これまでのあらすじ
貧乏すぎるため、街でも浮いた存在だった探偵・大十字九郎。
そんな九郎のもとに”魔道書”とともにやってきた幼女・アル・アジフ。
九郎がその本を持って呪文を唱えると様々な技を出すアルの正体は、次の魔界の王候補として人間界に送り込まれた100人の魔物の子の一人だった。
生き残りをかけて動き出したライバル達との戦いを通じ、九郎とアルの絆はしだいに深まっていく。
「のう九郎、なんか違わないか、このあらすじ?」
「100人はいないよなあ?」
「そこか! 違うのは、そこなのかっ!?」
銀色の
アル!!
「クトゥグアッ!!!」
俺の叫びと共に、アルの口から熱線が吐かれる。
「アマイワン!」
本の持ち主…ティベリウスが呪文を唱えると、奴の魔物…ベルゼギュートが小さい蠅になってちりぢりに分散する。
アルの放ったクトゥグアは、残念ながら何もいないところを通過していく。
「ほほほ、わたしのベルちゃんは細かく分離することによって、相手の攻撃をかわすことができるの。そんな一直線しかない攻撃、当たりっこないわよん」
ティベリウスが勝ち誇ったように言う。
「だったら!」
アルは俺の考えに気付いたようで、深くうなづく。
「バオウ・クトゥグアッッ!!!」
アルの口から灼熱の炎を纏った獣がとびだし、奴らに向かう。これが俺たちの持つ最強の呪文…『バオウ・クトゥグア』だ!
「なっ!」
分離していようが関係ない、バオウ・クトゥグアが全ての蠅を残さず焼き尽くす。
「いやあ、私の魔道書が、妖蛆の秘密が〜〜!!」
魔物がやられると、その本は燃えてしまうのだ。
その瞬間、俺の持つ魔道書が光を放った。
「おめでとう、人間界に生き残った諸君よ!
この時点をもって、残りの魔物の数は10名となりました。
これからも魔界の王になるべく、がんばって戦いあってください」
それは、ついにこの戦いに参加している魔物の数が、1割にまでなったと言うことだ。
つまり…
「つまり、もう見知っていない魔物はいないということになりますわね」
声は、背後から聞こえた。
「あ、あんたは」
「久しぶりですわね、大十字さん」
そう言って優雅に微笑むのは、魔道書”覇道のすすめ”を持つ覇道瑠璃…通称姫さんであり、その背後に執事然と立っているのが、本の化身…ウィンフィールドであった。
「そろそろ、ケリをつけようってことか?」
俺がそう言うと…
「せっかちですね、戦うのは最後と決めていたはずでしょう」
姫さんが苦笑してそう答えた。その答えに、俺はホッと一息つく。
姫さんのウィンフィールドは、とにかくその体術がすごい。その呪文『トッカータ』や『ゼンキュウフ・ムオン』も、その体術を高める類のものであった。
「今日来たのも他ではありません」
姫さんが落ち着いた調子で言う。
「…そうですね、先ほどのケリをつけるという言葉が、一番あてはまるかもしれませんね」
「…どういうことだ」
先ほど否定しておいて、改めてそう言ってきた姫さんの本意を見定めようと、その瞳を見つめる。
「…つまり、そろそろあの危険な存在を倒してしまわないかということです」
「それは余らのことかな?」
その言葉に、はじかれたように俺たちはそちらを見る。
「ひさしぶりだな、大十字九郎に覇道瑠璃。お探しなのは、余だろう」
そう言うそいつらは、金髪の男とそれにかしずくような少女…マスターテリオンとエセルドレーダ、まぎれもなく、俺たちが噂していた奴らだった。
「一対一では敵わないから共闘か? いいだろう、来るがいい!!」
「アトラック・ナチャ!!」
奴の言葉が終わるか終わらないかのうちに、呪文を唱える。アルの髪が奴らを捕らえようと四方八方へと伸びていく。
「トッカータ!!」
姫さんも黙ってみてはいない、ウィンフィールドがすさまじい速さで間合いをつめていく。
「無駄だ! シリウスノユミ!!」
………………
………
…
「…のう、この設定、やめないか?」
アルがすごくイヤそうな顔をしてそう言った。
「マスター、私も口から矢を吐くのはちょっと…」
エセルドレーダも、珍しくテリオンに苦情を言っている。
「私は、けっこう面白かったんですが」
執事さんはかなり楽しそうだった。
「ふーん、こういうのも、たまにはいいかと思ったんだけどねえ」
世界観担当のナイアさんがした、ちょっと残念そうな表情が印象に残ったところで…
…また転生!
…D.C.