巻頭言
さ ざ な み
曽 我 正 雄

  ふじの山   巖谷小波
 あたまをくもの うえにだし
 しほうのやまを みおろして
 かみなりさまを したにきく
 ふじはにっぽん いちのやま

 幼少年の頃、誰もが口ずさみ、心豊かに成長する糧となってくれた「ふるさと」は滋賀県を、琵琶湖を、さざなみをこよなく愛した童話作家・小説家・俳人の巖谷小波先生の作詞である。
 「桃太郎」「舌切り雀」「花坂爺」「浦島太郎」「カチカチ山」等々説話や昔話が読めるのも巖谷先生のお陰である。

 巖谷先生は(明治二四年)「こがね丸」を発表し、近代児童文学の創始者として、「少年世界」「少女世界」「幼年画報」「幼年世界」で健筆を振い、「日本昔噺」「日本お伽噺」「世界お伽噺」「世界お伽文庫」など説話や創作童話の整理・移植につとめた。
 また、作家・学者としてだけでなく日本のアンデルセンと言われる久留島武彦氏と、口演童話家として日本・朝鮮・台湾・ドイツ等各地を回り、活躍された。私の所属している全国童話人協会物故者法要の巻紙の最初にある方の名前が巖谷小波である。

 私は青年教師であった頃から、国語研究会「さざなみ」から大きな影響を受けて教育実践に励んできた。「さざなみ」という語感の中にある優しさが好きである。小学校を退職して二十年になるが、今も、「さざなみ」の精神を受け継ぎ松原市公民館が開催している「松原民話語り部講座」を担当している。巖谷小波・久留島武彦から受けた影響も大きい。水口歴史民族資料館にある巖谷一六・小波記念館に足を運んでいただきたい。

 今、大へんな時代を迎えている。しかし、アメリカの大統領選で、バイデン氏が勝利したことで、世 界に、人類に希望が生まれた。
 中央教育審議会では、「育成すべき資質・能力」として三つの柱を挙げている。@どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか、A主体的・対話的で深い学び、B何を理解しているか、C理解していること・できることをどう使うか。
 このことを実践するヒントを巖谷先生が持っておられる。小波先生の俳句を紹介してまとめとしたい。

 ・枯木にも復興の花さかせたり
 ・訪ねあてし雀の宿や竹の春
 ・青東風や松に天女の忘れも乃
 ・春の水前途豊かに海に入る
 ・猿知恵の鼻面もとや蜂の槍

 教育界では、AIやIT機器が導入され、電子黒板やパソコン・タブレットの操作が必須となっています。しかし、教育は、人育てです。ゆったりとが大切です。
(元大阪市小学校教育研究会国語部部長・元平安女学院大学教授)