……………
……
「…ひとつ、作戦がある」
「…聞かせてもらえる?」
「ほう…」
「…出し惜しみはしない」
上空に舞い上げた宝具の数は、前回以上。無限に精製される中で、一度に操れる限界の量…その全てを使って、ただ一度の機会を生み出す。
「様子見は前回で終わっている。最初から私の全てをもって挑もう」
「来いっ!!!」
全てを奴に向けて撃ち出すと同時に、奴に向かって駆け出す。
ナインライブズ
「”射殺す百頭”」
ロ ー ・ ア イ ア ス
「”熾天覆う七つの円環”」
奴が真名を発動すると同時に、こちらも用意していた宝具を発動させる。
「なにっ!」
ロ ー ・ ア イ ア ス
迫り来る宝具を打ち落とさんと射出された矢の全てを、”熾天覆う七つの円環”にて防ぎきる。
これが、一つ目…
……………
……
「…なるほど、ギリギリまで奴の宝具を防ぎきれば、こちらの宝具のいくつかは確実に当たるわね」
「…いや、まだ確実とは言えないな。それだけで奴の命のいくつかを取れると考えるのは甘いだろう」
「それじゃあ…」
一瞬…かすかに一瞬だけ止まったヘラクレスだが、すぐに自らに向かってくる宝具を…さらにそれを護る”盾の宝具”ごと打ち落とすべく矢を放ち続ける。
しかしながら…それほどまでの猛烈な勢いで矢を放ちながらも、奴の注意は駆け寄るこちらから一時たりとも離れることはない。
「………………」
言葉もなくただ奴との間合いを縮める。その私の背後には、私を追い立てる様に飛来する二つの宝具…
カ リ バ ー ン エ ク ス カ リ バ ー
…”勝利すべき黄金の剣”と”約束された勝利の剣”…
…私が知る…持ちうる中で、最強に類する二本の聖剣。一撃にて、奴を確実に数回は殺しうることができる二本の聖剣。
私の体で死角となり奴からは見えないはずだが、それでも迫り来る力は感じられるだろう。
それにより、奴は選ぶしかない。
串刺しになるか、叩き斬られるか…最初の死をどのように迎えるかをだ。
これが、二つ目…
〜第十二章〜
〜勝利は、閃光の向こうに〜
……………
……
「…どちらにせよ、それで確実に奴を数回殺すことが出来るわけね」
「ああ、そうなればもう奴の”宝具”は関係ない。次の一撃、どちらが先に当たるかだけだ」
カ リ バ ー ン
ここまでは作戦通り。奴が飛来する宝具に串刺しになろうと、”勝利すべき黄金の剣”の一撃を受けようとも、確実に複数回の命を奪うことが出来る。
…いや、逆に言えば、それでも奴を殺しきるには足りない。
ここまでしてようやく、同じ土俵に立った様なものだ。まだ一歩、半歩分足りない。
……………
……
「…しかし、奴にはないが、こちらにはその半歩分を先んずる為のものがある」
「…そうね、この聖杯戦争の舞台である以上、それは卑怯でもなんでもない、全ての登場人物が知っている裏技…」
…すなわち、”令呪”だ。
エ ク ス カ リ バ ー
それをもって、奴よりも半歩先に出る。次の一撃、”約束された勝利の剣”をもって、奴を殺しきる。
奴の間合いまであと三歩…
ロ ー ・ ア イ ア ス
…”熾天覆う七つの円環”が破られ、奴と宝具との間を妨げるものがなくなる。
奴の間合いまであと二歩…
カ リ バ ー ン
…”勝利すべき黄金の剣”を握って、奴の動向をうかがう。
奴は一斉射、それをもっていくつかの宝具をたたき落とす…それのみで斧剣へと持ち替えた。
奴の間合いまであと一歩…
カ リ バ ー ン
…奴は接近戦を選んだ。”勝利すべき黄金の剣”の一撃こそ防がれるかもしれないが、宝具からの串刺しをもって、数は足りる。
勝利は約束された…
…はずだった…
…宝具は刺さらない、貫けない、命を奪えない、ダメージを与えられていない…
あの一斉射によって、ランクA以上の宝具をすべて狙い落としただと!!
