸を作るときには、多量の熱が発生します。これは単に硫酸の分子が水に混ざるだけではなく、HSO + HO → HO + SO2− という発熱反応がおこっているからです。だから、濃硫酸に水を加えると濃硫酸の上で水が反応し、一気に沸騰して飛び散るときに周りの濃硫酸もいっしょにはねとばすので大変危険です。これ以外にも、発熱反応によって試験管が熱くて持てなくなって、落とした結果、ガラスでけがをしたり、薬品でやけどやするといったものもあります。化学工場を設計するときには、各反応でどれだけの熱が発生するかあるいは吸収されるかを知って、工場の設備がそれに耐えられるようにしなければなりません。そして、最も経済的に工場を運営するにはある反応で出た熱を他の吸熱反応で利用するといったことも考慮する必要もあります。

109.ヘスの法則

 化学反応は原子どうしの結合の組み替えです。そう考えると反応熱は化学結合の強さから予測することはできないのでしょうか。例えば、エネルギーの高い不安定な結合がエネルギーの低い安定な結合に変化したなら、その時に余ったエネルギーが反応熱として放出される。つまり、それぞれの分子はその分子の中の結合エネルギーの和であらわせる固有エネルギーを持っていて、化学反応によってそれの変化した分が反応熱としてあらわれるということができます。水素と酸素から水ができる反応では、H-H 436kJ, O=O 498kJ, H-O 464kJ なので、水素分子のエネルギーは436kJ,酸素分子のエネルギーは498kJ,水の分子のエネルギーは464kJx2(水の分子の中にはH-Oの結合が2つある)となり、H+/O=HOにあてはめると、464x2 - 436 - 498/2 = 242 となって、この反応の反応熱を計算から求めることができます。実際には、結合エネルギーは量子力学を使って求められるのですが、計算が難しいのでいろいろな近似をします。そこで出た数値が正しいかどうかは、実験で求めた値と比較することになります。

110.反応熱から凝固点降下

 反応熱を調べるとわかることの一つに、反応の方向があります。どういうことかというと、AからBに反応が進むときの理由の一つとして、AよりBの方が低いというのがあります。つまり、高いところにある物体が低いところに落ちてくることはあっても逆がないのと同様に、AからBに反応することで物質の持つエネルギーが低くくなり、あまったエネルギーが放出されるので発熱反応となるというものです。だから、多くの反応は発熱反応で吸熱反応は少ないのです。このような考え方を使えば、水に食塩が溶けるのはその方が水だけよりもエネルギーの低い安定な状態になるからです。その結果、食塩水は水だけよりも安定な状態となり、0℃より温度が下がっても凝固しないということになります。

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化学むだばなし09/09

111.オキザリス

 酸の性質として「すっぱい」というのがあります。英語で酸をあらわすacidはラテン語ですっぱいという意味のacidusが語源になっています。身近なものですっぱいものの一つにカタバミ(別名すいすい草)がありますが、この草の英語名はoxalisでその語源はギリシャ語の酸っぱいを意味するoxysに由来するといわれています。そして、この酸っぱい原因は蓚酸という酸が含まれているためです。この蓚酸の英語名はoxalic acidでさしづめ「すっぱい・すっぱい」というような意味になります。ラボアジェは、酸素をoxygenと名づけましたが、oxy-はoxysに由来し、-genは生成するという意味のギリシャ語で、合わせて「酸を作るもの」という意味です。日本語の「酸素」もこの意味を漢字にしたものです。実際に多くの酸には酸素が含まれていますが、塩酸のように酸素を含まない酸も見つかり、現在では酸性の原因は酸素ではなく水素イオンによるものであることがわかっています。

112.馬の尿から馬尿酸

 教科書に出てくる酸は、塩酸、硫酸、酢酸など限られたものですが、酢酸のような炭素を含む化合物の酸には、発見された物質に由来する名前を持った酸がたくさんあります。例えば、アリの毒に含まれる酸は蟻酸(ギサンと読む、アリサンとは読まない)といい、酸性なのでアルカリ性の物質でこの毒を中和することができます。それが証拠に「虫さされにキンカン」のキンカンは、アンモニア水が主成分です(注意・蜂の毒は蛋白質なのでキンカンは効かない)。その他には、りんごの酸味の成分であるリンゴ酸。桂などクスノキの仲間の木から発見された桂皮酸は、この化合物の誘導体の桂皮酸メチルがシナモン(肉桂・ニッキともいう)に含まれています。さらに馬の尿から見つかった馬尿酸というようなものまであります。

113.超強酸(魔法酸)

 酸の強い弱いは、水素イオンを出す力で決まります。教科書では、強い酸として塩酸、硫酸、硝酸が出ていますが、このなかで最も強い酸は硫酸です。しかし、世の中は広いものでこれらより強い酸もあります。花火で使う過塩素酸カリウムなどのもとになる過塩素酸は、硫酸よりも強い酸です。さらに、もっと強くて「超強酸」と呼ばれるものもあります。フッ化水素酸は弱い酸ですが、これにフッ化アンチモンを混ぜるととてつもなく強い酸性を示します。昔、この物質を研究していた人が余りに酸性が強いので冗談半分にロウソクを入れたところロウソクの分子が水素イオンをもらい陽イオンになって溶けてしまったという話があります。このことから超強酸のことをマジックアシッド(魔法酸)ともいいます。弱い方の酸はたくさんあっていちいち覚えることはできません。逆に知らないのが出てきたら弱い酸だと思えばほぼあたります。酢酸や炭酸のように食べたり飲んだりできるのは、当然のことながら弱酸です。

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化学むだばなし09/12

114.オキソニウムイオン

 溶液が酸性を示す原因は水素イオンであるとよくいわれますが、考えてみれば、水素イオンは、陽子そのものであり、その大きさはふつうの原子の1万分の1くらいのものです。このようなものが他の原子や分子と対等に溶液の中を動き回っているのでしょうか。食塩を水に溶かしたときも、NaやClは、単独で存在するのではなく水の分子に取り囲まれて水和した状態で存在しています。水素イオンの場合はどうでしょうか。例えば、純粋な酢酸(料理に使う酢は、4%くらいの酢酸の水溶液にうまみの成分が混ざったものです。純粋な、つまり100%の酢酸は、融点が17℃なので冬には凍るので氷酢酸とも呼ばれます。)は、電気を通さないのでイオンの存在は認められません。つまり、水がない状態では水素イオンを始めイオンは存在しないということです。しかし、水を加えて行くと電気が通るようになってイオンが存在するようになります。このことから水素イオンには、水の分子が一つ付いて、H+HO → HO というオキソニウムイオンや、図のようにさらにオキソニウムイオンが水和した状態で存在していると考えられます。

115.ブレンステッドとローリー

 水を構成する酸素原子と水素原子を比べると、酸素の方が電気陰性度が大きいので酸素分子は負に帯電し、水素原子は正に帯電して極性を帯びた極性分子になっています。その結果、水分子のうち、ほんの少し(5億個に1個くらい)は水素イオンと水酸化物イオンに分かれる。つまり、HO → H+OHとなります。この反応式をよくみると、水分子から水素イオンが出ているので水を酸と考えることもできるし、水酸化物イオンが出ているので塩基とも考えることができます。さて水は酸でしょうか、塩基でしょうか。このままでは、問題は解決しないので酸と塩基の定義に戻ってみましょう。酸性と塩基性は互いに相手の性質を打ち消すという正反対の性質を持っています。このことから考えると定義も酸と塩基でちょうど反対の形をしていることが必要なのではないでしょうか。塩酸が酸として作用するときには、塩化水素の分子から水の分子に水素イオンが渡されています。水酸化物イオンが塩基として作用するときには、水酸化物イオンが他の分子から水素イオンを貰っています。つまり、水素イオンや水酸化物イオンの存在が酸や塩基として重要なのではなく、水素イオンの受け渡しが酸と塩基の本質であるといえます。そこで、1923年にブレンステッドとローリーは、それぞれ「水素イオンを与えるのが酸であり、受け取るのが塩基である。」という定義を発表しました。この定義にしたがえば、酸と塩基は水溶液だけでなく、アルコールやアンモニア等の非水溶媒と呼ばれるようなものにおいても同様に考えることができ、酸と塩基の概念は大きく広がってきました。

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化学むだばなし09/16

116.指示薬

 リトマス試験紙を使って、溶液の酸性・塩基性(アルカリ性)を調べることができます。このリトマスのような色の変化で溶液の性質を示す薬品を指示薬といいます。昔、リトマスはリトマス苔という苔から採るというのを聞いて、リトマス紙に赤色と青色があるのだから、きっとこの苔には赤色リトマス苔と青色リトマス苔があるのだと思っていました。本当は、リトマス苔は一種類でそれからとった紫色の液に少し酸を加えて赤色にしたものをろ紙に染み込ませたのが赤色リトマス紙、逆に塩基を加えたものが青色リトマス紙です。指示薬というのは、色素の一種で水素イオンを出したり、もらったりして(一種の酸や塩基として作用している)分子の構造が変化すると色も変化するような物質です。身の回りでは、紅茶にレモンを入れると色が薄くなるのも紅茶に含まれるフラボン系の色素がレモンの酸性で分子の形が変化したからです。たいていの胃薬はアルカリ性なので、紅茶にレモンの変わりに胃薬を入れたらどうなるでしょう。その後でレモンを入れたらどうなるでしょう。この他にも、紫キャベツの汁も指示薬として利用できます。

117.スマトリ

 前に勤めていた学校には古い薬品がいろいろとあって薬品棚に「スマトリ」と書いた小さな瓶があって中には黒っぽい固まりがいくつか入っていました。他にも一杯知らない薬品があったので、初めて見たときは何かなと思っただけだったのですが、何年かしてあるときハッとこれがリトマスであることに気がつきました。昔は右から左へ書いたのです。この固まりを少しとって水に溶かすと、赤紫色の液になり、確かに酸を加えると赤くなり、塩基を加えると青くなりました。

118.花の色は

 小学校の頃に花びらを絞った色水に酢や石けん水を混ぜたことはありませんか。酢を混ぜると赤くなり、アルカリ性の石けん水を混ぜると青くなります。この変化は何と同じでしょう。そうです。リトマス紙と同じですね。それもそのはずで、アサガオの花の色素はリトマスと同じアントシアニン系の色素です。リトマス紙の色が酸性・塩基性で赤から青に変わるようにアサガオの花の色も細胞液の性質で赤から青にかけての色を示します。あじさいの花もアントシアニン系の色素を持っているので、赤から青にかけての色になります。植物の色素には、大きく分けて、赤から青にかけてのアントシアニン系のものと赤から黄にかけてのフラボン系のものがあります。だから、アントシアニンを持っているアサガオには黄色や橙色のものはないし、フラボンを持っているチューリップには青色のものはないのです。

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化学むだばなし09/17

119.濃硫酸は弱酸

 あるm価の酸HmAに対して、電離度αを反応式との関係で示すと次のようになります。

           HmA →  mH +  Am− 

      はじめ   n mol/l  0 mol/l 0 mol/l

      おわり n(1-α) mol/l mnα mol/l nα mol/l

つまり、電離度αが1のとき、酸HAは全部解離してHとAになり、もとHAのかたちでは残っていないことをあらわします。逆に電離度αが0のとき酸HAは解離せず、すべてもとのHAのかたちでは残り、HとAは存在しないことを示し、酸としてはたらいていない状態になります。塩酸や硫酸のように強酸と呼ばれるものは、電離度がほぼ1でその水素イオン濃度[H]は簡単にmnあらわすことができます。酢酸のような弱酸では電離度は1よりずっと小さいのでその水素イオン濃度[H]はmnαであらわすことになります。ただし、実際には酸は水分子と反応してオキソニウムイオンになるので、酸の濃度が高く極端に水が少ない場合には、強酸といえどもオキソニウムイオンができなくなって電離度は下がります。弱酸も含めて一般的には濃度が低いほど電離度は高いといえます。このように、中途半端にしか反応が進まない場合には、電離どのような変数を使って反応の進み具合を示す必要があります。弱酸では水素イオンの量が少ないので少量の塩基で中和すると思えますが、中和反応によって水素イオンが消費されると電離どの関係を満たすようにもとの酸が次々に解離して水素イオンを供給するので結局全部の酸が反応することになります。つまり、1モルの酢酸を中和するのに必要な水酸化ナトリウムの量は、1モルの塩酸を中和するのと同じ量が必要であるということです。

