砂糖の大結晶作り 
(オリジナル実験)


  
★観察実験には専門知識と経験が必要です。本サイトの閲覧は理科教育関係者に限らせていただきます。★

1.概要

砂糖の大結晶
図1  砂糖の大結晶
下の小さな氷砂糖が,ほぼ元の大きさ
  砂糖の大結晶を作って物質の不思議を知るとともに,小さな粒子が整列しているようすをイメージします。

「結晶作りによって不純物を除去したり,その形から名前調べができます。また,規則正しい形(面と面の間の角度が決まっている。)から,粒子の並んでいるようすをイメージすることも出来ます。つまり,原子や分子の学習へ結びつく貴重な教材になります。」

  氷砂糖は身近に市販されている結晶としては最大で,安全・安価というよさがあります。また,種結晶として利用すると更に大きな氷砂糖も作りやすいはずです。そのため,結晶の教材としては最適なはずですが,実践例を聞きません。大きな氷砂糖は容易に作れないとされてきたからです。

  この取り組みの中で,台所にある砂糖と氷砂糖が同じ物質であるという認識のない子どもが多いことに気づきました(実は,私も,そう思っていた時期があります。)。それほど,近くて遠い教材であったということです。

  そこで,数年間にわたってさまざまな工夫をした結果,砂糖水が熱いうちに種結晶を吊るし,直ちに蓋をする方法を考案しました。こうすると,通常の結晶作りに準じて行なった時に多数出て困る小さな結晶析出が抑制できます。結果,主に種結晶だけが成長し,1ケ月ほどすると砂糖の大結晶(大きな氷砂糖)が簡単にできました。

  この方法は,結晶作りの基本ともいえる保温のための覆いが不要なだけでなく,持ち運びなどで振動させても新たな結晶が析出しにくいこともわかりました。そのため,容器を気軽に教室へ持参し,ガラス越しに結晶成長を観察できるよさがあります。

  成長する結晶の上に立ち昇るような筋模様が見えます。結晶の成長によって濃度が低下した砂糖水溶液によるシュリーレン現象で,結晶の成長を考えることができます。

2.新開発の核となる工夫

大結晶作り
図2  観察できる大結晶作り
  砂糖の大結晶は,作りにくいものの代表とされてきました。飽和水溶液を作るのに多量の砂糖が必要だったり,結晶が現れるまでに長期間かかります。また,底面からだけでなく液面からも多数の結晶が析出し,種結晶が大きく成長しないのです。
  その前に,種結晶を飽和溶液に吊るそうとしても,粘度が高くて沈めることすら難しいのです。そこで,次のような工夫をしました。

(1)『 氷砂糖をかなり熱い砂糖水溶液に吊るす。 』
(2)『 すぐに容器のフタをする。 』
※火傷に注意!


→(1)は不飽和の砂糖水溶液であり,普通なら吊るした種結晶が溶けてしまいます。しかし,実際に試すと,少ししか溶けないことがわかったのです。砂糖水の粘度がとても高いので,対流が進まないからだと考えています。冷えると種結晶の成長が始りますが,なんと,種結晶が優先して成長し,他からの結晶析出は進みにくいのです。
→(2)の操作によって,冷えるに従って上部空間が凝結した水蒸気によって覆われ,液面からの結晶析出がなくなりました。

  飽和していない熱い水溶液に種結晶を吊るした理由は,盛口襄先生が開発された【再加温法】の考え方で説明できます。再加温法は,飽和する温度より少し高い温度で種結晶を吊るすという方法で,一挙に大きな結晶が得られます。不飽和状態で存在する種結晶が優先的に成長を始めることによって,微細な結晶核析出を抑制できるようです。通常は,種結晶が溶けやすくなるので,種結晶の投入時に注意深い温度設定が必要です。しかし,砂糖水溶液は,かなり高い適当な温度で吊るしても溶けにくいことに気づきました。高粘度の砂糖水溶液は対流が遅く,種結晶が溶解しにくいからです。冷えると,砂糖の過飽和溶液による下方から上方へのゆっくりした濃度対流によって,大結晶が成長します


3.準備物

  砂糖(上白糖,またはグラニュー糖など)・氷砂糖(種結晶用,きれいな形のものを選ぶ)・ふたのできるガラス容器(フラスコのように口が小さいと大きくなった氷砂糖を取り出せなくなくなります。しかし,中で大きくなった証拠となります。)・鍋(または,やかん)・釣糸(0.4号程度)・軽量器具・その他

4.製作方法

(1)砂糖液を作る

例:1リットル程度のガラス容器を準備し,水250cm3に砂糖700g程度を用いる。
「 100cm3の水に対し,砂糖を250〜300g程度の比率」


  結晶を作る容器の大きさに合せた量を鍋(または,やかん)に入れて加熱し,軽く沸騰したらすぐに火を止める。この時,ふきこぼれに注意する(←かき混ぜるとよい)。

※この条件で,最大200gの大きさの氷砂糖ができる可能性がある。(室温を20℃すると溶解度が約200g。つまり,水250gには砂糖が約500gしか溶けない。)。
  倍量(水500cm3,砂糖1.4kg)にすると,400gという巨大サイズになる可能性がある。興味深いが,形が崩れやすくなる。また,このような大きな容量で実験すると,種結晶が溶けてなくなる可能性がある(後述)。
(例の容量が適していると思う。しかし,実験する季節の選択や,冷却などを工夫すれば,より大型化も可能であろう。)
(2)砂糖液を容器移す   火傷をしないように注意しながら,直ちに熱い砂糖水をガラス容器に移しかえる。ガラス瓶は,あらかじめ温めておかないと,膨張率の差で割れる恐れがある。 (3)種結晶を吊るす   市販の氷砂糖を結晶核にする。釣糸で水平に結んで,熱いうちに吊り下げ,直ちに蓋をする。 (吊り下げる直前に氷砂糖をさっと水洗いする。水洗なしでは,シャンデリアのような結晶が成長することもある。)