足りない、半歩どころか、一歩も二歩も足りない。
そこへ…
「士郎!! なんとかしろー!!!!!」
瞬間の中に、一瞬の中に、言葉が入り込むだけの永遠が挿入される…”令呪”の力以って…そして…
なんとかしようじゃないか!!!!
カ リ バ ー ン
手に持っていた”勝利すべき黄金の剣”を手放し、別のものを手にする。
それは、ありえないもの、私には投影できないもの、この丘に刺さっているはずのないもの、この手にしようがありえないはずのもの…それを、”令呪”の力以って手にする。
「がああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっ!!!!!!」
それでも、足りない、そこでようやく同じ、一歩…半歩足りない!!
「絶対に、勝てええええぇぇぇっっ!!!!!!!!」
その後押しを受け、瞬間、奴より先に手にした剣を振り抜く。その”真名”を以って!!!
オ ニ キ リ マ ル
「”神魔諸共に斬滅す刀”」
「…なるほど…な…」
渾身の一撃をもってしても、奴は死んでいない。
「…この身は、本当の我が肉体ではない…そういうことか…」
そう、奴を殺せるほどの威力を持っている訳ではない、持っている訳がない。この”宝具”は剣と言うよりもむしろ、魔術礼装に近い。
本来のヘラクレスにはまるでダメージを与えていないだろう一撃は、聖杯によって与えられた…魔術で生み出されたヘラクレスの肉体を…
…問答無用で引き裂いたのだ。
こんなものを投影魔術でなんとかしようなどとは不可能だ。丘に突き刺さった段階で、私の宝具が切り裂かれただろう。ゆえに、投影しえないはずのものだ。
「…マスターの違い…そういうことなのか…」
勝者と敗者をわけたのは”令呪”のみ、それも二回もの”令呪”だ。それだけの差が間違いなく、私とヘラクレスの間にはあった。
「…”今回”は、それが敗因ということだな…」
その言葉を遺して、アーチャー…ヘラクレスは舞台から消えた。
「…勝った…」
側によって来た華凛が、確認するかの様にそうつぶやいた。
それに答えようとした時…
「驚いた、アサシンの方が勝っちゃったよ」
…上空より声が響いた。
「なにっ!」
「ええっ!!」
驚きと困惑で、上空を見上げるとそこには一組のサーヴァントがいた。
「ボクたちはただ、アーチャーの勝利を確認しに来たつもりだったんだけどね」
純白の毛皮に包まれた白虎と、それにまたがる道服を着た男…残されたクラスから推測しても、まず間違いなく”ライダー”のサーヴァントだろう。
「…言ったでしょう、勝敗は最後の瞬間までわからないものだと」
先ほどまでの声とはまるで違う声で、道服の男が言った。つまりは…
「えー、でも、確実にアーチャーの方が上だって、そっちが言ったんじゃないか」
おしゃべりなのはサーヴァントの方ではなく、それに跨れている騎獣の方…純白の毛皮の中、額に一点だけ黒い斑を持つ白虎。
「…空を飛び、人語を操る額に黒一点の斑を持つ白虎…だと」
「まずはおめでとうございます。持ちうる限りの力を以って、あの実力差を埋め尽くしたあなた方は賞賛に値しますよ」
ニッコリと笑って、道服の男がそう言った。
「つきましては、私からご褒美をあげましょう」
懐から取り出したのは棒…いや、古代中国の指揮鞭…大軍の指揮に用いた鞭だった。
にこやかに振り上げられた鞭は、バチバチと放電のような光を纏って…
「まさか…」
ラ イ コ ウ ベ ン
「”四界貫く神仙の雷”」
…その稲妻は、もはや閃光だった…