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cd review "W"

Wispウィスプ / IDM
NRTHNDR [2005/SLR1001/#12][Amazon]
WISPことReid W. Dunnのファーストメジャーアルバム。いやもうこのジャンルの中だったら世間的にはメジャーもくそも無い気がするけど、とにかく一般流通に乗った初めての作品であり初めての日本でCD媒体が買えるアルバムとなりました。この人は今までCDや12"を出してはいたんだけどそのどれもが日本では入手困難なうえ、大体の音源はオフィシャルで配布してたから今まで形ある音源をお目にかかることすらなかったのよね。もうこの人はずっと自費出版・向こうの国の同人路線でいくのかと半ば諦めてたから実に目出度いことだ。まだフリーで配布してる音源は公式にいっぱいあるので気になる人は適当に拾ってくれたらいいんだけど、リニューアルに伴っておれ殿堂入りである「humpelndenBEATS」のリンクだけ無くなっててアレ。レーベルのページも音源もちゃんとあるのに。

実にすばらしいアルバム。IDMと言う事でμ-Ziqやトムなんかと並列で見られることがしばしばあるみたい(実際似てるところもある)だけど、この人は音楽スタイルこそIDMだけどその中でハッキリ曲の雰囲気に個性を持ってる。徹底した電子音のみの構成とBPM高めの楽曲群、かなり無茶な変調することもあるけど基本のビートはずっと守ってるので物凄いフロア向けで、かつバキバキは鳴ってないから聴覚中枢に優しい音楽。アルバム展開が上手すぎるせいもあって、シームレスには繋がってないはずなのに気が付いたら3曲ぐらい進んでることもしばしば。そう言う意味では「バリエーション」はあるんだけどトムやリチャなんかと比べると「芸の幅広さ」がないからアルバム聴き終わった後の満腹感みたいなのは無いかしら。ずーっと聴き続ける事こそ至福みたいな。

とにもかくにも高速IDM(※drill'nではない)をやらすとすんげー格好良い音楽作ってくれるところにwisp音楽の魅力は集約されてるとおもう。メロディアスなくせにノリが良い電子音なら、そりゃまあおれのスキスキレーダーに引っかからないはずが無い訳なんだけども、ここまで考える事の少ない≒雑念が入らないキャッチーなIDMだったらもっとこうバカスカ売れても良いと思います!オフィシャルで試聴もできるM11 All His Might(※音が出ます) なんか、もうトムで言うところのTetra-sync(※音が出ます)ぐらいちびりそうにすばらしい盛り上がり。この辺は今まで配布されてた音源からも期待しておりある程度素晴らしさを予想していたんだけど、それをしっかり上回ってくれていて実に素晴らしい。

唯一残念なのはCDの録音レベルが若干低めになってて、普段はアンプ出力-40dbぐらいで他のCDを聴いてるのを-36〜-34dbぐらいにしないと丁度良い音量になってくれないこと。まぁもちろん音が小さくても聴けない事は無いんだけど高速IDMなんかになると低いレベルでも高音ばっかしが強調されて音が寂しくなってしまうのよね。文句をつけるとしたらそれぐらい(paypal通販しかないことを声高に叫ぼうと目論んでたのに普通にAmazonでもHMVでも取り扱うようになってたので何も言えず)。なによりCDと言う形でこうして手に入った事が嬉しくて嬉しくて・・・

あとあんまし関係ないけど「wisp」と聞くとロケラン/ホーミングミサイルが思い浮かぶ人種が少なからず居て「取り合えずflash+wispだよねー」とか言う話が思い出されますが、wispは「束」とか「束ねる」と言う意味なのですよ。更に関係ないけどwispは見た目がかなりオタっぽくて、M・パラディナスが理工系と宣伝されるのならばこの人はアキバ系ミュージッククリエイターだなとか思った。でも大好きなのでジャンジャンバリバリ曲を作ってってほしいっすな。
Honor Beats [2006/SLR1003/#8][Amazon]
WispことReid.W.Dunnの店売りセカンドアルバム。前作「NRTHNDR」から僅か1年でリリースされたんだけど、こいつ曲のストック山ほどあるんじゃないかと思うぐらい完成度の高いアルバムになっててひっくり返った。前回同様amazonやHMVなど日本の代理店でも普通に取り扱われてて、Bleepとかで直接買ったら無茶苦茶安い(全部一括で8.49ドル)んだけどまぁ一応日本市場を意識してね!とアピールするためAmazonで購入。この1年でいくつかの音源がネット配信されたんだけど、やっぱりCDで聴くのが一番良いな。精神的に。

たいへん素晴らしい。そこで思考停止してしまうぐらい揺るぎの無い素晴らしいVGMっぷり(別にチップチューンとかではないんだけど)。まさにゲーム脳、生まれる前から8bitな音楽と共に歩んできた世代の放つ高速IDM、ケイブ社製STGの4面ぐらいで流れそうな音楽たち!1曲目再生したらいきなりバグパイプが流れ出して、今までこう言う手法使ってこない人だったから何事かと思ったんだけど途中からしっかり高速不安定なエレクトロニカをやってくれてオープニングトラックに相応しい盛り上げ方に感服。M5では思いっきり旧世代ゲハをイメージした音とメロディでロックマンとか好きなのかなーとWispの趣味に思いを馳せたりしつつ、M6のClipian、前作で言うところのAll His Mightにあたるおっき所に突入。これ絶対縦スクロールSTGのボス戦でかかる音楽だよね!前述のBleepで試聴できるので3:50辺りからの盛り上がりを是非とも聴いて欲しいけどブツ切れでしか聴けないからおれの言わんとする事が伝わるかどうか。

かつてのμ-ZiqやCexのようにSquarepusherのフォロワーとしてWispも捉えられており今作後もその評判までは変わらないんだろうけど、やっぱりこの人は彼らとはなにかしら違うものを持ってるように思えてならない。中間のM4と締めのM8を除けば全部高速IDMのフォーマットで作ってあって、それが優れているかどうかは別として「Wispらしい音楽」と言う形が確かにあり、全ての曲においてそれを実践してる辺りがもうなんとも言えない。ただ相変わらず音量が小さいのがなー・・・他のCDより4dbぐらい大きくしないと細部まで音が聞こえないし、なによりWisp音楽が持つ(ドリルンベースなんかに含まれるような)迫力と言うかバキバキな攻撃性と言うか、なんかそう言うモノが薄れてしまう。まぁこの辺は自分でボリューム調整すりゃそれで良いんだけど。

あとビジュアルに左右されてる面が大きい気がしないでもないけど、Wisp本人が自己紹介をTRPGフォーマットで書いてた(おれのHPはいくつ、MPはいくつ、みたいに)ぐらいゲーム脳なのは良いとして、今作のテーマはD&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)だと思った。ジャケ絵も含めて全体的に北欧っぽい感じが。それと、全編高速IDMで聴き疲れする事を考えての8曲44分なんだろうけど、前作がツメツメで58分あったことを考えたらあと一曲ぐらいあってもよかったかな。