EVE
burst error
C’s ware

’95/11/22 発売

「マルチサイトシステム」を生かした快作

今になってみて思うと、この当時が一番「業界」に活気があった様な気がします。
「大手ブランド」が次々と意欲作を世に送り出し、それに負けじと「新興勢力」が躍起になる。
そんな健全な時代にこの作品はPC−98ソフトとして世に送り出されました。
シナリオは当時「DESIRE」で脚光を浴びた「剣乃ひろゆき様」(現アーベル「菅野ひろゆき様」)
が担当した「入魂」の一作で今も語り継がれる「不朽の名作」となっています。
少なくともシナリオでこの作品を超えるものが未だ存在しない事実を
我々「お客様」はどう解釈するべきか・・・。
当の御本人ですら超えられていないのだから、
「奇蹟」と呼んでも失礼では無いのでしょう。
ここで言う「奇蹟」は只の「偶然」ではありません。
「たゆまざる努力」と「ひたむきな情熱」
そして「ちょっぴりの才能」が結実したものです。

これはそんな「奇蹟の目撃者」になった、ちっぽけなレビューアーの独り言です。
どうか最後までお付き合いくださいませ。



まずは、「ストーリー考察」に入る前に私には珍しく「システム」から
語り始めなければいけないでしょう。
それ程に当時はショッキングでしたから・・・。

それまでは主人公の「一人称」の作品がほとんどだった中に
「マルチサイトシステム」と言う「複数」のキャラクターの視点で
ゲームを進行させなければEDに辿り着かないと言う
必然的にストーリーをしゃぶりつくさなければいけない
「多人称」を「強制的」かつ「自然」にシナリオに取り入れ、
なおかつ「それ」を完全に生かせるストーリーを展開させる為に、
主人公を「2人」登場させた画期的な作品でした。

この「一人称」と「多人称」はしばしば小説の世界でも挙げられていて、
例えば身近な所では「高千穂 遙氏」が
「クラッシャージョウ シリーズ」を「多人称」で書いたのに対して、
「ダーティーペア シリーズ」を「ケイ」の「一人称」で表現したのは
有名な話です。

しかし、このシステムには大きな問題点があります。
それは「感情移入が誘いにくい」所です。
これは「エロゲー」にとっては致命傷にもなりかねません。
なんせユーザーは「自分」が参加出来る「エロシーン」を
求めているのですから・・・。

しかしこの作品は「あえて」そんなユーザーの想いを無視します。
・・・いえ、実は「別の形」で「想い」に答えているのですが
それは後に詳しく書くとして、あくまでもこの作品は
「ストーリー」の魅力で勝負をかけて来ます。
何たって「エロシーン」のない「15禁」の作品なんですから・・・。

実は私、ちょっぴり「おっぱい」が出てくる程度のこの作品を
当時は「やられた・・・地雷だ・・・」と思っていました。
(↑このバチあたりめが!!)
この辺りの事情は「家族計画」のレビューで書いてますので、
そちらにまかせるとして
それ程に当時は「異色」な作品でした。

そして「異色」と言えば「声優陣」も挙げなければいけないでしょう。
「声なし」が当たり前だった当時に、
「アニメ」の世界でも有名な声優を「ほぼ」フルボイスで
参加させた私の記憶では初めての作品です。
主人公の小次郎に「子安 武人」、まりなに「岩男 潤子」
(後に「三石 琴乃」に変わる)
サブキャラでもあかねに「かない みか」、真弥子に「岡本 麻弥」
恭子に「松井 菜桜子」、プリンに「水谷 優子」
そして驚くべき事に、
甲野に「野沢 那智」、源三郎に「納屋 吾朗」まで登場する始末!!
この豪華布陣が「エロゲー」だと誰が信じられるでしょう!?

更に驚かされたのが、イベントシーンで挿入される「アニメ」です。
これも当時「98の限界を超えた!」と言わせた出来栄えで、
「CD3枚組」と言う当時としては「異常」なデータ量や
「CDの入れ替え」が面倒くさいと言う問題点をも
忘却の彼方にふっとばす程の破壊力でした。
正に「大手ブランド」の面目躍如と言った所でしょうか。

そしてココから悲しい事も書かなければなりません。
それはこの作品から生まれた「3作」(実際は4作)の続編の存在です。
このストーリーの「前置き」にあたる「EVE ZERO」
後日談の「THE LOST ONE」
そして「完結編」になりそこなった「EVE TFA」
(「ADAM」の補正版)
この中で辛うじて評価出来るのは
「EVE」の技術考証としての価値がある「EVE ZERO」のみで、
それ以外の作品に至っては「無い方が良かった」
としか言い様の無いモノばかりで、
正に「寄生虫」としか思えないストーリーです。
(実は「TFA」は音楽とアニメの完成度が最高で、その部分だけは傑作です)
「続編」である以上「作品テーマ」を進展させなければいけないのに、
「burst error」で起きた事象から生まれる「副産物」の記述のみで、
肝心の「EVE」に関しては何の進展も見られない。
こうなってしまった以上、諸々の事情はあるでしょうが
ぜひ「剣乃様」に真の「完結編」を期待するのはファンのエゴでしょうか?



