そばの文化                <  サイトへ移動   .
 各地の「郷土そば」をみる  
---現在に伝わる郷土そばの特徴とそばを打つ技法をみる---

 「津軽そば」「道城そば」「わんこそば」「板そば」「ねぎ箸そば」「裁ちそば」「ひきそば」「へぎそば(手振りそば)」「信州そば」「富倉そば」「戸隠そば」「高遠そば」「おろしそば(からみそば)」「出石そば」「出雲そば(割子そば)」「祖谷そば」「薩摩そば」・・・  いきなりだがここに列記したのは「郷土そば」の一例で、なかには地域を代表する食文化ともいえるような郷土色の濃いそばもあって、いずれもがその土地その地域に長く受け継がれてきたそばの打ち方やそばの食べ方など、多彩なそば文化を伝えている。
 ところが近年、そば打ちの技術は、そばを打つ時の効率と合理性から三本の麺棒を使い、四角打ちで、小間板を使って細く切り揃える江戸流の技法が基準になってきて、それぞれの地域に受け継がれた独自の技法がだんだんと薄れて行く傾向にある。ここに挙げた郷土そばの地域には、そば粉十割を熱湯と水で打ち、いまだに麺棒一本で打ち延しをする丸延しを基本とし、いまも座った姿勢で、さらには手ごまで切っていくなどの伝統的な手法を大切に受け継いでいるところも多いのである。

青森県(津軽地方)津軽そば」(幻の津軽そばともいわれる)
この地方独特の製法で大豆の呉汁でそばを練り一晩寝かして打った。
切った津軽そばは茹でて玉にしてからの保存性が優れ、茹でるとツルツルして腰が強く熱い種物に向いていたので江戸時代から明治まで夜そば売りに使われたという。

「青森県文化観光資源データ集」のなかで、「津軽そば」について次のように説明している(原文のまま)
津軽地方に独特の製法で作られる「津軽そば」は、そば粉を湯で練り上げたタネを冷水に浸し、摺りつぶした大豆(またはしぼり汁)とそば粉を加え再び練る。細めにそばを切り、生そばの状態で夏場は一晩、冬場は二晩冷暗所で寝かしてから茹でる  独特のコシの強さと大豆のほのかな甘みが特長
江戸時代元文年間(1736〜)頃より市内を売り歩く屋台そばがルーツといわれている。製造上の手間がかかるため戦後作り手が少なくなったが、近年は「幻の津軽そば研究会」が発足したり、弘前市内のソバ屋「野の庵」や「めん一源」、青森市の「いりしめ」などで津軽そばを出すなど、復活の機運も高まっている。

秋田県北部 「道城そば」(北秋田市の旧合川町 道城地区)    
道城そばはつなぎに大豆の呉汁を使い津軽そばと同じ特徴のそばが伝わっている
また、この地域では「何杯もお替わりを強いる」岩手の「わんこそば」と同じ「振る舞いそば」の風習もある
大豆(の呉汁)を使うそばや、お変わりを強いる「振る舞い」の習俗は限られた地域だけのものではなく、これらの地域で広く行われていたのかも知れない。

岩手県花巻・盛岡 「わんこそば」  
旧南部藩領に伝わるそば振る舞いの形、お替わりを強いるのが御馳走とされて、祝儀・不祝儀を問わずおこなわれたともいうが、現在では諸説ある。

→そば屋で「お変わりを強いる」形の商売が始まったのは明治以降でさほど古くはないそうだ。わんこの「コ」は小さく愛すべきものに付けるこの土地の方言。
娘っこ、馬っこなど、飲んべえにとっては酒も「酒っこ」となる。
また、わんこの「わん」は平椀の方言で、そばを木地椀に入れて出す。

山形県  ・・・代表的なそば処  郷土そばと江戸風のそば  
@現在の山形(市内部)のそば → 萬盛庵(大正4年)に代表される江戸風のそばが多く、二八の細打ちや中細のそばに出くわすことが多い。
*東京上野・萬盛庵(宝暦3年:1753)

A郷土の田舎そば  → 県・内陸部 (庄内 寒河江)最上川・そば街道
板そば」・・・3〜5人前の太くて噛みごたえのある蕎麦を長方形の箱板にならすように平たく盛っている 
板は 山形市など内陸部では「へぎ」、庄内地方では「そね」と呼ぶ 
天童・「水車生そば」 文久元(1861)板そばの元祖?←雑穀の粉挽きでは、「味も良し命も永く水車そば初め鶴々後は亀々」