120.水素イオン濃度指数

 酸とは水素イオンを出す物質であり、その水素イオンによって溶液はどの酸が存在するかに関わらず共通した酸性を示すことになります。だから、酸性の程度は水素イオンの濃度で決まることになります。このような水素イオン濃度の計算については、水のイオン積のように掛け算が出てくることが多いので、水素イオンの濃度そのままを使うよりも、その対数をとったpHを利用して、掛け算を足し算に代えた方が計算も楽になり、式も簡単になるという利点があります。なお、pHのHは、もちろん水素イオン濃度の水素を表わしています。そしてpは、power(べき乗)から由来しています。溶液のpHを正確に測定したいときは、pHメーターという機械をつかいます。この機械のガラス電極を調べる液につけるとデジタルでpHが表示されます(昔は、メーターからpHを読み取ったのでpHメーターという)。なお、ガラス電極は、先端の部分が水素イオンだけを通す多孔質ガラスでできていて電極の中と外との電位差を計るものです。大体のpHがわかればよい場合には、万能試験紙を使います。これはBTBなど何種類かの指示薬を混ぜ合わせたもので、pHの変化を簡単に色の変化で見るものです。

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化学むだばなし09/23

121.中和の基本公式

 塩酸と水酸化ナトリウムの中和反応では、水とともに食塩ができます。酸や塩基の実態がわからなかった時代には、このような中和反応では食塩のような塩の生成が重要視され、つまり、酸+塩基→塩というように考えられ、塩と同時に水ができていることはほとんど意識されていませんでした。もっとも、塩酸も水酸化ナトリウムも水に溶けた水溶液の形で反応させるので、水ができてもちょっと見ただけではわからなかったのです。水の生成にはじめて注目したのはディロンで、水溶液でなく固体を使った中和反応での水の生成を指摘しました。現在では、中和においてどんな塩ができるかは反応させる酸と塩基によって異なりまが、水ができることは酸と塩基の定義からも共通なので、中和の基本公式として、 H + OH → HO が使われます。

122.アルコールの中和

 水、H-O-H 以外の溶媒、例えばアルコールの一種のエタノール、CH-CH-O-H 中での中和の公式はどうなるのでしょうか。H + OH → HO という水溶液中での中和の公式をよく見ると水素イオンと溶媒の分子から水素イオンが抜けたものがいっしょになって溶媒の分子をつくるという形になっています。このことをエタノール中での中和に当てはめると、H + CH-CH-O → CH-CH-O-H となり、水溶液でのOH にあたるものがCH-CH-Oになります。水溶液中では、OH をもつ化合物として水酸化ナトリウム、NaOHがありますが、エタノール溶液中ではこれに対応する化合物としてナトリウムエトキシド、CH-CH-O-Na があり、この物質は、CH-CH-O とNa に電離する強塩基です。もっとも、このナトリウムエトキシドを水に混ぜると、水素イオンを出す能力が水の方が大きく、エタノールの方が小さいので、水がHを出しそのHをCH-CH-Oがもらい、反応式では、

        CH-CH-O-Na → CH-CH-O + Na

             HO → H + OH

   +)  H + CH-CH-O → CH-CH-O-H    

     −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

     CH-CH-O-Na + HO → NaOH + CH-CH-O-H   となって、

結局、水酸化ナトリウムとエタノールに戻ってしまいます。

123.規定度と当量

 酸と塩基の中和反応の量的な計算については、酸や塩基の物質量を中心にする見方と、中和に対する能力を中心にする見方とがあります。例えば、希硫酸の容器に6N−HSOと書いてあれば、この希硫酸は、3mol/lですが、硫酸は2価の酸なので3mol/lの2倍の6mol/lの水素イオンを出すことができますよという意味で、この濃度の表わしかたを規定度といいます。また、重さで考えるときは、硫酸の分子量は98ですが硫酸は2価の酸なので、1モルの水素イオンを出すには分子量を価数で割った49gの硫酸が必要です。この分子量を価数で割ったものをといいます。規定度や当量を使って、中和の公式を作ってみましょう。

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化学むだばなし09/26

124.酸性雨

 酸性雨(Acid Rain)という言葉を聞いたことがありますか。通常の状態でも、空気中には少量の二酸化炭素が存在しているので、それが雨に溶けると炭酸になります。だから雨は基本的に少し酸性なのですが、pH が5.6以下の雨を酸性雨といっています。その原因としては、工場や自動車などで石油や石炭を燃やすと、二酸化硫黄や窒素酸化物が大気中に放出され、それらが硫酸や硝酸に変わって雨や雪に溶けて地上に降ってくるからと考えられています。酸性雨によって土壌中のカルシウムイオンやアルミニウムイオンが溶けだします。その結果、植物が弱り、魚類にも影響を与えるので、環境に対して大きな問題になります。奥日光の立ち枯れ林も酸性雨が原因ではないかといわれています。環境庁が1989年度から92年度まで全国の酸性雨測定局で水素イオン指数を調べたところ全国平均で4.8、新潟市で4.4、大阪市や川崎市で4.5 とオレンジジュースなみの酸性度をもった雨が降っていることがわかりました。大都市圏で酸性度が高いのは、工場や自動車が原因といえますが、日本海側で高いのは、中国や韓国などからの硫黄酸化物が季節風で運ばれたからだとみられています。

125.中和滴定の道具

 中和滴定では、溶液の定量のために変わった道具をいくつか使います。その代表としてビュレットとピペットが挙げられます。ビュレットは、目盛り付きの滴下式容積計で、活栓を付けることにより、簡単に溶液の量を10分の1ml程度の量をコントロールできるようになっています。英語では、buretteですが、語源はフランス語の水差しや瓶を示すbuireの縮小形、buiretteから来ていると考えられます。英語のbottleもこれに近い単語です。ピペットの方は、途中が太くなったガラスの管(pipe)で、口に直接つけるので初めは戸惑う人も多いようです。標線の付いているところは管が細くなっているので、決まった体積ならメスシリンダーよりずっと正確にはかり取ることができる道具です。もともとの言葉はpipeの縮小型のpipetteで、小さいパイプを表しています。

126.濃度いろいろ

 中和滴定のときには、溶液の体積に対する溶質の物質量を表した体積モル濃度が出てきます。濃度というのは、2成分系以上の多成分系において一つの成分が全体に対してどれだけ入っているかというものを表すものです。小学校では、溶液の重量に対する溶質の重量を(重量)パーセント濃度で示してきました。しかし、液体は重量よりも体積の方が測定しやすいので、全体の体積に対する溶質の体積を表す体積パーセント濃度というものもあります。ビールのアルコールが5.5%というのは、全体に対して液体であるアルコールの体積が5.5%であることを示しています。このほかにも、溶媒の質量に対する溶質の物質量を示した重量モル濃度は凝固点降下や沸点上昇で利用され、溶液1モルに含まれる各成分の物質量を示すモル分率は溶液の理論的な考察で利用されます。

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化学むだばなし1001

127.ホールピペット

 中和滴定の実験でホールピペットを使うとき、結構、失敗が多いので失敗しない方法を紹介しておきます。まず、薬品を飲んでしまうという失敗について、この失敗をするとしばらくはピペットを見るのも嫌になってしまいます。吸っていて液が上の方まできているのに気づかずそのまま吸ってしまったというような人はめったにいません。誰だって薬品を吸うのは嫌ですから。たいていは上がってくる液面に気を取られてピペットを持ち上げてしまい、ピペットの先が溶液の液面から離れて空気が入ってくることが原因です。液体に比べて空気のような気体の粘性は100倍くらい小さいので、ピペットの先の小さい孔から液体を吸うためにがんばっているところへピペットの先が液面から空気が入ってくると一気に大量の空気が入ってきて、先にピペットの中に入っていた液体も一気に上に上がってきて口に入ってしまうというわけです。この失敗をしないためには、ピペットの先を常に瓶の底に当てておくように意識することです。もう一つの失敗は、標線より少し上まで吸い上げてから液を少しずつ落とすときに、ピペットの上のところに唾が付いていてピペットと指との間に液体の膜ができ、微妙な調整ができず液が標線の下まで一気に下がってしまい何回もやり直すというものです。ピペットを口にくわえているときも舌でさわると唾で濡れるので、唇でかむような気持ちで吸うのがよいでしょう。液を落とすときは、指をパッと離すのではなく、力を少しゆるめて指紋の間から空気を入れて落としていくような感じで調節するとうまくいきます。初めは難しいですが慣れるとこういった操作は親指よりも人差し指の方がしやすいようです。最後に、失敗ではありませんが、ピペットに最後に残った液を出す方法について、これは息で吹くのではなく、上の口を指で押さえながら中央部の膨れたところを握ると体温で中の空気が暖まり、シャルルの法則によって膨張した空気が残った液を押し出してくれます。そこで出てきた液をビーカーなどの器壁につけるというようにします。

128.水素イオンの出方

 硫酸と水酸化ナトリウムとの中和反応を少し詳しく考えてみましょう。この反応を反応式で書くとHSO + 2NaOH → 2HO + NaSOとなりますが、これはちょうど過不足なく反応したときの話で、硫酸に少しずつ水酸化ナトリウムを入れていったときには、個々の硫酸は1個ずつ水素イオンを出していきます。そして全部の硫酸が1個ずつ水素イオンを出せば、HSO + NaOH → HO + NaHSO(硫酸水素ナトリウム)となります。そして、これ以上に水酸化ナトリウムを加えて初めて硫酸から2個目の水素イオンが出てくるのです。つまり、硫酸が酸として働いて水素イオンを出すのは、次の二つの段階から成り立っているのです。

       HSO → H + HSO(硫酸水素イオン)

     +) HSO → H + SO2−  

        HSO → 2H + SO2−

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化学むだばなし1002

129.溶液の調製

 授業では、3mol/lの水酸化ナトリウムとか2mol/lの塩酸などといっていますが、これらはどのようにして作るのでしょうか。例えば、3mol/lというのは溶液1リットルに水酸化ナトリウムが3モル溶けているということです。水酸化ナトリウム3モル、つまり、水酸化ナトリウムの式量は40だから3モルは120gになるので、水酸化ナトリウムの固体120gを計り取って水1リットルに溶かすのではありません。こういう作り方をすると、体積が1リットルより大きくなるからです。本当は、1リットルの八分目くらいの水に120gの水酸化ナトリウムを溶かし、さらに少しずつ混ぜながら水を加えていって溶液の体積を1リットルとするのです。1mol/lの水酸化カリウムの溶液を50mlを作るにはどうすればよいでしょう。塩酸の場合は、塩化水素(HCl)という気体を水に溶かしたものなのではじめから水が混ざっているので重さを計るわけにはいきません。ありがたいことに濃塩酸として売っているものは、約12mol/lなのでこれを薄めて使います。では、2mol/lの希塩酸50mlを作るにはどうすればよいでしょうか。

