巻頭言
自分を変えることから
安 岡 寛

 アンガーマネジメントをご存じだろうか。1970年代にアメリカで始まったとされる「自分の怒りとうまくつき合う」ための感情コントロール法である。昨年度は約24万人がアンガーマネジメント関係の研修を受講しているとのデータがあり、日本でも少しずつ広がりをみせている。

 アンガーマネジメントをテーマに講演会や研修会で話をするようになって2年になる。
「すぐにイライラしてしまう自分を変えたい。」
という思いを抱きながら、私の話に耳を傾ける子育て世代の保護者さんに対し、教職員をはじめとする子どもとかかわる仕事に携わる方は、
「すぐにキレるクラスの子どもを変えたい。」
という思いで話を聞いてくださることが多い。

 自分の怒りをキレるという形でしか表現できない子どもたち。目に余る暴言。そして、悪くなる一方のクラスの雰囲気……。自分がめざす学級経営の理想像と現実とのギャップが大きくなればなるほど、「目の前にいる子どもを何とかしたい」という思いが強くなるのはもっともなことである。
 しかしながら、子どもを変えることは、なかなか難しい。「手を変え品を変え、いろいろなアプローチを試みるがうまく機能しない」という悩みを抱える教師は少なくない。

 そこで、アンガーマネジメントの手法を使って、「子どもを変える」のではなく、「自分が変わる」 ことを始めてみてはどうだろうか。
 アンガーマネジメントでは、怒りの原因を、他人でも出来事でもなく、〈自分の中にある「べき」〉 と、とらえている。
 宿題のノートは開いて出すべき。
 筆箱には鉛筆を5本入れるべき。
 給食は、担任に言ってから食缶に返すべき。
 こうした「べき」は、教師それぞれが、これまでの経験則から「こうすればうまくいく」というもの であり、「自分にとっては正しいこと」なのである。

 しかし、学級内にある教師の「べき」を守らない子どもをその都度叱ることは、教師には力が要ると 同時に、子どもにとってはしんどいことでもある。
 教師の「べき」が強ければ強いほど、子どもは不適切な行動をとることで自分のしんどさをアピールするという悪循環に陥る学級を多く見てきた。

 自分の「べき」を子どもに押しつけていないかを振り返ってみる。
 自分の持つ「べき」の整理整頓を行えば、怒るべきことに対して、怒る必要のないことの存在が見えてくる。
 怒るべきことは怒り、怒る必要のないことは怒らない。
 これが自分を変える第一歩だと思う。明日から、来週から、新学期から、「自分が変われば、子どもも変わっていくこと」を信じて、第一歩を踏み出すのもよいのではないだろうか。
(アンガーマネジメントファシリテーター・栗東市立治田小学校)