ド リ ー ム
好 光 幹 雄

 毎年繰り返される卒業式や入学式を何十回と私は見てきました。来賓が、毎回変わらぬ祝いの言葉を壇上で述べます。しかし私は早く終わらないかなと思ってしまいます。なぜなら、誰でも言えることばかりだからです。たとえそれが市長さんでも議員さんでも校長先生であっても。しかし今までに一度だけ素晴らしい話をした方がいました。PTAの会長さんでした。
 彼は、「夢」について話しました。卒業生たちは一人一人卒業証書をもらう時に、自分の将来の夢を宣言するからです。大工、医者、花屋、ペットショップ、先生、パイロット、保育士…。子どもたちが宣言する「夢」に会場が聴き入ります。PTA会長の彼は親の代表として、その夢をどうすればよいのかという話を次のようにしました。
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 日本語で「夢」と言う場合、それは到底叶わない望みのないものを差します。大凡、実現不可能なことを「夢」と言う場合が多いのです。「絵に描いた餅」のように。
 しかし、英語の「夢=Dream」は、そうではありません。中学校へ行って皆さんは英語を習いますが、「ドリーム」を辞書で引いてみてください。
「ドリーム」は、自ら努力して勝ち取るものと書いてあります。それが「ドリーム」なのです。それが本当の「夢」なのです。
 君たち卒業生が今宣言した「夢」は「絵に描いた餅」ではなく自ら努力して勝ち取るものなのです。だから市長さんも議員さんも、先生方も、そしておじさんたち君たちの親も、君たちを応援しているのです。君たちが素晴らしい「夢」を本当の「ドリーム」として勝ち取るために。
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 長い教師生活の中で、これほど簡潔明瞭にしかもインパクトのある話をされた方はいませんでした。
 この方は、病院を経営する方でした。毎日毎日難問が山積し、厳しい病院経営をする中で、恐らく、この会長さん自身がこんな経営をしたいという「ドリーム」を持ち、その「ドリーム」を勝ち取るために努力されていたのでしょう。そういう方だからこそこんなに簡潔明瞭に話ができたのでしょう。
 つまり、この方の生き様がこの話の根底にあるのだと思います。今までの人生に裏打ちされた確かなものが、この話を聴いた者に感動を与えたのだと思います。
 今まで、卒業式や入学式で何百人もの方の話を聴いてきたはずですが、記憶に残っているのは、この方の話だけです。この話を聴いてから、私は「夢」そして「ドリーム」という言葉が好きになりました。
(さざなみ国語教室同人)