130.正確な濃度

 正確な濃度の酸や塩基の溶液を作るのは容易にはできません。つまり、どんなに正確に水酸化ナトリウムの重さを計っても、濃塩酸の体積を計っても、正確な濃度の溶液を作ることはできないのです。何故でしょうか。理由としては、水酸化ナトリウムの固体は純粋なものではなく、たいてい食塩などが不純物として溶けていること(水酸化ナトリウムは食塩から作られている)と、水酸化ナトリウムには「潮解」という、空気中の水分を吸ってドロドロに溶けてしまう性質があるからです。だから計りに載せてもたもたしていると時間とともに水分を吸って重くなっていきます。次に濃塩酸や濃硝酸では、瓶のふたをあけると煙が出て、鼻を刺すような刺激臭がします。これは塩酸や硝酸が蒸発しやすいからで、ふたを開けたり、体積を計ったりしている間にも蒸発してなくなってしまい濃度下がっていきます。酸の中で正確な濃度の溶液ができるのは蓚酸[(COOH)・2HO]くらいしかありません。蓚酸は結晶として取り出せるので、再結晶を繰り返すことで純粋なものを得ることができます。そして、潮解も風解もしないので、正確にその質量を測定することができるのです。そこで、ある水酸化ナトリウムの溶液の正確な濃度を知りたい場合には、この濃度のはっきりしている蓚酸の溶液で中和滴定してその濃度を求めるのです。余談ですが、塩酸を蒸留するとどうなるでしょうか。濃い塩酸では塩酸の方が多く蒸発するので塩酸の濃度は下がり、薄い塩酸では水の方が多く蒸発するので塩酸は濃くなっていきます。どのような塩酸からはじめても十分に時間をかけて蒸留すると、沸点は108.6゚Cで一定となりその時の濃度は20.22%です。この状態で沸騰すると水と塩酸が同じ割合で蒸発するので溶液の濃度はもはや変化しません。この状態を共沸混合物といい、正確に濃度を決定できるのですが、どの物質にもこの状態があるとはかぎりません。

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化学むだばなし1003

131.弱酸と弱塩基の中和

 酸と塩基が中和反応をして水と塩ができます。しかし、弱酸や弱塩基が関係する中和反応では中和反応が完全におこなわれることはありません。それは、弱酸は少ししか水素イオンを出さないし、弱塩基も少ししか水酸化物イオンを出さないからです。授業ではいつでも反応が完全にいくような感じで反応式を作っていますが、反応していない酸や塩基はたくさん残っている場合もあるのです。例えば、炭酸とアンモニアのように弱酸と弱塩基の組み合わせでは、実際に中和反応をして炭酸アンモニウムになるものは1割もありません。残りは炭酸とアンモニアの形で残っています。では、炭酸ナトリウムのような弱酸からできた塩の水溶液に塩酸のような強酸を入れるとどうなるでしょう。炭酸は弱酸なので炭酸イオン、CO2−でいるよりも、炭酸、HCOの方が安定です。そこで強酸である塩酸が出す水素イオンをもらって炭酸イオンはどんどん炭酸の形になってしまいます。(CO2− + 2H → HCO) そうすると溶液の中は、塩酸が水素イオンを出した残りの塩化物イオンと初めからのナトリウムイオンになり、塩化ナトリウムの水溶液になってしまいます。炭酸の方は、水溶液中で濃度が上がると二酸化炭素と水に分解してしまうので、塩酸を入れると同時に二酸化炭素の気体が発生するということになります。つまり、弱酸の炭酸が強酸の塩酸によって追い出された形になります。では、濃硫酸に炭酸ナトリウムを溶かしたときはどうなるでしょう。

132.ルイスの酸・塩基

 酸と塩基の定義として、アレニウスの定義とブレンステッドの定義を紹介しました(115.参照)が、最も新しい酸と塩基の定義としてルイスの定義も紹介しておきましょう。ブレンステッドは、水素イオンを出すものが酸でもらうものが塩基であると定義しました。この定義によれば、酸から出た水素イオンが塩基となる物質にもらわれるところが中和反応ということになります。この中和反応の部分をよく考えてみましょう。水素イオンが塩基にもらわれるというのはどういう反応が起こっているのでしょうか。オキソニウムイオンの場合は、H+ HO → HOとなり、アンモニウムイオンの場合は、H+ NH → NHです。共通していえることは、水素イオンは水分子の非共有電子対に配位結合しているということです。酸としての水素イオンは、この配位結合をするときに非共有電子対をもらい、塩基は逆に自分の非共有電子対を水素イオンに与えています。このことに注目したのがルイスです。ルイスは、「電位対をもらうものが酸、電子対を与えるものが塩基」と定義しました。ルイスの定義の特徴は、酸と塩基の定義から、アレニウス以来の水素イオンという言葉が消えたことです。中和反応について、電子対のやりとりから考えれば、水素イオンに限らなくてもよいわけで、次のような反応も酸と塩基の中和反応ということになります。

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化学むだばなし1004

133.酸化と還元

 ものが炎を上げて燃えるという現象は、昔から人間にとって関心を引くものです。ギリシャ時代のアリストテレスによる四元説では、全ての物質は水と風と土と火からできていると考えられ、燃えるということは物質中の「火」が炎となって逃げていき、その後に灰が残るという考え方でした。17世紀の終わり頃から木炭が燃えることも、金属が錆びることもともにフロギストン(熱素)という物質が逃げ出すことであると考えられるようになりました。この考え方によって、金属の錆は木の灰と同じようにフロギストンが抜けた跡とみなせば金属の灰ということができるというものでした。これは、一見、全く別の現象がフロギストンをとおして統一的に把握されたということにおいて画期的なものでした。しかし、ラボアジェによって、燃焼によって物質の質量が増えることが明らかにされ、「火」やフロギストンが逃げていくという考え方では燃焼を説明できないことが示されました。ラボアジェは、質量の増加を空気中のある成分が結合したためと考え、この成分に酸素という名前をつけ、酸素が他の物質と結合する現象を「酸化」と呼びました。そして、炎を上げる燃焼や金属が錆びることだけでなく、呼吸などの生体でおこる反応も酸化反応であることを明らかにし、また酸化の反対の反応を酸化の逆反応という意味で還元と呼びました。

134.マンガンは非金属?

 ある原子が酸化されるということは電子を失うことですが、このことによって原子の性質はどのように変わるのでしょう。マンガン(Mn)を例にとって説明すると、酸化数が0のとき、Mnは原子どうしが金属結合をしているので(当たり前ですが)金属です。電子を2個失って酸化数が2のMn2+になると、うすい桃色のイオンになり酸化物が水と反応すると水酸化マンガンという塩基になるのでまだ金属の性質を持っています。もう2個電子を失って酸化数が4のMn4+の酸化物は二酸化マンガンという炭の粉のような物質で水には溶けません。さらに3個の電子を失って酸化数が7の状態では、その酸化物を水に溶かすと濃い赤紫色の過マンガン酸という物質になります。水に溶けて酸になるというのは、もはや金属というよりも非金属といえる状態になっているということです。一般に金属は電気陰性度が小さく電子を出しやすいのですが、このマンガンのように7個も電子を取られているとマンガンの原子は電子を取り返そうとするので、電気陰性度が大きくて電子をもらう傾向のある非金属と同じ変化をするようになるのです。

135.半反応式

 酸と塩基のところでは、はじめにいくつかの酸と塩基についてそれぞれの酸や塩基としての反応式を示し、それらの式を組み合わせて中和の反応式を作りました。それと同じように、この酸化還元のところでは、酸化剤や還元剤のそれぞれについての半反応式を組み合わせて酸化還元の反応式を作ります。そのため、これらの半反応式を覚えることが大変重要になります。必ず覚えて下さい。

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化学むだばなし1007

136.酸化と電子

 「酸化」という言葉は、もちろんいろいろな単体が酸素と化合して性質の異なる別の物質(化合物)に変化することを意味しています。そして、「還元」は化合物が酸素を失うことを意味しています。例えば、CuO + H → Cu + HOという反応で水素は酸化され、酸化銅は還元されています。このように酸化と還元は酸素原子の授受なので同時におこります。ところが、19世紀になり有機化学がだんだん発展してくると CHOH + CuO → CHCHO + HO + Cu というような反応が見つかってきました。この反応では、酸化銅は還元されて銅になっているので、何かが酸化されているはずですが、酸化銅と反応したエタノール(CHOH)の酸素の数は1個のままで増えていません。ここでの身の振り方は2つあります。一つは、酸素と反応することが酸化ということを大切にし、酸化と還元が常にセットで起こるわけではないとする道。もう一つは、酸化と還元は同時に起こるということが大切であると考え、酸化という概念を酸素にとらわれず拡張する道。あなたならどちらを選びますか。化学者が選んだのは後の方でした。酸化銅が還元されているからには、エタノールが酸化されていることになります。そこで、エタノールの分子を見ると2個水素原子が減っているので、化学者たちは新しく「水素原子を失うことを酸化、水素原子をもらうことを還元という。」というルールを作りました。その後、いろいろな元素についての反応が明らかになってくると、例えば、塩素と化合することも酸素と同様に酸化と考えられるというように、この元素と結合したときは酸化、この元素の時は還元と考えなくてはならないようになってきました。このままではルールばかりが複雑になるので、酸化・還元についての考え方の整理が必要になりました。ちょうどそのころ、原子の構造が明らかになり、化学結合の本質が電子によるものと分かってきて、現在では、酸化・還元はもとの酸素から離れて「電子の授受」で統一的に説明されるようになりました。そして、酸化・還元は、エタノールが酸化されるというように物質に対する概念から、エタノールのこの炭素原子が電子を失ったというように、原子に対する概念に変わりました。

137.酸化還元反応滴定

 酸や塩基の濃度を測定するときに中和滴定ということをしました。これと同じように酸化・還元反応を利用して酸化剤や還元剤の濃度を測定する方法を酸化還元滴定といいます。中和滴定では、中和したことを知るためにフェノールフタレインのような指示薬を使いましたが、酸化還元滴定では過マンガン酸カリウムの様に酸化剤自身が変色するので指示薬が不要な場合もあります。環境問題で水質の善し悪しを議論するとき、COD(化学的酸素要求度)というのがあります。これは、水の中に有機物、つまり屎尿であったりラーメンの汁であったりが、どれだけ含まれているかを過マンガン酸カリウムで酸化して定量するものです。これも酸化還元滴定の一つの例です。

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化学むだばなし1011

138.最強の酸化剤

 酸化剤や還元剤にも酸や塩基と同じように強いものと弱いものがあります。強いものとしては、過マンガン酸カリウムや二クロム酸カリウムがあり、弱いものとしては、二酸化硫黄や過酸化水素などがあります。これらは電子を取る力の大小で区別されていて、弱い酸化剤である過酸化水素は、還元剤のような自分よりも電子を出しやすいものからは電子を取って酸化剤して作用しますが、過マンガン酸カリウムのような自分より強う酸化剤には電子を取られ(与えて)還元剤として作用します。このことは、還元剤においても同様に成り立ち、弱い還元剤は強い還元剤から電子を渡されます。この場合、弱い還元剤は強い還元剤に対して酸化剤として作用したことになります。これらの反応を見ていると、酸化剤と還元剤というのは、別のものではなく、数直線上の数字のようなものです。正の数を酸化剤、負の数を還元剤に例えると、絶対値の大きな数は強いもの小さな数は弱いものということができます。そして、実際に反応するときは、より大きい方が酸化剤となるといえます。酸と塩基の関係においても、アレニウスの定義のように水素イオンを出すものが酸、水酸化物イオンを出すものが塩基と分けてしまうと、酸と塩基はまったく別のものになってしまいますが、ブレンステッドの定義のように水素イオンのやりとりという定義にすると、強い酸から強い塩基までが一列に並びます。そして、弱い酸は強い酸に対しては塩基として働くことになり、電子の授受で定義された酸化・還元と理論的には同じ構造になります。さて、ここで問題です。世の中で最も強い酸化剤というのがあれば、その物質は、なにか別の物質を酸化して作ったわけですが、どんな物質を使って酸化したのでしょうか。

139.酸化還元と色の変化

 絵の具をはじめとして、身の回りには色のある物質がたくさんあります。これらの色はどうしてあらわれるのでしょうか。光というのは「虹の七色」からできていて、赤い物質というのは、赤以外の光を吸収する物質ということになります。では、光を吸収するということはどういうことでしょうか。これは、その分子や原子の電子が光の持っているエネルギーを吸収するということです。光の持っているエネルギーは色によって異なり、電子が欲しいと思っているエネルギーとちょうど一致するときだけ吸収されるので、電子の状態が変化すると吸収される色も変化します。つまり、酸化・還元反応では電子のやりとりがあって電子状態が大きく変化するので色の変化を伴うものがたくさんあります。実験のときには色の変化にも注意しましょう。そのほかに酸化・還元の実験で有名なものに銀鏡反応があります。これは、硝酸銀のような酸化数が+1の銀をブドウ糖やホルマリンといった還元剤で還元して、酸化数が0の金属銀をガラスの表面に析出させるものです。うまくいくと大変きれいなものですが、単に混ぜればいいというものではないので、雑な実験をしている班はたいてい失敗します。

