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cd review "F"

Fatboy Slimファットボーイ・スリム / BigBeat

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You've Come A Long Way, Baby [1998/ESCA7472/#12][Amazon]
Fatboy SlimことNorman Cookによるソロプロジェクトの2ndアルバム。一つの名前で続けるのが苦手なひとで散々プロジェクト名を変えつつやってたんだけど「Fatboy Slim」はその中で唯一どうにかこうにかアルバム3枚分続いていて、なおかつBigBeat界で1本指か2本指に数えられるぐらいメジャーになった名前でもある。

M1 Right here, Right nowは何年か前に日産「シーマ」のCFで使われたから聴いた事がある人も多いと思うが、宣伝はともかくのっけから重圧でダンサブルな曲をぶちかましてその勢いのままM2以降へ続ける王道っぷりと言うか「巨匠の余裕っぷり」が素晴らしい。こう余裕しゃくしゃくで「Fatboy Slim is fuckn' in heaven」とか抜かす音楽は酸いも甘いも何年もかかって積み重ねてきたヤロウにしかできないんだろうなぁー。M5の出だしでアシッドに化けるかと思わせといてやっぱり押しの強いブレークビーツだったり、M7ではSoul Surfingなんてタイトルからして余裕をかましてるダンスナンバーを聴かせてくれたり、もう勝手に踊りやがれオーラ全開。

HipHop色の強い(と言うかHipHop映画「ロミオマストダイ」で使われてた?)M8をはさんで、MVと「その顛末」が世紀の大傑作となったM9 Praise Youの登場!いやーもうこの曲聴かなくても脳内でMVが自動再生されるぐらいあれは好きなんだけど、ヴォーカルは(サンプリングだけど)濃縮された歌詞も・曲だって負けじと素晴らしい。こういう曲が出てくるのもやっぱり余裕があってこそだよなー。M10-M11で一気にミニマルライクなアシッド方向で話がまとまって(M11なんかタイトル「Acid8000」だし)、日本盤はM12に更にもう一曲アシッドハウスが追加されてるんだけど、M11の終わり方が実に良かったのでM12は入ってない方が良かったかも。

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The Fatboy Slim/Norman Cook Collection [2000/564787/#13][Amazon]
「Fatboy Slim」ことNorman Cookが手がけてきたリミックスワークスの自薦ベスト盤、だと思う。原曲の段階から彼が絡んでいる(後で説明)曲もいくつかあるが、基本的には後からミックスしたものばかり/自身のCDでは収録していないものばかりが集められているのでバラエティ色の強い一枚になっている。勿論ベースにあるのはノーマン節であり・老練の余裕であり・ファンキーな明るさなので気負わず聴けるのは相変わらずだ。

全13曲中5曲は「Beats International」と言うアーティストの曲がオリジナルなんだけど、このBeats InternationalってのはNormanが「Fatboy Slim」名義でソロをやる前から続けていた名義で大体90年代初頭に使用していたもの。活動期間も発表曲もそれほど多くは無いんだけどレゲエとヒップホップを足してビッグビートで割ったような音楽(当時はBigBeatなんて無かったけど)で、草分け時代からその筋では有名だったそうな。

流石にFatboy SlimリミックスだけあってBigBeatらしい曲も勿論多いんだけど、それよりもっと目立つのはM4からM9までゆるやかに続くレゲエ曲。おれは普段レゲエを全く聴かない(と言うかCDを持ってないし、知ってるのBob Marleyぐらいだ)ひとだからこれらの楽曲が「どう」なのか解説しにくいんだけど、聴いていて頭のなかに浮かんだイメージは乳バレー。赤道より5度ほどずれた南の島で13時ぐらいに浜辺に出たらこんな曲が勝手に流れてるような・鬱々とした空気の滋賀で聴くのは全くもって完全完璧に場違いに陽気なレゲエ。

日中ドライブに最適な曲が続くなーと思っていると、M10 Renegade Master[Fatboy Slim Old Skool Mix]で突然やたらとファンキーかつキャッチーな曲が!オリジナルはWildchildと言うレゲエ(HipHopか?)のアーティストでNormanとかなり仲の良い友人だったらしいが90年の末に若くして亡くなったそうな。ちなみにRenegade Masterはリミックス盤まで出ていて、内3曲がNormanの手による物と言う辺りが親交の深さを物語っているようだ。

M11はオリジナルの作曲者がLunatic calmでこれまた意外な組み合わせだなぁと思ってたらM12ではJames Brown・・・どんどん方向が変な方向に行ってると言うと怒られそうだけど、途中続いたレゲエミックスの辺りを思うとここまでバリエーション増やすとは思わなんだと言うか、ゲロッパまでNorman化かよ!みたいな。ラストの曲に至っては遥か昔にどこかで聴いた「イェ〜ジャンボジャンボ」で、12曲目まで耐えられたのに最後で思わず吹いてしまった。いやー、もう巨匠の余裕っぷりには恐れ入るばかりですよ。すごいとしか言いようがない。

Peace! Unity! Love! and havin' Fun!

