物語文を教えることの難しさ
川 端 由 起

 「なまえつけてよ」。教科書が変わって、初めてこの物語と出会った。小さい頃から本が大好な人間にとっては、この手の物語は「宮川ひろ」さんあたりで、すでに習得済みである。すなわち、それまでの人間関係が、ある出来事をきっかけに、変化する物語のことである。また、ある出来事をきっかけに、人物の心情が変化する物語のことである。しかし、本が苦手な児童にとっては、この手の物語の良さがわからないことが多い。また、この「なまえつけてよ」に関しては、動物や近所のおばさんなど、たくさんのものや人が書かれており、登場人物の焦点化にも困るだろうなと考えた。

 まず実践したのは、登場人物は誰かを児童に考えさせた。そうすると「春花」「勇太」とまず出た。想定内である。次に、「子馬」と発表する児童がいた。これも想定内である。次に、近所のおばさん、クラスメイトと、教科書に出てくる「名前」がほとんど挙がったのである。そこで、4年生の「ごんぎつね」に戻り、デジタル教科書を開き、一緒になって確認を始めた。「ごんぎつね」の登場人物でも、茂平という声が挙がったので、チャンスと思い、「登場人物とは、物語の中で自分の意思(考えや思い)で行動している人」のことであると説明し、だから茂平は違うということを説明した。そうすると、児童は、「先生、子馬は登場人物ではありませんね!」という声があがり、皆で子馬は違う。ということを確かめた。次に、「この物語の魅力は?」と児童に尋ねた。案の定、誰もノートに書けない。ただし、これは質問が悪い。私はわざとそこを狙った。

 「初雪のふる日」で、実は物語の世界をわからせるために、「千と千尋の神隠し」を視聴した。ある場所からファンタジーが始まり、終わるところが同一だったからである。児童は初雪のふる日において、事前に千と千尋の神隠しを見ることによって、「初雪のふる日の世界も理解できたようだった。  「なまえつけてよ」の主要発問は、登場人物の誰が一番、物語の中で変わったか(心)である。そのまま発問を聞いても、授業は盛り上がらない。そこで、春に映画が公開予定のアニメ2作品の比較をした。ドラえもん・クレヨンしんちゃんである。
 ドラえもんの映画は、大体、のび太が新キャラクターに出会い、そのキャラクターの優しさや勇敢な心に元気づけられ、心が変化する。対称的に、クレヨンしんちゃんの映画は、しんのすけの行動に、周りが元気づけられ、心が変化する作品である。

 児童は、アニメの事になると、目が輝き、くいつくように私の話を聞いてくれた。そして、「なまえつけてよ」の主題ーー誰の心が一番変わったかを聞いた。児童のノートには、文字がぎっしり並び、たくさんの意見が交わされた。
 今の子どもたちは映像世代である。文字から心情を読み取ることができにくい。しかし、皆がある程度知っている既知の事をを題材にきっかけを与えると、頭の中の文字が映像に変わった。全ての物語文を今回と同じように取り組むわけではないが、子どもの実態を見ながら、様々な実践を行っていきたい。
(草津市立志津小)