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化学むだばなし1014

140.原子の酸化数

 「○×が酸化された、還元された」と酸化・還元はもともと物質に対して定義されたのですが、電子の授受で定義することによって、物質ではなく特定の原子が酸化・還元の対象となりました。酸化数も電子の授受に基づいているので、当然、原子に対して考えられています。二つの原子が共有結合しているとき、どちらの原子が共有電子対の電子を取っているかは、電気陰性度の大きい方が取っていると決めます(これは便宜的なものであって、酸化数の限界になっている。)例えば、硝酸アンモニウム,(NH)NOには2つの窒素原子があるが、アンモニウムイオンの窒素原子は、自らの電気陰性度が3.0に対して、水素のそれが2.1なので水素原子から電子を取っているのでその酸化数は−3である。これに対して硝酸イオンの窒素原子は電気陰性度が3.5の酸素と結合しているので、その酸化数は+5である。もう少し詳しい話として、酢酸の分子の各原子について酸化数を求めれば、図のようになります。ふつうの酸化

・還元反応は、物質間でおこりますが、本来     H(+1)        

は原子間の反応です。つまり、一つの物質の     |          

中に酸化された状態の原子と還元された状態 H(+1)−C(-3)−C(+3)=O(-2)

の原子があれば、当然のこととしてその原子     |   |      

間で電子の授受が行われます。二クロム酸ア     H(+1) O(-2)−H(+1)

ンモニウムでは、酸化数が+6のクロムの原

子と酸化数が−3の窒素の原子が共存しています。そこで少し加熱すると反応が起こり、窒素は酸化されてNにクロムは還元されてCr3+になります。

141.酸化還元とパーマ

 教科書にはいろいろな酸化剤、還元剤が出てきていますが、これらは身の回りのいろいろなところで使われています。酸化剤としては、まず台所で使う漂白剤を挙げることができます。塩素系といわれるものは次亜塩素酸ナトリウムが主成分になっています。次亜塩素酸ナトリウムの塩素原子は酸化数が+1と酸化された状態なので相手から電子を奪う働きがあり、このときに、色素から電子を奪って色素を分解して漂白したり、バイ菌に作用して消毒したりします。このように酸化剤には、漂白作用や殺菌作用があるので、古くなって黄色くなったモヤシを二酸化硫黄で漂白して白くしたり(法律では禁止されている)、メチレンブルーという酸化力のある色素で熱帯魚の消毒をしたり、塩素やオゾンで水道の水の消毒や脱臭をしたりといろいろな利用がされています。パーマを当てるときも酸化・還元が関係しています。まず、1液というのが還元剤で、髪の毛の蛋白質どうしの結合を切って水素を付けます。こうすると蛋白質が自由に動くようなり髪の毛はふにゃふにゃになります。ここでくるくるに巻いて、次に酸化剤である2液をつけると水素がとれて蛋白質どうしが再びつながりますが、くるくるに巻いた状態でつながるので、髪の毛にカールがかかるというわけです。

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化学むだばなし1015

142.藍染

 藍染も酸化・還元を利用しています。藍はインジゴという物質ですが、このindigoは、インド産のものという意味でイギリスがインドを植民地にしていたとき藍はインドの重要な産物でした。このインジゴは藍色をしていますが、水に溶けないので還元してロイコインジゴという黄色の水に溶ける物質(白藍という)にします。(現在では、ハイドロサルファイトなどの還元剤でおこなうが、昔は壷に入れて発酵させて還元していたので失敗すると藍が腐ってしまった。)こうして布にしみこませてから、酸化してもとのインジゴにすると再び藍色となり、同時に水に溶けなくなるのでうまく染色できたことになります。

143.酸化数と8

 酸化数の計算をしていて気づいたことはありませんか。例えば、窒素化合物の中の窒素原子の酸化数は、NHが−3、Nが0、NOが+1、NOが+2、NOが+4、NOが+5、硫黄化合物の中の硫黄の原子の酸化数は、HSが−2、Sが0、SOが+4、HSOが+6となっています。気がつくことの一つは、最も大きい酸化数がその原子の価電子の数に等しいということ。もう一つは、最高の酸化数と最低の酸化数との差が8であるということです。これらを電子配置から考えると、価電子が全部なくなったときが最高の酸化数のときです。このときの電子配置はイオンと同じように希ガスの閉核構造になっていて、これ以上電子が取られることはないので最高の酸化状態(電子を失った状態)となるわけです。逆に還元されるときは、電子殻に電子が8個はいるので、酸化数は、最高の酸化数から8を引いた数になります。つまり、窒素原子では、もともと5つの価電子があるので、最高の酸化数は、この5つの電子が取られた+5、逆に最低の酸化数は、5個の価電子にあと3個の電子が入って、L殻に電子が8個入って満員になった−3ということになります。炭素や塩素の場合についても考えてみましょう。

144.酸化還元電位

 酸化力や還元力の強さは、電子を取ったり、出したりする力の大小です。これはどのようにして測れば良いのでしょうか。現在では、これらは電気分解の電圧で測られています。つまり、物質(原子)にプラスの電圧をかけていくと外から電子を引っ張ることになり物質(原子)から電子を取ることができ、逆にマイナスの電圧をかけていくと原子に電子を取り込ませることができるという原理に基づいています。電子を取りやすい原子にプラスの電圧をかけて電子の取り合いをすると、ある電圧以上ではこの原子は電子を取る方から取られる方になってしまって、電子を取れなくなってしまいます。電子を取る力の大小は、電子を取れなくなるまでにどれだけの電圧をかける必要があるかで調べます。反対に、電子を出しやすい原子にマイナスの電圧をかけていくとある電圧以下では電子をもらう方になってしまって、出すことができなくなります。電子の出しやすさの大小も同様に電子を出せなくなるまでにどれだけの電圧が必要かで調べます。

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化学むだばなし1017

145.酸化還元反応の例

 酸化還元反応の例をいくつか紹介しましょう。一つ目は、過マンガン酸カリウムとグリセリンです。過マンガン酸カリウムは練習問題にもよく出てくる強力な酸化剤です。この物質の固体にグリセリンを垂らすと少ししてグリセリンが酸化されはじめ、それとともに発熱がおこります。その後、反応が激しくなるとともに煙が出始め、発熱によって温度がますます上昇して自然発火に至ります。このように酸化剤と還元剤が薬品棚に並んで入っていて、地震によって瓶が割れるというようなことがあれば、火事になるので酸化剤と還元剤は離れた場所に保管しておく必要があります。二つ目、もっと発熱の激しいものとしては、酸化鉄とアルミニウムの粉末の反応である「テルミット反応」があります。ここでは酸化鉄が酸化剤になり、アルミニウムが還元剤になります。アルミニウムが酸化されるときの発熱量は金属の中でも最も大きいものの一つであることがこの反応の鍵になっています。この混合物は一つ目の実験と違って混ぜただけでは反応せず、マッチやライターの火でも反応は始まりません。ライターの火でまずマグネシウムに火をつけ、眩いばかりのマグネシウムの炎の温度で反応が始まります。このときの発熱は大変に大きく、酸化鉄が還元されてできた鉄は真っ赤(黄色)に光り、溶けています。しばらくして冷えてから調べると一度溶けてから固まった鉄の塊が出てきます。三つ目、二クロム酸アンモニウムという物質には、酸化数が−3の窒素原子と酸化数が+6のクロムの原子が同居しています。この結晶を砕いて粉にしてから、アルコールをしみこませたろ紙で火を付けると、クロムの原子が窒素原子の余分な電子を取る反応が始まり、。その結果、クロムは酸化数が+3のクロムの酸化物になり、窒素は酸化数が0の単体(N)になります。この反応では窒素のガスが発生するので、見た目には、火山が噴火して、緑色の山ができていくように見ることができます。四つ目、酸化還元反応は、原子間の電子のやりとりですが、他の原子から電子をもらったときその電子のエネルギーが高いと電子は、いつもより外側の高いエネルギーを持った電子殻に入ります。しかし、その場所は安定ではないので、しばらくすると余分のエネルギーを放出して電子は内側のいつもの電子殻に移動します。このときのエネルギーの出し方には熱と光の二つがあります。ルミノールという薬品は鉄を触媒として過酸化水素などの酸化剤で酸化すると、青い光が出てきます。酸化還元反応とは関係ありませんが、ここに蛍光マーカの黄緑に使うフルオレッセインという物質を入れると、この物質は反応で出てきた青い光を吸収して、黄緑色に変えてしまいます。ケミライトの反応はこの反応によく似たものです。

146.問題集で練習を

 今回の試験の範囲は、いろいろな反応も出てきたのでやっと化学らしくなってきました。反応式あり、計算あり、と豊富な内容になっているので、教科書を読んだだけでは不十分です。問題集などで練習を積むことが是非とも必要です。

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化学むだばなし1024

147.ブリキとトタン

 イオン化傾向を利用したものとしては、教科書に載っているブリキとトタンの例は有名です。しかし、最近ではブリキもトタンもあまり見かけなくなってしまいました。錫は少し黄色を帯びた美しい金属なので鉄にメッキをしてお菓子の缶などに使ったりします。缶に入ったお菓子はというのはもらったとき、缶にきれいな絵が描いてあったりするとうれしいのですが、お菓子がなくなってしまうと、缶は邪魔になって空き缶の回収日に捨てられることになります。つまり、お菓子の賞味期限が切れる頃まできれいであればよいわけです。ところが、このブリキを缶詰に使うと缶詰は何年という単位で保存するのでそのあいだに錆びたりしては困ります。教科書にもあるようにブリキは錆びやすいので、最近の缶詰はブリキの代わりにアルミニウムを使っています(特に、蓋の部分)。そのほかにも、昔はブリキが使われていたところの多くは錆びにくいアルミニウムに置き換えられています。トタンの方も、教科書の写真のような波板にそのまま使われていたのですが、亜鉛メッキをした表面はすぐに汚くなるので、最近はその上にさらに塩化ビニルなどで錆止めの塗装をしたものがほとんどです。

148.亜鉛で錆止め

 大きな船を見ていると、船の舳先やスクリュウのところに亜鉛の板が貼ってあるのに気づくことがあります。これは、ブリキのときと同じ原理でまずイオン化傾向の大きな亜鉛が錆びる(酸化される、電子を失って陽イオンになる)ことで船体の鉄が錆びることを防いでいます。舳先とスクリュウのところに貼るのは、この部分は泡だって、水と空気中の酸素に接して最も錆びやすいところだからです。

149.錆びやすいのはどちら

 自動車のボンネットを開けるとエンジンと一緒にバッテリー(鉛蓄電池)があります。バッテリーには、+と−の端子がありますが、+の端子は保護のキャップがしてあるのに、−の端子は裸のままです。このように扱いが違うのは何故でしょうか。+の端子には+の電圧(自家用車の場合は、12V)がかかっています。+の電圧がかかるということは、電子が少ないということです。−の電気を持った電子が減った分だけ+になっているということです。つまり、この状態では金属の原子はいつもよりも電子を出しやすい状態になっているのです。言い換えると、電子を出して酸化される、錆びやすい状態になっているのです。逆に−端子は、電子が余分にあるので金属の原子は電子を出す必要がない。つまり、錆びにくい状態になっているのです。だから、この−極を車体につないで車体には、+の電圧がかからないようにし、車体が錆びないようなしているのです。電車の架線とレールの関係も同じです。普通は、架線に1500Vくらいの電圧がかかっていて、架線からレールに電気が流れますが、この関係を逆にすれば、レールはどんどん錆びてしまうことでしょう。

