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cd review "m"

Mouse On Marsマウス・オン・マーズ / Electronica, IDM

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autoditacker [1997/Thrill045/#12][Amazon]

ドイツ出身の2人組エレクトロニカグループ「Mouse On Mars」の3rdアルバム。影響を受けたアーティストにkraftwerkやNEU!・Autechreなどが挙げられているから一体どんな音楽が飛び出すのだろうと戦々恐々で聴いてみたところ、確かにエレクトロニカなんだけどバキバキではなくポワポワした音を使ってて、もうポップでツボりまくった。分類上はIDMらしいけど、一部エレクトロニカと言うよりブレイクビーツ寄りに感じた。

とにかく感動。何と言うか使っている音を全部間近に把握して作ってる感じがして、しかも聴いてる方もその音をちゃんと全部理解できるようなイメージ。天才的な感性の持ち主が思うがままに音を出したのではなく、あくまで凡人である俺でも楽しく分かるレベルで作ってくれているかんじで、AutechreやAFXのような「理解を超えた無茶な展開」が無いから、聴いていて凄く耳に馴染むし汗をかくことなく気持ちよく聴ける。心拍数の上下動が緩やか。

M1ではワールドミュージックのようなファンクを取り入れ、M3はスピード感と静かなグルーヴが合さったまるでリッジの夜ステージ音楽(わらい)。M4やM6ではある種IDMらしいエレクトロニカ特有の不規則な音の使い方をしながらも、他のIDMアーティストには無いやさしさと言うか穏やかさを音に混ぜ込んだ曲を披露。そしてM7 Tux & damaskではサックスの音?をサンプリングして哀愁と浮遊感を演出しつつDrum'n'Bassの軽快さも兼ね備えたIDMの骨頂を見せる。M9以降は沈んだIDM・大人しい反復へと還って行き、M12 maggets hell wigsでM7のセルフミックスをして終・・・アレ?

総じて森の中に居るような、見える範囲は狭いんだけど空間としては広い場所に居るような感覚。とても有機的な音楽。


MOSAIC.WAVモザイク・ウェブ / J-POP, Techno

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Heartsnative / MOSAIC.WAV[2009/PCCG-90035/#7][Amazon]
そこいらのネットで幾らでも転がってるんだしボーカロイドなんて所詮不完全さを楽しむものじゃねーかーとか言う天邪鬼根性で初音ミクのCDは買わない事を心に決めていたおれなのですが、mosaic.wavの「電気の恋人」が収録されると聞いて飛んできました!収録曲の情報見た瞬間に予約してたので発売日がいつかとか知らんかったのでいきなりAmazonから発送メール来たのでびっくりした。それなりに気合の入ってるオーディオ環境で電気消してじっくり鑑賞。結論から言えば全人類が買うべき。

前述のように「電気の恋人」が好きとは言うものの、実はmosaic.wavって全然知らないのよね。CDも持ってない。何年か前、この辺りのアーティストに詳しいYくんと話してて、そこで初めてmosaic.wavのボーカルは桃井はるこじゃない事を知ったとかそんなことがあったぐらい。あと知ってる曲はなんたら虎の巻ってのと貧乳のうたの三つぐらい。ただどれにも共通してるのは、メロディが好きなんだよ。電気〜は歌詞も好きだけど、やっぱりメロディが好き。

これを聴いてると音楽ってメロディが大半を占めるよなと強く思う。初音ミクのボーカロイドボイスにも随分慣れてきたし、それなりに魅力ある声質だと思えるようになってきたし、歌わせる技術も物凄い進歩してきてると思うものの、やっぱりイロモノの色眼鏡なしには評価しにくいモノだと思う。そんな声にちゃんとした色が付くかどうかって、それはもうメロディの力しかなくて、その点このCDの音楽たちは凄く気持ち良く「初音音楽」にできてるよ。元々ミクとか関係なしに作られた曲もミク向けアレンジが成功してて、この箱庭サイバー感ってのをアキバポップ(←定義不明)だとは決して思わんもけど、初音ミクポップだって言われたらあーそうかなって感じてしまう素晴らしさ。初音ミクのための音楽。造形可愛いからキャラクター商売もいいんだけど、やっぱり初音ミクは歌ってナンボやでホンマ。

ぼんやりした話はそれぐらいにして。M1「みんなみくみくにしてあげる」は例のやつ。原曲shortバージョンはあんまし好きでなかったんだけどlongで大化け。J219とかバカにしてごめんよ。み〜こ氏とのツインボーカルも不思議なぐらい自然。テンション下げどころが分からないから聴き疲れするものの、それこそ初音ミクムーブメントと言うかインターネッターの「勢い至上主義」を表してるようで何となく理解できる。M2「***にできたかな」はcapsuleって言うかヤスタカって言うかそのへんに、加工して機械っぽくした音声で人間味を無理やり載せまくったかんじ。初音ミク(本体)よりGLaDOSより更に回りくどい人間味の表現。M3「電気の恋人」70〜75年生まれぐらいの職業プログラマ向けと言う超ニッチな曲。84年生まれのおれはBASIC世代ちゃうけど、5.25インチFDとかMSXとかそういう物は見てた(テープはさすがにない)世代で、こう言うおっさん狙いの曲ってのは琴線に触れてしまって困る。底抜けに前向きでやたら元気なアレンジも素晴らしい!2400円払った価値がある。6年ぐらい前から言われてるけど、これもうコンピューターおばあちゃんと一緒に教科書に載せようぜ。M4「server error」急にジャングルでびびる。それにしても、activateって聞くと頭にMATLABがちらついて仕方が無い。関係ないか。

