02/11/19

 獅子座流星群が来ました。
 でも、残念ながら見えませんでした。
 曇っていたこととか、
 満月だったこととか、
 流星群のピーク時に獅子座が出ていなかったこととか、
 色々な原因が重なったのでした。

 でも、折角なので。
 去年に見た獅子座流星群観察日記を載せておきます。

 以下は2001年11月18日深夜の記録です。

◆◆◆

 『天つ風 雲のかよひ路 吹き閉じよ』

 以下、乙女の姿 しばしとどめむ、と続く僧庄遍昭の句である。
 古今集序の詞では
 「歌の様は得たれども、誠少なし」と随分辛口に評価されているが、
 幻想的優美さの中に、作者の主観を詠み込んでいる辺りは
 やはり流石だと思う。
 余談だが、同序の詞における大友黒主の評価は笑った。

 『そのさまいやし』

 …どのさまだよ。顔か?

 午前2時半頃だった。
 寝巻の上にコートを着込む。
 夏より冬が好きな私だが、寒さが好きなわけではない。
 流れ星を求めて、淡い期待を抱きつつ、眠い目をこすりながら外に出る。
 空は一面の―――雲だった。

 「通い路が開いてくれないと、舞姫達がやってこれないんだよぉ…」

 誰に向けられたわけでもないその言葉は、いっそう切なさを加速させた。

 半ば放心状態で空を眺める。そこには何も映らない。

 「寒いね」

 と言っても、寒いね、と答えてくれる人もいない。
 私はこの真夜中に何をやっているのだろうか…。
 勉強しているわけでも、寝ているわけでも、星を眺めているわけでもない。 …何もしていない。

 「さっさと諦める方が賢明なんだよ」

 自分に言い聞かせる。
 でも気持ちは何かを信じている。

 その時だった。
 南の空に笠をかぶった光。
 月ではない。
 リゲルだ。
 雲を通して、リゲル、そしてベテルギウスが見える。
 どうやら雲は薄いらしい。
 希望が湧いてきた。
 薄い雲なら、そのうち流れてくれる。
 根拠もなく、そう思えてきたのだ。

 空は北の方から晴れてきた。
 北極星を挟んで、東に北斗七星、西にカシオペア。
 そして東から西へ星が流れる。
 いっぱいいっぱい流れて行く。

 最初はただひたすら見入るだけの私であったが、
 次第に心に余裕が生まれる。
 そして当初の目的を思い出す。

 「願い事をするんだった」

 この『星に願いを』には、様々なローカルルールがあるようだが、
 私のルールは【流れ星が消える前に、願い事を声に出して3回唱える】
 というものだった。
 早速実行する。

 ……………。
 …………。
 …。

 数秒後、セカイセイフクとかゴウカクとかは無理だと気付く。
 フレーズが長すぎたのだ。
 限界は2文字。
 それ以上は確実にタイムアップだ。
 頭を捻る。

 「最も適当な願いを述べよ(制限字数2字)」

 いろいろな小論文に取り組んできたが、こんなのは初めてだった。
 すると、そこに大きな流れ星が。私はすかさず、

 「カネ、カネ、カ……あ…」

 間に合わなかった。
 制限字数はさらに半減。
 もはや、狂戦士が「血」を求めたり、
 ハゲオヤジが「毛」を求めたりすることしかできそうもない。

 願い事は無理か…。
 落胆する私に、希望の光とも言うべき出来事が映った。
 先程の流れ星、それは既に消えてしまっていたのだが、
 その尾がぼんやりと残っていたのだ。

 『あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かもねむ』

 柿本人麻呂の歌が脳裏をかすめる。
 しだり尾が山鳥の一部であるように、星の尾も流れ星の一部なんだ。
 流れ星はまだ消えていなかった…。

 3時過ぎ。一しきり願い事を終えた後、家に戻る。
 そこで初めて首筋に痛みを覚える。
 長い間、見上げていた為だろうが…。