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化学むだばなし1028

150.塩化鉄でエッチング

 よい子はしないのかもしれませんが、テレビやラジカセを分解すると部品がいっぱい半田付けしてあるプリント基板というのがあります。プリント基板は紙やガラス繊維で作った台に銅箔を貼ったもので、配線のパターンが銅箔で描かれています。自分で電気回路を作るときは、まず、全面に銅箔を貼ってある基板の銅箔に回路のパターンをマジックインクで描きます。次にエッチング液に入れてしばらく待つと、マジックインクを塗らなかったところの銅は全部溶けてしまいます。そこで、マジックインクをアルコールなどでふき取ってやるとできあがりになります。(中学校の技術でしたかもしれません。)ここから化学の話ですが、エッチング液には何が使われているのでしょうか。教科書のイオン化傾向の表では、銅は硝酸や熱濃硫酸に溶けることになっていますが、エッチング液は茶色い色で臭いもしないし、指を入れてもどうといったことはないので、そのどちらでもないようです。エッチング液の主成分は、塩化鉄(V)、FeClです。これを聞いて不思議に思いませんか。鉄と銅では、銅の方がイオン化傾向が小さいので銅が溶けるはずはないと。トリックは、教科書の鉄の位置は、酸化数0の鉄が酸化数+2の鉄(Fe2+)になるときのことで、塩化鉄(V)の鉄は酸化数が+3なので、もう一つ余分に電子を出していることになり、酸化数が0の銅原子の方が電子を出しやすい状況になっているのです。

151.イオン化傾向の差

 ナトリウムのようにイオン化傾向の大きい原子は常温の水と反応しますが、マグネシウムになると熱湯にしなければ反応しません。鉄あたりになると高温のつまり100℃を十分に越えた水蒸気と反応して酸化されます。いや、鉄は雨がかがっただけでも錆びるとおっしゃるかもしれませんが、それは酸素が共存するときの話で、この場合は水だけのときの話です。これらは、結局、水素イオンの濃度の大小によるもので、常温の水では、水素イオンの濃度は、10−7mol/lくらいですが、熱湯になると10倍くらい増えます。そして、高温の水蒸気になるとまた10倍以上増えるので、だんだんイオン化傾向の小さい原子も反応するようになります。つまり、ちょっとでもイオン化傾向に差があれば大きい方がとことん反応するというのではなくて、差が大きくなるに従ってよりたくさん反応すると考えるべきものです。その証拠に酸を使って水素イオンを一杯出せば、鉛までが反応します。

152.王水

 王水は濃硝酸に濃塩酸を混ぜた溶液で、溶液中では、HNO + 3HCl → Cl + NOCl + 2HOと反応し、この反応で生成する塩化ニトロシル、NOClは電気陰性度の大きな原子ばかりからできています。そのため他の物質から電子を取る力が強く大変強い酸化剤として作用し、金をも溶かすので王水(aqua regia)と名付けられています。ただ、不安定で温度が上がると二酸化窒素などを出して分解します。

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化学むだばなし1030

153.イオン化エネルギー

 イオン化傾向は原子が陽イオンになる強さを表したものです。これによく似たものとしてイオン化エネルギーがあります。イオン化エネルギーは、原子から1個の電子を取って陽イオンにするときに必要なエネルギーです。この値が小さいとイオンにするときに少しのエネルギーしかいらないということになり、陽イオンになりやすいことを表します。では、イオン化傾向の大きい原子は、イオン化エネルギーが小さいのでしょうか。だいたいはそうなっているのですが、細かく見るとそうなっていないところもあります。例えば、リチウムはナトリウムよりもイオン化傾向の大きい原子ですが、イオン化エネルギーはナトリウムの方が小さいのです。理由は、イオン化エネルギーは、真空中で測定しますが、イオン化傾向は水溶液中で測定するということです。水溶液中のイオンは、水分子によって水和されているので、水和によってどれだけエネルギー的に安定化されるかも考慮されるのです。つまり、リチウムイオンはイオンになることではナトリウムよりたくさんのエネルギーが必要なのですが、水和するときにナトリウムよりも水分子としっかり結合するのでより多くの結合エネルギーが得られ、結果的にはナトリウムより少ないエネルギーでイオンになるということです。

154.ガルバノメータ

 イタリアの生理学者ガルバーニは、1780年にカエルの脚の神経に金属のメスで触れると脚が激しく痙攣することを発見しました。このことが神経の作用と電気現象の関係について調べた最初といわれています。ガルバーニは、カエルの脚の痙攣的な収縮が帯電した金属で触れたときだけでなく、近くで電気火花を飛ばしたり、落雷の時などにも起こることを見つけていますが、化学にとって最も重要なことは、銅と亜鉛のように2つの異なった金属を組み合わせたときにも痙攣が起こることを発見したことです。これはそれまで知られていた摩擦電気(静電気)と違って電池によって電気を発生させたということです。しかし生理学者であったガルバーニにとっては、電気が起こることよりもなぜカエルの脚が痙攣するかということの方に興味があったようで、彼は「筋肉の収縮は脳髄からの動物電気によるものであり、筋肉にたまっている電気が金属によって放電することで起こる。」と考えました。現在でも、微少な電流を測定する電流計をガルバノメータというのは、彼の名前にちなんだものです。

155.ボルトはボルタ

 同じイタリアの物理学者ボルタはガルバーニの論文を読んで興味を持ち、研究を重ねるなかで、カエルの脚を痙攣させる電気の発生源は、外部の金属にあると考えるようになりました。その後、いろいろな金属の組み合わせを調べ、今日知られているイオン化傾向の原型を発表し、またボルタの電池を発明し持続的に電流を取り出すことを可能にして、物質の電気化学的な基礎を確立しました。電圧の単位をボルトというのは、彼の名前からきています。

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化学むだばなし1103

156.電池の原理

 二種類の金属が接していると、イオン化傾向の大きい方が陽イオンになり、このときに出た電子がイオン化傾向の小さい方に流れていってそこで溶液中の陽イオンと反応します。つまり、電子の出口と入り口を分けて反応させるということです。これが電池の原理です。しかし、うまく電気を取り出せたときはいいのですが、そうでないときは、単にイオン化傾向の大きい金属が速く錆びる(陽イオンになるということは、電子を失うので酸化されるということ)だけということになります。例えば、ステンレスの浴槽に鉄製のヘアピンを置いておくと浴室のような水分の高い状況では、一晩でヘアピンは真っ赤に錆びてしまいます。これは鉄の方がイオン化傾向が大きいのでヘアピンだけが酸化されたということです。同じヘアピンでもタイルの上にあれば一晩ではこんなには錆びないのですが、ステンレスと接していたので電子の受け渡しがうまく行われてしまったということになります。金属どうしをつないだりして接触させるときは、このことを考慮しておかないと片方の金属だけが短期間に腐食して穴があいたりするので、注意して下さい。

157.イオン化傾向と歪み

 教科書では、イオン化傾向は金属の種類によって決まるようにかかれていますが、実際にはもっと複雑で同じ鉄であっても、曲げたりして亀裂が入っていたり、力が掛かっていて結晶格子に歪みを生じているようなところはエネルギー的に不安定になっているのでイオン化しやすくなっています。試しに鉄釘をペンチで曲げて食塩水に浸けるというような実験をすると釘は曲げたところから錆びてきます。Fe2+に反応する試薬を加えると、曲げたところからFe2+が検出され、そうでないところでは溶液中の水素イオンが消費されるために結果的に塩基性になっていることがフェノールフタレインを加えることにより赤くなることから分かります。電池の考え方で説明すれば、曲げたところは負極になりそうでないところは正極になったということです。道路の脇のガードレールが溶接してつないだところで錆びているのを見ることがありますが、これも同じ原因によるものです。

158.電池を分解

 電池を分解したことがありますか。今までに電池を分解して中がどうなっているか見たことのある人なら授業の話を聞いてなるほどそうだったのかと納得することもあるでしょう。つまり、あの黒い粉が二酸化マンガンだったのかとか、あの金属が亜鉛だったのかとか、電池を分解して炭素棒を取ったことがあるとか……。だんだん化学の話も難しくなってきますが、それは今までに経験したことのないことが増えるということでもあります。身の回りのものに対しても、自分から積極的にはたらきかけて経験や知識を増やしてみませんか。余談ですが、先週、家の小便器の水が止まらなくなりました。中を分解してみて、(PUSH)というころを押せば、どのようにして水が出てそして止まるかが分かりました。

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化学むだばなし1105

159.マンガン乾電池

 二酸化マンガンを使った乾電池をマンガン乾電池といい、わが国で生産される乾電池の多くはこのマンガン乾電池で占められます。乾電池の特徴は、電圧が比較的一定であるというような電池としての性能の高さにほかに持ち運びの便利さや安価であることが挙げられます。マンガン乾電池を分類すると次のようなものがあります。1番目は、今世紀の初頭に実用化されたルクランシェ乾電池です。これは教科書に載っているタイプのもので最近まで主役の座を占めていました。この電池で重要なことは、電解液にデンプンなどを加え,溶液をゲル化して電池ケースから溶液を漏れにくくして「乾電池」というものをはじめて実用化したことにあります。(それまでの電池は全てボルタの電池のようにひっくり返すと液がこぼれるようなものでした。)2番目は、1960頃になって活性の高い高純度の二酸化マンガンを量産する方法が確立され、この二酸化マンガンを使用することで、電圧が0.9Vになるまでの放電容量がそれまでの天然の二酸化マンガンを使っていたルクランシェ乾電池に比べて2倍になったものです。3番目は、1970年頃に開発されたもので、電解液の成分を塩化亜鉛を主体とし、しかもその電解液をクラフト紙に染み込ませて使用するというものです。このアイディアによって今までよりも正極と負極との距離を短かくすることができ、その結果、電極の物質を増やすことができたので放電容量は1番目のものの4倍以上にもなりました。そして、この方式は均一な製品を量産するのにも向いているため、近年では乾電池の主流となっています。これらのほかに4番目のものとしては、1965年頃に開発されたアルカリマンガン乾電池があります。この電池は水酸化カリウムを電解液に使用するのでアルカリ電池ともいいます。この電池では、亜鉛を微粒状にしていることにより表面積が大きくなり、反応が速やかに起こるので大電流を取り出すのに適した構造になっています。そして放電容量もさらに大きくなっています。これらのマンガン乾電池では負極に亜鉛を使っていますが、以前は亜鉛がうまく反応するように水銀を使っていました。しかし、捨てられた電池からの水銀汚染が問題となり、現在では亜鉛の純度を上げて水銀を使わないようになっています。

160.リチウム電池

 イオン化傾向が大きくしかも軽い元素であるリチウムを使って、高い電圧と高いエネルギー密度(重さあたりの放電容量、つまり同じおもさでどれだけたくさんの電気を出せるか)を実現しているのがリチウム電池です。リチウムは水と反応するので電解液に水溶液ではなく有機溶媒が使用されています。正極にフッ化黒鉛を使ったものでは、アルカリマンガン乾電池の3倍のエネルギー密度を持ち、電圧も3V程度と大変高い性能を持っています。小型化が他の電池に比べて容易なため、ボタン型やコイン型にして電卓や腕時計の電源として利用されています。リチウム電池をはじめ電池には日本で開発されたものが多くあります。

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化学むだばなし1108

161.鉛蓄電池

 鉛蓄電池は発明以来120年の歴史を持っています。第二次世界大戦中には潜水艦用電源として成長し、戦後は自動車用として飛躍的な発展を遂げました。現在も技術開発が進められています。まず、正極に使われる二酸化鉛の利用効率を高めるために多孔質化して表面積を増加させる工夫がなされました。また、二酸化鉛を極板基体に密に固着させて脱落防止を図るとともに、接触低抗の低滅に努めたことも重要な点です。幾多の経験を基にし、極板基体の材料として固着性のよい鉛アンチモン合金が開発されました。極板基体を格子状に成形して鉛酸化物の硫酸ペーストをそこに充てんし、乾燥後電解酸化して多孔性の二酸化鉛層を得ます。そして,繰り返し充放電に耐えるように極板表面を細かいガラス繊維のマットでおおい、負極板との間に入れるセバレーターを介して表面を強く圧迫して、二酸化鉛層を機械的に固定します。このようにして、鉛蓄電池の画期的な長寿命化が達成されました。ペースト法の場合、負極で使う鉛も正極板と同しように鉛ペーストを塗布乾燥後、焼成して表面積の大きい海綿状の鉛表面に仕上げます。高電流密度と高容量を確保するため、充放電の繰り返しによってもこの状態が再現されなくてはならないので、そのための添加剤が開発されました。形態保持のための防縮剤としては硫酸バリウムを混在させ、また膨張剤としては電解液中にリグニン系有機化合物を添加します。添加剤の作用機構は必ずしも明確ではありませんがこれも重要なボイントです。このような多面的な技術開発の結果、鉛蓄電池のエネルギー密度は従来品の5倍以上にも高められています。

