「宅配便でーす」

「はい、ごくろうさまです」

 ある晴れた日、その荷物は届けられた。

「えーと、仁村知佳様…か。知佳の奴、何頼んだんだ?」

 さざなみ寮の管理人、槙原耕介は気になりつつも荷物を二階の仁村知佳の部屋へと運ぼうとした時…

 

 ガチャ…

 

「ただいま〜」

 くだんの荷物の受取人、仁村知佳が帰宅してきた。

「おかえり、知佳。荷物が届いてるぞ」

「あっ、ホントだ♪」

「今、部屋に持っていこうとしていた所なんだ」

「あっ、大丈夫だよお兄ちゃん、自分で持ってくから♪」

 

 トントントン…

 

 耕介から荷物を受け取ると、足取りも軽く二階へと上がっていく。

 

「なんだろ? 妙に楽しそうだな、知佳…」

 

 

 ぱたん…

 

 知佳が自分の部屋に入ると、かすかに開いている姉の部屋への扉の隙間から、いびきが聞こえてくる。

 ちらりと中をのぞくと、ベッドの上で大の字に眠る彼女の姉…仁村真雪の姿があった。タオルケットはベッドの下に落ちており、おへそ丸出しである。

「しょーがないなー」

 苦笑しながら、落ちているタオルケットを姉の上にかける。

「お姉ちゃんも、ちゃんとしてたらすっごくきれいなのに…

 スタイルは抜群だし…

 おっぱいも大きいし…」

 タオルケットを押し上げている、姉のおっきな胸を眺めながら、ぼんやりとつぶやく。

 

「くっくっ…うくくくくくっ…

 

 私だって、いつまでも負けてはいないよ〜っ!」

 知佳らしくない笑みを浮かべたまま、自分の部屋へと戻ると…

 

 ビリ…ビリビリ……

 

「おおお!」

 

 箱の中身を確認して、ニヤリと笑うのだった。

 

 

 その晩の知佳は、かなりご機嫌だった。

「おっぱっぱーの、おっぱおぱ! ママのおっぱいぱよっぱよ♪ あったかふかふか、ぷにょぷにょりん♪

 ぱよっぱよーのぱよっぱよ! ゆーちゃんおやすみ、ぴよぴよりん♪」

 妙な鼻歌まで口ずさんでいるくらい、ご機嫌だった。

「おーい、耕介、酒飲もうぜ、酒!」

 仕事が片づいた真雪さんも、同じようにご機嫌な様子で耕介を晩酌に誘う。

「ああ、いいっすね。じゃあ、つまみ作りますよ」

「じゃあ、お姉ちゃんにお兄ちゃん、私そろそろ寝るね〜」

 

「「おうっ、おやすみ〜」」

 

「おやすみ〜♪」

 

 ぱああああっていう音が聞こえてきそうなくらい、明るい笑顔で知佳はおやすみの挨拶を返してきた。

(今日の知佳、ずいぶんご機嫌だったなー…)

 などと耕介が思っていると…

「おーい、つまみまだかー?」

「はーい、ただいまー!」

 真雪さんにせっつかれて、つまみ作りに取りかかるのだった。

 

 トントントン…

 

「らぶりぃ、らぶりぃ、ぱよっぱよっ♪」

(なにか、よっぽどいいことがあったのかなぁ…)

 今日のおつまみ、豚肉と自家製キムチの混ぜ炒め…通称『豚キムチ』を作りながら、ぼんやりと考えるのだった。

 

 

 夜も更けて、宴が盛り上がってきた頃…

 

 ぶおぉ…ん、ぴぽぽぽぴぽぽぽ、ちぽーーーー…

 

「?」

「なんだこの音?」

 

 ぽー…きゅ、ぽン!

 

「掃除機みたいですね?」

「こんな夜中に、掃除しなくてもよさそうなもんだけどなぁ」

「でも、うまいっすね、このお酒」

「だろっ! 前に編集の仙台土産でもらったのが上手くてなあ、耕介にも飲ませてやろうと思って、わざわざ取り寄せてやったんだぜえ」

 気にせずに、二人はコップを傾けながら、上手い酒について語り合うのだった。

 

 

「うくくくくッ……」

 

 楽しそう…というか、いっそブキミとも言える寝言をつぶやく知佳の夢の中…

 

「やった〜〜っ!」

 ぱよーんぱよーーん…と擬音を飛ばしそうな大きな胸を揺らしながら、知佳がはしゃぐ。

「とうとう…とうとう夢が叶いましたー!!」

 バンザーイをする知佳の腕にあわせて、胸のほうもぷるぷるとふるえる。

(あの〜…

 大きければ良い、というものでは…ないのではないでしょうか?)

