クローン羊「ドリー」について
早すぎる老化〜テロメアとの関係〜

未年だということで、もしかしたら試験に出るかもしれないクローン羊。

今年2003年2月14日に進行性の肺疾患に感染し、回復が見込めないことが確認されたため、

英北部スコットランドのロスリン研究所は、クローン羊ドリーの安楽死に踏み切った。

6年の生涯であり、通常11歳、12歳とされる羊の寿命より6年ほど早い死であった。

この「6年早い死」が何を意味するのか。

また、ドリーは2001年末から関節炎を発症している。

当時5歳であったドリーが、高齢の羊にみられる関節炎を患ったのだ。

これは「早すぎる老化」を疑わざるをえない。



ここで、ドリー誕生について簡単に説明する。

ドリーは、6歳のメス羊の乳腺細胞の細胞核を別の羊の未受精卵へ移植。

代理母の子宮で育てられた後に、生み出された。

しかし、ドリーのテロメアは生まれた時から6歳の状態であった。

テロメアとは、細胞分裂に伴い末端から短縮するため、細胞老化の指標となる。

極限まで短縮すると、細胞増殖を停止させる機構がある。

簡単に言ってしまえば、細胞分裂の度にテロメアは短くなり、

ある程度短くなると、その細胞は分裂できなくなる、つまり寿命を迎えるということだ。



ドリーは6歳の羊の乳腺細胞から生まれた。

そのために、生まれたときから通常より2割短い、6歳の羊のテロメアであったのだ。

つまり、ドリーは生まれた瞬間から6歳であったと言える。

通常12歳まで生きる羊が、6歳で死んだ理由も説明がつくだろう。



しかし、このような報告もある。

1998年末に誕生したクローン牛は、テロメアの長さが正常であった。

つまり、「初期化」されていたのである。

生殖細胞にはテロメラーゼという、テロメアを長くする酵素が活性なので、

テロメアの長さが初期化されたのも説明できる。

しかし、ドリーの場合は初期化がなされなかったことを考えると、

テロメラーゼ活性が、卵子の状態で個体差が出るのかもしれない。

とにかく、クローンには様々な問題がつきまとう。

正しく使われれば、医療の発展に大きく貢献するであろうクローニング。

科学者のモラルが問われるところである。

(参考 朝日新聞2002年1月20日号 読売新聞2003年2月15日号)


ちなみに、クローニングとは広い意味では「有性生殖に頼らずに増えること」であるので、
ゲームとか映画とかでクローンが出てきたりした時は、広義で考えましょう。
私の好きなゲームにクローンが出てくるんですが、
そのゲームのファンサイトの掲示板で、
「本当のクローンだったら、テロメアの長さが…」
とか言って、いちゃもんつけていた人がいました。
そもそも、まだよく分かっていない分野なので…。
もちろん、ドリーについても「老化とは断言できない(京都大農学部(生殖生物学)・今井裕教授)」
という見方もありますし。

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