162.二次電池

 二次電池としては鉛蓄電池が有名ですが、重いことと硫酸を使うため取り扱いに注意が必要となるので、家庭ではニッケル−カドミウム蓄電池がビデオカメラやおもちゃ等の充電できる電池として利用されています。ニッケル−カドミウム蓄電池は、正極が酸化水酸化ニッケル(NiOOH) で負極がカドミウムです。放電の反応式は

  正極 2NiOOH + 2HO + 2e  → 2Ni(OH) + 2OH

  負極        Cd  + 2OH → Cd(OH)  + 2e  で、

電解液には水酸化カリウムの水溶液を使います。この反応でできる水酸化ニッケルも水酸化カドミウムも水に溶けず拡散がおこらないので、充電によって再びもの状態に戻すことが可能になっています。

163.レモン電池

 イオン化傾向の異なる金属(電気を通すもの)が電解質などを介して電気的に接触しているとどこにでも電池はできます。例えば、レモンに10円玉と1円玉を差し込むだけでも電池になっています。レモンの代わりに濡れティシュの上に10円玉と1円玉を並べて置くだけでも電池になります。参考書を友とし、問題集を生き甲斐とするだけが勉強ではありません。一度、身の回りのものでおもしろい電池を作ってみませんか。さて、レモンの電池ではどちらが正極でしょう。

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化学むだばなし1109

164.電解精錬

 電気分解の特徴は、ほかの方法ではできないような反応を電気の力で簡単に起こすことができるということです。水の分子もきわめて高温になれば、結合が切れて水素分子と酸素分子に解離します。しかし、電気分解によれば常温で2V足らずの電圧を加えることによって簡単に分解されます。カリウムのようなイオン化傾向の大きい金属では、このイオンに電子を与えてもとの原子に戻すことができる物質は存在しません。つまり、水の場合と違って電気分解でなければ、カリウムイオンを還元して金属の(酸化数が0の)カリウムを作ることはできないのです。実際、ナトリウム、塩素、フッ素などのように電気分解しか単体の製造法がないものと、アルミニウムや銀、白金などのように経済的な理由から電気分解によって製造されているものが16元素あります。全体としては、百余りある元素のうち60%以上が何らかの電気分解によって作られています。最近では、電気分解を利用すると、目的の物質を酸化したり還元したりする強さを電圧という形で非常に細かくコントロールすることができるので、副反応を抑えて、選択的に反応させることができるので、複雑な分子の合成などに注目されています。

165.重水と電気分解

 水の電気分解で得られた水素は、以前はアンモニアの合成用として使われていましたが、現在では、比較的少量で純度の高い水素を作る場合に限られています。少し変わったところでは、原子炉で中性子減速剤として利用する重水(HO)の濃縮に電気分解が利用されています。重水は天然の水にはきわめてわずかしか含まれていません。普通の水と重水は、ほとんど同じ化学的性質ですが、電気分解をするときに必要な電圧が重水の方がわずかに高いので水を一回電気分解すると重水の濃度が数倍高くなります。このように同位体の化学的性質はほとんど同じですがほんの少し違うことを利用しています。ふつう、10000tの水を繰り返し繰り返し電気分解することで1tの重水が得られます。

166.電解工業

 電気分解を利用した電解工業は、化学工業の中でも重要な一部分です。いくつかの例を紹介すると次のようなものがあります。1.水の電気分解による水素や酸素の製造。2.食塩の電気分解による水酸化ナトリウム、水素、塩素の製造。3つの物質が同時に生成するので市場の需給関係によって塩素のように毒性の高い物質が余った場合、処理をどうするかが問題になります。3.陽極での酸化による過マンガン酸カリウムなどの製造。過マンガン酸カリウムのように強力な酸化剤は他の酸化剤で酸化して作るという訳にはいかないのでこのように電気分解で酸化するしか現実的な製法はないのです。4.電気分解とイオン化傾向の差をうまく利用した銅などの金属の精錬(純度を上げること)。5.融解塩電解によるフッ素、ナトリウムなど活性な元素の化合物からの単離。これらのようにいろいろな方法で電気分解は利用されています。

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化学むだばなし1110

167.イオン交換膜法

 食塩水を電気分解すると、陰極の周りでは水酸化ナトリウムが生成しますが、そのままでは、陽極で発生した塩素が水に溶けてできる塩酸と反応してもとの食塩に戻ってしまいます。そこで、できた水酸化ナトリウムを効率よく取り出すには工夫が必要になります。以前からあったのは、石綿等で作った隔膜を食塩水の中にセットして陽極で発生した塩素と水酸化ナトリウムが混ざらないようにする隔膜法と、陰極に水銀を使ってナトリウムイオンに電子を与え、できたナトリウムを水銀の中に水銀の中に溶かし込んで後で水と反応させて水酸化ナトリウムとする水銀法でした。隔膜法ではどうしても未反応の食塩が5%程度水酸化ナトリウムの中に残ってしまいますが、水銀法では電解槽と別のところ(解汞塔)で反応させるので純度99%以上の水酸化ナトリウムを得ることができます。合成繊維の製造など純度の高い水酸化ナトリウムを要求するところでは水銀法によるものが必要になり、昭和50年頃までは水銀法が大部分でした。その後、水俣病の水銀汚染問題が契機となって環境との関係から水銀を使わないということで隔膜法への転換が行われました。しかし、隔膜法では純度が落ちるため、現在ではイオン交換膜を使って水銀を使わずにより純度の高い水酸化ナトリウムを得られるイオン交換膜法が開発されています。

168.電着塗装

 ペンキは刷毛(ハケ)で塗ると思っているかもしれませんが、電気分解で塗ることもできるのです。素人がハケでペンキを塗るとムラがあったり、塗り残しがあったりするものです。スプレーを使って塗っても全体を同じ厚さで塗装することは難しいものです。しかし、電着塗装といわれる電気分解を利用した塗装方法は塗り残しもなく全体を同じ厚さで塗ることができるのです。その原理は、マイナスに帯電した塗料の水溶液に塗装したい物を浸け、これを陽極にすることで塗料の薄い膜を析出させるというものです。この方法によれば、塗料が析出したところは電極の表面が塗料で覆われて電気が流れなくなるので一定以上に塗料の膜が厚くなることもなく、塗料の付いていないところには電流が流れて塗料が析出するので塗り残しができることもありません。自動車の塗装が大変きれいなのは、このような電着塗装が利用されているからです。

169.ファラデー定数

 ファラデー定数、9.648456x10Cmol−1というのは、1モルの電子が持っている電気量ということですが、1価のイオンの1モルを電気分解するのに必要な電気量であるともいえます。銀の原子量が107.868であることから、昔は107.868gの銀が析出するのに必要な電気量と決められていました。このことをうまく使えば、他の金属の原子量も決定することが容易にできます。例えば、二つの電解槽を直列にし、片方で銀が10.8g析出したとき、もう一つである金属が2価のイオンから3.18g析出したとするとこの金属の原子量はいくらでしょうか。

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化学むだばなし1114

170.ナトリウムを作る

 ナトリウムは水と反応して火を噴くという話を聞いたT君は、どうしてもナトリウムを手に入れたいと思いました。しかし、ナトリウムは危険物に指定されていて売ってもらえなかったので自分で作ることにしました。いろいろな本を調べると食塩からナトリウムを取り出すには食塩を加熱して溶かし、電気分解すればいいということがわかりました。そこで、ある夏の日に、食塩を溶かすための実験器具を買いに出たのですが、近くの店にはどこにいっても売っていなかった(別に、八百屋や魚屋に行ったわけではない、売っていそうな店を探した)ので、結局、自転車で大丸百貨店まで行きました。実験器具の売場でガスバーナーと三脚と坩堝は買うことができましたが、坩堝を支える三角架は手に入りませんでした。家に帰ってから、買えなかった三角架を針金で作り、電気分解用の電極に使う炭素棒を乾電池を分解して取り出し、家の中では実験させてもらえなかったので台所から庭までの長いゴム管を曳いて実験を始めました。夏の暑いときに火を使うので汗びっしょりになりながら食塩を加熱するのです。すぐに坩堝のそこが赤くなってきました。ピンセットで坩堝のフタを取って中の食塩を見るとまだ溶けていません。そこで、もっと火を強くすると坩堝の色はだんだん赤から黄色味を帯びてきます。またフタを取って中を見るのですが、食塩は全然溶けていません。そのうち、頑丈に付く作ったはずの三角架が熱で曲がってきました。ああっという間に坩堝は傾いて、中からサラサラの食塩がこぼれてしまいました。結局、3カ月分の小遣いを使って、焼き塩を作っただけに終わってしまいました。つまり、普通に加熱していては、食塩の融点の800℃には到達できないということです。では、どうすればナトリウムが手にはいるかT君に教えて上げて下さい。

171.メッキ

 メッキという言葉は漢字で「鍍金」と書き、昔からある言葉です。奈良の大仏もできたときは金鍍金されていましたが、現在では剥がれてしまっています。今でも「メッキが剥げる」というようによくない意味で使うことがよくありますが、最近のものはそう簡単に剥げたりしません。例えば、一眼レフのカメラのレンズを付けるマウントの部分は、クロムメッキされていますが、めったなことで剥げたりしません。レンズの着脱によって剥げたり磨耗するようなことがあればレンズとフィルムまでの距離が変わってしまうので、ピントが合わなくなってしまいます。クロムという金属は硬くて錆びにくいのですが、硬いということは、加工しにくいということです。この場合は、アルミのような加工しやすい素材の上にクロムをメッキすることで、加工性と耐磨耗性の両方の性質を得ているのです。水道の蛇口も真鍮の鋳物にクロムメッキをしたものですが、これは真鍮の加工性とクロムの錆びにくいという性質を利用しています。以前は、電気分解を利用した電気メッキが主でしたが、最近では、電気分解ではなく酸化還元反応を利用した化学メッキの技術でプラスチックにもメッキができるようになりました。

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化学むだばなし1117

172.理論と各論

 これまでは化学の中でも「理論」と呼ばれる分野でした。つまり、いろいろな物質や反応における一般的な性質についてまとめたものでした。これからは個々の物質についての性質や反応をこれまでに習った理論を使って調べていくことになります。つまり、ある物質が水に溶けるというときに、単に「溶ける」で終わるのではなくて、何故「溶ける」のかを考えていきましょうということです。これからが化学のいちばんおいしいところです。よく味わって下さい。

173.塩素の発見

 ハロゲンの中で最初に発見されたのは塩素で、それは1774年のことです。スウェーデンのシューレが二酸化マンガンについての研究のなかで二酸化マンガンを塩酸と反応させると王水のような臭いを持つ気体が発生することを見つけたことにはじまります。この気体は水に少し溶けて酸性を示し、花びらを漂白し、金属を腐食するというものでした。しかし、ハロゲンという概念すらなかった当時、この物質が何であるかについていろいろな議論がなされました。発見したシューレは、塩酸からフロギストンが抜けたものと考え、ベルトレは酸化された塩酸と考えました。しかし、デービー、Davyが、塩酸がこの気体と水素の化合物であり、逆にこの気体は化合物ではなく元素であるとし、「塩素」と名付けたのは1810年のことで、発見から30年余りも後のことでした。