注意:冷えるまでは,種結晶の氷砂糖が少し溶解する。気温が高すぎたり,保温の覆いをしたり,容量が多すぎたりすると,冷えるまでに時間がかかり,その間に溶け過ぎて種結晶が落ちてしまうことがある。また,結び方のバランスの悪い場合も同様である。
  いずれにしても,一日は,静かな場所に放置して触れない。

大結晶作り
図3  大結晶作り
(4)結晶の成長   机の上などの目に付くところに置いて観察する。保温容器は不要で,いつでも結晶の成長が見える。
  数日すると,結晶のキズが自然に修復され,キラッと光る大きな結晶面が見られるようになる。
  観察は,1週間から1ケ月ほど続ける。
(5)シュリーレン現象   このような方法で砂糖の結晶を作っている時,興味深い現象に気づいた。これによって,結晶が成長するようすを考えることができる。

「砂糖液が熱いうちは,種結晶の下面から底へ向かうすじ模様が見える。これは,種結晶が溶けて,まわりより少し密度が大きくなった(濃くなった)砂糖液が光の屈折率の違いによって見える筋である(シュリーレン現象)。しばらくすると氷砂糖から上に登るすじ模様に代わる。これは,温度が下がって結晶の成長が始まり,結晶のまわりの密度が小さくなった砂糖液が浮き上がるためである。この上向きのすじ模様は,結晶の成長が止るまで常時観察でき,吊るした種結晶が主に下の方向へ成長することを理解できる。
  シュリーレン現象は部分的な密度差が光の屈折率の違いとなって見える現象である。砂糖液が濃い(粘度が高い)ので液が混ざりにくく,密度差ができるとその状態が維持されます。この現象を観察できるのは,砂糖の結晶作りゆえのものである。

横から見た砂糖の大結晶
図4  横から見た大結晶
5.備考 ・図3のように砂糖の大結晶を横から見ると,上方はきれいな形であっても,下方は成長が進んでいるようなのに少し崩れています。
  これは,下から上への濃度対流によって結晶が成長するためです。つまり,下方では砂糖液が濃いので成長が著しいのです。しかし,上方に液が移動するに従って薄くなり,成長しにくくなります。対流がゆっくりであるがゆえに,他の結晶でも多かれ少なかれある成長の特徴が,より現れ易いようです。
  結果,完全な形にはなりにくいのですが,理由がはっきりするので納得できます。
  図の例は,わざと結晶を斜めにして下部の成長を目立つようにしています。種結晶を水平に保持すると,下部の変形は目立ちにくくなります。


・透明感の高い氷砂糖を作るには,ショ糖純度が高いグラニュー糖や白ザラ糖を用いたり,砂糖水の濃度を下げたり,温度変化を少なくしたりといった工夫をしてほしい。


・種結晶の自作(種結晶となる氷砂糖の自作も可能です。)
[方法1]
  上記と同じ方法で砂糖水を作り,熱いうちに手早くガラス瓶に入れ,すぐにふたをする。何日かすると底から結晶がいくつも成長してくる。ただ,形のはっきりしたきれいな結晶ができるかどうかは,偶然による。
結晶核作り
図5  結晶核作り

[方法2]
  図4のように,シャーレのような底が広くて浅い容器に上記と同じ方法で作った熱い砂糖水を入れ,さっと水洗いしたザラメ糖(できれば白ザラ糖がよい)を数個落とし込む。直ちにふたをして放置すると,1日で10mm近くの大きさに成長する。

※どちらの方法も底に接触して成長するため,完全な形の結晶にはなりにくい。

・市販の氷砂糖が,どのような方法で作られているのか気になります。そこで,2001年になって,氷砂糖工場へ見学にいきました。同じ方法なら,私にとって嬉しいのか悲しいのか,悩むところです。プロに迫れた喜びは,反面,オリジナリルではないということです。
  結果,「静置法」と「回転法」のあることを知りましたが,そのどちらでもない新しい方法であることがわかりました。業者のさまざまな工夫には感心しますが,常識的な方法だと感じました。ちょっと拍子抜けでした。

6.資料「ショ糖の溶解度」

  上白糖は約97.6%がショ糖(C12H22O11,非還元性の二糖類)です。また、グラニュー糖は99.9%,白ザラ糖は99.9%,カラメルで黄褐色にしてある中ザラ糖も99.7%と,より高純度です。この3者をまとめてザラメ糖に分類され,主な違いは結晶の大きさです。

種々の温度に対するショ糖の溶解度
温度(℃)0102030405060708090100
溶解度(g)179.2190.5203.9219.5233.1260.4287.3320.5362.1415.7487.2
  注:「溶解度」は,100gの水に溶けるショ糖のg数です。100gの水は,ほぼ100cm3としてもよい。
  出典:Browne,"Handbook of Suger Analysis"

7.備考

図2と5は,西川菜奈美さんの作図です。  
自由利用マーク  
《SUGIHARA  KAZUO》