M5「キミは何テラバイト?」ここでまさかのアカペラ。そうだよ、ボーカロイドは楽器なんだよ。これがある意味で一番正しいボーカロイドの使い方・・・いやミクに限らず人のボーカルであっても声は楽器だな。アカペラなだけに物凄い丁寧に声を作ってあって、語りかけるようなミクの声に胸が締め付けられる。なんだよこれずるい。M6「HATSUNEtive」アニソン(わりとどうでもいい)。M7「Mimic me」最初何言ってるか全然分からんかった。電気グルーヴの「ノイノイノイ」みたいに意図的にやってるのかと思ったけど歌詞カード読んだらちゃんと日本語でフイタ。メロディ秀逸なのでいっそ歌詞の意味無しでも良かったんじゃないのか(母音を全部揃えるために無意味になってる部分あるけど)。これでラストですよー!ってかんじで終わってくれるので、実に清清しくもっかい再生ボタンを押してしまう。

それにしても、いやぁやっぱりこう言うCDってナメてかかって、そんで試しに聴いてみて想像とのギャップに物凄い衝撃を受けるのが楽しいよなぁ。37分とちょい短めなんだけどそれぞれの曲が濃いのであんまし気にならない。カラーがはっきり分けられてるからなせるわざか。最後の曲だけ笑っちゃうぐらい聞き取れなかったのを除いて、あとは概ね歌詞カード見なくても何言ってるか分かったのが意外?だ。もちろん半分ぐらいは人間であるところのみ〜こ氏が歌ってるんだから当たり前かも知らんのだけど、この辺は歌詞の日本語の選び方(つながりが自然な単語を選ぶとかそういうの)に気をつけたのかしら。

あと、電気〜の歌詞である「何それ読めない」って、あれお互いに言ってるんだよな。そのことに気づいた時なんか幸せな気持ちになりました。

恐る恐るスイッチ入れたら 無愛想な“OK”の2文字
「konnnichiwa」って入力しても “Syntax Error”

「何それ? 読めない・・・」 『ナニソレ? ヨメナイ・・・』

BASICの時代からヒトはパピコンと会話してたんだよ。

μ-Ziqミュージック / IDM, Drill'n'Bass

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Lunatic Harness [1997/44309/#13][Amazon]
イギリス人のマイク・パラディナスによるソロプロジェクト。天才にして変態であるAphex Twinことリチャード・D・ジェイムスによって見出され、彼のフォロワーとして名を馳せているだけあって音が実に「リチャード的」。以前cexと言うアーティストを紹介したが、あっちがリチャのドリルン部分をコピーしているならこれはリチャのブレイクビーツ部分をコピーしていると言って間違いなさげ。

マイナス要素の意味ではなく全体的に一杯一杯感と言うか息苦しさみたいなのを感じる音楽で、ゲームミュージックのようなチープな音やらハードコア一歩手前なゴリゴリ鳴ってる曲とかあるんだけど、基本的に音を音楽(メロディ)として成立させる事を最低ラインにしている、つまり音素そのものにはあまりウェイトを置いてないかんじで、その辺の雰囲気と言うか空気がリチャとは決定的に違い・それが結果として一種のポップさやグルーヴが感じられる音楽になっている。

日常的にドリルンを聴く人にとって多分それほど目新しさは感じられない音楽だろうけど、物凄く聴きやすい音楽なので好き嫌いの選別対象にはならないだろうし、またcex以上にドリルン初心者にお勧めできる一枚だと思う。でもオビの「理工系テクノ・クリエイター」はウケを狙いすぎててアレ。

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Brace Yourself [1998/6235/#8][Amazon]
理工系テクノクリエイターことマイク・パラディナスの前作「Lunatic Harness」1曲目のリミックスを中心としたミニアルバム(←長い)。前作が97年でこれが98年リリースだし、ジャケに連続性があるからLunatic Harnessの別バージョンみたいなイメージで作ったのかな。前作を先輩から借りて聴いて、それほど印象はあまり良くなくてわざわざ自分で買うほどのアーティストじゃないかなーとか思っていたんだけど、ここのミックスで使われてる音が素晴らしかったので購入。

「打って変わって」と言うほどではないんだけど前作とくらべて明らかに毛色が違っており、明るくアッパーで悩み事の少なそうな音になってるのは好感が持てる。Lunatic〜では単純にAphexのコピーをやってるようでなんだかなぁと言う印象だっただけにこれは意外なんだけど、ただやっぱり理工系らしさ(わらい)と言うかちゃんと頭で考えて音を並べてるのがひしひしと伝わってくる展開なのは前回と変わってなくて、そこに雰囲気の明るさとかポップさがプラスされてようやく「μ-Ziqらしさ」みたいなのが見え始めた感じか。音自体は似てないんだけどイメージとしてはcom.aみたいになってるので、大分若者向けというか普通のテクノリスナー向けになったようにも思う。

そんなかんじで、ピコピコ鳴ってる曲とかポワポワ鳴ってる曲とかあって結構良かった。これならAphexフォロワーつってバカにできないな!(バカにしてないけど)。ちなみにbrace yourselfで「気をしっかり持て」と言う意味だそうで。