174.ヨウ素の発見

 塩素の次に発見されたのはヨウ素です。1811年にフランス人のクルートワは、海藻を焼いて得られた灰を水で抽出した液から塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウムを沈殿させました。そして、残った液に硫酸を加えて加熱すると、フラスコから紫の煙が立ち昇り、塩素のような臭いがする物質、ヨウ素を発見しました。その後、クルートワ、Courtoisはこのヨウ素について、この気体が冷たい物に触れると液体にならずに黒紫色の金属光沢を持つ固体になり、熱しても分解せず、水素と化合することを発見しています。その後まもなくヨウ素の利用法として、ヨウ素とヨウ化カリウムをアルコールに溶かしたヨードチンキが簡単な消毒薬として考案され、現在でも使用されています。

175.失敗の戸棚

 臭素の発見には3人が関係しています。レービヒは高校生の時に臭素を見つけていたのですが、大学に行ってもっと詳しく調べようとしている間に、1826年、フランスのバラール、Balardによって新元素、臭素の発見ということになってしまいました。リービッヒ冷却管で高校生にはなじみのあるリービッヒもそれより前にある化学会社から瓶に入った茶色い液体の分析を依頼されていたのですが、塩素のような臭いがし、ヨウ素のような色をしていたからでしょうか、これを塩化ヨウ素として臭素の発見を逃してしまいました。リービッヒはこのことに反省して、この瓶を「失敗の戸棚」名付けた棚に保管して以後の戒めにしたそうです。

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化学むだばなし1118

176.モアッサン

 ハロゲンの発見の中で最も難しかったのはフッ素のときでしょう。スウェーデンのシューレによって蛍石と硫酸の混合物を蒸留して未知の酸を得たと発表したことで、アンペールはこの酸が未知の元素(フッ素)と水素との化合物と考えました。デービーをはじめ、ゲイ・リュサックなど多くの化学者がこの未知の元素を取り出そうと努力しましたが、電気分解で取り出そうとすると、炭素電極ははじけ飛び、金や白金までもが侵されるという手の付けようのない激しいものでした。併せてフッ素についての毒性も認識していなかったので、ベルギーのルイエのように死んだ人のほか、フッ素に関わって失明したり健康を害した化学者は多くいます。幾人もの化学者が失敗しましたが、最後に笑ったのはモアッサン,Moissanでした。フッ素による中毒に侵されながらも研究を続け、1886年に無水フッ化水素中でKHFを低温で電気分解することにより、フッ素を単離しました。

177.アスタチン

 フッ素が発見された頃には周期律表ができていて、フッ素の場所は決まっていました。しかし、周期律表でヨウ素の下にあるはずのもう一つのハロゲンはまだ見つかっていませんでした。多くの化学者がこの元素を求めて研究をしましたが、誰もこの元素を発見することはできませんでした。実際、この元素は放射性で不安定な元素なので従来の化学的な方法では取り出すことができないものだったのです。ターゲットとなる原子核にサイクロトロンで加速した粒子を衝突させて人工的に別の原子にする方法がローレンツによって開発されてはじめて、この元素の「合成」が可能になりました。結局、83Biの原子核にα粒子を衝突させることによって合成され、1947年にセグレによってアスタチンと名付けられました。もちろん、現在でも地球上にはほとんど存在しません。

178.ハロゲン

 ハロゲンhalogenの名前は、ギリシャ語の塩halsに由来するhaloとoxygenなどの-genと同じ「生成する」という意味からできた言葉で「塩の素」という意味です。フッ素flourineは、蛍石fluoriteから見つかった元素ですが、製鉄の時にこの蛍石を入れると凝固点降下が起こって容易に溶ける(流れる)ためにラテン語の流れるfluereから蛍石をfluoriteと言うようになったようです。日本語の蛍石は、この石を加熱すると青紫色に光るところから来ています。塩素をchlorineというのは、塩素の色が黄緑色なのでギリシャ語の黄緑色chlorosから来ています。葉緑素のchlorophyllもクロレラchlorellaもchlorosを語源とします。臭素bromineは、臭いというギリシャ語のbromosがもとになっています。ヨウ素iodineは、ヨウ素の蒸気が紫色なのでギリシャ語の紫ionからできた言葉です。英語のvioletはラテン語のすみれviolaに由来したものです。アスタチンastatineは、放射性で不安定なことからギリシャ語の不安定astatosから名付けられたものです。不安定の英語astaticも語源は同じです。a-は否定を表し、非対称asymmetricなどがあります。

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化学むだばなし1120

179.包接化合物

 デンプンの分子は、六角形のブドウ糖の分子がいくつもつながったものですが、分子と分子の間に少し角度が付いているので、直線にならずに右の図のように螺旋を描きます。その結果、全体の形はバネのようになり、中心の部分に空間が生じます。この空間のサイズがちょうどヨウ素分子にきっちりのサイズになっていて、デンプンとヨウ素の複合体が生成します。ヨウ素デンプン反応というは、この複合体(包接化合物)が生成することによって濃い青色を示すことで、デンプンまたはヨウ素の存在を検出するための反応です。ブドウ糖の分子が長くつながっていてたくさんのヨウ素の分子が入っているときには青い色を示しますが、短くなってヨウ素の分子が少なくなると赤みかがかったヨウ素の色になっていきます。また、高温にすると螺旋構造が崩れるので、濃い青色がなくなるのを観察することができます。

180.塩素爆鳴気

 塩素の色は黄緑色となっていますが、実際に作ってみると黄色という感じです。黄色く見えるということは、虹の七色の中で青色を吸収していることです。塩素分子の中の塩素原子どうしの結合のエネルギーは、青い光が持っているエネルギーとほとんど同じなので、塩素分子の結合はこの青い光やより大きなエネルギーを持った紫外線を吸収することで切れ、塩素分子は二つの塩素原子に分離します。塩素と水素の混合気体に光を当てると、光を吸収して原子状態になった塩素が水素分子に衝突すると一方の水素原子と結合して塩化水素になります。ところが、今度は残りの水素原子が塩素分子に衝突すると一方の塩素原子と結合して塩化水素になります。そうすると、残りの塩素が水素分子に衝突すると……、と最初の光をきっかけにしてイタチごっこのような反応がはじまります。このような反応を連鎖反応といい、一気に反応が進むので塩素と水素の混合気体を塩素爆鳴気と言います。

181.サラシ粉

 塩素が発見されたころは布は天日に晒して漂白していたので、そのために広大な土地が必要でした。ところが、塩素や塩素水が花びらを漂白することが知られるようになり、さっそく塩素で漂白することがはじめられました。しかし、塩素には毒性があるので、職人達は薄いアルカリでぬらしてハンカチを顔にあてて作業をしていました。ベルトレはこのことにヒントを得て、塩素水にアルカリを作用させると毒性は減るけれども漂白力に変化はないことを発見し、その後、テナントによって塩素と石灰水からサラシ粉の製法が開発されました。サラシ粉の漂白力は、次亜塩素酸イオンの中の塩素の酸化数が+1から0になるときに相手から電子を取ることによるものです。現在では、サラシ粉より次亜塩素酸イオンが多く漂白力の強い高度サラシ粉(Ca(ClO)))もよく使われています。

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化学むだばなし1122

182.曇りガラス

 17世紀頃からガラス職人の間で、蛍石と強酸から作った液にガラスを浸すとガラスが腐食されることを利用して曇りガラスを作ったり、絵や文字をかくことが行われていました。この反応を化学的に見ると、蛍石の成分であるフッ化カルシウムは弱酸のフッ酸と水酸化カルシウムとの塩です。このフッ化カルシウムに強酸を加えたことで弱酸であるフッ酸が遊離したということです。ガラスは化学的には大変反応しにくく、ガラス瓶などとして種々の薬品の容器に使用されています。主成分である二酸化ケイ素(SiO)はケイ酸(HSiO)から水が取れた形の酸性酸化物なので水酸化ナトリウムのような強塩基とは反応してケイ酸ナトリウム(NaSiO)という塩を生成しますが、その反応はゆっくりとしたものです。しかし、二酸化ケイ素はフッ酸(フッ化水素の水溶液)には速やかに反応して、ヘキサフルオロケイ酸(HSiF)になります。実際に試してみるには、ガラスの表面にパラフィンを塗り、鉛筆のようなものでひっかいてパラフィンを一部分だけ剥がし、ガラスの地肌を出します。次に、これをフッ酸に浸けておくと、ガラスの表面が出ていたところだけがフッ酸と反応して白いヘキサフルオロケイ酸になります。最後に、これをお湯で流すとヘキサフルオロケイ酸もパラフィンも共に溶けて流れ、鉛筆で絵をかいた部分がエッチングされていることが分かります。

183.銀と写真

 写真のフィルムは、合成樹脂のベースの上に臭化銀などのハロゲン化銀が塗られています。カメラのシャッターを切った瞬間に光が当たると、ハロゲン化銀の結晶の結合電子のなかでその光のエネルギーを吸収したものは、結合から離れて自由電子になります。この自由電子と結合した銀イオン、Agは銀原子Agに還元され、このようにしてできた銀原子4つが結合します。この状態では見た目の変化はないので「潜像」といいます。次に見えるようにするために「現像」という処理をします。ハイドロキノンのような穏やかな還元剤を使うと、潜像を含んでいるハロゲン化銀の結晶の中の銀原子だけが金属銀に還元します。この金属銀は微粒子のために光を吸収して黒く見えます。最後に「定着」という処理でチオ硫酸ナトリウムで未反応のハロゲン化銀を取り除き余分な反応が起こらないようにすると、これでネガの出来上がりです。このネガの像を印画紙の上にもう一度焼き付けて、いまと同じ操作をするともとの像(ポジ)が得られます。

184.塩素酸カリウム

 塩素酸カリウムは酸素原子を3つも持っているので、可燃性の物質と混合するとわずかな衝撃でもそれがきっかけとなって反応がはじまります。そのために硫黄などの可燃物と混ぜるときには、ガラス棒など力の掛かるものではなく、鳥の羽のように柔らかいものでゆっくりと混ぜます。この混合物を紙に包んで金槌で叩くと大きな音とともに爆発します。打ち上げ花火などでも使っていますが、最近では安全のためにもう少し爆発しにくい過塩素酸塩を使うようです。

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化学むだばなし1124

185.酸素の性質

 酸素Oについて教科書に載っていないことをいくつか紹介しましょう。酸素の色は気体では無色ですが、液体や固体では淡青色です。酸素が反応しやすい理由の一つは、酸素分子の化学結合がO=Oではなくて、・O−O・となっていることによるものです。このことは量子力学を利用して酸素分子の電子配置を調べると分かります。ニュートンの作った古典力学では説明できない原子レベルの状態を調べるために、今世紀のはじめに作られた学問が量子力学です。原子や分子のことに興味のある人は、図書室のブルーバックスなどで量子力学に関する本を読んでみることをおすすめします。閑話休題。酸素はその電子状態がスピンを持った状態なので、常磁性を示して弱い磁石となっています。つまり、気体では分かりませんが、液体や固体の酸素は、磁石にくっつくということです。

186.オゾン層

 オゾンは酸素に紫外線やX線があたると生成します。そのため地上20Km付近の酸素は太陽からの紫外線を吸収してオゾンになってオゾン層として分布し、このあたりの温度はオゾンが紫外線のエネルギーを吸収した影響で、0℃近くまで上昇しています。このオゾンはその強い酸化力で生物にとっては大変に有害な物質ですが、このオゾン層のおかげで地上の生物は太陽の強い紫外線から守られているといえます。しかし、オゾン層は上空では10Km程度の厚さがありますが、低い圧力のところに存在するので、実際にどれくらいの量が存在するかということを地上の1気圧に換算すれば、その厚さは3mmほどにしかならないものです。現在、オゾン層の破壊が問題になっていますが、地球環境はこのように微妙なバランスの上に成り立っていることを意識する必要があります。

187.過酸化水素水

 消毒で使う過酸化水素水(オキシドール)は3%の過酸化水素です。けがをして血が出ているときにこれを塗ると泡が出ますが、この気体が酸素です。普通の酸素にはそれほど殺菌力はありませんが、オキシドールの殺菌力は発生した時の酸素が分子ではなく、原子であるところに理由があります。この酸素原子は酸素分子より結合エネルギーの分だけ、エネルギーの高い状態にあるので反応しやすいので、細菌と反応して殺菌作用を示すのです。では、なぜ過酸化水素がけがで分解されるのでしょう。純粋な過酸化水素は油状の液体で爆発性のある強力な酸化剤です。第二次世界大戦でドイツが使ったロケット兵器のV2号の燃料は、この過酸化水素とヒドラジンNHを還元剤として使用するものでした。