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Halfway Between The Gutter And The Stars [2000/50460/#11][Amazon]
Fatboy SlimことNorman Cookによる3rdオリジナルアルバム。最初はあんまし買う気無かったんだけど北海道でラリー観戦してるときの会場BGMが「Ya mama」だったのに感化されておもわず注文してしまった。2ndのYou've〜から延長線上でまっとうに続きを作ったかんじの内容だから驚きとか感動のたぐいは無いんだけど、やっぱり大御所の余裕と言うか「楽しんでやってはるなぁ」と思える曲ばかりでおもしろい。

やたらと重圧かつしつこめのM2とか一転してさわやかなM3、クリストファー・ウォーケンが飛びまくるMVでMTVやらグラミー賞もらったM8とか、妙にしんみり聴けるM11とかいろいろバリエーションがあるんだけど、やっぱりなんと言ってもM5こそ本作のキラーチューンでありシングルカットされ志村けんばりのバカMVまで制作されたパワーはまさしくノーマンの本領発揮!あとM9でちょっと格好良い演出してくれてるんだけど、それ以外は盛り上がらせかたとかうまいことやってコントロール出来る範囲内できれいにまとめられた印象。実験的な新鮮味・面白味みたいなのはないんだけど、そこはアレ100回リピートにも耐えうるメリハリと完成度でカバーみたいなイメージ。

前作やNorman Cook Collectionにあったようなパーティー感というかお祭り騒ぎ感はないけどその分じっくり聴き込めるような安定感があって、この辺タイトルとか含めてただバカじゃないふうにしたかったのかなぁとか。センス爆発ではないけどしっかりFatboy Slimの音が固まっているアルバム。

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Palookaville [2004/5178842/#12][Amazon]
Norman CookによるソロプロジェクトFatboy Slim(と言う説明を毎回かいてる気がする)の4年ぶり・4枚目のオリジナルアルバム。その4年前の前作Halfway〜からこっちはリミックス盤やらライブ盤のリリースしかしておらず心配してたんだけど、この新作を聴いてみたら全然パワーダウンなんかしてなくてむしろ作風がbeats international名義だった頃に戻っている感じすらした。

3rdで言うところの「Ya mama」にあたるM2がやはり特徴的というか今作のキラーチューンとして耳に強く残るんだけれど、M3・M6など全体的には前述の通りbeats internatinal時代のようにレゲエやらラップ・ロック、果てはワールドまでビッグ・ビートの枠を超えそうな要素を強く取り入れており、今までよりファンキーで頭をぶんぶん振りながら聴ける音楽の比率が高くなっている。しかし2nd→3rdが屋外より屋内に向かったことを考えたらこの変化は結構意外っちゅうか、ビーチでライブやったりバスタブでインタビューうけるようなひとなんだから予想はできたんだけどまさか全編この路線でくるとは思わなかったみたいな。

それにしても、前作ですら曲のバリエーション多いなぁと思ってたのにさらにこっちの方が手広くいろんなことやってて驚いた。基本は勿論ビッグ・ビートなんだけどそこに上乗せされる要素が色々ありすぎてもうなにがなんだか、そして統一感が無くなりそうなギリギリのところをかろうじてビッグ・ビートでうまくつないでるようなかんじ。これだけいろんなことやってもこれだけ自在にあやつれるってのは、これも何回目か分からんけどやはり巨匠だからなせるわざなのかー。

けどここまでやっちゃうともうビッグ・ビートじゃないような気がするし、印象としてはNorman Cook Collectionとかぶっちゃってるような気がしないでもない。まぁでも最初から最後まで凄いっぱなしのアルバムだし、今までのFatboy Slimと違って丸々気持ちよく聴けるのでおすすめしたい。

4heroフォー・ヒーロー / Drum'n'Bass

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Earth Pioneers [1997/PHCR8907/#5][HMV(※日本盤)]

「CREATING PATTERNS」では期待したような音楽じゃなくて、「2pages」のような(というか「ESCAPE THAT」のような曲を含む)傑作アルバムはまぐれだったのかと思ってたんだけど、このミニアルバムは良かった。流石はDnB代表格と呼ばれるだけあるなと。

俺がなんで「CREATING〜」を気に入らなかったかと言うと、DnBであるにしてはどうも大人しすぎる印象を受けたのよね。がなれば何でもいいって訳じゃないんだけど、4hero独特の生音を絡めた静かなグルーヴ感が感じられなかったと言うか、要するにアレは「マッタリし過ぎていた」訳です。

それと比べこのアルバムは音の流れ/広がりが格段に違って、まるでクラシックを聴いてるような音の嵐とジャズのような変則性、そんでもって滝のようなスピード感が合さって聴き応えが素晴らしい。M3 Dauntlessからは4heroらしからぬ攻撃的なテックステップを取り入れた大胆なアルバム展開になっていて意外性もあり、(最後こそM1 Lovelessのインストだけど)飽きさせない良いアルバムだと思う。