それでは、並のレビュー1本分ぐらいの「前置き」を経て
いよいよ本編のレビューに入ります・・・(核爆

まずは「初期設定」からですが、
舞台は現代日本の都会の片隅で起きる
2つの「事件」とも呼べない程の小さな出来事に
2人の主人公が遭遇すると言う感じです。
そして、そのシナリオを展開していく上で、特筆すべき点の一つに
「キャラ設定」があります。
この作品はとにかくキャラクターが立っています。
マニュアルにも登場する「主要人物」は言うに及ばず、
「敵役」や、「チョイ役」に至るまで、その魅力的な事と言ったら・・・。
それこそ「死体」でしか登場しない様な人物まで
ストーリーに深く関わってきます。
これならば彼も「殺され甲斐」があると言うものです(←マテ
この作品には「意味の無い人物」は一切登場しません。
全てのキャラが一つのストーリーを作り上げていて、
誰一人欠けてもこの作品は成立しません。
おまけにその人数が「総勢17名」(チョイ役除く)と言うのだから、
そのストーリーの深さが伺えるでしょう。
この辺りが「EVE ZERO」を除く「他2作品」に足りない点です。

続いてシナリオの検証ですが、
これは、そのまま「ミステリー」の展開だと誰もが気付くでしょう。
順次「伏線」を登場させつつ、クライマックスでその全てを爆発させる。
簡単に言えばその通りなのですが、これがホントは難しいんです。
「ネタバレ」しない様に展開させなければいけないのに、
常に伏線に触れていなければ支離滅裂になってしまう。
おまけにその伏線があらゆる所に散りばめてある。
ほとんど作品全体が「伏線」で埋め尽くされるかの様に・・・。
更に「視点」となる主人公が「2人」いる事。
これはもうただ事では・・・(^^;

ココで前述の「ユーザーの想い」が生きてきます。
これこそが、この作品を「成功」に導いたポイントだと私は思っています。
推理小説に詳しい方なら、「読者と語り部」の関係はご存知でしょう。

「読者は自然と”主人公”に自分の視点を置くから、
”語り部”を登場させてその思考を誘導する。」
例えば「ホームズ」における「ワトソン」の存在の様に・・・。

推理小説の常套手段ですが、
何とこの作品は「語り部」を主人公にしてしまったのです!
そうです、あなたが「男」ならば「まりな」が”語り部”になっているのです!
「異性には感情移入しにくい」事を逆手にとって、
堂々と「語り部」を「主人公」と称して登場させる。
それは「ユーザー」のほとんどが「男性」である、
「エロゲー」の形を利用した大いなる「実験」だったのではないでしょうか!
その証拠に一見対等に見える「主人公2人」の関係ですが、
ストーリーを冷静に見ると「大筋」は小次郎を中心にあって、
「まりなシナリオ」はその補足に廻っています。

更に「主人公2人」のそれぞれのシナリオにも”語り部”を登場させて
ストーリーへの感情移入を完全にする。
「まりな」における「真弥子」
「小次郎」における「プリン」の存在
おまけにその2人共が「テーマ」の根幹を担っていると言う徹底ぶり。
これだけそつなく入念に練り上げられたシナリオに
ヤラれない方がおかしいって・・・(^^;

さて、やっとの事でストーリー展開まで話が進みました(笑
しがない私立探偵をしている「天城 小次郎」は
街外れの寂れた港の倉庫に事務所を構えていた。
そこに1件の「絵画捜索」の依頼が舞い込んでくる。
一方、公安一級捜査官の「法条 まりな」の元に、
エルディア大使の令嬢警護の命令が下される。
一見何の関係も無い2つの出来事が、
やがて数奇な運命の糸に操られ
1つの「大事件」に繋がって行く・・・。
と、要約するとこんなストーリーなのですが、
これが一筋縄で行かない「深み」を持っています。
「人」が「人」を呼び、「謎」が「謎」を呼ぶ
正にそんな言葉が似合う展開を見せてくれます。

前述した通り、総勢17名の主要人物がいる上に
お互いが必ず何らかの「関係」を持っている。
そんなキャラ達が登場するたびに、
あちこちに「伏線」をばら撒いていく上に
その「視点」となる主人公も2人いるのですから、
「深み」も「謎」も2ば〜い2倍(^^;
「起承転結」で言えば
「起」→「転」→「転」→「転」→「転」→「転」→「結」
と言う息もつかせぬ展開です。

そんな難解に入り組んだ展開を「破綻」させずに
進める上での最も重要な位置にいるのが、
2つのシナリオを表立って繋いでいる共通の”語り部”
「桂木 弥生」(と桂木 源三郎)です。
小次郎の恋人であり、まりなの親友でもある彼女の存在が、
とりとめのない各「伏線」を紡いで
一つのストーリーとして展開させています。

そして、そんなこの作品の根底には
「ハードSF」の精神が流れています。
これは正に「後付け」ではあれども、
「EVE ZERO」にて技術考証が展開されていますので、
興味のある方はそちらも確かめられると良いでしょう。

・・・とココまで書いてきましたが、これ以上のレビューは
「ネタバレ」をしなければならないので、
私はこの辺りで筆を置きたいと思います。
(↑負け惜しみ(^^;)
未プレイの方はぜひ「ご自身」の目で、
この作品の「深み」を見てみて下さい。




「倫理」と言う概念は「後付け」である

何が大切かに絶対の真理は無い

個人(ひと)によってその価値は変わる

だが、絶対に変わらないものもある

「大切」なものを「大切」に想う気持ち

その為に人は時に命をかける

その人に「命の尊さ」を説いても意味は無い

何故なら誰よりもその事が分かっているから

「自己犠牲」などでは無い

それは「自分」を守る戦いに他ならないから