188.硫化カドミウム

 硫化カドミウムは、きれいな黄色の物質でカドミウムイエローして知られ、絵の具など顔料として利用されています。この物質は光が当たると電気抵抗が小さくなります。街路灯や電話ボックスの照明では、夜になると硫化カドミウムの抵抗が大きくなるとスィッチが入るようになっています。

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化学むだばなし1201

189.都合の悪い硫黄の話

 化学結合や化学反応については以前に習いました。実は硫黄あたりになると習ったことだけでは説明できないことが出てくるのですが、教科書には都合の悪いことは書いてありません。そこで、都合の悪い話を2つ紹介しましょう。鉄と硫黄を反応させるとFeSやFe11S12のようなFeSに近いいろいろな組成になることが昔から知られていました。最近の研究では部分的に鉄原子がなくてもこの物質は安定に存在することがわかってきたので、硫化鉄はFe0.8SあたりからFeSまでの適当な組成を取る不定比化合物ということになります。もう一つはフッ素と硫黄を反応させると六フッ化硫黄、SFができるということです。さて、これらのことは今までに習ったどんなことと矛盾するのでしょうか。

190.礬(ばん)

 「礬(ばん)」という字は、硫酸イオンや硫酸からできた化合物を表しています。硫酸の昔の呼び名は「礬油(ばんゆ)」でした。「油」は硫酸がどろっとしていて油状の物質であることろに由来します。食品添加物の硫酸カリウムアルミニウム、KAl(SO)にも硫酸イオンが入っているので、ふつうは「明礬(ミョウバン)」といいます。また、「苦土」は酸化マグネシウムなので「土」はマグネシウムのことを示しているのでしょう。天然に産出する硫酸銅、CuSOのことは「胆礬(たんばん)」といいます。では「硝」の字は何を示すのでしょうか。「硝」の字のつく物質をいくつ知っているでしょうか。

191.イオウの同素体

 イオウにはいくつかの同素体があります。代表的なものは、固体硫黄では斜方硫黄(α硫黄)、単斜硫黄(β硫黄)、無定形硫黄などがあり、液体硫黄ではλ硫黄、μ硫黄などがあります。右図で硫黄の状態図を示すと、普通の状態ではα硫黄が最も安定していることがわかります。これを95.5℃以上に長く放置するか、融解した硫黄を95.5℃以上で結晶させるとβ硫黄になります。また、α硫黄を加熱して融点測定を行う普通の速さで温度を上げていくと、β硫黄を経ないで112.8℃(図のb点)で融解します。β硫黄の融点は119.0℃(図のc点)です。液体硫黄ははじめ黄色をした流動性のある液体(λ硫黄)といますが、160℃以上では褐色となって粘性を増し、200℃付近でもっとも粘性が大きくなり(μ硫黄)ます。250℃以上では色は変わらないで粘性が減少していきます。液体硫黄は444.7℃(図のd点)で沸騰します。250℃付近に加熱した液体硫黄を水中に注いで急冷すると、ゴム状硫黄になります。

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化学むだばなし1204

192.蛍石で色消し

 プリズムで太陽光線を分光すると白い光が虹のように赤から紫に分解されます。これは、プリズムに使ったガラスの屈折率が赤から紫へと光の波長が短くなるにつれて大きくなるためにおこるのです。カメラや望遠鏡では何枚ものレンズが組み合わせてありますが、その理由は一枚のレンズだけでは紫の光は赤の光より屈折率が大きいのでその分だけ焦点距離が短くなってしまうからで、結果的に、像に赤や紫のにじみあらわれます。この現象が起こらないようにするために何枚ものレンズを組み合わせて焦点距離を合わせているのです。このようにして色のにじみが起こらないようにしたレンズを一般に「色消しレンズ」といい、2つの色について焦点距離を合わせたものをアクロマート、3つの光について合わせたものをアポクロマートといいます。色消しといっても、色の「にじみ」がないだけで白黒の像になるわけではありません。さて、フッ素の化合物の蛍石(フローライト、フッ化カルシウム)はガラスと違って屈折率が途中で小さくなるという特別な性質ので、蛍石を使うとレンズの性能を上げることができるのです。カメラの交換レンズのカタログを見る機会があれば一度チェックしてみて下さい。

193.フッ化酸素

 フッ素の化合物にフッ化酸素(FO)があります。通常、酸素は化合物中で−2の酸化数を取りますが、この化合物の場合はフッ素の方が電気陰性度が強いので、フッ素の酸化数が−1となり、酸素の酸化数は+2となります。この物質は、常温で無色、特異臭のある気体で、液体は淡黄色。酸素の化合物ではありますがさんその酸化数が−2ではないので酸化物にはなりません。つまり、フッ素は非金属であるので非金属酸化物だから水と反応して酸を生成するというようなことは起こりませんということです。実際にこのフッ化酸素を水に溶かしても中性で酸性は示しません。

194.六フッ化ウラン

 天然のウランには238Uが99.3%と、235Uが0.7%含まれています。しかし、原子炉で利用できるのは235Uだけです。そこで、235Uの濃度を上げた濃縮ウランが使用される訳ですが、どのようにして235Uの濃度を上げるのでしょうか。同位体の化学的な性質はほぼ同じなのですが、物理的性質は質量をはじめとして密度や融点、沸点などで少しずつ異なります。238UF235UFとでは拡散の速度が異なるので、このことを利用した六フッ化ウランの拡散法がウランの同位体濃縮に使われています。ここで大事なことは、六フッ化ウラン、UFが気体であるこということです。ふつう気体というのは分子量が小さいものです。理由は、大きな分子になると自由な電子が増えて分子間力が大きくなり、常温では液体や固体になってしまうからです。しかし、六フッ化ウランの分子量は350程もあるのに気体であるのはなぜでしょうか。理由としては、フッ素が電子を取り込んでしまうので、自由な電子がなくなって分子間力が弱くなることが考えられます。

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化学むだばなし1212

195.窒素は不活発

 窒素と水素の結合エネルギーは390kJです。この値は酸素と水素との463kJより小さいですが、ダイヤモンドの中の炭素原子の結合エネルギー357kJよりも大きい値になっています。つまり、窒素原子は水素原子をはじめ多くの原子としっかりとした(仲の良い)結合をすることができるということです。ところが、窒素と酸素の混合物である空気に十分な量の水素を混ぜて点火してもできるのは水ばかりで、水素は窒素とは反応しません。理由はここでいう「窒素」が窒素分子Nになっていて、窒素原子どうしが三重結合でしっかりとくっ付いているからです。その結合エネルギーは945kJもあって普通の状態ではこの結合が切れないので、窒素は酸素と違い不活発な気体となっているのです。ただ、リチウムは空気中で黒くなるのですが、これは酸化物ではなくLiNという物質です。なぜ、酸素と結合せずに窒素と結合するのでしょうか。

196.Stickstoff

 「窒素」という言葉はドイツ語の元素名Stickstoffの直訳で、Stickは窒息をstoffは物質を意味しています。また、窒素化合物をアゾ化合物というのは窒素をフランスでアゾトazoteとよんだからです。これはギリシア語で「生命がない」を意味していて、Stickstoffと同じ意味から来ています。つまり、発見当時から窒素は燃焼や生命活動をに関わらない不活発な物質と認識されていたのです。しかし、その後プルーストリーによりこの反応しにくい窒素は電気火花によリ反応して化合物を生ずることが発見されています。そして、この実験はキャベンデッシュによってさらに進められ、空気中に酸素と窒素以外のどうしても反応しない物質が存在することが明らかになり、希ガスの発見へとつながっていくのです。

197.ハーバー・ボッシュ法

 アンモニアを工業的に生産する方法として水素と窒素から合成するハーバー・ボッシュ法があります。アンモニアの合成に窒素ガスを利用するにはいくつもの困難がありました。一つ目は、高圧にすれば反応が起こることは計算からわかるのですが、200気圧というのは1uに2000tというとてつもない力がかかるためかしばらくすると装置が破裂してしまうことでした。原因は装置を丈夫な鋼鉄で作っても、水素が鋼鉄の中の炭素と反応して柔らかい鉄になってしまうことでした。二つ目は、反応をうまく進めるための触媒を見つけることでした。はじめはオスミウムを使ったりしていましたが、現在では鉄を主体とした触媒が利用されています。化学としてはここまでなのですが、この発明が第一次世界大戦の遠因ともなっています。それは、ドイツはそれまで火薬の原料の硝石を南米のチリから輸入していましたが、大西洋はイギリス海軍が抑えていたので事を構えることはできませんでした。しかし、1913年、ハーバー法の完成により、空気中の窒素からアンモニアを経て火薬を作ることができるようになったのです。そこで、時の皇帝ウィルヘルムはイギリスとの開戦を決意したと伝えられています。

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化学むだばなし1225

198.空中窒素の固定

 窒素は、蛋白質を構成する原子として生体には欠くことのできないものです。そのため、硝酸イオンなどの形で肥料として利用すれば作物の収穫量を増やせることは早くから分かっていたのですが、原料となる物質がチリ硝石(硝酸ナトリウム、普通の硝石は硝酸カリウムであるがチリで採れたのでこう呼びます。)くらいしかありませんでした。話は変わりますが、マメ科の植物が栄養分の少ない土地でも窒素を含んだ蛋白質を多量に生産するのは、根に根粒バクテリアが共生していてこのバクテリアが空気中の窒素Nを窒素化合物に変えて植物に与えるからです。そのほかにも、アゾトバクターなどの細菌やネンジュ藻などのラン藻も空気中の窒素から窒素化合物を作って養分としています。人間も当然のこととして、空気中の窒素を固体の窒素化合物に変えようとしました。このことを「空中窒素の固定」といいます。ところが、窒素は容易なことでは反応してくれないので、多くの研究がなされました。ハーバー法はそれを可能にした一つの方法といえます。これによる肥料の生産がなければ、現在の農業生産高はとても考えられないので、世界の人口ももっと少なかったのではないでしょうか。

199.窒素の酸化物

 硝酸をつくるオストワルト法には、一酸化窒素、NOと二酸化窒素、NOがでてきます。そのほかにも窒素の酸化物はいろいろあるので少し紹介しておきましょう。酸化数が+1のものでは一酸化二窒素、NOは麻酔性があります。吸うと顔面神経が麻痺して顔のしまりがなくなって笑ったような顔になるので「笑気」と呼ばれ、歯医者などで利用されます。酸化数が+2の一酸化窒素と+4の二酸化窒素は、ともの奇電子分子なので不対電子を持っています。そのため、低温では二分子が結合してNOやNOになります。酸化数が+3のものとしては、三酸化二窒素、NOがあります。この物質は気体と液体で青色をしていますが、分解してNOとNOになります。酸化数が+5のものでは、五酸化二窒素、NOがあります。爆発性のある白色の固体でNOとNOがイオン結合をしたものと考えられています。

200.化学反応と触媒

 化学反応では触媒が重要なはたらきをします。ハーバー法では鉄を主体とした触媒が使われ、オストワルト法では白金を主体とした触媒が使われます。触媒を変えると反応の速度だけでなく、反応自体が変わり反応生成物も変わります。例えば、アンモニアを酸化するのに白金を触媒として使うと、4NH + 5O → 4NO + 6HOとなり窒素酸化物が生成しますが、銅を使うと、4NH + 3O → 2N + 6HOとなり単体の窒素が生成します。三角フラスコに入れた濃アンモニア水を少し暖めてアンモニアの蒸気の濃度を上げ、赤熱した銅線をすばやく入れると、銅線が赤熱し続けるのを観察することができます。これは、アンモニアの酸化反応が発熱反応のためで、発熱が大きいため場合によっては銅線が溶けて切れることもあります。

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