福島県   古くからのそば処 同じ県内でも打ち方に違いがある。
会津や猪苗代湖周辺には珍しい「そば口上」という祝言そばの風習があってそばのほめ口上が、会津万歳の流れを汲むこの土地の方言で語られる。 
またこの地域には全国でも類を見ない珍しい型の「中抜き包丁」が伝わっていて包丁本体に長方形の窓があいた形の会津包丁で、押し切りで使う。
会津「ねぎ箸そば」・・椀に入れたそばに20センチ程の葱を丸ごと入れていて箸代わりにも薬味にもなってそばを食べる風習が残っていて、祝い事など「そば口上」がある席で出されるそうだ。
檜枝岐地域・「裁ちそば」〜小さい玉を丸く延し 十割で切れやすいので生地は畳まずに重ねてて布を裁つように切る(小間板を使わない)
麺棒にも特徴があって会津桐の長さ60センチ・太さ7センチが使われる。
→ *群馬県利根郡片品村のそば切り  「ひきそば(引き蕎麦)」
丸出ししたそばを半切りして数枚重ね菜切り包丁を手前に引いて切る
麺棒はやはり桐材で長さが80センチ・太さ5センチを使っている
いずれも尾瀬の入り口に位置し地域的にもそば打ちの特徴は同じである。

新潟県  新潟を代表する郷土そば 「へぎそば」はつなぎにフノリを使う
へぎそば」  茹でたそばを水からあげて盛りつけるときの手の動作から「手振りそば」ともいい、緑色のつるっとしたそばが美しい
波の形に盛りつけられる
「へぎ」(片木・剥ぎ板から)は30×50センチ程の長方形で3〜4人前を盛る。
フノリはこの地方の小千谷や十日町など織物の糊付けに使われていた
*そば粉1kg+糊状のフノリ400gを練り上げ一時間ほど寝かすそうだ

長野県  蕎麦先進地域であり、そば切りは信州(信濃国)で誕生した

信州そば  元々は麺棒一本で 巻き延しを繰り返して丸延しする 
麺棒は長さ122センチ・中央部3.5センチ・両端が2p程に細くしている
切りは小間板を使わず てごま(左手の親指が支点で切り進む)
富倉そば  奥信濃・飯山市(新潟寄)〜雪深く小麦が穫れなかった 
*ヤマゴボウ(オヤマボクチ)・・キク科多年草(大アザミ?)
つなぎの工夫・こね30分〜手間と時間がかかるがシコシコとしたそば 
大きな丸に延し 手ごまで切る 
戸隠そば」  そば切りの歴史は古く、戸隠神社にまつわる伝統がある
一本の麺棒に生地を巻き付けて転がし、引き戻す時に延し板に打ち付けながら丸延ししていく
*この地域のそばの盛りつけは特徴的で親指と人差し指でそばをとり、半分置いて折り曲げ丸めるようにザルに盛る(ボッチ盛り)
高遠そば」 辛味大根の絞り汁と味噌を溶いたつゆ「からつゆ」で食べる
*そば切りの早い時代、高遠大根(幻の辛味地大根)+味噌+ネギでそばを食べる習慣があって、これが会津に伝わって高遠そばと呼ばれるようになったのに始まるとも

福井県   越前おろしそば(鰹節・おろし) 
おろしそば」  おろし汁は醤油かかけ汁と合わせた大根の絞り汁
薬味は鰹節とねぎだけ  おろしには青首大根が使われることが多い
*小浜(おばま)にいくと「からみそば」という 

兵庫県   関西のそば処(皿そば) こね鉢は石見焼きの深鉢を使い麺棒一本で丸延し大きく丸く延し以前は手小間で切った
出石そば」  5皿で一人前(男10皿・女7〜8皿くらい食べる)  薬味5種 大根下ろし・山芋・卵・ネギ・ワサビ。
   器は出石焼きの小皿。

島根県出雲そば」「割子そば」
そば粉  伝統的には、殻ごと挽きぐるみした粗いそば粉を使い、黒っぽく香りが豊かで歯ざわりの強いのが特徴。
 元々は十割で、地延しの後、一本の太い麺棒での丸延しで大きな円形に延していく。
切りは手ごまで(小間板を使わず)、太めが特徴であった。
朱塗りの丸い割子に小分けして盛られ 三段重ねで一人前で、薬味には大根おろし、またはもみじおろし、海苔、ネギ、はなかつお、などなど。

徳島県   落人伝説・秘境の素朴なそばとそば米雑炊
祖谷そば」   黒っぽい太打ちの田舎そばはイリコだし 油あげを刻み かけそばで食べる。
ソバ米雑炊は3日間かけて作る。ソバを米に見立て、煮ると2〜3倍に

鹿児島県   じねんじょ(自然薯)をつなぎにして打つ
薩摩そば」  挽きぐるみの黒っぽいそば粉
薩摩揚げをのせたり 薬味:ネギ 桜島小ミカンの皮を刻んだものなど 
自然薯(やまいも)のつなぎで打ってると、割れてくるし切れやすい。

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