フジファブリックフジファブリック / J-POP

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FABFOX [2005/TOCT-25847/#12][Amazon]
メンバーの親御さんがやってる会社名をそのままバンド名にした日本人4人組(※最近ドラムが辞めた)によるロックバンドの2nd。名前も知らなければ今まで一度も聴いた事すらなかったんだけど、こないだYoutubeで「銀河」と「虹」のMVを見て現代人に不足しがちな日本ロック分を感じ取ったのでその補給にと買ってみた。店で買うときにオビの裏に色々注意書きが書いてあったんだけど万引き防止タグで丁度CompactDisc表記の辺りが隠れてて、これはもしやCCCDかとか思って店員に確認してもらったらCDエキストラだったのでそのまま購入。スクリーンセーバーが入ってるらしいけど、おれの周りでCRTなんかもうサークルのパソコンぐらいしかないぞ。

誤解を招くために一言でまとめるならば、ようするにアジカンとかくるりとかスネオヘアー、はちょっと違うか、なんかを足して3で割って彼らには無い電波を加えたかんじの音楽。確かに一回目流して聴いた時には一山幾らの日本人ロッカーと同じに聴こえたんだけど、何度も聴いてるとこのヘタウマ感と言うかボーカルのやる気のなさ(?)みたいなのがとても心地良く思えてきて、力の入ってない歌い方も適度に意味の無い歌詞もアクセントの効いたキーボードもすげぇ脱力して聴いていられるようになる。M4の「唇のソレ」なんかもうまんま奥田民生を感じさせるブラブラ感で最高だ。

この人たちのアルバムが全部そうなのかは知らないけど、このアルバムに関して言えばやる気のなさが下地にあるのは同じなんだけど、上にのっかってるのが黒か白かの二面しかなくて、たとえばM4とかM7とかはダラダラまったりしてるところにやる気なさが良い感じに作用して陽気な曲になってるのに対して、M5とかM8ってのはやる気なさと不安さが良い感じに作用して陰鬱な曲になってる辺りが大変おもしろい。気持ちは全然違わないのに雰囲気から伝わってくるものが全然違う。同じ小麦粉を使ってはいるんだけどメソポタミア文明はパンを作って日本人はうどんを作りましたみたいな不思議な芸風。

好きなのは、なんか妙に夏場のおれの心理状態に近いものを歌い上げてるM2とか、このバンドに興味を持つきっかけにもなった梅雨明け爽やかポップチューンのM10、あと彼らにしては演奏も歌詞も妙に力が入ってくるりっぽくなり過ぎてるラストの茜色の夕日とか。先にも書いたけどボケーっとしながらアルバム一枚聴いていられる日本ロックで割とオススメ。

Futureshockフューチャー・ショック / Techno

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Phantom Theory [2003/43116/#12][HMV]
UKクラブシーンで活動しているAlex TepperとPhil Dockertyによるユニットのデビューアルバム。2003年発売のデビューアルバムと言っても彼らの活動歴はずいぶんと長く、過去に関わったアーティストを挙げればMOBYやらUnderworldなどの大物がずらり出てきて、出身はケミカルやアンダワと同じJuniorと言うあたりからも伺える色んな意味で鳴り物入りのひとたち。とは言ってもこれまで全然全く存在すら知らなかったんだけど、「Late at night」とか「Pride's Paranoia」のMVが面白かったのでとりあえずCDを買ってみた。

スタンダードなプログレッシブ・ハウスが多くを占めてるんだけどどれもこれも全然陳腐化しておらず、よーーーく聴くと笑ってしまうぐらいに色んな音を使っていてよくもまぁこれだけ面白いことができるなぁと感心してしまう。しかし実を言うとこのCDを買ってドキドキしながら初めて聴いた時、買うきっかけになった2曲ぐらいしか頭にのこる曲がなくて軽い失望すらおぼえていた。それから3ヶ月ぐらい色んなCDの合間合間にはさんで聴いていたらようやく彼らのやりたかった音楽が見えてきたと言うか、単曲鑑賞ではなくてCD1枚が1曲と言う楽しみ方をするべきものだと言う事に気付いてからは気持ちよく聴けるようになった。ぜんぜん取っ掛かりのない「Second toughest in the infants」みたいなイメージ。

調べてみれば"ポスト・アンダーワールド"なんて言われて紹介されている記事がよくみつかるけれど、では実際アンダーワールドに似てるかと言えば首をかしげてしまうと言うか、使ってる音とかそのジャンルで「空気」が似てないこともないんだけど、肝心の音楽自体は全く似てないとおもう。おれがカール・ハイドのお経ボーカルこそアンダーワールドの真髄と思ってるせいもあるんだろうけど、楽曲によっては「聴く事」に没頭してしまうものもある彼らと比して、futureshockはよりフロア向けと言うか最初から最後まで全ての曲がドラムマシン重視(このへんの重圧な音多用は確かにロックっぽい)でしっかり踊れるように作られていて、上でも書いたけどこのアルバムを一枚ながしたらそのままそれが1時間のイベントになりそうなかんじで、腰をすえてじっくり鑑賞すべき音楽ではないみたいな。

あと細かい事を言うと、国内盤はCCCDなので買うなら是非とも海外盤をオススメすると言うのと、「Late at night」はMVのままだけど「Pride's Paranoia」のMVで使われているのはradio editなのでこのCDには入ってません。