季節を感じる言葉に触れる~「うみのこ」の本物体験から~
海 東 貴 利

 今年で37年目を迎える「フローティングスクール」事業は、滋賀県内外の小学5年生が学習船「うみのこ」に乗船し、琵琶湖を舞台にした本物体験の学習を行う学校教育の一環である。一泊二日の湖上での学校生活は、滋賀県や琵琶湖の自然を体感し、その素晴らしさに気づくとともに琵琶湖の現状と課題を知り、持続可能な社会の担い手として必要とされる資質と能力を培う学習の場である。

 学習船「うみのこ」でできる本物体験の一つが、船上からの展望活動である。船内や甲板からびわ湖や湖岸の景色を眺めるだけでなく、船が波を切り、しぶきを上げる音を聞いたり、風のにおいを感じたり、いわば体全体で琵琶湖を感じる学習である。船から見る琵琶湖のようすはその日の航路、季節、さらには気象や水象によっても異なり、多様である。その航海でしか見ることができない琵琶湖を眺める学習をさらに充実したものにし、感動体験へと導けるものにもしたい。そんな思いから毎航海の開校式の挨拶で、その時期に相応しい言葉を探し児童に紹介している。以下は、その一部分。

●『風薫る』また、5月初めの頃はるか彼方から吹いてくる南の風のことを『薫風』といいます。薫るとは「いいにおいがすること」を表します。昔の人は季節によって違う風の香りを感じ取っていたのです。甲板に出たときは風薫る5月のびわ湖を「うみのこ」で感じ取ってほしいと思います。

●季節は初夏。自然の色もそれに合わせて変わってきます。山の色は何色でしたか。色をあらわす言葉の中に、『萌黄』色という色があります。萌黄とは鮮やかな黄緑です。草木が芽を出し始めた若葉の色です。でも、木々の若葉はすべてこの萌黄色ではありません。木の種類や成長の度合いによって若葉の色はいろいろです。この萌黄色をした若葉の季節は惜しいことに、ほんの束の間です。これから夏が深まると木々の若葉は青葉に色濃く変わっていきます。豊かな緑を目にできる季節でもあります。船から眺める自然の緑に注目できるのも、「うみのこ」ならではの活動です。

●『薄暑』。本格的な梅雨が始まるまでの穏やかな時期。少し暑さをおぼえる程度の陽気な日を薄暑といいます。熱中症になるほどの暑さではなく、うっすらと汗をかくような暑さのことをいいます。薄いという漢字は、味や色が「濃い」の反対の薄い、または分厚さの「厚い」の反対の薄いという意味のある言葉です。日本語には、このように気温にも薄いという言葉を使って表すこともあるのです。学校の校舎内や運動場で感じる暑さとびわ湖の上で感じる暑さを比べてみましょう。こんなことができるのも「うみのこ」でしかできない体験です。

 「うみのこ」という特別な場所には、豊かな語彙を身につけるための材料がたくさんある。この本物体験の学習を今後もさらに有意義なものにしていきたい。
(びわ湖フローティングスクール)