 はしゃぐ巨乳知佳ぼーを諭すように、心の中の冷静な部分が作り出した知佳が、そう告げた。

「え?」

(小さくても形の良い方が、見目麗しいでしょうし…

 性能が優れている方が、なにかと喜ばれるものではないか、と思うのですが…)

 そうつっこみを入れる、微乳(苦笑)知佳ぼーに対して、巨乳知佳ぼーは鼻で笑うと…

 

 ちっちっちっ…

 

 わかってないなーと言わんばかりに人差し指を振る。

 

「なにをおっしゃいます!?

 女性として生まれたからには、やっぱり『ぱよっぱよのぽよんぽよん』でなくちゃダメです!!」

 

 丁寧口調で、きっぱりと言い切った。

「愛する者や守るべき者を抱きとめる胸は、豊かであるべきなのです!」

(そうなんですかぁ…)

 

「そうなんです!」

 

 むふーっと鼻息荒く、巨乳知佳ぼーは微乳知佳ぼーを言い負かしたのだった。

 

「おぱ…おぱっ…ぉおぱっ!」

 そんな何とも言えない夢を見ながら、眠っている知佳ぼーの顔は幸せそうだった。

 

 

 翌朝…

「お兄ちゃん、コーヒー入れようか?」

「あ、もう一杯もらおうかなぁ」

「わかったー♪」

 にっこォーーッとうれしそうに、知佳が耕介のカップにコーヒーを注ぐ。

「あ、そういえば知佳…昨日寝る前に掃除機かけてなかった?」

「ごめん、うるさかった?」

「いや、別に問題ないけど…」

「ところでお兄ちゃん!

 今日の私は、なにか少〜し変わってない?」

 えっへん!と胸を張りながら、知佳がそう耕介に聞いた。

「ん?」

 言われて、耕介が知佳を見つめる。

「ん〜〜〜…」

「………」

「あ!」

「♪」

「今日は、髪留めの色がピンクだ!」

 その耕介の答えに、がくっとなりながらも…

(そ、そうだよね…まだ昨日の今日だもんね…)

 

 …その日も、やっぱり知佳はご機嫌だった。

 

 夕食後…

「お姉ちゃん、お風呂はいろっか、背中流すよ〜」

「そうだなー、たまには姉妹水入らずってのもいいか」

 と言うことで、お風呂に入ったのだが…

(みょ〜に、視線を胸に感じる…)

 一緒にお風呂に入ったとき、ちらりちらりと見られていることは多いのだが、今日は特に視線を感じた。

「じゃ、お姉ちゃん、背中流すよ〜」

「おう」

 

 ごしごし…ごしごし…

 

「……なんだよ…?

 あたしのおっぱいに、なんかついてるのか?」

「ううん〜…べ〜つ〜に〜」

「………」

 そう答えつつも、知佳の視線が真雪の胸から外されることはなかった。

(こりゃ、なんかあったか?)

 愛する妹の目が、飢えた狼共の目よりもギラついていることに、真雪はかなり心配になってきていた。

 

「じゃあ、おやすみお姉ちゃん」

「おやすみー」

 姉妹は、廊下であいさつをかわすとそれぞれの部屋へと別れた。

 

 パタン…

 

 ごそごそ…

 

 衣装ダンスの奥からごそごそと箱を取り出す。

 その取り出された箱には、『πdealα』と書かれていた。

 

「さあ、ぱよぱよしましょうか!」

 

 へらっと知佳が笑った瞬間…

「くっくっくっ…」

 

 ビクッ…

 

 バーーーーーーン!

 

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 引き戸が開け放たれ、彼女の姉…仁村真雪が馬鹿笑いとともに登場した。

「なななな、なによ、お姉ちゃんっ!?」

「バーカ、バーカ、バーカ!」

 何事かと心配していたぶん、この事態は真雪にとっては大笑いだった。

「な〜るほどね…こんなんでおっぱい大きくしようと企んでたわけだ…」

 プラプラと真雪が笑いながら揺らしていたのは、いわゆる豊胸装置というやつだ。

「ほ、ほっといてよ!」

 知佳は照れくささで、真っ赤になりながら顔を背ける。

「あのなぁ、こ〜んな掃除機改造したのバレバレなインチキ機械で、乳なんか膨らむわけないだろーが…」

「そ、掃除機じゃないよ!

 29800円もした品物が、インチキなはずないよ!」

「だーいたい、コレが効果あったら、あたしなんか巨乳どころか、超爆乳になっちまうぜ」

 真雪はそうからかうように言うと、カップの部分を自分の胸にあてる。

「もう、返してよー! 私の…」

 

 カチッ…

 

 立ち上がった知佳の足が、掃除機…いや機械のスイッチを入れた。

「お?」

 

 ぶおぉ…ん、ぴぽぽぽぴぽぽぽ…

 

「お、お、」

 

 ちぽーーーーーーーー…

 

「お、おぉ?」

「あ〜っ、もう!」

 

 ポキン…

 

 あわてて切ろうとした知佳の手が、そのままポッキリとスイッチ部分をへし折ってしまった。

「あーん、折れちゃったよー」

「ひょーほほほほほほほ!」

 

 コンコン…

 

「おーい、なにやってるんだー?」

 騒ぎを聞きつけて、気になった耕介がノックをしながらそう聞いてきた。

「おー、耕介! 入ってこい入ってこい!」

 妹の部屋だというのに、ゲラゲラ笑いながら耕介を呼ぶ。

 

 ガチャ…

 

「何の騒ぎですか、真雪さん」

「ほーれ、耕介も巨乳にしてやろう!」

 入ってきた耕介の胸に、真雪が例の機械を当てる。

「なんすか、これ?」

「くっくっく、これはだなあ、『おすすめ秋の新商品、あなたも一週間でぱよっぱよ!!』になるという夢の機械だ!」

 楽しくて仕方がないと言う感じで、真雪が『πdealα』の商品説明をする。

「へー、見るのは初めてですよ」

「ぶひゃひゃひゃ、ほんとーにあるんだなあ、こんな機械が…」

 

「…いい加減に…」

 

「ち、知佳…?」

「…というより、ほんとーにいるんだなあ、買う奴が!」

 

「もうっ!! バカーーーーっ!!!!!」

 

 ドッカァァーーーーン!!!!

 

 知佳の怒りの一撃で、『πdealα』を中心に、大爆発を引き起こすのだった。

 

 

「…まったく、遅くまで騒がしい奴らだねえ…」

 トイレで用を足しながら、リスティがつぶやいていた。

 爆発の被害が、真雪と耕介だけですんだのは、このリスティのおかげなのだから、それくらい言わせてもらう権利はあるというもんだろう。

 

 

 翌朝…

「はああァあ〜〜〜〜〜……」

「…ち、知佳、そろそろ出かける時間だぞ」

「左様でございますかぁ…」

 知佳は見るからに、鬱と言った感じで、どろどろと闇を背負っているのが、見ている分にも精神衛生上よろしくなかった。

「………

 あー、知佳さん…」

 コホンと咳払いを一つして、耕介が口を開いた。

「胸なんか、大きければいいってもんじゃないと思うな、俺は!」

「はい…?」

「小さくても、形がいい方が断然いいし、性能が優れていた方が、やっぱりだね…」

 しかし、耕介の口上は…

「はぅわ!!」

 …底冷えするような知佳の冷たい視線で、止められた。

「え、と…あ〜…その…

 あ!? 急がないと遅刻だぞ! 俺も洗濯物を干さないとっ!」

 そそくさと逃げるように、耕介がそう言った。

 

「いってきます……」

 

 まっしろに燃え尽きて、灰になっている知佳が、その日学校にたどり着けたかどうかは、神のみぞ知る…

 

 

                              ちゃんちゃん

 

 

 

 

 

最後をちょっぴり変えていますが、ほとんどまほろまてぃっくの原作と一緒です(笑)

配役は、まほろ=知佳、優=耕介、式条先生=真雪です。

 いや、もう、まんまですよ(笑)

 

 

 

 

 


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